Paleorium~古生物水族館の飼育員~

芝原三恵子

第9話 ボクの在り方(脚本)

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〇古生物の研究室(3Dプリンタあり)
斎川理央「復元図ではキラキラしていたマルレラの ツノが、くすんでいますね」
堺ひろこ「全然派手じゃないわね。どういうこと?」
生島宗吾「確かステータスはイエロー、再生はできるが問題ありと分類されていたな」
小鳥遊遥「そのツノが、理由だよ」
  はあ、と小鳥遊は大きく息を吐いた。
小鳥遊遥「マルレラのツノがキラキラしているのは、素材が虹色だからじゃない。 『そういう形』をしているからなんだ」
斎川理央「形の問題なんですか?」
小鳥遊遥「うん。構造色ってわかるかな?」
堺ひろこ「なあに、それ」
斎川理央「うーん、ちょっとわかりません」
小鳥遊遥「透明な素材しか使ってないはずのCDとかDVDの表面が虹色に光るのと、 同じ原理なんだけど」
生島宗吾「それなら聞いたことがあるな。 情報を記録するための細かい凹凸に光が反射して、七色に見えるんじゃなかったか」
小鳥遊遥「そう、それ!」
斎川理央「素材によらない、形によって作り出される色だから『構造色』なんですね」
小鳥遊遥「実は自然界には、 そういう構造色を持つ生き物は多いんだ。 クジャクの羽なんかが有名かな」
堺ひろこ「そういえば、クジャクの羽の扇子を持ってたけど、表面の毛先が乱れたら、 とたんにキラキラしなくなったわね」
堺ひろこ「そういうことなのかしら」
生島宗吾「構造色が再現できていない、ということはつまり、形に問題がある?」
小鳥遊遥「生体3Dプリンタの精度の限界だねー。 硬い組織は微妙な凹凸が再現しきれなくて、結局くすんだ色になっちゃってるんだ」
堺ひろこ「ふうん、原因がわかっていて、何をすれば解決できるか、ある程度わかってるのね」
堺ひろこ「・・・じゃあ、引き続きマルレラの再現実験をしてちょうだい」
斎川理央「えっ」
  研究は、原因がわかれば何でも解決できるわけじゃない。
  あまりに乱暴な物言いに、
  俺は思わず一歩前に出た。
生島宗吾「堺さん、さっきの無茶な行動といい、 この指示といい、なにを考えて・・・」
小鳥遊遥「生島サン、待って」
  小鳥遊に服を引っ張られて、
  俺は立ち止まった。
生島宗吾「しかし」
小鳥遊遥「いいから」
  小鳥遊がこうも強く主張するのは珍しい。俺はおとなしく、一歩さがる。
堺ひろこ「はるか、マルレラを再生しなさい」
堺ひろこ「古生物水族館にお客を呼ぶためには必要だわ」
斎川理央「今のままでも十分、 話題性はあると思いますが・・・」
堺ひろこ「それでやってくるのは、古生物に興味のあるコアなファンだけじゃない」
堺ひろこ「一般の多くの人を集めようと思ったら、 必ず女性客を獲得しなくちゃダメよ」
生島宗吾「・・・・・・」
  俺は唇を噛んで反論を飲み込む。
  小鳥遊が堺の言葉を受け入れているからだ。
堺ひろこ「なにもタダでやれとは言ってないわ」
堺ひろこ「生体3Dプリンタの精度を上げるために必要な機材があれば、自由に発注していいわよ。時間もそれなりにかけていい」
小鳥遊遥「・・・・・・」
堺ひろこ「・・・できるわよね?」
  真っ赤な口紅を引いた唇を三日月のように曲げて、堺はにっこりと笑った。
小鳥遊遥「・・・はい」
  小鳥遊はゆっくりうなずく。
堺ひろこ「ふふ、いいお返事」
堺ひろこ「じゃあ、これで私は失礼するわ。 吉報を待ってるわね。斎川、先に出るわよ」
  スポンサーという名の女王様は、
  来た時と同様に颯爽と立ち去っていった。
  彼女の後姿を見送ってから、
  俺たちは大きくため息をつく。

〇古生物の研究室(3Dプリンタあり)
生島宗吾「つ・・・疲れた」
小鳥遊遥「ひろこサン、 相変わらず無茶ぶりがひどいなあー」
生島宗吾「いいのか? 今のは明らかなパワハラだろう」

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