第2話(脚本)
〇白
この音にも随分慣れた。
まあ、最初は気が狂いそうだったけど。
ただ想像してたのとは違ったかな。
静かでいいって感覚でもないし。
てか、別に静かじゃねーし。
それでもウザい時は、ちょっとしたコツがあるんだ。
耳鳴りと一緒で、気にしなきゃいい。
気にしなきゃいい・・・
な、消えたろ。
〇汚い一人部屋
そこそこ貯金できたしボチボチやろうと思ってんだよ。
なのに結局、俺が一日中家にいるのがムカついてるだけなんだ。
親父も、お袋も、兄貴も。
世間体ってやつ?
クソだね。
偉そうに。
一時期は俺が一番稼いでたじゃねーかよ。
親父よりも、お袋よりも、兄貴よりも。
グチグチ言われる・・・
いやグチグチ『書かれる』筋合いねーよ。
こんな状態じゃなきゃすぐに出て行ってやるよ。
こんな体になってなきゃ・・・
〇白
ってえな・・・
〇部屋の前
思いっきり殴ってくんじゃねーよ。
てか手、耳に当たったじゃねーかよ。
てめえで殴っといて引いてんじゃねーよ。
お袋も泣くなよ毎日毎日。
え?
なんだよ?
言いたい事があるなら紙に書いて伝えろ!
きったねー字だな。
ねえよ、何も。
親父とは時代が違うんだ。
言ったところで何一つ認めねーだろ。
俺がやったこと全部・・・
だからもう、何も話しませーん。
なにも聞こえねーから。
〇汚い一人部屋
眠い。
昼飯食ったら眠くなった。
ワイドショー。
テレビショッピング。
刑事ドラマの再放送。
どれもこれもクソつまんねーな。
俺にとっちゃ全部クチパクだし。
〇汚い一人部屋
フレンド、全切り。
どーせもう誰からも連絡来ねーもん。
あー、せいせいしたぜ。
音哉「・・・」
〇河川敷
〇汚い一人部屋
〇開けた交差点
遠くであの女、見かけた。
桜歌だっけ。
職業、スーパーのレジ打ち。
男連れ。
ま、どーでもいいけど。
〇インターネットカフェ
あ~静かで落ち着くわ~。
もっとも、俺の世界はいつも静かだけど。
ある意味、こうなってよかったよな~
音哉「・・・」
な、わけねーだろ。
〇繁華な通り
あの女、また見かけた。
ストーカー?俺が?
ふざけんなよ。あんなクソ女。
音哉「・・・」
ふざけんなよ。
なんで俺だけ、こんな目に。
こんな耳に・・・
〇部屋の前
これみよがしに手話の本置いてんじゃねーよ。
分かってるよ。そのうち習うよ。
音哉「・・・」
分かってるんだ。
〇公園通り
音哉「・・・」
音楽スクール・・・か。
なにを今さら。
こんな耳で。
桜歌「・・・!」
桜歌・・・?
音哉「・・・」
〇白
あれ?
俺、なんで逃げてんだ?
〇河川敷
音哉「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
桜歌「よっしゃ!追いついた!」
音哉「・・・」
音哉「・・・桜歌」
桜歌「懐かしいね、ここ」
音哉「ああ。よく道草食ったっけな」
桜歌「ねえこの光景、ドレミで伝えてよ」
桜歌「川があって、山があって、家があって」
音哉「聞こえないんだ。もう何も・・・」
桜歌「覚えてる?この川の源流が、あの山にあるって話」
桜歌「テレビでやってて。川の水の最初の一滴、みたいなの」
桜歌「いつかそれを二人で見にい行こうって」
音哉「そうかな・・・」
音哉「そんな約束したかな?」
桜歌「してないけど」
音哉「ははっ・・・」
音哉「なんだよそれ」
「でも二人でここに座って」
「虫とか追っ払いながら田舎退屈だねーって」
音哉「絶対東京行こうぜーって・・・」
音哉「・・・」
そうだ。
これは俺の頭の中だけで流れている音だ。
俺の頭の中だけに響く声だ。
誰にも伝わらない。
俺だけしかいない。
全部俺ひとりの。
ひとりぼっちの、音。
つづく