第4話 私の思い(脚本)
〇稽古場
飯坂 新「言われた通りの曲を用意してきたよ」
四宮 夏樹「さっすが、新さん!! 仕事が早いですね!!」
飯坂 新「君が絶対用意しておいてくれって言ったからだろ?」
画面をタップすると私の知っている曲が流れ始めた。
神埼 咲「『sunrise』の新曲?」
四宮 夏樹「そう。 ただし、オフボーカルバージョンな」
神埼 咲「なぜこれを・・・?」
四宮 夏樹「そりゃあ、今から歌うからに決まってるだろ?」
神埼 咲(え・・・?)
神埼 咲「誰が?」
四宮 夏樹「俺と、神埼さん。 で、どっち歌いたい?俺的には逆井拓の方が高音だから、神埼さんには歌いやすいと思うが?」
神埼 咲「まってまって!? どう言うこと!? え、私と四宮君で歌う?今から!?」
四宮 夏樹「よし、決めた! 俺が雪パート歌うから拓パートは任せたよ」
そう言うと、有無を言わずにスマホの再生ボタンを押した。
神埼 咲(ああぁぁ!! 全く私の話、聞いてくれない!! もう前奏が始まってるし・・・)
四宮 夏樹「じゃあ神埼さん頑張ってね?」
彼は私に向かってウィンクをしたが私にはそれが苛立たしい物にしか思えなかった。
四宮 夏樹「すぅ── ♪~」
歌声を聞いて、正直驚いた。
とても正確で繊細な歌い方だったからだ。
神埼 咲(すごい、全然音が外れていない。 それに自然と耳には入ってくる。 とても聴きやすい歌だ)
四宮 夏樹「♪~」
神埼 咲(こんなの聴かされたら・・・ 私もこの気持ちを押さえられない!!)
神埼 咲(歌いたい!!)
四宮 夏樹(さて、ここからは神埼さんの番だ。 無理やり連れてきたものの、歌えるかな?)
四宮 夏樹(!?)
四宮 夏樹(その表情を見るからに安心だな。 今、歌いたいって顔してる)
神埼 咲「♪~」
飯坂 新「!? これは──」
神埼 咲「♪~」
神埼 咲(私は歌が好き!! 誰に、なんと言われようと!!)
「♪~」
飯坂 新(驚いた。 これ程までのレベルとはな。 まだまだ足りない部分はあるが・・・)
飯坂 新(それでも十分だ。 それに、この二人のハーモニー・・・)
飯坂 新(この二人はこれからもっと化けるぞ──)
〇稽古場
神埼 咲「はぁ、はぁ」
神埼 咲(私、歌いきったの?)
パチパチパチパチ
突然の拍手の音に思わず驚いてしまった。
飯坂 新「上出来だ!! 二人とも良かったよ」
四宮 夏樹「俺の言った通りだったでしょ? 神埼さんの歌声は周りを惹き付ける力がある」
神埼 咲「周りを・・・惹き付ける・・・」
四宮 夏樹「実際に俺も歌声に惹き付けられて君を見つけたんだから」
神埼 咲「・・・・・・」
四宮 夏樹「で、神埼さん。 どうする?俺には今の君は歌いたいように見えたけど?」
その時には私の心は決まっていた。
神埼 咲「私、昔から人前に出るのが苦手なの」
四宮 夏樹「・・・・・・」
神埼 咲「でも、今すごく楽しかった。 二人の前で歌うのが恥ずかしいなんてこと忘れちゃうくらい」
神埼 咲「四宮君。 こんな私だけど一緒にユニット組んでくれる?」
神埼 咲「あなたと歌うの、すごく楽しかったから!!」
四宮 夏樹「決まりだな!!」
そして、彼は笑顔で手を差し出してきた。
私も笑顔でそれを握り返した。