【第九話】WARD(脚本)
〇近未来の闘技場
ラナ・D・ヘルナンデス「Bang! Bang! Bang!」
ドロシー・R・ランドール「後方に、敵影! ジャクソン、お得意の奴を頼む」
ロバート・A・ジャクソン「へっへへ、了解」
ロバート・A・ジャクソン「おら、踊れ! 全部避けられるもんなら、避けてみな」
ジャクソンの放つ銃弾が、迫りくるニューロヴァイパーの行く手を阻んだ。
銃弾は、当たる気配は無い。だが連携が崩れ、体勢を崩した彼女たちにすかさず追撃が続く。
ラナ・D・ヘルナンデス「Hey! 足元がお留守ですよ」
駆け出したヘルナンデスが、脚を払う。彼女たちは、完全に腰を着き転倒してしまう。
ドロシー・R・ランドール「そこよ」
ランドールの銃撃は、的確だった。だが、人ならざる者に常識は通用しない。
身体を変形させ銃弾を避けると、すぐに反撃の姿勢を取る。
ロバート・A・ジャクソン「だが、残念! ジ、エンドだ」
いつの間にか、ニューロヴァイパーたちは一箇所に集められていた。その上、注意はランドールの方に向けられている。
そこに、すかさずの背後からの銃撃。避けられるはずも無く、その身体には無数の風穴が空いていた。
久景千里「皆、ありがとう。助かったわ」
ラナ・D・ヘルナンデス「No Worries! 気にしないでくださーい」
久景千里「それで、聖君は? 何処かに、隠れているのかしら」
ドロシー・R・ランドール「いや、見かけていないが」
久景千里「え! 聖君から連絡を受けて、助けに来てくれたんじゃ無いの」
ドロシー・R・ランドール「いや。私たちは、君たちの電波の発信が途切れたから不審に思って来ただけだ」
久景千里「そんな・・・・・・」
ロバート・A・ジャクソン「もしかして、今頃捕まっているんじゃねぇの」
ドロシー・R・ランドール「ああ、有り得る話だ」
ラナ・D・ヘルナンデス「どうするつもりですか? 早く探さないと、大変なことになってしまいますよ」
久景千里「ええ、すぐに探しに行きましょう」
ドロシー・R・ランドール「あれ、そう言えばボスは? 一緒に、ここへ来たはずなんだけど・・・・・・」
〇近未来の開発室
第九話『WARD』
クリストファー・W・ジーク「そのまま、動くなよ」
久景隼人「ジーク、久しぶりだな」
クリストファー・W・ジーク「聖を、何処にやったんだ」
久景隼人「今は、千里と共に奥の部屋で眠ってもらっているよ」
久景隼人「もう少しで、完成するんだ。俺たちの望んだ、真の平和が」
クリストファー・W・ジーク「違う。俺が望んだのは、こんな世界では無い」
久景隼人「なら君は、何か行動を起こしたのかい」
クリストファー・W・ジーク「目的の実現に向けて、やっと動き出したところなんだ」
クリストファー・W・ジーク「DRAWは、世界を書き換える為に作った俺の部隊だ」
久景隼人「ああ、あの部隊か」
久景隼人「WARDのもじりだろう? お前も、中々粋なことをするじゃないか」
久景隼人「ジーク、もう事態は動き出しているんだ。今更、止めることは出来ない」
久景隼人「日本政府は、圧倒的な武力を手に入れた」
久景隼人「多少の犠牲も出るかもしれないが、それも初めの内だ」
久景隼人「なあ、ジーク。俺たちで手を組めば・・・・・・」
クリストファー・W・ジーク「そこまで、落ちたとはな。隼人」
クリストファー・W・ジーク「忘れたのか、あの戦場での日々を」
〇トラックの荷台
俺たちが出会ったのは、WARDと呼ばれる傭兵団。戦場に向かう、トラックの車内だった。
クリス・B・クラーク「ヘイ、君は日本人だろう。珍しいな、武器はちゃんと扱えるのかい」
久景隼人「お喋りは、控えろ。上官に、目を付けられるぞ」
クリス・B・クラーク「ち、ノリが悪いな。どうせそんな頼りない身体じゃまともに戦えないんだろう」
クリス・B・クラーク「口と威勢だけが良いのが、その証拠だ」
クリストファー・W・ジーク「それぐらいにしておけ、クラーク」
クリス・B・クラーク「おい、ジーク! お前まで、この日本人の味方をするのかよ」
クリストファー・W・ジーク「お前こそ、武器がちゃんと使えるのか確認しておけ。この前も訓練で、危うく死にかけただろう」
クリス・B・クラーク「ちっ・・・・・・」
地域の政治的な複雑さ、それに資源の枯渇が合わさって起こった戦争だった。
関与する複数の国や勢力が、利害を巡って対立。よくある話だ。
だが俺たちが戦闘に参加することによって、この地域に平和を取り戻せると信じていた。
そう、あの時までは──
〇荒廃した市街地
女の子「お母さん、何処・・・・・・」
女の子「お母さん」
「撃て」それは、聞き慣れた命令だった。
だがその対象は、目の前に居る小さな女の子に向けられていた。
俺たちが送られたのは、市街地だった。ならばこそ、逃げ遅れた市民が居ることも当然。
そして、待ち受けるのは死の運命・・・・・・無力な市民でも関係無い。下された命令は、残酷だった。
クリス・B・クラーク「おい、撃てって・・・・・・相手は、小さな女の子だぞ」
クリス・B・クラーク「別に見逃しても、大したことには・・・・・・」
後戻りは、出来なかった。俺は、照準を女の子に向ける
腕が震えて、照準が定まらない。
早く撃たなければ、上官に殺される。そう思っていても、焦るばかりで引き金を引くまでには至らない。
一発の、銃声が響く。
その時の、彼の表情をよく覚えている。
覚悟を決めた、なんて言葉とは程遠い。迷いと悲哀に満ちた、男の姿だった。
〇近未来の開発室
それから、何百人もの人間を殺した。
だからこそ、俺たちはその戦争が終わった後に決めたんだ。
俺たちが、こんな世界を変えてやるって。
戦場で別れたきり、隼人が何処で何をしているのかは知らなかった。
千里を殺すために、日本を訪れるまでは。
クリストファー・W・ジーク「腕は、衰えていないようだな」
久景隼人「ふん、二度と武器を握ることは無いと思っていたんだがな」
クリストファー・W・ジーク「俺たちの手は、既に血に染まっている」
クリストファー・W・ジーク「だからこそ! これからを生きる子供たちには、同じ歴史を繰り返させてはならないんだ」
久景隼人「そうだ! 誰かが、手を汚さなければならない。俺たちの様に」
クリストファー・W・ジーク「違う。誰も傷つかなくても良い、平和な世界があるはずなんだ」
クリストファー・W・ジーク「俺は彼女に会って、初めて気づいた」
クリストファー・W・ジーク「彼女は、こう言ったんだ」
クリストファー・W・ジーク「貴方を、愛してくれる人がいると」
腹部を襲う、強烈な斬撃。流れる血は止まることを知らず、俺の命を削っていく。
久景隼人「終わりにしよう、これで」
久景千里「動かないで」
久景隼人「くっ・・・・・・」
クリストファー・W・ジーク「千里・・・・・・」
久景千里「世界に愛されたいと願うなら、まずは貴方自身を愛しなさい」
久景千里「望む世界を叶えたいと願うなら、美しい世界を信じなさい」
久景千里「それが出来ないなら、世界は貴方に牙を剥く」
クリストファー・W・ジーク「千里・・・・・・撃つな」
久景千里「私は、世界を愛している」
久景千里「私を愛してくれた貴方を、信じたいと思ったから」
〇水の中
世界が、変わっていく。
俺がこれから目にする世界は、きっと美しい世界なのだろう。
あの日見た笑顔が、そう信じさせてくれたから。