第10話 それぞれの家族(脚本)
〇古生物の研究室(3Dプリンタあり)
斎川理央「こんにちはー、あれからひと月経ちますけど、進捗どうですか?」
小鳥遊遥「・・・・・・」
斎川理央「博士―?」
小鳥遊は斎川の明るい声に一切の反応を見せなかった。
ゲノムエディタのモニターを睨んで微動だにしない。
生島宗吾「斎川さん、少しそっとしてやってくれ」
斎川理央「かなり煮詰まってるみたいですね」
生島宗吾「いろいろ手は尽くしているようだがな」
斎川理央「実験は博士のマシン調整で足踏みですか。今度は生島さんが、 手持無沙汰になっちゃいましたね」
生島宗吾「そうでもない」
生島宗吾「生き物を飼っている以上、 毎日何かしらの仕事はある」
生島宗吾「エサやり、水質の管理・・・ それに掃除とか」
俺はちょうど手に持っていたゴミ袋を斎川に見せる。
斎川理央「それ、何のゴミですか」
生島宗吾「キラキラのなりそこないだな」
袋を広げると、そこには大量のマルレラの殻が入っていた。
どれも表面は黒くくすんでいて、
キラキラはしていない。
斎川理央「え、こんなに再生実験してたんですか?」
斎川理央「そんなこと、 生島さんが許可するなんて・・・」
生島宗吾「落ち着け、ここにあるのは殻だけだ」
生島宗吾「問題があるのは、ツノの部分だけだろう? 殻だけ再生して、構造色を確認したのちに全身を再生する計画だ」
斎川理央「殻だけ・・・ そんな器用なことができたんですね」
斎川理央「面倒だから使い捨てで再生する、 って言って生島さんとケンカになりそうなものなのに」
生島宗吾「小鳥遊なりに、 それはダメだと思ったらしい」
斎川理央「プロジェクトとして、 時間がかかるのは問題かもしれませんが、 個人としてはいい傾向ですね」
生島宗吾「俺もそう思う」
生島宗吾「これで、成果が出ればいいが・・・」
そう言いかけたところで、
急に小鳥遊が立ち上がった。
生島宗吾「おい、どうした?」
小鳥遊遥「限界・・・ちょっと寝る」
小鳥遊はもそもそと研究室の隅にある仮眠スペースへと移動する。
生島宗吾「待て、寝るなら一度家に帰れ」
小鳥遊遥「移動コストがもったいない・・・ ここで寝る」
生島宗吾「そう言って何日も泊まりこんでるだろうが。帰ってリフレッシュしてこい」
斎川理央「生島さんの言う通りですよ。 博士、お風呂も入ってないでしょう。 ちょっとにおいますよ」
小鳥遊遥「面倒・・・。 ここのほうが生島サンが掃除してるぶん、 まだキレイで寝心地いい・・・」
生島宗吾「斎川さん、小鳥遊の家は?」
斎川理央「隣町のマンションに一人暮らしですね」
生島宗吾「このズボラが、一週間以上帰ってない家・・・まともな状態じゃなさそうだな」
斎川理央「残念ながら」
生島宗吾「・・・しょうがない」
〇明るいリビング
生島佳奈「ただいまー! お母さん、プリン買ってきたよ」
生島佳奈「お母さん? ・・・あれ」
生島佳奈(リビングに男の人がいる? ・・・って、お父さんか)
生島佳奈「お父さん、今日は早いね! 一緒にプリン食べよ!」
小鳥遊遥「ぷりん・・・?」
生島佳奈「うわあああっ、だ、誰?」
小鳥遊遥「キミ、誰?」
生島佳奈「だだ、誰って!」
生島静枝「佳奈、大騒ぎしてどうしたの」
生島佳奈「お母さん、知らない人がいる!」
生島静枝「その方は小鳥遊遥さんよ」
生島佳奈「タカナシ・・・って、 お父さんが一緒に仕事してる博士さん? どうしてウチにいるの?」
生島静枝「お父さんに頼まれたのよ」
生島静枝「うちでお風呂にいれてごはんを食べさせておいてくれって」
生島佳奈「えー?」
生島静枝「なんでも、研究のしすぎで倒れたらしいわ」
生島静枝「独り暮らしで看病する人がいないんですって」
生島佳奈「お父さんみたいな研究好きが、 他にもいたんだ・・・」
生島佳奈「で、そのお父さんはどこ行ったの?」
生島静枝「小鳥遊さんのマンション。 最低限生ごみの処分だけやって、 着替えを持ってくるって言ってたわ」
生島静枝「夕ご飯までには帰ってくると思うわよ」
生島佳奈「そっか」
小鳥遊遥「・・・・・・」
生島佳奈(お父さんの仕事仲間かあ)
生島佳奈(もっとおじさんかと思ってたのに・・・ 結構かっこいいじゃん)
生島佳奈「こんにちは、生島佳奈、です」
小鳥遊遥「・・・こんにちは、ボクは小鳥遊遥だよ」
生島佳奈「・・・・・・」
小鳥遊遥「・・・・・・」
生島佳奈「・・・あの」
小鳥遊遥「なに?」
生島佳奈「さっきは大声出してごめんなさい」
小鳥遊遥「ボクのほうこそゴメンね。いきなり知らない男が家にいたら、驚くよね」
生島佳奈「うん、すごくびっくりした」
小鳥遊遥「ふふ、ボクも君の声で目が覚めた」
生島佳奈「え、起こしちゃった?」
小鳥遊遥「気にしないで。 ボクがキミの家に上がり込んでるわけだし」
生島佳奈「うーん、それもそっか」
小鳥遊遥「ふふ、生島さんにこんなに元気な娘さんがいたんだね」
生島佳奈「お父さん、 職場で私たちの話はしてないの?」
小鳥遊遥「うーん、 ボクたちはビジネスパートナーだからねえ」
小鳥遊遥「プライベートの話はあんまりしない・・・というか、そんな暇がないかも」
生島佳奈「すごく忙しそうにしてるもんねー」
小鳥遊遥「・・・ゴメンね」
生島佳奈「何が?」
小鳥遊遥「研究のためとはいえ、 ずっとお父さんを借りちゃってるから。 普通はもっと一緒にいたいよね?」
生島佳奈「あはは、いつものことだから、 気にしないで!」
生島佳奈「どうせ、お父さんのことだから『この水槽が安定するまでは目が離せない!』とか言って、勝手に残業してるんでしょ?」
小鳥遊遥「それはまあ・・・そうなんだけど、原因を作ってるのはボクだし。・・・いいの?」
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