【第五話】私の世界(脚本)
〇渋谷駅前
私と、私と、私。
もし、全ての人間が同じ容姿同じ性格同じ感覚同じ記憶・・・・・・その他諸々。
そんな世界だったら、どうなるだろうか。
争いは、起こり得るのだろうか。
もし、それぞれの置かれている境遇が異なっていたら争いが起きるかもしれない。
だけど、動物を家畜化する手順を思い出して欲しい。
大人しい個体同士を交配させ続けることで、人間に都合の良い動物が生まれてくる。
もし、それを人間で行ったら?
第五話『私の世界』
〇オフィスのフロア
当然、そのようなふざけた考えが通る訳が無かった。
所詮、これは絵空事だ。
開発会議での、部下たちの呆れ顔を思い出してしまう。
久景千里「相変わらず、お父さんは問題児よね」
久景隼人「千里、いつの間に居たんだ」
久景隼人「会社に入って来るなと、言っただろう。他の社員の、迷惑になる」
久景千里「あら、昔からここは私たちの遊び場だったじゃない」
久景千里「それに、この会社の人は皆が優しいから誰も文句は言わないわ」
久景隼人「そうは、言ってもな。そろそろ、分別を弁えたらどうだ」
久景千里「あら、最初に会社に入れてくれたのはお父さんだったはずだけど」
久景隼人「確かに、そうだが・・・・・・」
久景隼人「最近、あの小僧とも会っていないな。元気に、しているのか」
久景千里「聖君のこと? 元気に、しているわよ」
久景隼人「ふ、そうか。千里が小さい時、忙しい私に代わって遊んでくれたのは彼だ」
久景隼人「私なりに、感謝している」
久景千里「それなら、本人に言いなさいよ。私に言っても、伝えてあげないわよ」
久景隼人「そうだな」
〇大企業のオフィスビル
イコライザーは、先端技術企業であり、革新的な研究開発と社会的な変革を追求する。
その社是は、人間の潜在能力を最大限に引き出し、社会の均衡と調和を促進することだ。
開発した製品は多岐に渡り、ストレス軽減用のヘッドセットや高効能の健康補助食品は世界的な大ヒットをおさめた。
それでも、私の野望は止まらなかった。
子どもが見る夢のような、理想の世界の実現にはまだ至れていないからだ。
もっと、革新的な技術が必要だ。
世界を塗り替えてしまうほどの、革新的な何かが。
〇実験ルーム
きっかけは、唐突に訪れた。
久景隼人「千里、さすがに研究室まで付いてくるのは度が過ぎているぞ」
久景千里「あら、社会科見学みたいなものよ」
久景隼人「まあ、良い。丁度、新製品のテスターを募集しようと思っていたところなんだ」
久景千里「え、お小遣いをくれるの」
久景隼人「いや、それは別に構わないが」
久景千里「冗談よ。それを手伝えば、ここに居てもいいんでしょう」
久景隼人「ああ、それに危険性は無い。脳波を測定してストレス値を導き出す、画期的な製品だ」
久景隼人「これが実用化すれば、労働者やその他大勢のストレスを可視化することが出来る」
久景隼人「人間が受けるストレスは、同じ様に生きていたとしてもそれぞれ違う」
久景隼人「意外にも大半の人間は、この事実に気づいていない。だから、自分と同じことを他人も出来ると思い込むんだ」
久景千里「とにかく、その装置を付けてみれば良いのね。早く、貸してみてよ」
久景隼人「ああ、それじゃあテストを始めよう」
これが、始まりだった。
脳波が、異常な数値を示していた。通常の基準を遥かに超えた、電磁波の量だ。
当然、製品の故障を疑った。だが、他の人間でいくらテストを行っても異常は見当たらない。
それでもテストを繰り返す中で、様々なことが分かってきた。
千里の脳は、特定の周波数や振幅の電波を発信することができる特殊な構造を持っている。
この電波は、現実の出来事を認識している他の人々の脳波に影響を与えることが出来る。
理屈では、そうなる。だがこの現象は、私の理解を超える超常的な要素を含んでいた。
世界を、変革する力。それが、千里の持つ能力の本質だった。
それは同時に、『世界が主観者である人間の作り出した幻である』という事実を突きつけるものだった。
〇組織のアジト
クリストファー・W・ジーク「ランドール、ヘルナンデスの様子はどうだ」
ドロシー・R・ランドール「まだ、意識は戻りません。かなり、危険な状態です」
クリストファー・W・ジーク「そうか。もう少し、早く到着していれば・・・・・・いや、過ぎたことを言っても仕方が無いな」
クリストファー・W・ジーク「それに、ジャクソンがスパイであることに気づけなかったのは私の落ち度だ。すまないことをした」
志田聖「ちょっと、良いか。話したいことが、あるんだ」
クリストファー・W・ジーク「何か、気づいたことでもあるのか」
志田聖「正十郎を狙撃した人物に、心当たりがあるんだ」
ドロシー・R・ランドール「何だと」
ドロシー・R・ランドール「それは、千里が姿を眩ましたのと何か関係があるのか」
志田聖「ああ、暗闇の中で顔が一瞬見えたんだ。あれは確かに、千里の姿だった」
クリストファー・W・ジーク「千里も、スパイだったということか」
志田聖「そんなはずは無い、俺は幼い頃から千里と過ごしてきたんだ。そんな様子は、一つも・・・・・・」
ドロシー・R・ランドール「だが、彼女は黒幕である隼人の娘だ。何かしらの事情を知っていることは、間違いない」
クリストファー・W・ジーク「彼女から直接事情を聞ければ良かったが、この場に居ない以上どうしようも無い」
クリストファー・W・ジーク「状況は、思った以上に切迫しているようだ」
クリストファー・W・ジーク「すぐに動かなければ、手遅れになってしまうかもしれない」
志田聖「なら、どうするつもりなんだ」
クリストファー・W・ジーク「危険だが、イコライザーに潜入する。それしか、無いだろう」
ドロシー・R・ランドール「それ以外に、手掛かりもありませんしね」
クリストファー・W・ジーク「ヘルナンデスも倒れている今、なるべくなら動きたくは無いが・・・・・・」
クリストファー・W・ジーク「聖、私と共に来てくれるかい」
志田聖「お、俺ですか」
クリストファー・W・ジーク「ヘルナンデスを、見殺しにすることは出来ない。ランドールには、ここで治療に専念してもらう」
ドロシー・R・ランドール「了解しました」
クリストファー・W・ジーク「君を連れて行くのは、その能力を買っているからだ」
クリストファー・W・ジーク「戦闘能力が頼りなくても、それ以上の価値がある」
志田聖「俺は、付いていくだけでいいのか」
クリストファー・W・ジーク「いや、自分の身は自分で守ってもらわなければいけない。だから、これを」
志田聖「これは、銃か」
クリストファー・W・ジーク「この銃には、特殊な仕掛けが施されている。まあ、その時になれば分かるさ」
クリストファー・W・ジーク「それでは、作戦会議といこうか。イコライザーに潜入するためには、綿密な計画が必要になる」
クリストファー・W・ジーク「この物語に、終止符を打とうじゃないか」
ここに来て、千里さんの立ち位置、考え、行動理念などが気になってきます。当初は巻き込まれヒロインポジションだった彼女、それ以外の姿がだんだんと露わになってきていますね