僕の革命的な時間

貴志砂印

読切(脚本)

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〇整頓された部屋
  それは、初めての彼女だった。
  高校の時は、ただの同級生で、顔なじみ程度だった。
  二十歳を過ぎて、偶然街で出会った。
  駅前でギターを弾きながら歌う彼女は、とても一所懸命で、僕は本当は通り過ぎるだけだったのに、いつの間にか足を止めていた。
  僕は、バイトと舞台の稽古の日々で、すっかり疲れていた。
  そんな心を彼女の音楽が救ってくれた・・・・・・今もそう思ってる。
  キッカケは覚えてないが・・・・・・いつの間にか、会話するようになり、よく会うようになり、気付いたら付き合ってた。
  どう接していいか、何が正しいのかまったく分からないが、
  でも、一緒にいることが自分にとって自然で、
  なにも無理はない着飾る必要も背伸びする必要もない時間が好きだった。
  そんな彼女がお風呂から出てくる。
彼女「・・・・・・ふぅ」
彼氏「あー。 お風呂おつかれー。 ・・・・・・食べる?」
彼女「え? 何の話?」
彼氏「これ。 アイス食べる?」
彼女「食べる」
彼氏「ところでさ。 これ・・・・・・なんて呼んでた?」
彼氏「この、2つに割って食べる。凍ってるアイスの名前」
彼女「えっ? チューチューだっけ?チューペットだっけ?」
彼氏「あー。 やっぱ、その辺だよねー」
彼女「え? なんて呼んでたの?」
彼氏「ポッキン」
彼女「ないわー」
彼氏「無くはないでしょ。 はい。 どーぞ」
彼女「うわぁ。 久しぶりのヤツ」
彼氏「風呂上がりで、夏といえば、コレだよな」
彼女「まだ春だけどね」
彼氏「えっ! そうなの!?」
彼女「それに、風呂上がりと言えば、 コーヒー牛乳かと」
彼氏「・・・・・・確かに」
彼氏「じゃ、ポッキンは、お預けでーす」
彼女「それ、却下ですー」
  こんな些細な日常が続く時間。
  お気に入りの映画を観る夜。
  今日あった小さなことを語る夜。
  互いに20代・・・・・・夢を追いかけている途中。
  それでも付き合いはじめ、
  未契約な二人が交わす不確かな未来の約束に、
  どこか不安があるのに口にせず、
  夢に溺れ、愛に埋もれた。
  壁を見ながら眠る夜もあった。
  しょっぱいだけのしょうもない水が目から流れる夜もあった。
  そんな夜も、その体温が安心した。
  どうしようもない体のダルさも、優しさに変わる。
  互いの夢は上手くいってない。・・・・・・行先もわからない道の途中。
  それでも付き合い、
  無表情な天井を見つめ、
  思い出話に花を咲かせる。
  そんな些細な日常が続いていた。
  それから、ある日。

〇玄関内
  一緒にいることが自然で、着飾る必要も、背伸びをする必要もない時間。
  なのに、
  一人より二人でいる方が楽しいなんて僕にとって革命的なことなんだ。
  夢のような浮遊感に身を委ねず、
  不確かな未来が、いつの日か確かな未来になるように・・・・・・。
  確かな未来にするために。
彼女「ただいま―――って。 玄関でどうしたの?」
彼氏「いや、そろそろ帰ってくるかなって」
彼女「ん? どうした?」
彼女「なんか、変な表情して」
彼氏「真面目な話をしたくなった表情」
彼女「・・・・・・」
彼女「・・・・・・そっか」
  僕は、後ろ手に隠した小さな箱を、少しだけ強く握った。
  未来はまだ不確かだけど、
  一歩は踏み出したのかもしれない。
  次は自分の足で革命的なことをしないと。
  おわり。

コメント

  • 何気ない日常が実は革命的にかけがえのない時間なのだと気づく彼氏が素敵ですね。革命的から「的」の文字が取れて、二人の人生に二人の革命を起こす時の到来を予感させるラストが印象的です。

  • どんなカップルもが通る何気なく過ぎる甘い時間、そして愛のエネルギーが積もって出来る必要不可欠な瞬間。淡々とした記述からも、2人の憂いのようなものが伝わりました。

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