デス・パレードは祈りと共に

はじめアキラ

エピソード15・教の中(脚本)

デス・パレードは祈りと共に

はじめアキラ

今すぐ読む

デス・パレードは祈りと共に
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇祈祷場
男の影「おめでとうございます!」
女の影「おめでとうございまーす!」
老婆の影「ああ、なんておめでたいの・・・!」
男の影「ついにお生まれになったのだな、教祖様のお孫様が!」
老婆の影「しかも、透き通るような青い髪のお子様ですって!神様と、おんなじ神の色よ!」
女の影「なんて縁起がいいのかしら!」
男の影「やはり、教祖様のお言葉は間違っていなかった!」
男の影「神は確かに、我らを見捨ててなどいなかったのだ!」
老婆の影「ええ、当然よ。これまであたし達はずっと、ずーっと熱心にお祈りしてきたのだから」
女の影「ええ、ええ。きたる審判の日、この世界が滅ぶその前に・・・選ばれし神子を遣わせてくださると!」
老婆の影「こうしちゃいられないわ。お祭りの準備をしなければね」
男の影「そうだな。神輿の準備をせねばなるまい!」
女の影「お孫様が、神様の声を聞けるようになるには時間がかかるはずですものね」
女の影「それまで、我ら信者で必ず、お孫様をお守りしなければ!」
男の影「ああ、本当に!」
老婆の影「本当の本当に良かった!ああ良かった!教祖様もお年を召されてしまいましたもの」
老婆の影「その前にお孫様が生まれて、本当の本当に良かった・・・!」

〇黒背景
  産まれた時から、僕の世界はこうだった。
  どうやら僕の一家は、家族ぐるみで胡散臭い宗教団体をやっていた、らしい。
  現在教祖と呼ばれるのは、僕のおばあ様、であるらしい。
  おばあ様は昔、神様の声とやらを聴いて、とある予言をしたのだそうだ。
  この世界に、悪魔の脅威が迫っている――と。
  その悪魔を退けるためには、神様の力を持った子供の力が必要なのだ、と。
  神様の子というのはもちろん、教祖であるおばあ様の血を引く子供でなければいけない。
  ところが、それがなかなかうまくいかなかった。
  おばあ様には、三人の息子がいたのだが・・・
  一人は、この宗教団体が嫌になって早々に家を出て行ってしまい。
  一人はよその家に婿入りして、海外へ逃げてしまい。
  残ったのは、おばあさまの次男と、おばあさまが決めた次男の嫁だけ。
  それが、僕の両親だ。
  ところが、お父様には生まれつき精子が少なかったとかで、二人の間にはなかなか子供が生まれなかった。
  長い長い不妊治療の末、やっと生まれたのが僕。おばあ様はきっとほっとしたことだろう。これで、預言が成就できるはずだ、と。
  問題は。神様の子だなんて持て囃されて育った僕が・・・普通の子供でしかなかったということ。
  特別な力なんて、何もなかった。神様の声なんて聞こえないし、世界を救う力なんて言われてもなんのこっちゃわからない。
  それでも、おばあ様は神様の言葉とやらを信じて僕を大事に育てた。いつか僕が、神様の力に目覚めると信じて。
  ・・・それはあまりにも窮屈で、退屈な生活でしかなかったけれど。

〇古びた神社
須藤蒼「・・・ねえ、おばあちゃん」
須藤蒼「僕、どうして小学校に行っちゃいけないの?」
須藤蒼「テレビとか、小説とか、漫画とかだとさ。小学生は、みんな学校に行くって言ってたよ」
須藤蒼「教室で机並べて、先生の授業聞いて、休み時間は外で遊んでさ。 給食食べたり、プール入ったり・・・」
須藤蒼「僕も、そういうことしてみたいよ。なんで駄目なの?」
矢倉亮子「蒼はとても好奇心旺盛なのね。素晴らしいわ」
矢倉亮子「もうすぐ夏だものね。お屋敷のプールを解放しましょうか。それから、授業のやり方も変えましょう」
矢倉亮子「信者のお子さんたちを集めて、学校らしく教えてあげるのもいいわね。きっと貴方も満足できるわ」
須藤蒼「違うよ、そういうことじゃないよ、おばあちゃん・・・!」
須藤蒼「信者の子たちと、そのお父さんとお母さんだけじゃなくて。僕、そうじゃない他の子たちともお話してみたいんだよ」
須藤蒼「学校っぽく、じゃなくて。普通の、本当の学校に行きたいんだよ。なんで駄目なの?学校は、そんなに良くないところなの?」
矢倉亮子「ええ、そう。そうなの。確かに、テレビとかでは学校は楽しそうに見えるでしょうけどね」
矢倉亮子「あそこでは、間違った知識をたくさん教えているわ。それに、邪悪なオーラを持った人達もたくさんひしめきあっているのよ」
矢倉亮子「貴方は神様に選ばれた神子なの。悪いオーラに穢されてしまったり、間違った思想に染まってしまうようなことはあってはいけないわ」
矢倉亮子「だから、正しい教えを持った、清らかな魂の人とだけ接しなければいけない」
矢倉亮子「この聖域の中にいる間は、私が貴方を守ってあげられるから・・・」
須藤蒼「聖域・・・。だから、僕は学校に行くどころか、うちの敷地から出ることも駄目なの・・・?」
矢倉亮子「そうよ、わかって頂戴。私達には、貴方を守る義務がある」
矢倉亮子「お父さんとお母さんが、貴方を授かるためにどれほどの苦労をしたことか。神様が、やっとお許しくださったのよ」
矢倉亮子「貴方を万が一にも失ったら、私達はもう悪魔に対抗する術を失ってしまう。神は、我らを見放すことでしょう」
矢倉亮子「どうかお願いよ。私達の祈りを、聞き届けて頂戴ね」
矢倉亮子「大丈夫!ここで正しい教えと、清らかな結界の中で育てば・・・必ず神は、貴方を引き上げてくださるわ」
矢倉亮子「貴方に、世界を救う力を授けてくださる。それまではどうか・・・ね?」
須藤蒼「・・・」
須藤蒼「はい・・・わかったよ、おばあちゃん・・・」

〇黒背景
  おばあちゃん達は、僕がテレビを見たり、本を読むことを制限しなかった。
  特定の教えだけを刷り込みたいなら、そのやり方はだいぶ手緩いものだったと思う。
  多分、僕が早く言葉を覚えられるようにと思って、そういうものに触れさせた方がいいと考えたのだろうけれど。
  確かなことは。そういったもののおかげで、僕は早々に字を覚えたし、同い年の子供達より多くの知識を身に着けたこと。
  そして自分の取り巻く環境がおかしいと、早い段階で気づくことができたということだ。
  僕のおばあちゃんは、おかしな宗教に取り憑かれている。
  ありもしない神様や悪魔を信じて、それに縋っている。
  そのおばあちゃんの言葉を狂信的に信じる、信者の人達も、また。
須藤蒼(僕は、神様の子供なんかじゃない。不思議な力なんて持ってない、使えるようにもならないのに・・・!)
須藤蒼(怖い、怖いよ。どうすればいいの?)
須藤蒼(僕が普通の子供だってバレたら、おばあちゃんは・・・みんなは、僕のことをどうするの?僕は、捨てられちゃうの?)
  僕は物心ついた時からずっと怯え続けていた。
  そして考え続けていたんだ。
  どうすれば、この閉じた世界から逃げ出せるのか。そして、僕が普通の人間だとバレずにやりすごせるのかを。

次のエピソード:エピソード16・恐の中

コメント

  • 救世主って、輪廻くんと蒼くんのどちらだろなーと思っていたところでの今話、何と端的な内容で!
    流行り病の直後とは思えない、冒頭からの熱演ボイス、ストーリー内容と相まって圧倒されました。ボイスの内容からご快癒されていると存じますが、どうぞご自愛ください。

成分キーワード

ページTOPへ