【第三話】久景千里(脚本)
〇白
向日葵の様に、眩しい笑顔を向けてくれた。
その慈愛に満ちた心に、何度も救われて。
風に揺れる嫋やかな髪に、心を奪われた。
彼女と、ずっと一緒に居られると信じていた。
それは、彼女が──んでからも変わらなかった。
それは、彼女が──んでからも──
それは──
〇組織のアジト
第三話『久景千里』
久景千里「聖君、どうか目を覚まして」
志田聖「な、何だ」
久景千里「やっと、起きた・・・・・・」
志田聖「ここは、DRAWのアジトか? 確か、俺はさっきまで炎の中に居たはずじゃ」
久景千里「二人が、連れて来てくれたのよ。命がけで、聖君のことを助けてくれたの」
ラナ・D・ヘルナンデス「Mornin! ようやく、お目覚めのようね」
志田聖「作戦は、あれからどうなったんだ」
ドロシー・R・ランドール「失敗と成功が、半々と言ったところね」
ラナ・D・ヘルナンデス「いい獲物が、釣れましたよー」
ドロシー・R・ランドール「面倒事が、増えたとも言えるな」
志田聖「何の、話だ」
明田正十郎「それは、私のことだよ。少年」
志田聖「正十郎・・・・・・どうして、ここに居るんだ」
明田正十郎「そう、かりかりするなよ。僕も、洗脳が解けたばかりで頭が痛いんだ」
志田聖「あんたも、洗脳されていたのか」
ドロシー・R・ランドール「私も、疑ったよ。彼は、異形の存在を認識しているようだったからね」
志田聖「洗脳が解けた理由は、何だ」
ドロシー・R・ランドール「自覚は無いようだが、君の能力だよ。聖」
ドロシー・R・ランドール「我々も想像の範囲でしか無かったが、君は他人の洗脳を解除することが出来る」
志田聖「何で、そんなことが出来るようになったんだ」
ドロシー・R・ランドール「電波への、干渉。それは、唯一イコライザーに対処できる方法でもある」
ドロシー・R・ランドール「我々は、君の様な存在が現れることを確信していた」
ドロシー・R・ランドール「洗脳には、個人差がある。ならば、それに対抗できるほどの能力を持つ人間も出て来るだろうとな」
明田正十郎「成るほど。それで、イコライザーの影響を受けなかった訳か」
ドロシー・R・ランドール「それでは、話の続きをお聞かせ願いましょうか」
明田正十郎「確か、僕の洗脳が軽い理由からだったかな」
明田正十郎「僕には、役割があった。彼にとって使いやすい駒であるためには、多少の理性が必要だったのだろう」
志田聖「彼とは、久景隼人のことですか」
明田正十郎「まさしく。僕も、迂闊だったよ」
明田正十郎「彼の策略に、まんまと利用されたという訳だ」
ドロシー・R・ランドール「具体的に、お聞かせ願えますか」
明田正十郎「彼が、先端技術企業であるイコライザーへの投資を持ち掛けてきたのは数か月前のことだ」
明田正十郎「元々興味も関心も無かったのだが、最近の情勢を見るに段々と無視出来なくなってきてね」
明田正十郎「気づけば! ニューロヴァイパーなら一滴の血を流すことも無く敵を無力化出来るなんて謳い文句に釣られてしまったよ」
ドロシー・R・ランドール「それが、この結果を生んだのですか」
明田正十郎「こんなものでは、無いよ。ニューロヴァイパーの力は」
明田正十郎「人間を、電波の力で洗脳する。それが、私が魅力を感じた部分でもあるのだが」
明田正十郎「彼の求める理想の世界は、もっと別の次元にあったのだよ」
ドロシー・R・ランドール「一体、この先の未来に何が待ち受けていると言うんですか」
明田正十郎「感覚と、記憶の共有! これさえ出来れば、世界中の争いは起こり得ないと彼は主張した」
明田正十郎「想像するだけでは、人は忘れてしまうのだよ。怒りも悲しみも、痛みの歴史も」
明田正十郎「実際、彼の計画は今も進み続けている。私の力では、どうすることも出来ないほどにな」
志田聖「異形が出現し始めたことと、何か関係があるのか」
明田正十郎「ニューロヴァイパーは、とあるサンプルの姿を模倣する。今は、まだ変身過程と言ったところか」
明田正十郎「彼が、唯一絶対の信頼を置いたはずの人間のサンプル。いずれ、全ての人間がそれと同一化する」
明田正十郎「君も、よく知っているはずだ。それは・・・・・・」
ドロシー・R・ランドール「そ・・・・・・狙撃か!?」
突如、正十郎の眉間に風穴が空く。彼が即死したことは、疑いようが無かった。
外で、何者かの靴音が響く。おそらく、狙撃をした犯人であろう。
ドロシー・R・ランドール「ジャクソンが見張りに就いていたはず・・・・・・一体、何があったんだ」
志田聖「とにかく、外に出てみましょう」
〇港の倉庫
ラナ・D・ヘルナンデス「You! しっかり、してください」
ロバート・A・ジャクソン「くそ、迂闊だった・・・・・・まさか、奇襲を受けることになるだなんてな」
ラナ・D・ヘルナンデス「No Problem! 出血は、大したことがありません。気を、確かに持ってください」
ドロシー・R・ランドール「状況は」
ロバート・A・ジャクソン「逃げられたが、まだ追いつけるかもしれない」
ラナ・D・ヘルナンデス「犯人は、あちらの路地の先へ曲がっていきました」
ロバート・A・ジャクソン「悪いが、この脚じゃ俺は動けそうにない」
ラナ・D・ヘルナンデス「私も、ジャクソンの元から離れる訳にはいきません」
ドロシー・R・ランドール「聖、私たちだけで先へ向かうぞ」
志田聖「了解」
〇ビルの裏
路地の突き当り、そこで立ち止まる。何処にも、逃げ道は無い。
しばらくすると、正十郎のことを狙撃した犯人がこちらを振り返った。
顔は陰になって良く分からないが、そのシルエットは細くまるで女性の様だった。
直後、予想だにしない攻撃が俺たちに降りかかる。
志田聖「ニューロヴァイパーか」
その触手は木の枝の様に分かれうねり、様々な方向から身体を貫かんと向かってくる。
何とか、ナイフで捌くのがやっとだった。近づくことすら、出来ない。
ドロシー・R・ランドール「聖! 何とか、隙を窺うんだ」
志田聖「そんなことを言っても、この猛攻の中じゃ・・・・・・」
俺は手持ちのピースを繋げて、何とか攻略法を探ろうとする。
だが、答えは出なかった。闇雲に時間と体力を消費するばかりで、一向に攻略法は見つからない。
頭の中を、絶望感が襲い始める。そんな、時だった。
辺り一帯を、白い光が覆う。太陽を直視したぐらいの、光量だった。
視界が回復するまでには、相当の時間を要した。
目の前に佇む男の存在は感知できたが、その表情までは分からない。
ドロシー・R・ランドール「ボス! どうして、こんな場所に」
志田聖「ボス・・・・・・」
次第に、目が慣れてくる。そのボスと呼ばれた男は、こちらに軽く微笑みかけているように思えた。
クリストファー・W・ジーク「ようやく、こちらに来れたよ。現状、日本に訪れるのはそう簡単なことでは無い」
ドロシー・R・ランドール「お会いできて、光栄です。不甲斐ないところを見せてしまって、申し訳ありません」
クリストファー・W・ジーク「いや、いいんだ。私の方こそ、遅れてしまってすまない」
クリストファー・W・ジーク「取り合えず、作戦会議といこうか。ひとまず、アジトへ戻ろう」
二人は、アジトへ向かって歩き出す。
だが俺はその場に佇んだまま、一歩も動けなかった。
〇白
光の中で影が照らされて、その顔が浮かび上がる。
そんな、はずは無い。
もう一度、しっかり思い出してみろ。
千里先輩が、犯人な訳が無い。それなら、一体誰が・・・・・・。
だけど、結果は変わらなかった。
想像の中の彼女の身体は、歪み弾け捻じれ、形を保てなくなる。
記憶の中にある光景と、重なった。
それで、思い出したんだ。
久景千里が死んだ、あの日のことを。
息もつけないストーリー展開に見入ってしまいました。ストーリー上の謎の分量がまさに絶妙ですね!第一話から興味が絶えないです。
冒頭から効果音とエフェクトの使い方が上手いなと思いながら読み進めました。
展開も緊迫した内容で、狙撃した敵の正体が千里なのが驚きました。
1話が読みやすい長さなのも、テンポが良いですね。