白い月の光

ましまる

伯風巴哈(脚本)

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〇テーブル席
美由紀「前から気になっていたんだけど、 アンタって、作曲家に深い関心があるけど」
美由紀「オケの指揮者とか、演奏家とか、 ソッチのほうにも注目してたりするの?」
わたし「当然してますよ、プレイヤーが違えば 音楽の雰囲気もがらりと変わりますから」
わたし「特に、ピアノだとかの独奏楽器は、 演奏家の感性がモロに出ますからね」
美由紀「うん、そうだよねー」
美由紀「ピアノ奏者のお気に入りとか、いるの?」
わたし「そうですね・・・ アリシア・デ・ラローチャには ドハマりした時期がありましたね」
美由紀「出た、スペインピアノ界のラスボス!」
  Alicia de Larrocha de la Calle
  (1923 - 2009)
  20世紀を代表するピアニスト
  スペイン国民楽派(19~20世紀にかけて自民族の音楽文化を強く打ち出した音楽)のピアノ曲演奏の第一人者とされる。
美由紀「アルベニスとかグラナドスといった 近代スペイン曲の演奏っていえば、 この人が真っ先に頭に浮かぶよね」
わたし「しかも、グラナドスの孫弟子でもあり、 グラナドス自身から指導を受けたとか」
  Pantaleón Enrique Joaquín Granados y Campiña(1867 - 1916)
  スペイン国民楽派の旗手の1人。その作品は、ロマン主義的な要素とスペイン音楽のハイブリッドとも言えるテイストが魅力
美由紀「そりゃ、グラナドスの世界観を これでもかと表現できるワケだね」
わたし「はい、あの民族的なリズムやアクセントで 旋律を情感たっぷりと歌い上げるトコは 流石ですよね!」
美由紀「わかるー!」
美由紀「ラローチャって、スペイン曲以外にも、 シューベルトやショパン、バッハでも 評価されているよね?」
わたし「はい、そうですけど、バッハ曲の演奏は ちょっとだけ違和感ありましたね・・・」
美由紀「へっ、どんなトコが?」
わたし「何というか、バロック音楽よりも よりロマンティックというか・・・」
わたし「全体の構成・骨格よりも 旋律を歌い上げることのほうに ウェイトを置いているというか・・・」
美由紀「んー、そういうモンかなー?」
わたし「喩えるとしたら、 バッハの曲って、「厳格な老紳士」感が あるじゃないですか」
美由紀「うん、そんなカッチリ感があるよね」
わたし「でも、ラローチャのバッハ曲演奏って、 そんな厳格な老紳士がネクタイ緩めながら 近寄ってきて・・・」
わたし「キメッキメのポーズをとりながら 甘~く愛を囁いてくる感じがするんですよ」
美由紀「んー、少しだけわかる気が・・・」
わたし「なので、老紳士のキャラブレ感が・・・」
美由紀「でも、それはそれでステキじゃない? ダンディな老紳士が愛を囁いてくれるって」
わたし「あれ、美由紀さん・・・ そういうのに憧れがあるのですか?」
美由紀「ええと・・・うん・・・」
わたし「あー、確かに、 芥川也寸志のこともイケメンって言って 目を輝かせてましたよね」
わたし「美由紀さんの理想のイケオジについて、 詳しく聞かせてもらいたいデスネー」
わたし「理想のシチュエーションについても、 微に入り細に入る説明を、是非っ!」
美由紀「あーうるさい!」
美由紀「そんなこと、話せるかー!」
わたし「えー・・・」

〇テーブル席
美由紀「そうそう、ロマンティックなバッハで 思い出したんだけどさ」
美由紀「昔、「ブラジル風バッハ」という曲に 出くわし、名前のインパクトに圧倒された 記憶があるんだよね」
わたし「あー、ヴィラ=ロボスの作品ですね。 あれ、全9曲の連作で、 それぞれテイストが異なり面白いですよ」
  Heitor Villa-Lobos(1887 - 1959)
  
  20世紀を代表するブラジルの作曲家。
  クラシック音楽の技法にブラジル独自の民俗音楽をふんだんに取り入れ、「ラテンクラシック最大の作曲家」と評されている。
わたし「ピアノソロ演奏曲でしたら、 おそらく第4番でしょうね」
美由紀「って言い方をしているってコトは、 楽曲によって編成が違うの?」
わたし「はい、第1番は、チェロ8台編成で、」
わたし「最も有名な第5番は、チェロ8台に ソプラノを加えた編成です」
わたし「第3番はオケ+ピアノの構成、 第4番はピアノ独奏、 ・・・など、まちまちですよ」
美由紀「ちなみに、それらの曲って、 ちゃんと「バッハ」なの?」
わたし「んー、「バッハ」ではありませんね」
わたし「でも、「バッハ風」な要素も一部あります」
美由紀「何ソレ? 言葉遊びか何か?」
わたし「いえ、元々のタイトルがですね、 Bachianas Brasileiras でして、」
わたし「これを直訳すると、 「バッハ風の、ブラジル風の(音楽)」 なんですよ」
わたし「ですので、元々のタイトルからして 「バッハ風」「ブラジル風」の2つの エッセンスが混在する曲ってことです」
美由紀「それって初耳・・・」
美由紀「「ブラジル風バッハ」ってタイトルなら ブラジル人がポリフォニーを駆使して 舞曲様式にしたって思っちゃうよね!」
わたし「はい、私もそのイメージで聴いてみて、 「ブラジル風」の濃さに衝撃を受けました」
わたし「一番ポピュラーな第5番も 冒頭から魅惑的な 「ブラジル風」ヴォカリーズですし」
わたし「比較的人気のある第2番も、 「ブラジル風」にジャズ要素も一部ある 標題音楽という多要素な音楽ですから」
美由紀「だったら、アンタのようなバッハ好きは ちょっと不満が溜まるんじゃないの?」
わたし「いえ、バッハ好きも楽しめる 面白い曲も中には存在していますから」
美由紀「えっ、どんな曲なの?」
わたし「第9番の第2楽章のフーガでして、」
わたし「8分の11拍子のポリフォニーで インディオの躍動感を表現している曲です」
美由紀「うわ、言葉ではイメージが一切・・・」
わたし「しかも、元々は無伴奏合唱曲として 書き下ろされた曲なのですが、 演奏会でなかなか見かけないレア曲です」
わたし「弦楽オケでは、たま~に見かけるのですが」
美由紀「しかも難易度もかなり高そうな感じだよね」
わたし「演奏側も聴く側も、何だか大変な感じです」
美由紀「んー・・・」
美由紀「とりあえず、「ブラジル風バッハ」は タイトルも楽曲も濃ゆすぎると いうコトだけは理解できたかな」
わたし「何だか納得いかないですけど・・・」
美由紀「だって、曲名「ブラジル風バッハ」だよ!」
美由紀「あの肖像画の J.S.Bach が アマゾン川を泳ぎ回る絵も思い浮かぶ インパクト大のタイトルだから!」
美由紀「それでいて、曲の中身はブラジル風味が かなり濃厚なんでしょ?」
わたし「はい、その通りです・・・」
美由紀「ま、さっきの話だと、 そもそもの翻訳が悪いってことだよね?」
美由紀「何でそんな翻訳タイトルにしちゃったの!?」
わたし「それについて、何か理由があるのでは? と考えたことあります」
わたし「それで、過去に知人の音楽家に お話を伺ったことがあるのですが・・・」

〇ホール
音楽家センセイ「「ブラジル風バッハ」の翻訳の意図ねぇ」
音楽家センセイ「可能性としては、ヴィラ=ロボスは J.S.Bach をかなり敬愛していたから、」
音楽家センセイ「それを汲んで、タイトルも バッハに重心がかかるようにしたのかもね」
わたし「確かにそうですが、実際の曲の内容は かなりブラジル寄りですけどね・・・」
音楽家センセイ「それか、単にスパっと言い切ったほうか タイトルとしてイイ感じになるから、か」
音楽家センセイ「「バッハっぽいブラジルっぽい組曲」より 「ブラジル風バッハ」のほうが端的だし」
わたし「・・・まあ、そうですが」
音楽家センセイ「ダラダラ長い言葉はみんなイヤだろう」
音楽家センセイ「「人妻っぽい女性が多数在籍の風俗店」 「人妻風俗店」 どっちが選ばれやすいと思う?」
音楽家センセイ「俺なら断然「人妻風俗店」に行くねっ!」

〇テーブル席
美由紀「もー、アンタの交友関係って・・・」
わたし「で、理由はわからないままですけど 内容が伝わりにくいという現実はあるので」
わたし「最近は、日本でのタイトル表記が 変更されつつありますね」
美由紀「えっ、どんな風に翻訳されてるの?」
わたし「「バシアーナス・ブラジレイラス」 ・・・ポルトガル語のまんまです」
美由紀「・・・余計に内容がわかりにくい」
わたし「正式名称とか、そのまんまの表記って、 かえって伝わりづらくなりますよね」
わたし「「風俗店」を「性風俗関連特殊営業店」 って言うようなものですから」
美由紀「イイ加減、風俗ネタから離れろー!!」

次のエピソード:戯れの協奏曲

コメント

  • 今回はブラジルのお話だったので興味深かったです!
    『ブラジル風バッハ』という表現に、思わず和風ハンバーグみたいな料理名を連想してしまいました😂
    さすがに、今回は下ネタないだろうなと思ったら最後の最後で、風俗を例えとした表現が出てくるとは思いませんでしたけど何となく分かりやすかったですw
    偉大な作曲家も色々と大変ですねw

  • 今回も、興味深い内容でした!ブラジル風バッハはメチャクチャ気になるので、後で音源を探します。
    リオでカーニバルなサンバを踊るサッカーが得意なバッハを思い浮かべるのは私だけ?
    専門的な流れから枯れオジの話になるかと思っていたら、ちゃんと人妻で〆る辺りが最&高です。

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