付き合ってください!(脚本)
〇入り組んだ路地裏
追い返されるって、わかっていた。
こんなの、いつもの事だ。
でも、今回はのんびりしていられない。
なぜなら──
今の俺には、時間がないから──
エミ(ちょっちょ)「あなた、私になんか用があるの?」
エミ(ちょっちょ)「さっきは、ママが気を回してくれて 追い返してくれたみたいだけど」
ナポリ(大竹ソウタ)「来てくれると思ってましたよ」
エミ(ちょっちょ)「・・・」
エミ(ちょっちょ)「当然でしょ。 こんな写真落としていくだなんて・・・」
エミ(ちょっちょ)「わざとでしょ」
ナポリ(大竹ソウタ)「あー、落としてたんだー。 気付かなかったー」
ナポリ(大竹ソウタ)「わざわざ、すんません」
エミ(ちょっちょ)「白々しい」
エミ(ちょっちょ)「・・・」
エミ(ちょっちょ)「で、あの人を強請れなくなったから こっちに来たわけ?」
エミ(ちょっちょ)「でも、残念ながら、 もう、これはネタにはならないわよ」
ナポリ(大竹ソウタ)「まあ、確かに、この写真で生活費を稼ごうとしたのは当たり!」
ナポリ(大竹ソウタ)「知ってます。 今回は、この写真の件で来たわけじゃ ありません」
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・えっと」
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・そのぉ、だから」
エミ(ちょっちょ)「・・・なんなの? はっきりしなさいよ」
エミ(ちょっちょ)「用がないなら、店に戻るわ」
ナポリ(大竹ソウタ)「えっ」
ナポリ(大竹ソウタ)「ちょっ、まっ」
ナポリ(大竹ソウタ)「つ・・・」
エミ(ちょっちょ)「「つ」?」
ナポリ(大竹ソウタ)「つ、つ、つ・・・」
エミ(ちょっちょ)「・・・行くわよ」
ナポリ(大竹ソウタ)「付き合ってください!」
エミ(ちょっちょ)「・・・なっ」
エミ(ちょっちょ)「・・・はぁ?」
〇レトロ喫茶
ちょっちょ(水嶋ルミ)「・・・まったく」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「どうして先に「青ティーの知り合い」だって言わなかったのよ」
ナポリ(大竹ソウタ)「つい、いつもの癖で」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「・・・はぁ」
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・っていうか、 ああでもしないと会ってくれないだろ?」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「まぁ、確かに。あなたは世間的には 「最低な男」として嫌われているからね」
ナポリ(大竹ソウタ)「真実を書いて何が悪い!」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「あ!マスター! アイスコーヒーもお願い!」
ナポリ(大竹ソウタ)「何だこの、変わり身の速さ」
ナポリ(大竹ソウタ)「ま、それに、俺はそれで飯食ってきたんで」
ナポリ(大竹ソウタ)「ゴシップ、スキャンダル、リーク・・・ なんでも暴いてきたからなぁ」
ナポリ(大竹ソウタ)「凄いだろー」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「・・・」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「待ち合わせ場所に、この店を指定して きたから来ただけで」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「まだ、完全にあなたを信じたわけじゃ ないからね」
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・こえー」
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・」
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・もっと鉄分とった方がいいよ」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「へ?」
「はい!まいど!」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「あー、これよ、これ! ここのナポリタン、久しぶりー!」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「いっただっきまぁーす!」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「この、ケチャップたっぷりの身体に悪そうな塩加減。ソーセージの輪切り」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「存在感のあるピーマンと玉ねぎに、柔らかすぎてプツプツ切れる麺」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「幸せー!」
ナポリ(大竹ソウタ)「だろー?」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「・・・」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「青ティーは心を許した人としか、 ここには来ないのよ」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「あなたはどうやって青ティーに とりいったの?」
ナポリ(大竹ソウタ)「言い方ー」
ナポリ(大竹ソウタ)「俺、元々ここの常連なんだよ」
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・」
ナポリ(大竹ソウタ)「何から説明したら良いのやら・・・」
〇超高層ビル
あの日、俺はヤツの帰りを待ち伏せして、
例の写真を見せた。
青ティー(青木シゲル)「うわぁーっ! 撮られたの、全然気付かなかったぁ!」
ナポリ(大竹ソウタ)「『高級クラブのホステスをお持ち帰り』」
ナポリ(大竹ソウタ)「これ、ばら撒かれたらマズイやつですよね?」
青ティー(青木シゲル)「え?なんで?」
ナポリ(大竹ソウタ)「M財閥の娘さんとの結婚の噂があるあなたが、クラブの女に手を出すだなんて」
青ティー(青木シゲル)「・・・」
青ティー(青木シゲル)「確かに、ちょっちょはホステスだ」
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・ちょっちょ?」
青ティー(青木シゲル)「あいつ、蝶が嫌いで。 遭遇すると、ボクサーみたいにファイティングポーズして蝶を避けるんだぜ!」
青ティー(青木シゲル)「シュッ!シュッ!って」
青ティー(青木シゲル)「だから、『ちょっちょ』。 小学生の時に俺がつけてやった」
ナポリ(大竹ソウタ)「もしかして・・・」
ナポリ(大竹ソウタ)「幼馴染みだったりして」
青ティー(青木シゲル)「そうだよ?」
青ティー(青木シゲル)「この日は仕事の相談があって、 家に来てもらったんだ」
ナポリ(大竹ソウタ)「仕事の相談?」
青ティー(青木シゲル)「そう。彼女はホステスやってるけど、 弁護士資格持ってるんだよ」
ナポリ(大竹ソウタ)「弁護士・・・やっべぇ。 面倒くさいヤツじゃん」
ナポリ(大竹ソウタ)「これじゃあ、面白くないなぁ。 ボツだわー」
青ティー(青木シゲル)「えー? こんなに良い感じに撮れてるのに! なんかに使ってよ。勿体無い!」
ナポリ(大竹ソウタ)「何言ってんの」
青ティー(青木シゲル)「今の話し、聞かなかった事にしてー」
青ティー(青木シゲル)「お願いー!」
ナポリ(大竹ソウタ)「あー、こっちも面倒くさいわ」
ナポリ(大竹ソウタ)「あー、無し無し! 俺、嘘は書かないんで!」
青ティー(青木シゲル)「えー。いいじゃんー」
〇レトロ喫茶
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・という出会いだ」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「いや、知りたいのは、そこじゃない」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「青ティーが、なぜ、あなたのような人に 大事な仕事を依頼したのか」
ナポリ(大竹ソウタ)「言い方ー」
〇レトロ喫茶
あの日、俺はいつものように
ここにメシを食いに来た──
ナポリ(大竹ソウタ)「あー、腹減ったー! 俺、いつものー!」
青ティー(青木シゲル)「あ、あの時の!」
青ティー(青木シゲル)「うわぁ!奇遇だなぁ」
ナポリ(大竹ソウタ)「誰?」
「お待たせしました! 追いケチャップ乗せナポリタンです」
ナポリ(大竹ソウタ)「待ってたよー! いっただっきまぁーす!」
青ティー(青木シゲル)「ここの常連さんなんだ! おまけに、裏メニューを! マジかー」
ナポリ(大竹ソウタ)「なんすか、いったい」
青ティー(青木シゲル)「俺、俺!」
ナポリ(大竹ソウタ)「な、なんで、そんな変装を・・・」
青ティー(青木シゲル)「ここは俺の癒しの場所だから 誰にもバレたくなくて」
ナポリ(大竹ソウタ)「自分から話しかけたら バレちゃうじゃん」
ナポリ(大竹ソウタ)「この人、天然なんか?」
青ティー(青木シゲル)「俺もお代わりしちゃおーかなー」
ナポリ(大竹ソウタ)「それは、やめた方がいいっすよ」
青ティー(青木シゲル)「この店のケチャップの在庫情報を 知っているのか!さすがだな!」
ナポリ(大竹ソウタ)「違いますよ! あなたは塩分控えた方がいい」
青ティー(青木シゲル)「くっ!そっちの情報まで手にしていたか!」
ナポリ(大竹ソウタ)「違う、違う」
ナポリ(大竹ソウタ)「体調悪い人は見ればわかるんすよ」
ナポリ(大竹ソウタ)「俺、元医者なんで」
青ティー(青木シゲル)「お医者さんだったの?」
ナポリ(大竹ソウタ)「実家が小さい病院をやってるんで。 成り行きで」
ナポリ(大竹ソウタ)「でも、俺、本当は小さい頃から 作家になりたくて」
ナポリ(大竹ソウタ)「「後は継がない」って言ったら、 速攻で勘当されて・・・」
ナポリ(大竹ソウタ)「食うのに困って、いろいろ書いていたら」
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・」
ナポリ(大竹ソウタ)「こんな感じになりましたー」
青ティー(青木シゲル)「笑い事じゃないよねぇ」
ナポリ(大竹ソウタ)「ま、想定内っす!」
青ティー(青木シゲル)「医者のままの方が良かったんじゃ? 金も地位も名誉も約束されるんだから」
ナポリ(大竹ソウタ)「いや?俺は小学生の時から 作家になるって決めてたから」
青ティー(青木シゲル)「なんか、面白いヤツだなぁ」
青ティー(青木シゲル)「作家ねぇ・・・」
青ティー(青木シゲル)「実は俺、今。 大手出版社に頼まれて自伝書いてるんだ」
ナポリ(大竹ソウタ)「ホントに!? すげー!」
青ティー(青木シゲル)「書き上げたら、一回見てもらいたいな」
君に──
〇レトロ喫茶
ナポリ(大竹ソウタ)「その後も、何回かここでバッタリ会って 一緒に飯食って」
ナポリ(大竹ソウタ)「いろいろ熱く語り合って・・・」
〇レトロ喫茶
青ティー(青木シゲル)「ひらめいた!」
青ティー(青木シゲル)「いつもナポリタンばっかり食ってるから」
青ティー(青木シゲル)「今日から「ナポリ」な!」
〇レトロ喫茶
ナポリ(大竹ソウタ)「そして・・・」
アイツは死んだ──
ちょっちょ(水嶋ルミ)「・・・」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「で、その後すぐ、 大手出版社の人が訪ねて来たって事ね」
ナポリ(大竹ソウタ)「そう」
ナポリ(大竹ソウタ)「本人のたっての希望で、編集は俺にって」
ナポリ(大竹ソウタ)「そうでなければ出版は許可しない、 という約束になっていたらしく」
大手出版社の営業「二ヶ月だぞ!二ヶ月経っても校閲に出せなかったら、即!担当を交代するからな!」
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・って、ブチ切れながら」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「なるほどね」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「で、どうして私に声かけたの? 青ティーのセレブ仲間を取材すれば 良いじゃない」
ナポリ(大竹ソウタ)「それは・・・」
〇レトロ喫茶
青ティー(青木シゲル)「──でさぁ。せんせーが、ご褒美に飯奢ってくれるっていうから、皆んなでウキウキでついて行ったんだよ」
青ティー(青木シゲル)「ところが、着いた店が、 スッポン料理の店で!」
青ティー(青木シゲル)「俺ら小学生だぜ?」
ナポリ(大竹ソウタ)「確かに、小学生でスッポンはないわー」
青ティー(青木シゲル)「結局、せんせーが、経費で自分の食いたいもの、食いたかっただけなんだよなー」
青ティー(青木シゲル)「でも、俺ら。『そういう事なら』って、 ムキになって食べて」
青ティー(青木シゲル)「パレードなんて、大人の四倍くらい食っててさ。せんせー、どんどん顔色が悪くなっていって」
青ティー(青木シゲル)「ひさじが、いちいち頼んだ料理の金額、暗算して、せんせーに報告してたからなんだけど」
青ティー(青木シゲル)「ちょっちょが「いいの、いいの!」って パレードを煽りまくって」
青ティー(青木シゲル)「あー、あの頃が一番楽しかったなぁー」
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・」
ナポリ(大竹ソウタ)「いいなぁ。 俺、毎日勉強や塾ばっかで、 遊ぶ友達いなかったからな・・・」
青ティー(青木シゲル)「友達なんて、今からつくればいいじゃん!」
〇レトロ喫茶
ナポリならさ。
俺らの仲間になれると思うんだ
だってもう、俺とは友達じゃん!
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・」
ナポリ(大竹ソウタ)「せっかく友達できたのに」
ナポリ(大竹ソウタ)「皆んなを紹介してくれるって言ってたのに」
ナポリ(大竹ソウタ)「その前に」
死んじまいやがって!
ちょっちょ(水嶋ルミ)「・・・」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「え?泣いてる?」
ナポリ(大竹ソウタ)「な、泣いてねーわ!」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「・・・図星ね」
ナポリ(大竹ソウタ)「青ティー。原稿でも、児童会の時の話しに たくさん触れてて」
ナポリ(大竹ソウタ)「「セレブ男子のシゲル」でいるより 断然、生き生きしてた」
ナポリ(大竹ソウタ)「あいつの原点はそこなんだなーって」
ナポリ(大竹ソウタ)「だから、青ティーの自伝を完成させるには、」
ナポリ(大竹ソウタ)「児童会メンバーの力が必要だと思ったんだ!」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「・・・なるほどね」
ナポリ(大竹ソウタ)「わかってもらえた?」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「まー、ね」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「でも、いろいろ難しいかも」
ナポリ(大竹ソウタ)「な、なんで?」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「この雑誌の4月号、覚えてる?」
ナポリ(大竹ソウタ)「ああ。俺の記事が載ったヤツね」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「あなたが書いた記事を元に 処分された議員の中に」
ちょっちょ(水嶋ルミ)「ひさじのお父さまがいたのよね」
ナポリ(大竹ソウタ)「・・・えっ?」
それ、ダメなヤツじゃん──
記者が主人公、ということでどんなストーリーになるのかと読み進めていましたが、"故人の自伝を完成させる"という目的は予想外でした!これから話が進んでいくごとに彼の人となりも見えてくるのでしょうか🤔
主人公は記者として事実を記載したに過ぎないでしょうが、それが今回の件で首を絞めることになるとは思いもしなかったでしょうね😂
どんな手を使って相手方と和解し、自伝を完成させるのか楽しみです!
3000字とは思えないくらいキャラクター性がしっかり描かれていて続きがとても気になりました
小学生の時の仲間が大人になっても付き合いがあるって良いですね!
あだ名がそのままなのもキャラの生きてる感があって素敵です!
面白かったです!
全然先が読めない展開で、ワクワクしながら読ませていただいたんですけど、まず3人ともキャラが濃い!(ネーミングセンスもすごい好きです!)そしてシリアスな雰囲気と自然な会話なのに、その中身が濃い!笑
故人の自伝を書くことになるという設定も面白いですね!まだまだ青ティーの明かされぬすごい事実がどんどん出てくるのでしょうか?
ナポリ、躓いてますが(しかも自爆)頑張れっ!😂