エピソード41(脚本)
〇銀行
紅音の通帳には、1億18万円の残高が記載されていた。
真田紅音「ほんとに、振り込まれてる」
エリートピア社から送られてきたメールに添付されていた動画を開く。
〇何もないフロア
戸川仁「最終選考に残られた五名のみなさま、ここまでおつかさまでした」
戸川仁「いよいよこれで、最後の選考となります」
戸川仁「みなさまの口座に、一億円を振り込ませていただきました」
戸川仁「使い方は自由です」
戸川仁「一週間後に、弊社社長の前で、どのようなことに一億円を使ったかのプレゼンテーションを行っていただきます」
戸川仁「その後、五名の中から一人のみが選ばれて内定となります」
戸川仁「それでは、みなさま頑張ってください」
戸川のお辞儀とともに動画の再生が終わる。
〇公園のベンチ
中園瑚白「ほんとに人を小馬鹿にしてるというか。 最終選考が自由に一億を使えって」
真田紅音「例年だったら内定者だけが一億をもらえてたけど」
中園瑚白「まあ、一億使えだから、厳密にいうともらえるのとは違うけど」
中園瑚白「まったく、年々選考内容が派手になってる」
真田紅音「このお金って、二次選考でみんなから集めたお金なのかな」
中園瑚白「たぶんね。 まったく、無駄の無いやり方してる」
真田紅音「そっか・・・」
中園瑚白「なに、全員にお金返そうとか考えてるの」
中園瑚白「知らないおっさんを助けた後は、知らない受験生も助けようって思った?」
真田紅音「え、なんでそれを」
真田紅音「あれは動画配信されてないはずじゃ」
中園瑚白「戸川さんから聞いたの、ちょっと考えればわかるでしょ、疑問をすぐに垂れ流さないで」
真田紅音「すみません・・・」
中園瑚白「・・・なんで、そんな見ず知らずの受験生を気に掛けるの」
中園瑚白「偽善者ぶって、みんなから感謝されたいの?」
真田紅音「いや、そうじゃなくて、単純に自分の心地よさの問題なんだよ」
真田紅音「あれだけ必死になって集めたお金だから」
真田紅音「それが無駄になって返ってこないなんて、自分だったらいやだなって」
真田紅音「そういう平凡な考えなんだよ」
中園瑚白「・・・ほんとに、フリー素材みたいな考え。 紅音じゃ五億を稼ぐなんてできないでしょう」
真田紅音「・・・うん」
中園瑚白「はあ・・・」
中園瑚白「別に、協力してあげてもいいけど」
真田紅音「え」
中園瑚白「五百人に百万円ずつ返す用の五億、稼いでもいいって言ったの」
真田紅音「ほんとに」
中園瑚白「どうせお金を増やすことはするつもりだったし」
中園瑚白「それなら何か目的があった方が評価に繋がるだろうから」
中園瑚白「元手が一億もあれば、五億ぐらい稼げる」
真田紅音「金額が大きすぎてピンとこないけど、よろしくお願いします」
中園瑚白「一茶には、返してあげたいし」
真田紅音「え、なんか言った?」
中園瑚白「何も、言ってないですけど、なにか」
瑚白にらみつける瑚白に、紅音は困ったように笑う。
そのとき、一匹のハトが飛んできて紅音の前に降り立った。
真田紅音「あれ、ハト吉」
中園瑚白「ハト吉?」
紅音はハトの足についた手紙を外す。
瑚白も手紙を覗き込み、二人で達筆な文章をしばらく見つめる。
「・・・あ、柿之助か」
〇山間の集落
〇露天風呂
山奥の秘湯で紅音と柿之助がくつろいでいる。
その隣では一匹の猿が、二人と同じようにくつろいでいた。
若山柿之介「んだべな、湯上りには牛乳と梅干だべな」
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