5. 蝕む水神、怒れる鬼神(脚本)
〇岩の洞窟
メイ(く、暗い・・・ 大丈夫かな・・・)
ミズチ「中は一直線だな・・・ 俺は暗くても鼻が利くから安心しな、メイちゃん」
メイ「・・・うん、分かった!」
ミズチ「おっ、早速匂いが・・・ ──って後ろ!?」
メイ「えっ・・・?」
如月「うおっ!なんだお前ら!?」
メイ(そ、そんな・・・! 見つかっちゃった・・・)
ミズチ「や、やっべぇ〜・・・」
如月「──っ! 人間のガキに、酒呑童子のトコの蛇!?」
ミズチ「クソ、やるしか──」
メイ「マサヤの為なら・・・!」
如月「ちょ──待て待て、俺はお前らとやり合う気はねぇよ!」
「・・・え?」
如月「あ、あー・・・ええと・・・」
如月(やべぇ、なんも浮かばねぇ・・・ あ!そうかコイツらあのガキを──)
如月「お、お前ら、あの人間のガキを助けにきたんだろ?じ、実は俺もそうなんだ」
メイ「えぇっ!マサヤを??」
如月「そ・・・そうだ、その『マサヤ』をだ。 おやっさんが捕まえたあの子はまだ五寸にも満たないガキだろ?」
如月「そ、そんなヤツが喰われちまうなんて か・・・可哀想じゃないか!そうだろ?」
メイ「・・・」
ミズチ「・・・」
如月「だから俺はおやっさんに内緒でここまで来たんだ・・・、わ、分かるか?」
如月(だぁ〜──クソッ! こんなんじゃ流石に苦しいか・・・?)
メイ「・・・」
メイ「マサヤのこと・・・ 助けてくれようとしてたんだ! ありがとう!」
(えぇ〜〜ッ!信じた〜〜!?)
ミズチ「待て待てメイちゃん! コイツは刑部の幹部だぞ!そんな訳ないだろ!」
メイ「・・・でも、私たちに気づいたのは今が初めてみたいだし、内緒でここまで来たって言ってたから・・・」
如月「そ、そうそう! 嬢ちゃんの言う通り、俺は他のヤツにバレないように宴を抜けてきたんだ」
如月「玉藻に禁止されている人間を・・・ しかもまだあんなに小さいガキを喰おうだなんて・・・」
如月「いくらおやっさんのやる事とはいえ、流石に良心の呵責に耐えられなかったんだ だからせめて助けてあげようと・・・」
メイ「・・・うん!いい人だね!」
ミズチ「メ・・・メイちゃん・・・」
如月「あー・・・だから・・・ もし良かったら、俺も君たちの手伝いをさせて貰いたいな・・・?」
メイ「うんっ!いいよ! ありがとう!」
メイ「いいよね?ミズチさん!」
ミズチ「うっ・・・ いや〜・・・えっと・・・」
ミズチ(お、落ち着け・・・ どの道コイツに見られてるんだ・・・ どうせならやり合わずに行きたい──)
ミズチ(というか、俺たちを排除するなら普通に後ろからかかってくれば良かったのに ・・・もしかして本当に助けに?)
ミズチ(いやいやいやいやそんな訳ないだろ! アイツの話し方、明らかに今考えましたって感じだったろ!)
メイ「・・・ミズチさん?」
如月「・・・」
ミズチ「わ・・・分かった! そこまで言うなら手伝って・・・ いや、手伝わせてやる!」
メイ「うんっ!そうだね!」
如月「お、おぉ! ありがとうな、二人とも!」
ミズチ(さっきかかってこなかったのは俺のこと強いと思ってるからだよな・・・? だったら常に警戒してコイツを上手く使えば・・・!)
如月(うおぉぉぉっ!マジで行けた・・・ 流石俺、冴えてるぅ〜!)
メイ「私はメイ!よろしくね! お兄さんのお名前は・・・?」
如月「あ、ああ! 俺は如月だ、よろしくなメイちゃん」
ミズチ(如月・・・ やっぱ刑部のトコの『影』使い・・・!)
ミズチ「・・・ミズチだ。 知ってると思うが・・・」
如月「え、ええ勿論! 酒呑童子殿の腹心、蜷局の螭サンっスよね?おウワサはかねがね・・・」
ミズチ(お・・・落ち着け・・・ 強いヤツのフリ・・・強いヤツのフリ・・・)
ミズチ「・・・とりあえずお前が協力するってのは受け入れてやる。だが、少しでも妙なマネしたら容赦しないからな」
如月「へぇ、もちろん! お、俺は裏切ったりしませんよ?」
メイ(ミズチさん・・・ なんで急にドージさん見たいな喋り方になったんだろ・・・)
ミズチ「・・・と、とにかく、お前はここを先導してくれ。間違っても裏切ろうとするなよ?その時は速攻でガブリだ」
如月「え、ええ・・・肝に銘じておきますよ」
メイ「そ、そんなに警戒しなくても・・・」
ミズチ「いやいや・・・ 警戒しないとダメだ、メイちゃん。 ・・・これもマサヤを助けるためだから」
メイ「・・・分かった」
〇屋敷の大広間
鬼「ははっ!アニキ! 派手にぶちかましちゃって下さいよ!」
妖「キャーっ!酒呑童子様〜っ! 頑張って〜!」
妖(うむむ・・・ 刑部殿の宴に来たのに、まるで主役が酒呑童子みたいじゃないか・・・)
ドージ「チッ・・・やりずれぇな・・・」
菊千代「ドージ、あともう少しだ 頑張れよっ!」
ドージ「・・・ったく、やっと本来の目的を思い出したか?」
菊千代「うっ、それは悪かったってば・・・」
隠神刑部「・・・」
ドージ「・・・おう刑部。 こんな形になったが、お前が決めた試合だ。悪く思うなよ」
隠神刑部「フッ・・・もう勝ったつもりか? 愚昧なお前に受けた雪辱、今ここで晴らしてやる・・・」
ドージ(・・・雪辱?何の話してんだ?)
隠神刑部「さて・・・皆様!お待たせ致しました! 只今より、此度の試合の締めとなる取組を行わせていただく!」
隠神刑部「酒呑童子・・・ お前が勝てばそこのガキはお前のものだ」
ドージ(やれやれ・・・ これでやっと終わる・・・ 流石にアレが本物ってことは無いだろ)
隠神刑部「さあ、勝負と行こう! 酒呑童子!」
ドージ「ンだよ・・・暑苦しいな。 お前そんなキャラだったか?」
隠神刑部「行司を取れ!茨木童子!」
菊千代「うっせ!ウチに命令すんなクソ狸!」
菊千代「え、えーと・・・ りょ・・・両者向き合いまして・・・?」
ドージ(アイツ、珍しく本気だな・・・ ・・・まあ、妖力はそんなに変化ない気がするが)
隠神刑部(酒呑童子・・・ 貴様だけは──!)
菊千代「は、発揮よい!」
隠神刑部「──ダラァァァアッッ!」
ドージ(・・・はっ、なんだよ。 結局力任せか・・・舐めやがって)
ドージ「──舐めんなよ、クソ狸ッ!」
〇祭祀場
如月「さあ、最深部に着きやしたよ。 ここにマサヤ・・・くんが連れてこられているはずですね」
メイ「マサヤッ・・・!」
ミズチ「ストーップ!メイちゃん・・・ ここは彼に任せようか」
如月「ええ、勿論任せてください ・・・信楽は私よりも地位が低い。 上からの命令に従うはずですよ」
メイ「うう・・・マサヤ・・・」
ミズチ「とりあえずは様子を見よう。 ──あいつは信用ならないが、まずは信楽からマサヤを離れさせよう」
メイ「・・・」
如月(へっ、あのガキを奪ったら直ぐにトンズラしてやる。『影』をこっちに戻して使えば騙せんだろ──)
信楽「──哀れ、囚われし神は養分を求め、その力は簒奪される・・・ 実に滑稽なものだな、ナキサワメ」
「おおーい、信楽ー?」
信楽「・・・」
如月「おやっさんの指示でガキを受け取りに 来たぜ。渡してくれ」
信楽「・・・」
如月「どうした?早く連れていかないとおやっさんにドヤされるぜ」
信楽「・・・如月、それは何の真似だ?」
如月「は? ・・・いやいや、だからマサヤを連れて来いっておやっさんが──」
信楽「『マサヤ』? ・・・そうか、それがこのガキの名か。 ──何故俺が知らないコイツの名まで知っているんだ?」
如月「いっ── いや、おやっさんから聞いたんだよ!」
信楽「そうか・・・」
如月「・・・なんだよ、ウダウダ言ってねぇでさっさとそのガキを俺に──」
ドッ──
如月「──ッ!? なん・・・」
バタンッ──
信楽「ふざけた事を抜かしおって。 俺はお前を買い被っていたようだ」
メイ「なっ・・・!」
メイ「酷いっっ!! どうしてそんなことするの?」
ミズチ「メイちゃん!ダメだって!」
信楽「ほう・・・? お前は──」
メイ「如月さんのこと・・・ どうして刺したの?」
信楽「情けない嘘を抜かしておったからよ。 我が一族は狡猾さを評価するが、 見え透いた三文芝居を映す愚か者は死に値する」
メイ「そっ・・・そんなのおかしいよっ! だからってそんな──」
スッ・・・
ミズチ「信楽サンよ・・・ あんたらの落とし前に茶々入れる気はないけど・・・」
ミズチ「いくら何でも、仲間に血を流させるってのはやりすぎでしょ」
信楽「・・・はっはっは!」
信楽「お前たちはわざわざ説教を垂れにここまで来たのか?」
ミズチ「そんなわけないだろ! ・・・メイちゃん!」
メイ「うん! ──マサヤを返して!」
ミズチ「・・・じゃなきゃ力づくでも取り返すぞ!」
信楽「ふふ、残念だがこの『マサヤ』を渡すことは出来ない。だが・・・メイといったか?」
信楽「俺の元へ来い。そうすればマサヤと共に居られる。・・・悪いようにはしない」
ミズチ「──っ!」
メイ「そんなの聞かないよっ!! マサヤは今すぐ返してもらうからっ!」
ミズチ「・・・っ! ──よく言ったメイちゃん!」
信楽「そうか・・・それは残念だ。 どうせなら美しく終わらせたかったが ・・・力ずくになるようだな」
信楽「はぁっ!」
隠神刑部「やれやれ・・・ 想定ではお前たちはもう少し早く来ると思っていたんだがな」
ミズチ「なっ・・・! おいおい・・・嘘だろ・・・!」
メイ(信楽さんが別の人に・・・?)
隠神刑部「酒呑童子が正面切って大立ち回りしてんのは自分に注意を引かせる為だろう。 お前たちに注意が向かないようにな」
隠神刑部「だから俺はこのガキ──『マサヤ』を すり替えて此処に連れてきた。ちゃんと着いてこれたようで安心したよ」
ミズチ「──っ! 全部・・・想定していたのかよ・・・」
メイ「ま・・・まさか・・・ あなたが隠神刑部・・・?」
隠神刑部「ああ・・・自己紹介がまだだったな」
隠神刑部「俺は隠神刑部。 これから妖の世界を支配する男だ」
〇屋敷の大広間
妖「な・・・なんと・・・」
鬼「まさかそんな・・・」
妖「一発で・・・」
「決着が着くなんて!」
菊千代「やったっ〜! 流石だなドージッ!あのクソ狸を 一発でノしちまうなんて!」
ドージ「意味がわからねぇ。 本気でこの程度の力で勝てると思っていやがったのか?」
隠神刑部「くっ・・・ 貴様に傷一つ付けられずに終わるとは・・・」
ドージ「はっ、このマヌケが。 ・・・テメェがここまで考え無しだとは思っていなかった」
隠神刑部「・・・」
菊千代「さっさとマサヤを連れてかえろうぜ」
ドージ「・・・ああ、それは恐らく──」
給仕「キャァッ!? え、ええ・・・?」
菊千代「はあぁっ!?偽物かよ!」
ドージ「だろうな。 念の為アイツらの元に行くとするか」
隠神刑部「ふ、ふふ・・・ マヌケなのはお前たちの方だ」
ドージ「・・・あぁ? この期に及んで負け惜しみか? 随分とらしくねぇことすんじゃねぇか」
信楽「時間を稼ぐ任は果たしました・・・ 隠神刑部様・・・っ」
信楽「(気絶)」
菊千代「嘘だろ!?コイツも偽物じゃねぇか!」
ドージ(変身・・・?何のために・・・ そんなことをしていたら宴で大恥かくだろうが・・・)
妖「刑部殿が偽物・・・?」
妖「え?え?」
鬼「どういうことだよ? じゃあ、本物はどこに・・・」
ドージ(──っ!まさか!? 本物の刑部は・・・!)
ドージ「おい!信楽!」
信楽「・・・」
菊千代「ど、どーしたんだよドージ?」
ドージ「クソッ・・・!マサヤを連れてったヤツが信楽の姿をしてたんなら── アイツらが危ねぇ!」
黒田「行かせませんよ、酒呑童子」
ドージ「あ”ぁ”っ?どきやがれ!」
黒田「貴方はここで隠神刑部様の策に嵌められ、人間共が喰われるのを指をくわえて見ていなさい!」
黒田「はぁっ!」
菊千代「うわっ!なんだこの結界──」
ドージ「邪魔すんな! どけ菊ッ!」
菊千代「わっ──」
ドージ「こんなもんで俺を止められると思うな!」
黒田「ぐあぁっ!」
「ズガァーンッ──」
菊千代「・・・お、おいドージ! 急になんなんだよ!説明しろよ!」
ドージ「そんな時間はねェ! ここを任せたぞ菊!」
菊千代「なっ──! ちょ、ドージッ!」
〇祭祀場
隠神刑部(さて・・・ 今回は博打だったが、出目は俺の勝ちの方だったようだな)
ミズチ「嵌められたのか・・・! メイちゃんがアニキから離れるのを待ってたってことだよな・・・」
隠神刑部「お前たちが此処に来た時点で俺は 『マサヤ』と『メイ』の二つを得られた」
隠神刑部「お前たちのどちらが力を持っていようと 両方ナキサワメの生贄にしてしまえば問題あるまい」
「──!!」
ミズチ(ナキサワメ・・・?生贄・・・? マズイな、こいつの目的は勢力拡大じゃなかったのか・・・?)
メイ「ど、どうしよう・・・」
ミズチ「──あ〜クッソ! メイちゃん!アニキの所へ行ってくれ!」
メイ「えっ・・・ そ、そんなのダメだよ!」
ミズチ「二人ともやられるよりはマシでしょ! アニキの所に行けば大丈夫だ!」
メイ「で、でも── ミズチさんが・・・!」
???「信楽サーンっ 酒呑童子の部下をとっ捕まえましたよ!」
「──っ!」
チビ「はっ、離してってば! ──にゃぁっ!?」
メイ「チ・・・チビちゃん・・・!」
チビ「うう・・・ゴメン・・・ チビ、捕まっちゃった・・・」
釣瓶「あ〜いてて・・・ めちゃくちゃに引っ掻きやがって──」
淡路「・・・全く、手間のかかる猫でしたよ」
隠神刑部「・・・ご苦労だったな、お前ら」
釣瓶「はぁぁっ!?え、あ、刑部様・・・」
隠神刑部「お前らはそこを見張ってろ。 コイツらが逃げ出さねぇようにな」
「りょ、了解しました・・・」
ミズチ(・・・ダメだ 俺が時間を稼いでも、後ろを塞がれてたらどうしようもない・・・)
チビ「うう・・・」
メイ「・・・」
メイ「・・・私が、刑部さんの所にいけば、 二人のこと、助けてくれる・・・?」
「──っ!!」
隠神刑部「ははっ、構わねェぞ。 俺としてはな、別に争いがしたい訳じゃないんだ」
隠神刑部「来てくれると言うなら何人もお前の友人には手を出さないと誓おう。『約束』だ」
ミズチ「だ、ダメだメイちゃん・・・ そんなことを言っちゃ──」
チビ「うにゃあ!メイちゃん!ダメだよ! 約束は絶対だって言ったよね!」
メイ「でも、みんなを助けるにはこれしかない・・・! 皆の苦しむ姿は見たくないよ──」
チビ「メイちゃんッ!! ダメぇっ!!」
メイ(これでいいんだ・・・ これで──!)
メイ「ドージさん、チビちゃん、ミズチさん・・・!誰一人だって欠けて欲しくない!」
ミズチ「メイちゃんだって欠けたらダメだ! ──アニキの言葉を忘れたのかよっ! それは本当にメイちゃんのやりたいことなのか!?」
メイ「──っ!」
メイ「・・・」
メイ「・・・」
メイ「違うよっ!本当は私だって、マサヤだって、皆で助かりたいよ!」
ミズチ「・・・っ! だったら──!」
チビ「迷っちゃダメ!」
メイ「──っ!?」
チビ「何があったって、どんな時だって・・・ 自分が本当にしたいことをするの!」
メイ「・・・」
チビ「今のメイちゃんのこと、ドージさんがみたら・・・きっと怒るよ! チビだって、怒っちゃうんだからっ!」
メイ「う・・・ドージさん──!」
〇集落の入口
ドージ「──やりてぇ事があるなら迷うな、どんなことがあってもな。そうすりゃ必ず、 物事は良い方向に転がっていく」
ドージ「最後まで自分の願いを信じること── それが土壇場でツキを呼び込む秘訣だ」
〇祭祀場
メイ(──今が・・・その時? でも・・・)
隠神刑部「・・・どうした? お前がこっちに来れば、酒呑童子の部下達は助かるぞ?」
メイ「・・・」
ミズチ「メイちゃん・・・!」
チビ「うう・・・メイちゃん・・・」
メイ「・・・」
メイ「──決めたっ!」
メイ「私はあんたの所になんか行かない! マサヤも皆も──一人残らず全員助かる道を選ぶ!」
チビ「メイちゃん・・・!」
隠神刑部「──残念だ。 酒呑童子の部下共は優秀なヤツが多かったが・・・オツムは良くなかったようだ」
メイ「ミズチさん!チビちゃん! 脱出しよう!ドージさんと合流しなきゃ!」
ミズチ「分かった!チビちゃん!後ろだ!」
チビ「にゃぁあ──っ!」
チビ「──あっ・・・」
隠神刑部「逃がすわけがないだろう! さあ──その命を寄越せ!」
チビ「メイちゃん!危ない──!」
ギイィィィン──!
隠神刑部「なっ・・・!」
メイ「あ、あれ・・・? なんか、光って──」
メイ「あっ!」
メイ「これ、たまもさんの・・・!」
たまも「もう・・・ やっと名前を呼んでくれたわね。 ヒヤヒヤしたわ」
隠神刑部「──馬鹿なッ!? なぜお前がコイツを──」
メイ「たまもさん──!!」
たまも「ふふっ・・・もう、 本当に無茶するのね、あんた」
チビ「タマモさん──っ!?」
ミズチ「転送札・・・!? そんなの持ってたの!?メイちゃん!」
釣瓶「ちょ──なんで玉藻がこいつらに手を貸してんだよ!」
隠神刑部「・・・」
淡路「貴様ッ! 酒呑童子と刑部様の果たし合いに 首を突っ込むな!」
たまも「そんなことはどうでもいいでしょ それよりも、オ・マ・エ・た・ち・・・ 私の許可なく人間を殺そうとしていたわね?」
「──っ!」
隠神刑部「──下がってろ、お前ら・・・」
隠神刑部「ああ、その通りだ。 ──饗宴場に紛れていた此奴らを喰らうことの何が悪い」
たまも「紛れていた? あんたが張っていた罠でしょう? ──あっちの世界と対応する場所に 『落とし穴』を仕掛けていたわよね」
たまも「神通力を持つ人間が通った時、こちらと繋がるように作った罠── 私が見破れないとでも思った?」
メイ「・・・神通力?・・・罠? どういうこと?」
ミズチ「すまん・・・なんの事がさっぱりだ」
たまも「それに・・・この『祭殿』・・・ あんた、何を封印しているの?」
隠神刑部(・・・仕方ない 背に腹はかえられぬか──!)
隠神刑部「・・・そんなに知りたければ見せてやる 彼岸の先で後悔するといい!」
たまも「ちょっと──!」
メイ「な・・・何?この揺れ──」
メイ「うわあっ!」
チビ「んにゃぁ〜っ! み・・・水、いや〜!」
〇洞窟の入口(看板無し)
メイ「あ、あれ・・・?」
たまも「『祭殿』の外まで転送したわ。 ──あと、この子が探していた子?」
スッ──
メイ「マサヤッ──! うん!そうだよ!ありがとう・・・」
たまも「そう・・・ 良かったわね・・・」
メイ「マサヤ・・・大丈夫・・・?」
たまも「・・・呪詛かしら、かなり深い眠りにつかされてるわね・・・。安静な場所に置いて少ししたら目覚めるはずよ」
メイ「そっか・・・ それなら良かった・・・!」
たまも「──っ!」
たまも「・・・来るわね」
たまも「皆、下がって!」
ミズチ「は、はいっ! マサヤは任せろメイちゃん!」
メイ「あっ・・・」
チビ「メイちゃん!こっちだよ!」
〇洞窟の入口(看板無し)
たまも(水・・・祭殿・・・生贄・・・ ──まさか、『龍神』?)
たまも「──っ!」
ヒュッ──
???「グァアァァァッ──!!」
メイ「ええぇぇぇえ!! ド、ドラゴン──っ!?」
ミズチ「おいおいおいおい! あれは水神の一種じゃん・・・! なんで暴れてんだよ・・・」
チビ「・・・!・・・! (パクパク・・・)」
隠神刑部「(ヨロッ──)」
隠神刑部「くっ・・・ やはり飢餓状態じゃ制御出来ないか・・・」
???「ガァァァァ!」
隠神刑部「ぐあっ──!」
???「グゥ・・・ ヨコセ・・・」
たまも(──っ・・・ これは少し厳しいわね・・・)
たまも「うっ・・・ 激しくて近づけない・・・」
たまも(まずは水を何とかしないと・・・!)
たまも「・・・はぁ!」
???「グゥ・・・ キサマ・・・!」
たまも「悪いけど、正気に戻るまで続けるわよ はぁ!」
???「グゥァ!」
???「オノレ・・・!」
たまも「──っ!飛び上がった・・・!」
「クラエッ!」
たまも「あっ──!」
たまも「痛・・・」
???「ヨコセ・・・ チヲ・・・ヨコセ・・・」
たまも「──お生憎様、私の血は高貴なものよ。 あなたのような狂った神なんかには勿体ないわ!」
???「グアァァァア──!!」
たまも「──っ!」
メイ「あっ──危ないっ!!」
???「ガァァァアッ!! クッ・・・」
「・・・ったく、何してんだよお前」
たまも「ド、ドージッ!」
ドージ「急いで『祭殿』の方に来てみれば・・・ なんだ?この状況・・・」
たまも「う・・・ お、遅いわよっ!」
「──ドージさんっ!!」
ミズチ「アニキ──!」
ドージ(・・・あいつらは無事みたいだな ったく、コイツには頼りたくなかったんだが・・・)
???「ガァァァッ!!」
ドージ「うるせぇ!俺は今虫の居所が悪ィんだ!」
???「キサマッ──!」
バシャーンッ──
ドージ「ふざけやがって どいつもこいつも・・・」
たまも「ドージ、 少しの間抑えてて」
ドージ「・・・ああ さっさとこの動きづれぇ水を何とかしろ」
???「グゥ・・・」
ドージ「──お前・・・ まさかサワメか?」
???「・・・」
ナキサワメ「ワガナヲ・・・ キヤスクヨブナ──!」
ドージ「──やっぱそうか。しばらく見ねぇうちに随分禍々しくなったな。やっぱ水神ってのは龍になれんだな?ん?」
ドージ「ははっ、久し振りだな、この感覚──」
ナキサワメ「グゥゥゥ──!」
ドージ「お前相手なら五行法術を使っても大丈夫だろ?──ほらよ!」
ナキサワメ「グアァァッ!!」
ドージ「『水』には『土』だ。 いくら神でもこの法則には逆らえねぇだろ?」
ナキサワメ「オノレ──ッ!」
ナキサワメ「ヒュー・・・」
ドージ「──! テメェ──!」
ドージ(チッ・・・ 炎も吐けんのかよ・・・)
ナキサワメ「グルルルル・・・」
たまも「・・・油断してんじゃないわよ!」
ドージ「うっせぇ! テメェは法術準備終わったのか?」
たまも「ええっ! ──はあっ!」
ドージ「バッ── お前──!」
〇洞窟の入口(看板無し)
メイ「・・・!」
メイ「(言葉が出ない)」
チビ「あ、あ〜・・・ メイちゃん、大丈夫だよっ」
メイ「でっ、でもっ、あの──木がっ・・・」
ミズチ「はははー・・・ あれくらいなら別に大丈夫だって・・・ ウチのアニキは」
たまも「ふうっ! 何とか水を無くしたわね!」
ミシッ──!
ドージ「ゴラァッ!性悪ギツネ!」
たまも「あらぁ?避けてなかったの? ゴメンなさいね〜」
ドージ「明らかにワザとだろうが! 喧嘩売ってんのか!?」
ナキサワメ「(ヨロッ──)」
ナキサワメ「グッ── グアァァァッ!!」
ドージ「タフだな、随分と そろそろ気を失ってくれないか?」
たまも「──アンタが気絶するくらいの出力の方が良かったかしら?」
ドージ「手ぇ抜いてんじゃねぇよ! ──あと、テメェ如きの法術で俺が気を失うか!」
ナキサワメ「グァァァァァ──!」
隠神刑部「はぁ・・・はぁ・・・ まだ終わらせねぇぞ・・・!」
ドージ「・・・チッ、化けて隠れてやがったな クソ狸。アイツも往生際が悪いな」
たまも(なっ・・・ もしかして『神器』!?)
たまも「ドージっ!すぐに抑えましょう!」
ドージ「・・・? ああ、分かった」
〇洞窟の入口(看板無し)
ナキサワメ「オ オ ォ ォ ォ ォ──」
メイ「ま、まだ動くの・・・?」
ミズチ「な、なんかヤバそうな雰囲気じゃないか・・・?」
チビ「あの黒いケムリ・・・! んにゃ!」
チビ「シャァァーッ!」
メイ「え!チビちゃんっ!待って!」
ドージ(神体の中で呪詛が増幅してやがる・・・ 早く手を打たないと本気で堕ちるな)
ドージ「──ちぃっ! もういいぞ真菰!」
たまも「ええっ! ──はぁぁ!」
ナキサワメ「──ッ!」
ドージ「動くんじゃねぇ!」
ナキサワメ「ギッ──!」
たまも「元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神──!」
ナキサワメ「ガァ──ッ!」
たまも「害気を攘払し!四柱神を鎮護し! 五神開衢、悪鬼を逐い! 奇動霊光四隅に衝徹し──」
ドージ「おいコラ真菰ッ!詠唱が長ぇよ!」
ナキサワメ「グァァァァァ!」
隠神刑部(──ははっ、馬鹿な女狐よ・・・ 貴様とて呪詛を浴びれば一溜りもあるまい・・・!)
「ニャァァァ──!」
ピョーンッ!
チビ「うにゃあぁぁっっっ!!」
隠神刑部「なっ──しまった!」
バキィッ──!
隠神刑部「きっ──貴様ァァアッッ!!!」
チビ「ニャニャッ──!」
隠神刑部「待ちやがれッ!」
ドージ「クソがッ・・・ 時間かけすぎだろクソ狐!」
チビ「にゃーん!」
ドージ「なっ──チビ!」
隠神刑部「──っ!酒呑童子ィ!」
チビ「シャァ──!」
ドージ「テメェ・・・! ウチのチビに何してやがる!」
チビ「ニャンッ!」
隠神刑部「貴様が居なければ──! 死ねぇっ!」
ドージ「死ぬのはテメェだクソ狸ィ! ──ッラァ!」
「ぐあぁぁぁぁっっ──!」
ズドーンッ──!
ドージ「・・・っ、やっべ── サワメまで巻き込んじまった・・・」
「え、ええ・・・」
たまも「元柱固具、安鎮を得んことを・・・ ・・・?」
たまも「・・・」
たまも「──ちょっと!アンタ自分でやるならそう言いなさいよ!殺してないでしょうね!!」
ドージ「──あぁ!?テメェがチンタラチンタラ詠唱してんのがいけねぇんだろ!何回も同じ言葉繰り返しやがって!」
たまも「・・・以下略! 急急如律令!死ね!」
ドージ「はぁ!?テメ──」
たまも「・・・」
・・・
ミズチ「あー・・・玉藻サン、お疲れ様です」
メイ「ね、ねぇ・・・ ドージさん、大丈夫なの?ねぇ?」
たまも「・・・知らないっ!」
ドージ「テメェ・・・マジで覚えとけよ・・・」
ミズチ「あ、良かった〜・・・ 今のは流石に死んだかと・・・」
ドージ「アァ?」
チビ「ドージさん・・・ どうどう・・・」