第3話(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
少し出かけて来ます。
〇走る列車
いくら何でもひと晩で捜索願いなんて出さないだろ。
捜索願い・・・か。
まるで社会不適応者だ。
〇原っぱ
ひと晩あの山に?
それ、面白いかもな。
〇森の中
音哉「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・」
思ってたよりも坂、急だな。
音哉「はあ・・・はあ・・・はあ・・・はあ」
棒とかねえかな。
音哉「・・・!」
オッケー!
音哉「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
音哉「うわっ!」
棒、折れた。
もっと太いの。
音哉「はあ・・・はあ・・・」
急だな。
名もない山のくせに。
音哉「はあ・・・はあ・・・」
喉、乾いたな。
桜歌「はい」
音哉「サンキュー」
桜歌「がんばろ」
音哉「おう」
音哉「はあ・・・はあ・・・」
〇森の中
音哉「はあ・・・はあ・・・」
暗くなってきたな。
おいおい。降るとかねーよな。
晴れだったろ。天気予報
桜歌「大丈夫大丈夫」
音哉「本当かよ」
音哉「ひゃっ!」
くっそ。
音哉「ぷぷっ!ぺっ!ぺっ!」
ちくしょ。口に入った。
音哉「はあ・・・はあ・・・」
音哉「ひゃあっ!」
虫?蜂?なんだおい!
こっちは耳聞こえねーんだぞ!くっそ!
〇けもの道
音哉「はあ・・・はあ・・・」
音哉「不思議なんだ」
桜歌「何が?」
音哉「音が聞こえなくなった分、視界が」
音哉「いや、世界が鮮明になってきてる気がする」
音哉「今まで目に止まらなかったものだったり」
音哉「危ね、ってかんじのものだったり」
音哉「世界の解像度が上がるって言うか」
桜歌「山だからじゃない?」
桜歌「転ぶと危険だし」
音哉「はっきり言うなよ」
桜歌「『世界の解像度が上がるっていうか~』」
音哉「はいはい。カッコつけました~」
それにしても、いつまで続くんだ?
いつになったら辿り着くんだ?
テレビで紹介したなら看板くらい・・・
桜歌「音也。あれ・・・」
音哉「うん?」
「見つけた!」
音哉「あれに沿って歩けばきっと・・・」
〇けもの道
音哉「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
音哉「はっ・・・はっ・・・はっ・・・」
音哉「うわっ!」
危な!危な!あぶなあぶなあぶな・・・!
音哉「いってえ・・・」
桜歌「大丈夫?」
「・・・」
音哉「・・・無理だよ」
音哉「見つけられねーよ。水源なんか」
音哉「耳、聞こえねーんだぞ」
音哉「何やってんだ、俺」
「・・・」
音哉「うぜえんだよ」
音哉「消えろよ」
音哉「消えろ!」
音哉「・・・」
何やってんだ・・・俺。
たった一人で。
ひとりぼっちの世界で・・・
〇白
音哉「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
誰もいない
なにも聞こえない
暑い
風
虫
痒い
足、痛い
汗、冷たい
いない
誰もいない
もう進めない
もう戻れない
聞こえない
・・・
消えろ
桜歌「この川の源流があの山にあるって。川の水の最初の一滴みたいなの」
だから何だよ。どうでもいいだろ
桜歌「こう、基本っていうか。お互いまだアーティストの卵なんだから」
桜歌「ちゃんと声出せるようになって。ちゃんと楽譜書けるようになって」
どうでもいいだろそんなの
もう、どうでもいい
何もかも、どうでも・・・
つづく。