中編(脚本)
〇中華風の城下町
〇広い和室
『全く十兵衛様ったら』
太夫「又さんをここに連れてくるのも今宵限りにしなさいな」
十兵衛「分かってるよ。これからは名実ともに新陰の当主になったんだ」
十兵衛「以後、おのれ一人で来るように」
太夫「じゃあいよいよ十兵衛様から乗り換え時ね」
太夫「又さま~」
遊女「太夫~抜け駆けはずるいですわ~」
遊女「又さまは私も狙ってたんだから~」
遊女「はい。あ~ん」
又十郎「じ、自分で食えらあ!」
「やだ~!か~わ~い~い~!」
十兵衛「ほら~お前達がからかうからスネちまった」
太夫「あら?私は存外本気ですわ」
太夫「流浪の中年男より若い当主を選ぶのは当然でしょう?」
太夫「十兵衛おじさま」
十兵衛「ふん、言ってろ」
太夫「ん?何だいドカドカと?」
十兵衛「・・・」
太夫「宴の最中だよ。階段は静かに・・・」
疋田「御免」
十兵衛「ようやく現れたか」
又十郎「疋田」
疋田「お怪我はございませんか?御曹司」
十兵衛「太夫。女どもを」
太夫「はい。では失礼致します」
疋田「御無事でなによりでした」
又十郎「うむ」
疋田「十兵衛殿、又十郎様と関わるのはこれきりにして頂く」
十兵衛「分かってるさ」
家臣「卒爾ながら貴方は一介の浪人」
十兵衛「何が言いたい?」
家臣「又十郎様を手なずけ新陰を乗っ取る腹づもりは明白ぞ!」
又十郎「黙れ!」
疋田「御曹司・・・」
又十郎「義仙列堂の野望、見て見ぬフリをしていたお主らが物など言うな!」
又十郎「新陰を乗っ取ろうとしていたのはヤツだ!」
又十郎「余と共に義仙と戦ってくれたのは、十兵衛叔父だけじゃった」
又十郎「オイラの味方になってくれたのは、十兵衛だけだったじゃねえか」
疋田「クッ・・・」
十兵衛「・・・」
又十郎「なあ十兵衛。一緒に戻ってくれよ」
十兵衛「断る」
十兵衛「当主さんよ。あの無粋な連中連れて帰ってくれよ」
十兵衛「酒が不味くならあ」
又十郎「今度の一件で分かったろ!新陰には十兵衛が必要なんだ!」
又十郎「オイラなんかよりもずっと・・・」
十兵衛「・・・」
十兵衛「かもな」
又十郎「・・・」
十兵衛「お前、俺が義仙の腕を斬り落としただけで済ませた理由。よもや仏心とでも思ってねえか?」
又十郎「・・・え?」
〇古びた神社
〇広い和室
又十郎「どういうことだ?」
十兵衛「何故お前は義仙を斬らなかった?」
十兵衛「それとも斬れなかったのか?」
又十郎「・・・」
十兵衛「その答えがこれからの新陰の道を決める」
十兵衛「そして答えによっては・・・」
十兵衛「だから俺は」
十兵衛「戻らねえ」
又十郎「十兵衛・・・」
十兵衛「あばよ、又十郎」
又十郎「・・・」
十兵衛「『あばよ』っつってんだろ」
又十郎「・・・」
又十郎「行くぞ」
家臣「はっ!」
疋田「・・・」
十兵衛「そんな怖い顔すんなよ。分かってるさ」
十兵衛「修羅の時代はもう終わってる。だから俺は」
疋田「終わってなどいない」
疋田「あなたがいる。新陰十兵衛」
十兵衛「・・・」
十兵衛「あ?」
〇雷
〇広い和室
疋田「ひ、ひいっ!」
十兵衛「それでいい・・・」
十兵衛「それが太平の世の生き様だ」
十兵衛「太平の世の、新陰だ」
疋田「・・・!」
疋田「侮るでないぞ。流浪人め・・・」
太夫「・・・」
十兵衛「おいおい。なんだそのツラは?」
十兵衛「太夫なら太夫としての仕事をしやがれ」
太夫「又さんにはまだ、十兵衛様がついててあげないとダメなのよ」
十兵衛「そりゃあお前、これからも新陰に鬼が巣食う事になるってこったぞ」
太夫「なら貴方様が人に戻ればいい」
太夫「お家の為に、又さんの為に」
十兵衛「なるほど、それもありかもな」
十兵衛「じゃあ俺が人に戻るが早いか」
十兵衛「それとも・・・」
〇中華風の城下町
又十郎「・・・」
又十郎「余は義仙を斬れなかった」
又十郎「お前達と同じだ」
疋田「それでよいのです」
疋田「新陰が目指すは人を活かす剣。又十郎様は修羅の道ではない、人の道を行くのです」
又十郎「人の道・・・」
疋田「ご案じなされますな」
疋田「我らはもう、逃げませぬ」
又十郎「・・・疋田?」
続劇