【第八話】Unknown(脚本)
〇高層階の部屋
時刻──2255。内閣総理大臣公邸
明田正十郎「おー、可愛いねシルベッタちゃん」
内閣総理大臣、明田正十郎。
夕食を済ませた彼は、いつものように愛猫のシルベッタと至福の時間を過ごしていた。
明田正十郎「よーく食べて寝て、早く大きくなるんだぞー」
明田正十郎「んん、何だ今の音は」
異変が起こったのは、彼が寝室に向かおうとした時のこと。
この場所は、大人数の警備で固められている。虫一匹でも、忍び込むことは難しいはずだった。
明田正十郎「こんな時間に、来客か? はぁっ、ついていないよ」
明田正十郎「って、誰だ君は。警備の者は、何をやっているんだ」
明田正十郎「気味が悪いな。何か、話したらどうなんだい」
明田正十郎「おーい、警備! 不審者だ、ひっ捕らえろ」
明田正十郎「ぐっ・・・・・・」
久景千里「ワタ・・・・・・私・・・・・・ハ、誰・・・・・・ナノ」
久景千里「ダレか・・・・・・オシ、エテよ」
久景千里「ダレ、カ・・・・・・」
〇渋谷駅前
第八話『Unknown』
明田正十郎「世界平和のために、是非皆様の力をお借りしたい」
それは、突然の出来事であった。
内閣総理大臣、明田正十郎が街中で演説を始めたのだ。
その様子はテレビ中継され、多くの国民がこれを見ることになる。
明田正十郎「現在の日本が、危険な立ち位置に置かれていることは皆さんも知っての通りだろう」
明田正十郎「諸外国との関係は日に日に悪化し、いつ争いの火種がついてもおかしくない状況だ」
明田正十郎「そこで、ある科学者の知見をお借りした」
明田正十郎「イコライザー、そしてその社長である久景隼人」
明田正十郎「倒産した企業だが、政府の支援の元に立て直しを図っているところだ」
明田正十郎「皆様に国税を使うことをお許し頂きたく、この場で宣誓をさせて貰った」
明田正十郎「イコライザーは、必ずや世界を救うきっかけとなるだろう」
明田正十郎「ここにいる久景隼人社長と共に、我が国日本は新たな平和への道を歩み始める」
明田正十郎「国民の皆様、盛大な拍手を」
〇組織のアジト
志田聖「これは、一体どういうことなんだ」
久景千里「・・・・・・お父さん。突然現れたと思ったら、どうしちゃったのよ」
クリストファー・W・ジーク「正十郎は、洗脳されているように見える。どういう経緯があるのかは、分からないが」
ロバート・A・ジャクソン「あー、くそ。放っておいたら、大変なことになるんだろ? さっさと、動かねぇと」
ドロシー・R・ランドール「むやみやたらに動いても、相手の思う壺よ。何が起こっているのか、見極めないと」
ラナ・D・ヘルナンデス「やっぱり、時期的にニューロヴァイパーと関係があるのですかね」
志田聖「ニューロヴァイパーが千里をベースにしているのなら、電波を発信する能力を持っているはずだ」
志田聖「正十郎に洗脳を掛けたのは、おそらく先日のニューロヴァイパーだろう」
久景千里「きっとお父さんは、イコライザーを再建できると聞いて話に乗ったのね」
クリストファー・W・ジーク「まだ時間はあるが、イコライザーの開発が進んでしまう前に妨害する必要があるだろう」
ロバート・A・ジャクソン「じゃあ、さっさと行こうぜ! 久しぶりに、暴れがいがありそうだ」
ドロシー・R・ランドール「いや、どこに行くつもりよ」
ラナ・D・ヘルナンデス「Oh! そう言えば、まだイコライザーの本社は更地のままですよ。一体、何処で開発を進めているんでしょうかね」
クリストファー・W・ジーク「そこから、調べる必要がありそうだな」
クリストファー・W・ジーク「全員、情報収集に当たってくれ。手あたり次第になるが、仕方ない」
久景千里「了解しました」
〇湖畔の自然公園
志田聖「しかし、手あたり次第って言っても何処を探せば良いんだよ」
久景千里「東京は、広いからね。そもそも、東京に開発拠点があるとも限らないし」
志田聖「くそっ、手詰まりか」
久景千里「あ、見て聖君! 可愛い、猫さんが居るよ」
志田聖「こんな時に、何だよ。何の、手掛かりにもならないじゃないか」
シルベッタ「にゃお」
志田聖「うわぁ、高そうな猫・・・・・・」
久景千里「最初の感想が、それ?」
久景千里「でも確かに、こんな猫見たこと無いよ。野良猫じゃないよね」
志田聖「ん、待てよ。この猫、何処かで見たことがあるような気がする」
シルベッタ「にゃおん」
久景千里「あ、待ってよ! 聖君、追いかけるよ」
志田聖「追いかけて、どうするつもりだよ」
久景千里「きっとあの猫、野生では生きられないと思う。飼い主を、探してあげないと」
志田聖「はぁ、全くお人好しだな」
〇地下道
久景千里「おーい、猫ちゃん。何処なの」
志田聖「もう、諦めて帰ろうぜ。流石に、これ以上進みたくねぇよ」
久景千里「そうだね・・・・・・困ったな」
久景千里「何、今の物音」
志田聖「もしかして、さっきの猫かな」
久景千里「行ってみましょう」
〇近未来の闘技場
久景千里「何、ここ・・・・・・こんなところに、広間があっただなんて」
そこに居たのは、かつてみたニューロヴァイパーの姿だった。
だが違うのは、戦闘服の様なものを身につけているということだ。
彼女たちはこちらの存在に気づいた瞬間、散開する様に移動を始めた。
志田聖「囲まれるぞ」
その動きは、豹のように素早い。一切の無駄の無い動きが、人間離れした存在だということを実感させる。
声を掛け合わずとも、完璧に統率の取れた動き。
それは、ニューロヴァイパーだからこそ出来る芸当。感覚、記憶の共有が既に完了していることを意味していた。
久景千里「まさか、既にここまで開発が進んでいたと言うの」
志田聖「とにかく、この状況を打開するぞ」
とは言え、素人の俺には大したことは出来ない。出来ることと言えば、せいぜい囮になることぐらいだ。
それ以前に、俺には未だに覚悟が持てなかった。偽物だとしても、千里に瓜二つの存在を攻撃することなんて出来ない。
久景千里「聖君! ひとまず、ここは私に任せてアジトに報告を」
志田聖「あ、ああ。分かった」
そんな俺の心中を察したのか、千里は別の指示を出す。
だが、確かに今はアジトへの報告が最優先であることは間違い無いだろう。
ここでは、電波が届かない。とにかく、外に出なければ
〇地下道
まさか、こんな所で出会うことになるなんて。
隼人は、行く手を遮るように俺の前に佇んでいる。
久景隼人「久しぶりだな、聖」
志田聖「隼人、お前は一体何を始めるつもりなんだ」
久景隼人「ニューロヴァイパーと言うんだろう、あれは」
志田聖「何故、それを知っているんだ」
久景隼人「色々と、調べさせて貰った。あの存在が、一体何者なのかをね」
久景隼人「私はあれに、兵器としての可能性を見出した」
志田聖「どういうことだ、お前は、『真の平等』を目指していたんじゃ無いのか」
久景隼人「その通りだ、よく知っているね」
久景隼人「ならばあれが、自己複製機能を持っていることは知っているか」
志田聖「何だ、それ」
久景隼人「全ての人間が、同一の存在になるということ。つまりそれは、通常のプロセスが踏めなくなるということ」
久景隼人「男女の区別も無い。なら、一個体で完結する方法を取らなければならない」
久景隼人「それが、自身の身体を複製することだった訳だ」
志田聖「じゃあ、さっきの奴らも」
久景隼人「正直、最初は手に負えなかったよ。何度も実験を繰り返して、ようやく使えるレベルに達した」
志田聖「まだ、一晩しか経っていないだろう」
久景隼人「私の目指した世界が、手の届きそうなところまで近づいているんだ。邪魔立ては、しないでくれるかな」
志田聖「あんたは、曲りなりにも世界の平和を目指していたんじゃないのかよ」
久景隼人「目指しているさ。今も、私は夢見ているんだ」
久景隼人「圧倒的な武力で、誰も手を上げる気も起らない。そんな、理想郷の始まりをね」