Paleorium~古生物水族館の飼育員~

芝原三恵子

第11話 ボクの女神(脚本)

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〇古生物の研究室(3Dプリンタあり)
斎川理央「生島さん、おはようございます」
生島宗吾「斎川さんか。 二日続けて水族館に来るなんて、珍しいな」
斎川理央「博士の様子が心配でしたからね」
斎川理央「リフレッシュはちゃんとできましたか?」
生島宗吾「それがな・・・」
  俺は詳しい説明はせずに、
  研究室の奥を指した。
  そこには昨日と全く同じポーズでゲノムエディタに向き合う小鳥遊の姿がある。
斎川理央「昨日よりこざっぱりはしてますけど・・・ 根を詰めているのは一緒みたいですね」
生島宗吾「問題は解決してないからな」
斎川理央「もう一か月ですか・・・」
生島宗吾「堺さんからつけられた条件は、1年の間に5種を飼育して水族館をオープンする、だったか」
斎川理央「飼育だけならともかく、水族館のオープン準備を考えると、これ以上時間をかけるのはまずいでしょうね」
生島宗吾「マルレラにこだわらなければ、5種の条件をクリアするのは難しくないと思うが」
小鳥遊遥「問題が解決するまで、 マルレラ以外再生しないよ」
生島宗吾「聞いてたのか」
小鳥遊遥「狭い研究室で、内緒話も何もないでしょ」
斎川理央「博士・・・お言葉ですが、新しい研究には、どうしても解決できない問題が存在することもあります」
斎川理央「今回の一件だけ諦めて、次の課題に取り 組むという選択もあると思いますよ」
小鳥遊遥「ダメ」
斎川理央「博士・・・」
小鳥遊遥「無茶でもなんでも、 ひろこサンのオーダーだけは叶える」
斎川理央「・・・・・・」
生島宗吾「前から疑問に思っていたんだが、あんたはどうして堺さんにこだわるんだ?」
生島宗吾「出資者という立場を抜きにしても、 こだわりすぎだろう」
小鳥遊遥「ひろこサンはボクの女神なんだ」
生島宗吾「・・・女神?」
  言葉の意味がわからなくて、
  俺はオウム返しに答えるしかなかった。
  あれが、女神? 確かに人間の枠に収まらないオーラは持っていたが。
小鳥遊遥「海外の教育制度を利用して、 18歳で博士号を取った、って言ったよね」
生島宗吾「あ、ああ・・・」
小鳥遊遥「異例の若さで学校を卒業したあと、 ボクはどうなったと思う?」
生島宗吾「どうなった、って。 研究者になったんじゃないのか?」
小鳥遊遥「ハズレ! ボクは無職になったんだ」
生島宗吾「嘘だろ、こんな天才が」
斎川理央「残念ながら事実です。博士号取得後一年間、博士は定職についていませんでした」
小鳥遊遥「分野にもよるけど、早期学習制度でキャリアを積んだ天才の就職率って、実は結構低いんだよ」
小鳥遊遥「いやー天才すぎるのも、考えものだね」
生島宗吾「よくわからないな。 才能があるのは確かなのに」
小鳥遊遥「でも、子供だ」
小鳥遊遥「生島さん、想像してみて? 自分よりずっと頭のいい子供が、部下にしてくれってやってきたところを。扱いにくくない?」
生島宗吾「否定は、しないな」
  小鳥遊が水族館へ面接に来たところを想像する。
  トリトングループの支配人なら、
  即不採用とするだろう。
小鳥遊遥「大学に残るのも難しいんだよね。 講師とか教授になろうとしても、 生徒より年下になっちゃうから」
小鳥遊遥「結局、社会の枠組みに組み込まれるには、枠の中で育つことが必要なんだよ」
小鳥遊遥「ボクがボクであるために必要だったキャリアが、ボクを殺す。 一年前のボクは、八方ふさがりだった」
生島宗吾「それを拾い上げたのが堺さんだった?」
斎川理央「はい。堺様は若者、とりわけ、社会の枠に入りきらず才能を発揮できず苦しんでいる方を援助する活動を行っています」
小鳥遊遥「企業には入れない、大学にも残れない、 そんなボクに、手を差し伸べてくれたのは彼女だけだったんだ」
小鳥遊遥「誰からも必要とされなかったボクに、 唯一期待してくれた人だ」
小鳥遊遥「ひろこサンにだけは、失望されたくない」
  そこまで言うと、
  小鳥遊はゲノムエディタに向き直った。
  言いたいことは言った、
  ということだろう。
斎川理央「その気持ちは立派なんですけどね・・・ 現実問題というものもありますから」
生島宗吾「わかった、好きにしろ」
斎川理央「生島さん?」
生島宗吾「これだけは譲れない、 という一線があるのはわかる」
生島宗吾「お前にとって、堺さんがそれだというのなら、俺が折れよう」
小鳥遊遥「・・・そう」
生島宗吾「ただし、志とヘルスケアは別問題だ。 睡眠をとって、身ぎれいにすること」
  言いながら、俺は自分のバッグからランチバッグを取り出して、小鳥遊の目の前に置く。
生島宗吾「それから、一日一食は、 まともな栄養バランスの食事をとること」
小鳥遊遥「え? 生島サン、このお弁当ナニ? 奥さんの手作り? 生島サンのお昼ごはんじゃないの」
生島宗吾「お前の昼食だ。あんたの生活を見かねた妻が、俺の弁当と一緒に作った」
小鳥遊遥「うわあ! すごい、嬉しい!」
小鳥遊遥「生島サンの奥さん最高! 女神だ!」

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コメント

  • 今回は「そういうオチかーい!」って素で出ちゃいましたw

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