ステージで歌う

タヌキ山

第2話 ほんの少しの後悔(脚本)

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タヌキ山

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〇音楽室
  ガラッ
  突如開いた扉の音に驚き、歌うことを辞めた。
  そして開いた扉から見慣れない男の子が入ってきた。
神埼 咲(ど、どうしよう!? もしかして歌ってるの聴かれた!?)
  そっと旧音楽室に入ってきた彼の顔を盗み見るが、その表情はどこか嬉しそうだった。
神埼 咲(とにかくここから逃げよう!! 私が歌ってたことなんて彼は気にしないだろう)
  私は知らないふりをして、近くの扉に向かって足早に歩き始めた。
四宮 夏樹「待って」
  彼は私の右手首を掴んだ。
  怖くなり、私は手を振り払おうとしたがそれは叶わなかった。
神埼 咲「あ、あの・・・」
四宮 夏樹「俺と一緒にユニット組まないか?」
  突然の言葉に私は動きを止めた。
四宮 夏樹「正確に言うならアイドルユニット。 俺と組んでみないか?」
  この人は今、何と言った?
  アイドル?ユニット?
  何かの冗談だろうか?
神埼 咲(ええぇぇ──!! ア、アイドル!? 私が!?)

〇綺麗なリビング
静かな男の子「咲には無理じゃないかな・・・?」
静かな男の子「向いてないよ・・・」

〇音楽室
神埼 咲(そうよね、無理に決まってる。 私には向いてないもの)
  早くここから去ろう。
  そして、いつもの日常に戻ろう。
  私は意を決して、大きな声をあげた。
神埼 咲「ああぁぁ!!」
  突然の声に驚いたのか、私の手首を掴んでいる手の力が弱まった。
神埼 咲(今だ!!)
  彼の手を勢いよく振り払い、私は扉に向かって一目散に走った。
  旧音楽室から飛び出すと、そのまま下駄箱まで全力で走った。

〇音楽室
四宮 夏樹「逃げられた」
四宮 夏樹「まあ、この学校のやつだし探してみるか」

〇女の子の部屋
神埼 咲「はぁ・・・」
神埼 咲(今日は疲れた一日だった)
  突然アイドルユニットを組もうなんて、無理に決まってる。
神埼 咲(きっと私をからかったに決まってる!!)
神埼 咲(そうじゃないと説明がつかないもの。 こんな私なんかとアイドルなんて・・・)
神埼 咲(ああ、もう、やめやめ!! 今日のことは忘れる、それが一番よ!!)
  ベッドから立ち上がり、机の上に置いてある父と母の写真を手に取った。
  お父さん、お母さん・・・
神埼 咲「おやすみなさい、明日も私のことを見守っててね」

〇綺麗なリビング
母「咲ちゃんは、お歌が上手ね」
父「さすが俺と母さんの娘だな! 将来は、アイドルにでもなるか?」
神埼 咲「本当!? 咲、テレビのお姉ちゃん達みたいになれるかな?」
父「もちろんだ! お前がなりたいと強く思うなら絶対になれるさ!」
母「お母さん達、貴方の晴れ舞台楽しみにしてるわね」

〇綺麗なリビング
長里 篠「咲ちゃん、車に乗って! 兄さん達が──」

〇黒
「事故にあったらしいの──」

〇女の子の部屋
神埼 咲「お父さん!お母さん!」
神埼 咲(また小さい時の夢・・・)
神埼 咲「会いたいな──」

〇教室
斉藤 叶「咲、一日元気なかったけどどうしたの?」
神埼 咲「え? そんなことないよ、いつも通りよ?」
斉藤 叶「そ、そう? 何かあったらすぐに相談してね?」
神埼 咲「ありがとう。 でも、本当に大丈夫だから」
  ガラッ
四宮 夏樹「やっと見つけた」
  聞いたことがある声に、顔を上げると昨日の男の子がいた。
四宮 夏樹「そんな怯えた顔しなくても大丈夫だよ。 少し話がしたいだけだから」
斉藤 叶「咲、四宮君と知り合いだったの?」
神埼 咲「四宮君・・・?」
斉藤 叶「彼の名前だよ。 ほら、二組の──」
四宮 夏樹「そう言えば自己紹介してなかったね。 一年二組の四宮夏樹だ。 よろしくね?」
神埼 咲「よ、よろしくお願いします」
四宮 夏樹「さっそくだけど、着いてきて欲しい場所があるんだ」
  四宮君は机に置いてあったカバンを取り、教室の外へ歩き出した。
四宮 夏樹「着いてきてくれるよね?神埼さん」
神埼 咲「・・・・・・」
斉藤 叶「咲のカバン持って行っちゃった・・・」
神埼 咲「気は進まないけど行ってくるね」
斉藤 叶「咲ぅぅ」
神埼 咲「大丈夫だから。 叶は部活に行って? 大会も近いんでしょ?」
斉藤 叶「で、でも・・・」
四宮 夏樹「準備できた? そろそろいいかな?」
  教室の扉から四宮君が顔を覗かせた。
神埼 咲(これ以上待たせるわけにもいかないよね)
  渋々と私も教室から出た。

次のエピソード:第3話 ようこそ、オレンジ芸能プロダクションへ

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