半妖兄弟の中途半端な探偵業

さやいんげん

依頼者捕獲!(脚本)

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〇廃ビル
鎌鼬チョーナン「本当にこんな場所にあるのか? 陰気の吹き溜まりじゃないか。 ううっ、具合が悪くなりそうだ」
鎌鼬チョーナン「おや?」
  暗い廊下のドン詰まりにあるドアに、汚い紙が貼り付けられている。
鎌鼬チョーナン「えー、『小山タヌキ探偵事務所。安心安全な事前払いである程度のことなら承ります。怪異の御客様は逢魔刻に御越しください』と」
鎌鼬チョーナン「よし、帰ろう!」
ツルハ「ちょっちょ、ちょ! 待って!お願い! 止まってください! ────逃がさないぞおおお!」
カク「兄貴、邪魔。どいて。 俺が捕まえる」
鎌鼬チョーナン「ち、ちが、また逢魔刻にうかがおうと、出直して────ギャアアアアアアアアッッ!?!?」
  カクの見事なタックルがチョーナンの腹に決まる
ツルハ「あっ、そうだったんすか? じゃ、何時に予約入れます?」
カク「嘘。もうこんな不潔で辛気臭い最悪な場所来ないって思ってる。 それに兄貴のことも元々嫌いだけど、今大嫌いになったって」
ツルハ「ほーーーん?」
鎌鼬チョーナン「な、そこまでは思ってないこともない──」
ツルハ「わはは!ひでえ! さあ、今月の家賃と光熱費確保だあ♪」
カク「悪く・・・・・・思うなよ・・・・・・」
鎌鼬チョーナン「ちょま、縛るな! 引き摺るな! ────ううっ、誰か! 助けてくれえええええ!」

〇店の事務室
  絞り上げられた鎌鼬は、狭く物が散乱する部屋に押し込まれる。
鎌鼬チョーナン「このような所業・・・・・・お前たち、ただでは済まないぞ! この半端狸めがっ!!!!」
ツルハ「あんら? オレのことご存知・・・・・・って、鎌鼬のチョーナンじゃん?」
カク「え!?」
カク「兄貴・・・・・・タヌキだったの?」
ツルハ「そだよー。 カクには話してなかったかあ。 ごめんごめん!」
鎌鼬チョーナン「つっこみたくないがせざるえない! ──気にするところ・・・・・・そこか!?」
ツルハ「ああ、カクはね、山で拾って兄弟になって──二年?くらい? だから知らねえのよ」
鎌鼬チョーナン「拾った!? 二年前!? ん?兄弟──とは!?」
カク「寝て起きたらここにいて、兄貴が『オレがお兄ちゃんだよ』って言ったからその日から兄弟。 じゃあ俺もハンパタヌキってやつ?」
鎌鼬チョーナン「ヒイッ!? 誘拐、洗脳!!!! 加えて私への暴行及び拘束! 見損なったぞ、ツルハ!!!!」
ツルハ「なぁにが、見損なっただよ。 見上げてくれたことなんかねぇくせに」
ツルハ「カクは化け狸ではねえよ。 半妖であることはオレが保証する! 我が弟は敬愛するお兄様であるオレと望んでここに居るんだ、な?」
カク「すや」
ツルハ「このタイミングで興味なくして寝ることある!? 誘拐してねぇって! チョーナンその訝しげな視線やめて?」
ツルハ「ううっ・・・・・・縄ほどいてあげっからぁ・・・・・・」
ツルハ「うう、どうぞ」
  恭しく煎餅座布団をチョーナンに差しだし、ツルハは床に正座する。
  ツルハの隣に転がりうとうとしているカクの穏やかな顔を確認して、チョーナンは取り敢えずの緊張を解いた。
鎌鼬チョーナン「半妖が探偵の真似事をしていると聞いたから、もしかしたらと思ったが・・・・・・やはりツルハだったか」
ツルハ「真似事じゃなくてちゃんとしてんぜ?」
鎌鼬チョーナン「はっ、どうだか。 妖怪の仕事も半端、目まぐるしく変化する人間の生活にも付いていけている様には見えんが?」
ツルハ「なはは、相変わらず厳しいのな! まあ、バイトとはいえ鎌鼬の二番手まっとうできなかったオレには信用ねぇかあ!」
カク「鎌鼬って旋風に乗って人を切る妖怪?」
  少し興味が湧いたのか、寝転んだままカクが重そうに目蓋を持ち上げた。
ツルハ「そそ。 一番手が転がして、二番手が切り裂き、三番手が薬を塗って、はいお仕舞い。 な、はずだったんだけどな・・・・・・」
ツルハ「手が震えて、なーんもできんかった!」
鎌鼬チョーナン「おい、話を盛るな!」
カク「これで盛っている!?」
ツルハ「え、これかなりハズイ失敗話してるつもりなんだけど!?」
鎌鼬チョーナン「転がされ激怒した男に捕まりそうになったお前を抱えて逃げてやったのは誰だ?」
ツルハ「ごべんなざい・・・・・・ 鎌鼬チョーナン様に助けていただきまじだ・・・・・・」
鎌鼬チョーナン「鎌鼬不足を化け狸、しかも半端狸に任せようとした私も愚かだったのだ。 人間への情に流されるなど妖怪の風上にもおけん」
カク「どーせ三番手の薬で治るんだから、パパっとやっちゃえばよかったのに」
ツルハ「あー、うーん、なんかそう割り切れなくてよう。やっぱオレは妖怪には向いてねぇんだなあって思ったんだよな」
ツルハ「そこでこれよ! 小山で拾ったカクと半狸半人の俺。 名付けて『小山タヌキ探偵事務所』!!!!」
ツルハ「いがみ合う人間と妖怪の間に立って、両者を繋ぐ橋になりてぇのよ、俺たちは!」
カク(え、俺は普通に橋を渡る側がいい)
ツルハ「表の看板見たか?」
鎌鼬チョーナン(え、あの落書きみたいな紙のことか?)
ツルハ「あれ、オレの力作なんだよ! ありったけの妖力込めたぜ! 霊感の強い人間と妖怪以外には、ただの紙にしか見えないようにな!」
カク「あっ、さっきあれ破いちゃったかも」
ツルハ「ええええ!?!? オレの妖力一ヶ月分がっっっ!?!?」
カク「ごめんね。 テープで直してきたげる」
ツルハ「て、テープて?」
鎌鼬チョーナン「なんだかお前が不憫に思えてきたよ」
ツルハ「おう!そう? じゃあ同情ついでに、何しにここ来たか教えてくれ?仕事くれ?」
鎌鼬チョーナン「擦れっ枯らしのプライドすら・・・・・・よもや残っておらんとは・・・・・・」
鎌鼬チョーナン「だがそれはそれ! 断固断る! お前なぞに依頼などせん!」
ツルハ「くうっ!気持ちいいくらい強情う! まあ大方兄弟関連だろ? 誰かチョーナン怖すぎて逃げ出した?」
鎌鼬チョーナン「な、なぜそれを!?」
ツルハ「メタ的にみて、厳格な妖怪様の鎌鼬チョーナンがこんな所まで来るのは、愛する兄弟のため以外にはないってことと」
ツルハ「それからその胸に入ってる小ビン。 匂い漏れてんだよ~。 数年前の嫌ぁ~な記憶鮮明に蘇える程の臭気!」
ツルハ「その独特な香り──刺激的なのにどこか丸く優しい感じはサンナンの薬だよな?」
ツルハ「サンナンに繋がる手懸かりが薬一つ・・・・・・ 流石の優秀なチョーナンも手詰まりってことじゃねのか?」
鎌鼬チョーナン「ぐっっ!」
ツルハ「図星か? 嘘が付けねぇ真面目な鎌鼬さん? ────まあ、いいや。 なあチョーナンこれから時間ある?」
鎌鼬チョーナン「あ、ああ、今日はもう帰るだけだが」
ツルハ「じゃあさ、オレらの仕事ぶり見てかねえ? それから依頼するか決めても遅くないと思うんだよなあ?」
ツルハ「────正直、かなり切羽詰まってんだろ?」
  今までヘラヘラと宣っていたツルハが急に真面目な声を出した。
鎌鼬チョーナン「し、信用に足らぬと判断したら即刻帰るからな!」
ツルハ「おう! 程程に頑張るから、大目にジャッチしてくれ!」
カク「はあ、疲れた。 紙修復できた。 妖術弱くかけるの大変だった」
ツルハ「お兄ちゃんの一ヶ月の苦労を踏みにじる弟よ!さあ、今日もお仕事頑張ろうな! 適度にな!」
カク「ぎょい」
鎌鼬チョーナン「もう不安になってきた」
ツルハ「早くねっ!?」

〇車内
  運転席に鎌鼬チョーナン、助手席にヌルッとカクが座り、後部座席に大量の荷物と共にツルハが騒がしく乗り込む。
ツルハ「車出してくれてありがとな! いやぁ、助かったわあ! 今回の依頼者はなんと隣町の名家らいしぜ? オレらすごくねぇ!?」
カク「俺が地図よむ。 ねえ、北ってどっち?」
ツルハ「北・・・・・・え、どっち? あ、でもカク大丈夫だ! ナビ付いてるこの車! 目的地の住所登録しとく!」
カク「ナビ・・・・・・。 じゃあ俺地図よまなくていい?」
ツルハ「だな! じゃあ今回の依頼内容の復習を──って寝んの早っ! もうちょっとお兄ちゃんの話に興味持って?」
鎌鼬チョーナン(あれ?私上手いこと使われて、こやつらの仕事の片棒担がされて・・・・・・る?)

コメント

  • 手作り感満載の表紙が、ツルハが妖力を込めて書いた例の看板なのかな?カクがテープで補修した跡もあって微笑ましいなあ。どこか憎めない半狸半人のツルハとすぐに眠っちゃうカクとの兄弟コンビがいいですね。なんだかんだ最後には運転手させられてる鎌鼬のチョーナンもいい味出してます。

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