7 ラストミッション(脚本)
〇渋谷スクランブルスクエア
ラストミッション当日、ログインした俺達の前に見えた光景は巨大な高層ビルだった。ミッションの内容はこのビルの最上階に
上り、大型ボスを倒す事。チームの誰かが止めを刺したらそのチームの優勝と成る。道中にも数多のゾンビが配置されており、
突破は至難を極めるだろう。ビルの前には大勢のプレイヤーが集められ、俺達は俺達で準備を進めて居た。
霧島梓「大体の武器は揃ったね」
神代昂輝「あぁ、だけど銃の弾はボス戦まで成る可く温存した方が良い。特にロケランの弾は貴重だ。外したら相当厳しく成る」
霧島梓「それなら、この武器はどうかな?」
神代昂輝「アズ、その銃知ってたのか!」
霧島梓「うん。これもボス戦まで温存だね。マグの最後の一発に成った状態で撃つと相手をスタンさせられるショックガン」
霧島梓「コウ君は既に持ってるの知ってたけど私も用意したから」
神代昂輝「こいつは頼もしいな。お互い使い時には気を付けよう。スタンさせたら、ロケランとこいつは絶対に当てたい」
俺達が持ち物の確認をする中、聞き慣れた声が俺達の耳に入る。
住谷和也「やぁコウ。無様に負けに来たのかい?」
神代昂輝「カズ、今お前に用は無い」
住谷和也「連れない事言うなよ。色んな所でお前に勝ったり負けたりしたけど、今日と言う日は僕が勝つ。何てったって、僕は高校の先生達から」
住谷和也「一目置かれたエリートだからね!今日の為にチームメンバーを10人に増やして良かった。皆腕利きの精鋭だし、コウが」
住谷和也「居てくれたら最高のチームに成ってたんだけどな」
神代昂輝「カズ、もう過去の栄光なんか忘れろ。学生じゃ無くなれば、そんなの只のガラクタだ」
住谷和也「コウ、君はもっと自分がして来た事に胸を張った方が良い。今からでも遅く無いし、僕と組まないかい?そこの可愛い子と一緒にさ」
神代昂輝「言いたい事は分かったから消えろ。俺達は俺達でやる」
住谷和也「あ〜あ、結局はこう成るか。折角のラストミッションだ、後で後悔して泣き付く事に成っても知らないからな」
カズは言いたいだけ言って俺達の元を離れた。折角此処まで培って来た俺達の力は、俺達だけの為に使いたい。
霧島梓「コウ君、もう他の人の事なんか気にする事無い。私達の力、見せ付けてやろう!」
神代昂輝「あぁ、本当の敵は他の誰でも無い。行こう!」
やがてミッション開始時刻、5分前と成り、開始と同時に、ビルの入口が開き、ビルの前に集められたプレイヤー達は一斉に
駆け込んだ。
〇廃ビルのフロア
足速「う~・・・」
足速「う~・・・」
足速「う~・・・」
雑魚「う~・・・」
学者「う~・・・」
サツ「う~・・・」
神代昂輝「行くぞ!危なく成ったらショットガンやアサルトライフルを迷わず使え!」
霧島梓「了解!」
遂に始まったラストミッション。ビルの中にはプレイヤー以上の数のゾンビが配置されていた。ミッションの説明には此処のゾンビは
無限湧きと書いてあり、まともに相手をしてたらボスと戦えなく成る。俺達は持てる力を極力温存しながら先を進む。
霧島梓「コウ君!有れ!」
アズが目にしたのは子供のゾンビだった。個室の中で一人で佇んでいた。
神代昂輝「しまったあいつは!」
叫び「うおぉぉぉぉぉ!!!」
神代昂輝「ヤバいヤバいヤバい!!」
耳の鼓膜が破れそうな大声を上げた子供ゾンビを倒して黙らせたが、ゾンビはデカい音に反応し易い。
足速「うおぉぉぉぉ!!」
神代昂輝「やべぇ、寄って来た!」
霧島梓「やむを得ないわ、銃で応戦して逃げよう!」
足速「うおぉぉぉ!!」
アズの咄嗟の判断で足速ゾンビをマシンガンで退けた。余りの数にまともな相手は出来ず、俺達はとにかく上を目指した。
最上階への道のりはかなり遠く、道中ビルの外壁を登る所も有り、ビルの外壁からプレイヤーが落下する光景も見られた。
神代昂輝「ん?あいつは?」
ビルを上がる道中、道端で倒れて居たカズとその仲間達を見掛けた。俺達より早く上がって行ったのが見えたが、此処でダウン
していた。
神代昂輝「おい、大丈夫か?」
住谷和也「いやはや、この僕とした事が、後ろから足速共に奇襲されてこのザマさ。後少しでボス戦だったのに」
見た所、此処には俺達以外のプレイヤーは居なかった。道中ビルから落ちてリタイアしたか足止めされたかのどちらかだろう。
霧島梓「コウ君、この人どうしよう」
神代昂輝「正直放って置けない。医療キットを出して。こいつ等助ける」
住谷和也「おい!それは僕を馬鹿にしてるのか!」
神代昂輝「いや、そんなつもりは」
住谷和也「良く聞けコウ!僕はエリート!このゲームの上級者だ!だけどこのミッションは僕が思ってた以上に難しかった。仮に助けて」
住谷和也「貰っても満足にボスと戦えない。だから僕は此処までだ」
住谷和也「だけどこれは持って行け」
カズは怒りながら俺達の治療を拒み、自分達のストレージから有るだけの銃弾を俺達に引き渡した。
神代昂輝「カズ、良いのか!?」
住谷和也「勘違いするな。僕は不完全燃焼が嫌だから君に託すんだ。勝てよコウ!負けたら今度こそ僕の仲間に成って貰うからな!」
神代昂輝「たく・・・有難う!」
銃弾をカズから受け取った俺達は、ゾンビ達の猛攻を退け、遂にボス部屋に到達した。
住谷和也「あ〜あ、勝ちたかったなぁ・・・」
〇屋上のヘリポート
俺達は遂に最上階まで辿り着いた。最上階にはヘリポートが有り、強い風が吹いて居た。強い衝撃を受けたら落ちてしまいそうだ。
霧島梓「何とか辿り着いたけど、何も無いね」
神代昂輝「あぁ、嫌な予感がする」
「警告、警告、侵入者発見、迎撃プログラムを実行します。繰り返す、迎撃プログラムを実行します」
突然鳴り響くサイレン。アナウンスは迎撃プログラムと言っていたがそれはラスボスで間違い無いだろう。
霧島梓「コウ君あれ!足元が開いて、何か出て来る!」
神代昂輝「あ、あれは・・・!?」
ラスボス「侵入者確認。警戒レベルMAX、これより、迎撃プログラムを実行します」
俺達を待ち構えて居たラスボスは戦闘用のロボットだった。迎撃プログラムの言葉の通り、ロボットは俺達に銃口を向けた。
神代昂輝「ヤバい走り回れ!狙われてる!」
霧島梓「わ、分かった!」
ロボットは俺達に向けて攻撃を開始した。俺達も銃を取り出して攻撃するが、硬い装甲を持ったロボットに鉛玉は効かず、
俺達は内心焦っていた。
霧島梓「待って待って!ゾンビゲームなのにラスボスがロボット!?運営はどんなセンスしてるの!?」
神代昂輝「いや、ゾンビゲームでラスボスがゾンビじゃ無い例は一応有るが、詮索は後にしよう。油断したらやられる!」
余りにも突然の事で俺達は戸惑ったが、ロボットの攻撃は激しく、こちらの攻撃等雀の涙にしか成らない。
神代昂輝「こいつはヤバいな、レーザーやロケランならどうにか出来そうなんだが」
霧島梓「コウ君!ショックガンを使おう!あれを使えば!」
神代昂輝「そうだ!こんな時こそこいつの出番だ!」
俺達は咄嗟にショックガンを構える。ロボットを狙って全弾撃ち尽くす。
ラスボス「駆動系に異常発生、修復プログラムを実行します」
神代昂輝「やった!効いてる!」
霧島梓「でも長くは持たない!長期戦は明らかに不利。コウ君!攻めるなら今だよ!」
神代昂輝「良し!レーザーは俺に任せて、アズはロケランを!」
霧島梓「分かった!」
ロボットの硬直はまだ解けない。俺達はそれぞれ、ロケットランチャーとレーザー砲をロボットに向けて構え、渾身の一発を
撃ち込むのだった。
神代昂輝「いっけえぇぇぇぇ!!!」
ラスボス「損傷率50%、修復プログラム実行完了、迎撃プログラム、再開します」
神代昂輝「マジか、また動き出した!」
霧島梓「でもあいつ、損傷率は50%って言ってた!同じ事を繰り返せば!」
神代昂輝「そうだな!もう一度やろう!」
霧島梓「れ、レーザー!?」
神代昂輝「流石に攻撃パターンを変えて来たか。一度立て直そう!」
ロボットはガトリングだけで無くレーザーを使用して来た。このまま行けばまた別の攻撃パターンを追加するのは間違い無い。
流石はラスボスと言わんばかりの猛攻。ワンパターンで終われば苦労はしない。
神代昂輝「そうだ、今度はあれを使おう!」
俺は自分のストレージから有る物を取り出す。
霧島梓「クロスボウ?これでどうやって」
神代昂輝「爆弾付きの矢をあいつに撃つんだ。損傷率50パーならマシなダメージを与えられる」
霧島梓「成る程!でもこのままだと銃も向けられない!」
神代昂輝「そこは大丈夫だ。俺が奴を引き付けるから、クロスボウはアズに任せる」
霧島梓「分かった!でも無茶しないでね!」
神代昂輝「良し、行こう!」
俺達は一旦バラけて、俺はロボットの視線をこっちに向ける様に仕向けた。
神代昂輝「さぁ来い、こっちだ!」
ロボットの視線は見事に俺を向き、迷わずに俺に攻撃して来た。
神代昂輝「がぁ!?」
ラスボス「ターゲットへのダメージを確認、再度、攻撃を続行します」
レーザー攻撃が俺に直撃し、ダメージで動けなく成ったが、ロボットの後ろをアズが捉えて居た。
霧島梓「当たれ!!」
爆弾付きの矢がロボットに命中した。アズはすかさず俺に指示する。
霧島梓「コウ君!今の内に立て直して!次のヘイトは私が買う!」
神代昂輝「すまねぇ!頼んだ!」
霧島梓「さぁ、今度は私と遊びましょう!」
ラスボス「損傷率86%、被害甚大、迎撃プログラムへの支障無し」
アズがロボットを引き付けてる間に、俺は医療キットで立て直していた。
神代昂輝「頼む、間に合ってくれ!」
霧島梓「さぁこっちよ!このまま押し切ってやるわ!」
霧島梓「わあぁぁぁ!!」
神代昂輝「アズ!!」
ロボットは此処に来てミサイルをアズに撃ち出した。医療キットに寄る回復も漸く終わり、俺は迷わずショックガンを取り出し、
ロボットを攻撃した。
ラスボス「駆動系に異常を確認。修復プログラムを実行します」
神代昂輝「アズ!!」
霧島梓「だ、大丈夫。医療キットが有れば何とか成る。けど、今あいつはコウ君が硬直させてくれてる。あいつももうボロボロ」
霧島梓「此処まで来たら、もう決めちゃおうよ!」
神代昂輝「アズ!?」
霧島梓「コウ君!私は貴方が大好き!昔どれだけ他人に傷付けられたり決め付けられたり、自分が誰かを傷付けたり決め付けたりしても、」
霧島梓「この世界に完璧な人間なんて居ない!私はそれでも良いと思う!大事なのは自分らしく在る事!報われなくてもこれからを変える事!」
霧島梓「コウ君が辛いなら私も背負う!だから!」
神代昂輝「アズ・・・」
ラスボス「修復プログラム、実行完了まで30秒」
アズの気持ち、アズの覚悟、その全てを聞いた俺は正直ゲーム所じゃ無かった。本当に俺で良いのか、そんな事したらアズを裏切って
しまうんじゃ無いかと葛藤していた。もし俺にその権利が有ると言うのなら、俺は自分の想いを曝け出したかった。
神代昂輝「アズ・・・俺はアズと歩きたい!このゲームをクリアして、俺はアズと前へ進みたい!だから!」
神代昂輝「俺達が、」
霧島梓「終わらせる!」
ラスボス「損傷率100%、全システム、ダウンします」
2人で握ったクロスボウから撃ち放たれた爆弾付きの矢が当たり、ロボットは漸く沈黙した。激しい攻防を潜り抜けたので、
俺もアズもヘトヘトだった。
神代昂輝「や、やった・・・のか・・・」
霧島梓「そう、見たい・・・だね・・・さっきまでの攻防が嘘見たい」
激しい攻防の中でロボットを倒し、しんと静まり返った空気に包まれ、俺達は腰を抜かして居た。アズの言った通り、
さっきまでの事が嘘見たいだ。だけど、これは嘘では無いと周りが証明してくれた。
ロボットを倒した事で流れ始めた勝利確定のBGMと、空に挙げられた俺達の名前。俺達はラストミッションをクリアしたのだった。
神代昂輝「そっか。もう俺達、心オープンワールド出来ないんだな」
霧島梓「そうだね。でも、私は高校生として最後に最高の思い出が出来たから、無問題かな。私もやっと、自分だけのパートナーを」
霧島梓「見つけられたし」
神代昂輝「あ!その事だけどさ!本当に俺で良いの!?俺がそう成ったら、アズに酷い事しちゃうかもだし!」
霧島梓「コウ君、人と関わるってそう言う事だよ。大なり小なり、私達は誰かを傷付けたりするよ。それが怖いなら、前へ進んで」
霧島梓「強く成れば良いもん!コウ君、私達なら大丈夫!一緒に未来を作って行こうよ!」
人を傷付けるのは確かに怖い。だけど、この娘の言葉を聞いたら、何だが怖がってる自分が馬鹿馬鹿しく成って来た。やっぱり俺は、
アズと共に居たい。アズのパートナーに成りたい。その気持ちが抑えられなかった。
神代昂輝「アズ、聞いて」
霧島梓「コウ君?」
神代昂輝「何処の世界でも、俺は君のパートナーで在りたい。俺と付き合ってくれないか?」
霧島梓「コウ君、言うの遅いよ。私はとっくに心の準備出来てたんだから!」
こうして、俺とアズの冒険は終わり、心オープンワールドの配信サービスは正式に終了した。俺達が何処の世界でもパートナーに
成った今、そんな事は問題では無かった。また新しい冒険をすれば良い。怖い事が有れば、強く成れば良い。俺は彼女から、
大切な事を教えられたのかも知れない。後日、アズは無事に高校を卒業し、暫くして俺の居る大学へ進学した。