2、カーサ(脚本)
〇洋館の一室
女性「いい?二人とも、よーく聞いて」
「なに?おかあさん」
女性「サクはシズの──・・・だから、しっかり──・・・よ。シズはサクの──・・・だから、ちゃんと──・・・の」
「うん、わかった」
女性「二人とも、偉いわ」
女性「いつか、必ず──日が来る。その時まで、頑張りましょうね」
〇教会の中
光輝「サクって、いつもここに居るよな」
咲哉「あ、コウ」
光輝「ここってお前の大切な場所なのか?わざわざ安全な家を出て、さ」
咲哉「ここは俺とコウしか知らない静かな場所ってだけさ」
咲哉「それより、どうかしたのか?」
光輝「お前、昨日どこに行っていた」
咲哉「?仕事だけど?」
光輝「夜の方だよ・・・・・・お前の方針で、基本的に夜は仕事をしない」
光輝「巡回だって、基本的にお前がやってて・・・俺達が頼み込んでようやく回ってきた」
光輝「俺達はそんなに頼りないのか?」
咲哉「違うよ。俺は家の事なら何でも出来る。だからやってるだけ」
光輝「またそうやって・・・笑って誤魔化すんだな」
咲哉「そういうつもりじゃ、ないんだけどなぁ・・・」
光輝「サクは・・・あの日から、本当の事を隠すようになった」
咲哉「え?」
光輝「・・・・・・・・・」
光輝「兎に角、あんまり一人で突っ走らないでくれ。その為に、仲間が居るんだからな」
咲哉「・・・・・・・・・」
光輝「それと、ミズ達が探してたぞ。顔を出してやれ」
咲哉「ああ、分かった」
咲哉「あの日・・・・・・静哉の件か」
咲哉「どこまで気付いてるのやら。本当に、コウは侮れないな」
〇城の廊下
咲哉「あ、居た居た」
咲哉「おーい、コウ」
瑞希「あ、サク兄さん!やっと見つけた!」
咲哉「随分と探させてしまったみたいだな。悪い悪い」
瑞希「仕方ないよ。サク兄さんは基本的に忙しい人だし・・・と、紹介するね。昨日保護して、仲間入りした・・・」
花音「花音、です。昨日はありがとうございました」
咲哉「・・・・・・・・・」
咲哉「どういたしまして。大した怪我もしてない様子で良かった」
瑞希「本当、サク兄さんが来てくれて良かったよ」
瑞希「何せ、向こうは番犬の隊長も居たから・・・」
瑞希「あ、そうだ。サク兄さんこれからどうするの?」
咲哉「家の中を色々と見て回るつもりだ」
瑞希「俺達も同行していい?家の案内も兼ねてさ」
咲哉「別に構わないさ。じゃあ、一緒に行こうか」
瑞希「うん!」
瑞希「っと、勝手に決めちゃったけど、大丈夫?」
花音「はい、大丈夫です」
咲哉「それじゃあ、行こうか」
瑞希「はーい。さ、行こう」
花音「はい」
〇豪華な客間
咲哉「先ずはやっぱりここかな」
花音「ここは、初めに来た・・・」
瑞希「ここにいるアン姉さん、家まで守ってくれたコウ兄さん、そして助けてくれたサク兄さんがこの家の実質トップだから」
杏奈「あら、昨日振りね」
光輝「早速案内か?まぁ、ここは広いから直ぐに覚えなくてもいいよ」
花音「あ、ありがとうございます」
光輝「どういたしまして」
杏奈「改めて杏奈よ。基本的に仕事の依頼の受注をしているわ」
杏奈「異能は影・・・と言っても、影の中に物を出し入れする程度だけど」
光輝「俺は光輝。異能は光。主にここでのセキュリティや運営管理をしている」
花音「光と影なんて・・・凄い異能」
瑞希「サク兄さんも含めて、全貌が全く分からないんだよね。アン姉さんもセキュリティに関わってるって言うし」
咲哉「そう言えば、花音の異能は?」
花音「わ、私は・・・えっと、放出っていうのかな」
花音「他者の異能を、弾丸として放てる・・・みたいな感じです。その為の銃は、自分の異能で創れます」
咲哉「ふーん・・・」
光輝「ある意味戦闘向き・・・いや、他に異能者が居ないと駄目なのか」
杏奈「家の中を見て、希望の場所があったら言ってね。調整するから」
花音「はい、ありがとうございます」
咲哉「じゃあ、次に行こうか。アン、コウ、邪魔して悪かったね」
瑞希「お邪魔しましたー」
杏奈「それで、サクは何も話してくれなかったのね」
光輝「ああ、相変わらず」
杏奈「ごめん、コウ。私も一緒に秘密の場所に行けたらいいんだけど」
光輝「アンは仕方ない。家・・・この部屋から出ない事が、最大のセキュリティになってるんだからな」
〇おしゃれな食堂
瑞希「ここは昨日と今日の朝も来たね」
咲哉「改めて、ここは食堂。基本的に誰かしら居るから」
咲哉「えっと・・・あ」
咲哉「今日は二人とも居たのか。丁度良かった」
咲哉「リカ、カズ、ちょっといいか?」
凜佳「ええ、大丈夫」
和人「構わねぇさ」
瑞希「二人は凜佳さんと和人さん。厨房を主に任されてるよ」
咲哉「基本的に片方が立ってるんだが、今日は二人とも居て良かった」
凜佳「昨日保護された新しい仲間ね?私は凜佳。異能は超能力よ」
和人「俺は和人。異能は何でも切れる裁断だ。嫌いなものとか有ったら遠慮無く言ってくれ」
花音「花音です。これから、よろしくお願いします」
咲哉「・・・さて、厨房の方はどうだ?何か困った事は?」
凜佳「こちらは大丈夫よ。食材も、調理器具も十分」
和人「今はどうやったら誰かさんが俺達の飯を食ってくれるか、相談してたんだ」
咲哉「・・・・・・あはは」
和人「笑って誤魔化さんでくれよ」
凜佳「本当、サク兄さんは自分で作っちゃうんだから」
和人「しかも俺達の居ない深夜とか早朝にな。昼飯もその時に作っちまうから、サク兄さんは俺達のを食べやしねぇ」
咲哉「俺の事は気にしなくて大丈夫」
咲哉「それよりも、何かあったら直ぐに言って。補充するから」
和人「ありがとな、兄さん」
凜佳「その時はお願いします」
花音「サク、ヤさんは普段食べないんですか?」
瑞希「うん。サク兄さんはあんまり一ヶ所に居ないから」
咲哉「さて、次行くぞ」
瑞希「はーい」
花音「はい」
凜佳「本当、どうやったら食べてくれるのかしら」
和人「これじゃ、恩返しもろくに出来ねぇ」
〇職人の作業場
咲哉「ここは食料庫」
瑞希「ここの裏に畑や飼育小屋があるんだ」
花音「ここで・・・畑や動物を」
仁也「おや、サク兄さんにコウ君じゃないか。 それと新入りさんかな」
楓花「やっほ。昨日振り」
花音「あ、昨日の・・・」
仁也「僕は仁也。こう見えて非異能者でね。 この子は私の娘なんだ」
楓花「僕は楓花。異能は風だよ」
花音「父娘・・・!?それに非異能者って・・・」
瑞希「まぁ、確かに珍しいかもね」
咲哉「ジンには主に食料関連を任せてる。 フウは時々その手伝いって感じだな」
仁也「僕には異能がないから、こんな事しか出来ないけどね」
楓花「そういう言い方したら、サク兄さんが困る」
仁也「ああ、ごめんごめん」
咲哉「ここはどうだ?」
仁也「うん、今の所大丈夫さ。少し日照りが続いていたけど、サク兄さんの水のお陰で何ともないし」
咲哉「それなら良かった」
仁也「・・・サク兄さんには本当に感謝してもしきれない」
咲哉「急にどうした?」
仁也「いや、本心だよ」
仁也「君があの日・・・僕達を助けてくれたから、妻の忘れ形見である楓花と今でもこうしていられる」
仁也「だから、僕に出来る事があれば何でも言って欲しい。時には、年上を頼っていいんだよ」
咲哉「えっと・・・もう十分頼ってるだけどな」
咲哉「まぁ、ありがとう」
仁也「・・・・・・・・・」
咲哉「じゃあ、そろそろ行かせて貰う。またね」
瑞希「フウ、明日の仕事は頼んだよ」
花音「え、えっと、それじゃあ」
楓花「お父さん、サク兄さんは・・・」
仁也「分かっているよ・・・でも、儘ならないね」
楓花「私も・・・もっと役に立てたらいいのに」
仁也「楓花は先ずは生きて帰ってくる事。 それを優先しておくれ」
楓花「・・・・・・うん」
〇幼稚園の教室
咲哉「ここはまだ小さいお子さんを預かる所」
瑞希「カーサではみんなそれぞれに合った仕事をしてるからね。ここはその間、子供と向き合うのが得意な人が居るんだ」
花音「だから、小さな子が多いんだ・・・あ、赤ちゃんもいる」
咲哉「あの赤ちゃん・・・澪ちゃんは、うちで唯一生まれた子なんだ」
明良「あれ、サク兄さん?それにコウ君に新しい子?」
彰人「ぁ・・・」
咲哉「おはよう、アキ。キラ。いつも子供達の面倒を見てくれてありがとう」
明良「そんな!今日は学校の方は休みだし、何より自分の息子がいますから」
彰人「俺も。甥っ子の面倒見てるだけ」
瑞希「キラ兄さんはね、アキのお兄さんなんだ。それで、澪ちゃんのお父さんでもあるんだ」
花音「そうなんだ・・・!えっと、花音です」
明良「初めまして。僕は明良。普段は学校の方で教師もしているんだ」
明良「因みにもう厨房は行ったかな?凜佳の夫でもあって、異能者・・・・・・なんだか、僕は肩書きが多いなぁ」
彰人「兄さんはその分、幸せでしょ?」
彰人「えっと、昨日振り。僕は彰人」
彰人「異能は火を出せる。兄さんの異能は植物を育てるんだ」
明良「よろしくね、花音さん」
花音「はい、よろしくお願いします」
咲哉「ここは大丈夫そう?何なら学校の方でも」
明良「そうだね・・・この間新しい昼寝布団も補充して貰ったし、服も足りてる」
彰人「・・・・・・・・・あ」
咲哉「どうした?」
彰人「えっと、シオが今の教材だと物足りなさそうだった」
咲哉「りょーかい。また見繕っておく」
明良「いつもありがとう」
咲哉「どーいたしまして」
瑞希「じゃあ、次に行きますか?」
咲哉「そうだな」
花音「あの、今度赤ちゃん抱っこさせて下さい」
明良「喜んで。あの子は抱っこが好きなんだ」
彰人「コウ、また明日・・・花音もまたね」
瑞希「ああ、明日は頼んだ」
花音「また、ね」
明良「・・・相変わらず、サク兄さんは忙しそうだ」
彰人「うん。僕達が外に出て、少しでも負担を減らせるといいんだけど」
明良「無理だけはしない事。いいな?」
彰人「分かってるよ、兄さん。僕達はみんな一緒にここで生きていきたいんだ」
〇警察署の医務室
咲哉「ここが医務室」
瑞希「怪我をしたら、取りあえずここにおいで」
花音「人はいないの?」
緋蓮「いるよ。ちょっと退席してただけ」
詩音「知らない人・・・」
瑞希「あ、レン先生にシオ」
花音「わっ・・・と」
咲哉「シオ、彼女は昨日来た花音だ」
詩音「・・・そう」
緋蓮「では、初めまして。私は緋蓮。ここでは医師をしているよ。異能は解析」
詩音「私は詩音。異能はない」
花音「えっと、よろしく」
瑞希「シオは人見知りなんだ。気にしないで」
花音「う、うん」
咲哉「あ、シオ。教材の事聞いた。また用意しておく」
詩音「え、いいの?」
咲哉「シオにはレン先生の後を継ぐ医者になって貰わないといけないから」
詩音「ありがとう」
緋蓮「私からも感謝を。ただでさえ、私はあまり役に立っていないのに」
咲哉「そんな事ない。レン先生が居る事に意味があるんだ」
緋蓮「・・・ありがとう」
花音「どういう事・・・?」
瑞希「あー・・・」
瑞希「この医務室に置いてある水なんだけどね。 サク兄さんからどこからか持って来るんだけど・・・」
瑞希「この水を飲むと、大抵の傷が治っちゃうんだ」
花音「え・・・?」
緋蓮「お陰で医師が暇っていう、とてもいい環境だよ」
咲哉「それでも、病は防げない。レン先生はカウンセラーとしても必要な存在だし」
緋蓮「ありがとね」
瑞希「えっと、取りあえず案内するべきなのは、これくらいかな」
咲哉「そうだな。それじゃあ、レン先生。シオ」
瑞希「二人とも、またねー」
花音「え、えっと、また!」
緋蓮「本当に、それしか出来ない自分が情けない」
詩音「先生・・・」
緋蓮「さ、今日の勉強を始めよう」
詩音「うん」
〇立派な洋館
瑞希「どう?慣れそうかな?」
花音「正直分からないです。ここって、広いから・・・」
瑞希「そうだね。俺達が寝泊まりする家に色々な施設があるから・・・」
咲哉「慣れるまでは誰かと行動すればいい。役割もその内決めればいいさ」
花音「あり・・・がとう・・・」
湊斗「あれ?瑞希?」
光輝「よ、サク」
咲哉「やぁ、二人とも」
瑞希「あ、兄貴。巡回帰り?」
花音「巡回?」
咲哉「この敷地を出れば、番犬も出歩く場所だから」
湊斗「定期的に巡回して番犬を避けたり、異能者を保護したりしてんの」
光輝「俺はその報告を受けてた」
咲哉「そうか。何か変わった事は?」
湊斗「今のところは。相変わらず嗅ぎ回ってる程度」
湊斗「っと、嬢ちゃんには自己紹介まだだったな。俺は湊斗。瑞希に兄貴って呼ばれてるけど、厳密には幼馴染みな」
花音「えっと、花音です。よろしくお願いします」
瑞希「兄貴の異能は電気なんだよ」
花音「へぇ、凄い・・・」
咲哉「さて、と。暗くなってきたし、気をつけて戻れよ」
「え?」
湊斗「ちょっと待ってくれや、サク兄さんよ」
光輝「こんな時間からどこに?」
咲哉「仕事。じゃあ、しっかり休めよ」
湊斗「あ!」
光輝「くそ、また逃がした」
湊斗「何でサク兄さんは一人で・・・」
花音「・・・・・・・・・」
瑞希「花音?どうかした?」
花音「みんな・・・サク兄さんって呼ぶから驚いて」
瑞希「サク兄さんとコウ兄さん、アン姉さんは恩人だからね」
瑞希「俺や兄貴が住んでた街を追い出されて、番犬に襲われた時にサク兄さんが助けてくれて」
瑞希「コウ兄さんが居場所にしてくれて、アン姉さんが受け止めてくれたんだ」
花音「そう、なんだ・・・」
湊斗「他にも、感謝してる奴は多い。フウとジンは奥さんを失いながらも、なんとかここに辿り着いた」
湊斗「リカとキラはそれぞれ家族から追い出されて、ここで結ばれた」
湊斗「アキやシオは番犬や元家族に酷い目に合わされて、ここでやっとそのトラウマが消えてきた」
湊斗「レン先生もカズもどっかから追われて、ここに来た。だから、俺達はサク兄さん、コウ兄さん、アン姉さんって呼ぶんだよ」
光輝「なんだか恥ずかしいなぁ・・・」
光輝「俺もアンも、最初にサクにして貰った事をやってるだけ」
光輝「・・・・・・・・・だからこそ、一人で突っ走らないで欲しい」
花音「・・・・・・・・・」
湊斗「ま、俺はこの分追いかけますけど。じゃあ、俺はこれで・・・・・・瑞希、ちょっと付き合えよ」
瑞希「分かったよ、兄貴」
光輝「・・・君も疲れただろう。戻りな?」
花音「・・・はい、ありがとうございます」
光輝「・・・せめて、君の考えを話してくれ。サク」
〇荒廃した市街地
咲哉「恐らく、あの娘は・・・まぁ、放っておいてもいいか」
咲哉「それよりも流星の欠片・・・ちゃんと預けたからな」
「ああ」
咲哉「集まれば、俺達の本当の願いが叶う・・・・・・か」
「くれぐれも無理はするな」
咲哉「ああ、勿論。俺にはやる事があるからな」
「・・・・・・・・・」
咲哉「・・・・・・まだ、死ねない。解放されるまでは」
〇黒
終