ex.4 テオドールとゴンドル族の闇 4【完結】(脚本)
〇簡素な一人部屋
テオドール「はは・・・は・・・」
虚しい──
俺がどんなに尽くしても
姉さんは俺を好きにならないだろうし
姉さんが俺を好きになったとしても
俺はそれを壊《あい》せない
テオドール「う・・・あ・・・ぁ・・・」
テオドール「ごめん・・・ごめん、パウラ・・・」
〇取調室
パウラ(テオ・・・どうして? 私を騙したの・・・?)
兵士「入りなさい」
パウラ「・・・・・・」
パウラ「あの、私どうなるんですか?」
兵士「さっきも言ったが、 命まで取るわけじゃない」
兵士「今の法律では、ゴンドル族は政府の 管轄下で生活してもらわなければならない」
兵士「よって、政府公認の風俗店で 働いてもらうことになる」
パウラ「あ、あの」
パウラ「私、元々風俗店で 働いていたんですが・・・」
兵士「なんだって? ダニエル氏が匿っていたのに?」
パウラ「私、きっと騙されたんです!」
パウラ「〇〇通りの“リヒト”ってお店!」
パウラ「私はパウラです! 支配人に連絡してもらえればわかります!」
兵士「少し、待ちなさい」
兵士「・・・うん? 公認の店に、リヒトという名前はないぞ?」
パウラ(しまった・・・ みんなに迷惑かかるかも・・・!)
兵士「とりあえず、支配人に連絡してみよう」
パウラ(支配人・・・助けてくれるよね!?)
兵士「電話をしてきたが・・・」
兵士「パウラという名前のスタッフは、 店で接客をしているということだが?」
パウラ「そ、そんな・・・!」
パウラ「パウラは私です!」
兵士「はぁ・・・」
兵士「正直に言うと、我々は君が何者だろうが どうでもいいんだよ」
パウラ「え・・・?」
兵士「ダニエル氏がゴンドル族を匿っていた」
兵士「そのゴンドル族を我々が捕えた」
兵士「その事実が必要なんだ」
パウラ(ダニエル氏って、たしかゴンドル族の 差別緩和を訴えていた・・・)
パウラ(お客さんから、聞いたことある・・・)
兵士「とにかく、君が本当にパウラだとしても」
兵士「“リヒト”は非合法店だから、 戻ることはできない」
パウラ「そんな! じゃあ、私はどうしたら・・・!」
兵士「だから、政府公認の店で働いてもらうと 言っただろう」
パウラ「でも、生活の保証や賃金の面は・・・?」
兵士「最低限の衣食住は保証されているし、」
兵士「賃金はこのようになっている」
パウラ「・・・・・・うそ」
パウラ「私がもらってる額より多い・・・」
パウラ「なんで・・・? ゴンドル族は奴隷みたいに扱われても仕方ないんじゃ・・・?」
兵士「その様子だと、」
兵士「支配人は情報開示義務を 怠っているようだな」
パウラ「え・・・」
兵士「何も知らないゴンドル族を騙して そこから搾取する──」
兵士「非合法店ではよく聞く話だ」
兵士「ゴンドル族の扱いは、この20年で 少しずつ変わってきている」
兵士「専門技術の必要な 職業にも就くことができる」
パウラ「専門技術・・・?」
兵士「過去に『ゴンドル族でなければ嫌だ』という者が続出して問題になったことがあってな」
兵士「たとえば、医者や看護師、弁護士、 美容師などだな」
パウラ「そんな・・・」
パウラ「私、捕まったら酷いことされるのかと 思ってました」
兵士「まあ、実際捕まったら風俗行きの人が ほとんどだからな・・・」
パウラ「う・・・うぅ・・・」
パウラ「私、何も知らなかった・・・」
パウラ「知らずに、テオを恨むところだった・・・」
パウラ(テオ・・・あなたは、知っていたの?)
パウラ(これを最初から狙っていたの?)
パウラ(テオ・・・会いたいよ・・・)
〇教会の控室
数年後
リア(今日は、 ついにモデルウェディングの日──)
リア「緊張するなぁ」
リア「そういえば、美容師さん遅いな・・・?」
「きゃあっ!」
リア「だ、大丈夫ですか・・・?」
「イタタタタ・・・」
「遅れてすみません!」
パウラ「本日、新婦様を担当させていただく、 パウラと申します!」
リア(あれ・・・この人・・・?)
リア「違ったらごめんなさい、もしかして、 ゴンドル族の方ですか?」
パウラ「そうです! 新婦様もですよね!」
パウラ「初めての担当が同族の方なんて、 とても嬉しいです!」
パウラ「素敵な披露宴にしましょうね!」
〇教会の控室
パウラ「素敵です、新婦様!」
パウラ「今回の企画の趣旨も聞いてます。 そんな企画に携われて、とても嬉しいです」
リア「ありがとう、こんなに綺麗にしてくれて」
リア「私、実を言うと、結婚は 諦めていたんです」
パウラ「そうですよね・・・。ゴンドル族の 差別緩和は、つい最近のことですから」
リア「でも、お父様やお兄様、叔父様も 頑張ってくれて・・・」
リア「私も一歩、踏み出してみようって 思ったんです」
パウラ(お父様・・・?)
パウラ「あの・・・」
パウラ「差し支えなければ、お父様のお名前、 聞かせていただいてもいいですか?」
〇田舎の病院の廊下
ポポロム「すみません、廊下は走らずに・・・」
パウラ「すみません」
ポポロム(あれ・・・?)
ポポロム(この人、ゴンドル族・・・?)
パウラ「あの、ここの先生ですか?」
ポポロム「はい」
パウラ「テオ・・・テオドールさんは どこにいますか!?」
ポポロム「えっ!?」
ポポロム「あの・・・お知り合いですか?」
パウラ「そうです!」
パウラ「お願いします! テオに会わせてください!!」
〇小さい会議室
ポポロム「マジックミラー越しになりますが・・・」
パウラ(テオ・・・!!)
〇田舎の病院の病室
テオドール「・・・・・・」
テオドール「ふふっ・・・」
〇小さい会議室
パウラ(ああ・・・テオ・・・!)
パウラ(やっと見つけた・・・)
パウラ「うっ・・・うっ・・・」
ポポロム「大丈夫ですか?」
パウラ「はい・・・ 元気な姿を見られて良かったです」
パウラ「先生」
パウラ「パウラは、あなたのおかげで元気で 幸せに暮らしていますと・・・」
パウラ「そう、伝えてください」
パウラ「ありがとうございました」
ポポロム(僕は、どうすべきか・・・)
ポポロム(今、テオさんの心は刺激を 与えると不安定になる・・・)
ポポロム「伝えるべきか、否か・・・」
〇田舎の病院の病室
ポポロム「テオさん・・・」
テオドール「ポポロム先生♪」
テオドール「どうしたの?」
ポポロム「・・・パウラさんという方が 来ました」
テオドール「・・・パウラ?」
ポポロム「栗色の髪をした、ゴンドル族の女性です」
ポポロム「テオさんと知り合いだと」
ポポロム「テオさんのおかげで、元気で幸せに 暮らしていると──」
ポポロム「それだけ言って帰られました」
テオドール「・・・え?」
テオドール「・・・パウラ!?」
テオドール「パウラ!!」
ポポロム「テオさん!!」
〇田舎の病院の廊下
テオドール「パウラ!!」
看護師「テオドールさん!?」
看護師「先生、テオドールさんが・・・!」
ポポロム「すみません、追いかけます!!」
〇田舎の総合病院
テオドール「パウラ!!」
「パウラーーッッ!!!!」
パウラ「テオ・・・」
パウラ「テオ・・・ッ!!」
テオドール「パウラ、無事だったんだね・・・ッ!」
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わしゃ…わしゃ、テオが幸せならそれで十分なんじゃ…(本編からの一気読みでHPの増減を繰り返し、パウラとの再会でHPの復活を果たした人)
テオに必要なのはパウラと思いつつ、テオ自身が罪悪感による幸福回避症を発症させていて、その根幹となる部分の解決方法が他の誰でもないテオ自身という…えぇと、テオが笑顔の世界線はどちらにありますか…?🏃♀️💨
パウラちゃんに救いが有ったので、今夜は枕を高くして寝られそうです😄
テオの今後の不穏さには……逆に期待してしまいますね🤤
パウラさんという存在によりテオくんのキャラクターがより深く描き出されていて、理想的な番外編ですね。パウラさんも本当に魅力的ですし!
自身の歪みを認識しそのまま内包するテオくん、だからこそ可愛らしくもあり危うくもある。本当に目が離せないキャラですね!