4 おっさんの正体(脚本)
〇住宅街の道
2月冒頭、俺はあの後アズのおっさんとリアルでの連絡先を交換して、オフ会当日の今日に近くの住宅区で待ち合わせをしていた。
神代昂輝「どんな人なんだろうな。アズのおっさん。メッセージには銀色の長い髪が特徴って言ってたけど」
ゲーム内では見たまんまのデブのおっさんだったが、送られたメッセージと合わせても想像なんてとても出来なかった。
暫くして一人で待って居たら、一人の女の子が俺に近付いて来た。
霧島梓「見つけた!あの、コウ君ですよね!」
神代昂輝「こ、コウ君?あの、誰かと間違えてませんか?」
霧島梓「あ〜やっぱり分からないですよね。私、コウ君が何時も呼んでたアズのおっさんですよ」
神代昂輝「アズのおっさん・・・って、君が!?」
何と言う事か、アズのおっさんの正体はお年頃の女の子だった。噂でしか聞いた事が無かったが、女の子が男に偽装して
ゲームをプレイする事が有るとか。言われて見れば銀色の長髪だし、俺をコウ君と呼ぶのはアズのおっさんだけだった。
神代昂輝「君、本当にアズのおっさん!?て言うか、良く俺がコウだって分かったね」
霧島梓「コウ君が送ったメッセージと照らし合わせて、見つけたら雰囲気がゲーム内のコウ君のままだったんで直ぐ分かりましたよ」
霧島梓「立ち話も難ですから、近くのカフェに行きましょう。そこで改めて自己紹介して、今日は一杯遊びましょう!」
俺は彼女に手を引かれて近くのカフェに行く事に成った。おっさんを助けたら中身は美少女。この驚きの展開に未だ現実味を
感じなかった。
〇レトロ喫茶
霧島梓「改めまして、アズのおっさんこと、霧島梓です。高校3年生で次の3月に卒業して大学生に成ります」
神代昂輝「俺は神代昂輝。夏目大学の1年生だ。一応実家暮らし」
霧島梓「夏目大学!?私が受験した大学ですよ!」
神代昂輝「お〜、て事は君は近々後輩君って事か」
カフェに来た俺達はお互いに自己紹介を済ませていた。霧島梓ちゃんは今年の1月の後期に受験して俺が居る夏目大学に
無事合格していた。心オープンワールドに手を出したのは受験勉強で出来たストレスを発散する為と、新しい繫がりを求めての
事だった。
神代昂輝「ずっと聞きたかったんだけど、何でおっさんに成ってたの?」
霧島梓「あ、やっぱり聞きたいですよね。あのですね」
梓ちゃんはこれまでの経緯を俺に話し出した。
霧島梓「私の友達の中で、余りゲームが好きだって人が居なかったんです。私自身もゲームが好きな方なんですが、どんなのやって良いのか」
霧島梓「分からなくって、知り合いからこのゲームはマジでオススメって聞いて心オープンワールドの存在を知りました」
霧島梓「でも、受験シーズンだった事も有って直ぐには出来なかったんですけど、この前無事に受かってやっとゲームが出来るって」
霧島梓「成ったんですが、風の噂で、女性プレイヤーは舐められ易いって聞いてやるの躊躇ってたんですよ。でも、それなら自分が」
霧島梓「男に成れば良いって思い付いて自らおっさんに成ったんです」
神代昂輝「成る程ね。男は女の子に対してデカく魅せたい生き物だからな」
神代昂輝「でも最初に出会ったのが俺で本当良かったな。あんなおっさんじゃ何されても本当文句言えなかったし」
霧島梓「そうですね、どの道私舐められてました」
何時に成ってもこの手の男女差別が後を絶たない。目の前の物事に対して男と女なんて関係無い。俺は何時もそう思ってる。
そんな事してたら、その人がやりたいと思った事さえ出来なく成るから、この手のネタは嫌いで有る。
霧島梓「昂輝さんはどうして心オープンワールドに嵌まったんですか?」
神代昂輝「俺?ほぼ君と一緒だよ。寄り刺激的な冒険がしたいって。あのゲームを知ったのは俺が大学に入った直後でさ」
神代昂輝「余りにも難し過ぎて自室のクローゼットに押しやって暫くやらなかったんだけど、ゲーム内で話した通り、上手い人のやり方見て」
神代昂輝「その時の俺、あのゲームに未練が有ってもう一度やりたいって思ってやり方を見たら、魅力を再認識してまたやり始めたんだ」
神代昂輝「今でも俺、その人には感謝してるんだ」
霧島梓「とっても素敵な話、その人が居てくれて良かったですね」
神代昂輝「そう言う事が有りました。あのさ、折角だからタメ語で良いよ。向こうでもあんな感じだったし」
霧島梓「分かった。これから宜しくね、コウ君」
その後、俺達はアミューズメントパークへ遊びに行き、カラオケ、ボーリング、卓球にビリヤードとその日をとことん遊び尽くした。
二人で全力で盛り上がったからか、この前言われたカズの嫌味なんてすっかり忘れて居た。帰宅後、俺は梓ちゃんと
ゲーム内で正式にパーティ契約をして、梓ちゃんはアバターを作り変えると言っていた。