後編(脚本)
〇広い和室
??「・・・」
??「十兵衛!覚悟!」
〇黒
太夫「ひ、ひいっ!」
〇広い和室
十兵衛「・・・ったく、夜討ちなら声なんてかけるなよ」
十兵衛「それとも、正々堂々やりあいたかったか?だったら討たれてしかるべきだ」
十兵衛「相手は俺だぜ」
疋田「全ては私の一存・・・」
疋田「全ては又十郎様のため・・・」
十兵衛「分かってるよ」
十兵衛「だがあいつも新陰。獣の血の流れる一族」
十兵衛「お前が望む道を行くかどうか・・・」
疋田「うおおおおおッ!」
疋田「ぐふっ!」
太夫「十兵衛様・・・」
十兵衛「悪い・・・畳ごと代えねえとな」
十兵衛「まあコイツも、もののふとして死ねたんだから化けて出るこたァねえだろ」
太夫「私が案じているのは、左様な事ではございません」
十兵衛「ああ、後は又十郎の胸三寸よ」
十兵衛「俺は受けて立つだけさ」
太夫「新陰の為に?それとも又十郎様の為に?」
十兵衛「・・・」
〇黒
又十郎「そうか・・・疋田が」
家臣「疋田殿は後顧の憂いを絶たんと命を賭けて修羅に挑んだのです」
家臣「又十郎様が十兵衛を信じる気持ちは分かります。されど・・・」
又十郎「下がれ」
又十郎「父上と話したい」
家臣「・・・」
家臣「はっ!」
〇祈祷場
又十郎「・・・」
〇広い和室
〇古びた神社
〇雷
〇骸骨
又十郎「・・・!」
我らはシンカゲ
我らは修羅
我らは・・・人で無し
又十郎「ひとでなし・・・」
〇祈祷場
〇祈祷場
十兵衛「よう」
又十郎「・・・よう」
十兵衛「兄上は何と申した?」
十兵衛「静かで、穏やかで、心優しきお方だった」
又十郎「でも、十兵衛との決着を望んだんだろ?」
又十郎「それがシンカゲ・・・なんだろ?」
十兵衛「なあ」
十兵衛「せめてあと十年待てねえか?」
十兵衛「お前の腕が多少は上がるまで」
十兵衛「俺の腕が多少は鈍るまで」
又十郎「・・・」
我らはシンカゲ
又十郎「・・・」
又十郎「それは、ならぬ」
十兵衛「・・・」
又十郎「今こそが最強のそなたを討たねばならぬ」
又十郎「そうだ・・・ゆえに父上も義仙もそなたに挑んだのだ」
十兵衛「全く・・・どいつもこいつも」
十兵衛「鬼どもが」
十兵衛「いいぜ、かかって来い」
又十郎「父上」
又十郎「私はまことの当主となります」
又十郎「まことのシンカゲに」
〇草原
十兵衛「おうおうおうおう!いい月だな!」
十兵衛「何もかもモヤモヤが吹っ飛んだ気分だぜ!」
又十郎「気持ちいい~!」
又十郎「何かさ~オイラずっと頭の中に靄がかかってたんだよな~!」
又十郎「この世が全部灰色に見えてたっていうかさ」
十兵衛「俺もだ俺も!ははははは!」
十兵衛「じゃあ、また靄がかかんねえうちにちゃっちゃと済ませるか」
又十郎「ちゃっちゃと・・・って」
十兵衛「ちゃっちゃとだよ」
十兵衛「安心しろ。兄上や義仙のように生殺しにゃしねえよ」
又十郎「当り前だ。お前も死ぬ気で来い」
又十郎「何たってオイラの師匠はお前自身なんだからよ。手の内は全部知ってらあ」
十兵衛「馬鹿。まだ奥の手が残ってんのさ」
十兵衛「秘剣!すずめ返し!」
又十郎「ものすごく弱々しい名前だな・・・」
十兵衛「それで油断を誘うのさ」
又十郎「言ってろ」
十兵衛「さてと・・・」
十兵衛「言い残すことはあるか?」
又十郎「・・・」
又十郎「あばよ!」
〇雷
終劇