ホールセール・マーケット!(脚本)
〇華やかな広場
???「ねーさっちゃん!」
???「将来は何になりたい?」
幼馴染との他愛のない会話
私の答えはいつも同じだ
桜子「お花屋さん!」
綺麗な花に囲まれた、昔からの夢
でも現実は違ってて
就いた仕事は花の仲買人
つまり・・
“花屋にとっての”お花屋さんだった
〇事務所
2021年11月
日本
「なに? まだ確保できていない?」
桜子「いえ! 一応見つけましたが」
桜子「取引価格が・・」
部長「米国産が⒈5メートルで4万円・・」
部長「ふざけるな!!︎」
部長「前年の倍だと!?︎ なぜこんなに高いっ!?︎」
桜子「全然ないんです、今年は妙に少なくて・・」
部長「コトの重大さをわかってるのか!?︎」
部長「モミの木だぞ! ツリーなしでクリスマスは始まらんだろ!」
部長「50本、必ず確保しろ」
部長「予算内でな!!」
桜子「そんな無茶な!?」
部長「客を前に同じ言い訳ができるとでも?」
部長「確保できるまで絶対に帰さんぞ!」
桜子「うぅ」
桜子「輸入モミの木を50本・・」
桜子「あるかなぁ・・」
〇倉庫の搬入口(トラック無し)
卸売市場
卸売業者「アメリカ・オレゴン、カナダ・・」
卸売業者「ないね、入荷予定は例年の5分の1だ」
桜子「5分の1!?」
卸売業者「うん、今年は一段と減ったな」
桜子「・・値上がりしますか?」
卸売業者「あのねぇ、ウチはあくまで卸市場の運営だ」
卸売業者「生産者や輸入商社から花を集め 嬢ちゃんら仲買人がセリで入札し」
卸売業者「小売店やスーパーに売る、そうだろ?」
卸売業者「卸値には様々な要因が絡む」
卸売業者「一介の業者が言える訳ない」
桜子「う、はい」
卸売業者「ま、一般論だがモノが少ないと値は上がる」
卸売業者「悪いが話はここまでだ 俺も忙しいんでね」
桜子「いえ!ありがとうございました!」
桜子「・・やっぱないか」
桜子「でもなんで?」
桜子「なぜ今年はモミの木が少ないの?」
桜子「・・とにかく探さなきゃ!」
〇倉庫の搬入口(トラック無し)
〇駅前ロータリー(駅名無し)
桜子「はい、失礼します〜」
ピッ
桜子「ここもダメ 次は・・」
桜子「ってもう19時!?」
桜子(部長は必ず報告しろって言ってたな)
桜子(セリがあるから明日は4時起き)
桜子(ツリー確保のメドはたたず)
桜子「・・・」
桜子「あーー!」
桜子「何がお花屋さんだ! もうウンザリだ!!」
桜子「こんなの、ただの仲介屋じゃん!!」
桜子「今すぐ辞めてやる!!」
桜子「はぁっ・・はぁっ・・」
「あの〜」
奈々子「大丈夫ですか・・って」
奈々子「あれ?さっちゃん?」
桜子「え・・なっちゃん!?」
奈々子「すごい偶然!今帰り?」
奈々子「ていうかどした?なんか叫んでなかった?」
桜子「なっちゃん・・」
桜子「なっちゃぁん!!」
奈々子「お〜よしよし」
奈々子「ほら、幼馴染に全部話してみな?」
〇川沿いの公園
桜子「・・という訳なの」
奈々子「そっか、大変だったね」
奈々子「・・ふと思ったんだけど」
奈々子「国産じゃダメなの? 日本にはないとか?」
桜子「ううん、そんなコトないよ」
桜子「けど・・」
桜子「品質が全然違うんだ 枝の密度とか」
桜子「輸入品の方がずっと見栄えが良いの」
奈々子「へ〜」
桜子「ツリーの本場はやっぱ欧米だよ」
桜子「有名な産地はデンマークだけど・・ EUの外にはまず出回らない」
桜子「だから日本が輸入するモミの木の 8割超はアメリカ産!」
桜子「今年は全然ないけど・・」
奈々子「あ!わかったかも!」
奈々子「ほら!新型のウイルスのせいで ずっと自粛ムードだったじゃん!」
奈々子「パーティーも開けないし、ツリーもさ」
奈々子「どうせ売れないと踏んで 育てる本数を減らしたんだ!」
奈々子「どう?この名推理!」
桜子「なっちゃん、ありがと」
桜子「でも、その可能性は低いかな」
奈々子「何で?」
桜子「うんとね、花ならできそうだけど」
桜子「モミの『木』だから、大きくなるまで 12、3年かかるんだ」
桜子「だから・・」
奈々子「あ、そっか」
奈々子「今出荷できるツリーは 10年以上前に植えた木なんだ」
奈々子「うーん、最近不況だから 農家さんが貧乏になって」
奈々子「植える本数を減らしたのか とも思ったけど・・」
桜子「うん、仮に今年から少なくしても」
桜子「影響出るのは10年以上先の未来だから」
桜子「最近の事情は関係な・・」
桜子「・・」
奈々子「どしたの?」
桜子「まさか・・」
桜子「モミの木を植えるタイミング・・ 今から10年以上前に起きたこと・・」
桜子「2008年のアメリカ・・そうか!」
奈々子「え?え?」
桜子「なっちゃんありがと!」
桜子「私行くね!」
奈々子「え、うん!元気になってよかった!」
奈々子「・・」
奈々子「ねぇ! 結局モミの木が少ない理由は〜?」
桜子「それは・・」
奈々子「それは?」
桜子「リーマン・ショック!!」
奈々子「なるほど、リーマン・・」
「えええ!?」
〇超高層ビル
2008年9月
アメリカ
史上最大の企業倒産
リーマンブラザーズ破綻
日本円にして64兆円の負債は
連鎖的な金融危機を起こし
北米全土を飲み込んだ
ツリー農家も例外ではない
不況による売上悪化を受け
ある決断をする
モミの木の植える本数を
減らしたのだ
なにせ出荷まで12,3年かかる
将来の利益より
目先の経費を減らすしか
道はなかった──
〇駅前ロータリー(駅名無し)
桜子(アメリカは当てにできない)
桜子(なら狙う国を変える!)
桜子(状況はどこも同じかもしれないけど)
桜子「震源地よりマシなはず!」
桜子「部長!もしもしっ!」
桜子「怒鳴らないで! モミの木がない理由、わかりました!」
桜子「そこで相談ですが──」
「・・」
〇クリスマスツリーのある広場
──1カ月後
12月24日
桜子「なっちゃん!」
奈々子「お、来たね」
奈々子「その様子だと、無事解決?」
桜子「もっちろん!」
桜子「例えば後ろにあるモミの木」
「実はデンマーク産なんだよ」
桜子「私が調達しました!」
奈々子「え、すごい!」
奈々子「・・あれ?たしかEUの外には 出回らないって言ってなかった?」
桜子「ふっふっふ」
桜子「今年は例外でね〜」
桜子「覚えてる? ちょうど1年前」
桜子「EUの加盟国が一つ減ったこと」
奈々子「イギリスのEU離脱!」
桜子「その通り!」
桜子「デンマークはイギリス向けに 輸出しにくくなっててね」
桜子「国ひとつ分 余らせてたみたい」
桜子「おかげで日本でも確保できました!」
奈々子「なるほど〜」
桜子「さ!今日は楽しも!」
桜子「私有休とって・・」
桜子「部長からだ」
桜子「もしもし?」
桜子「え?正月飾りの松が高騰!?」
桜子「助けて欲しい? 明日・・」
桜子「わかりました」
奈々子「・・大変だね」
桜子「あ〜もう!」
「いつか辞めてやるー!」
相場探偵を彷彿とさせる読み切りでした(順番逆)
いやぁ、迷いますね!先に作品読んでも面白いし、コースからこちらに来ても面白いので。
幼なじみの姿を切り替える演出が神でした。
これはすごく……経済に詳しくなりそう!
ローズウッドは絶滅危惧種で規制されたけど、出荷する為に植えるモミの木がリーマンで減らされたりしてたんですねえ。
世界情勢を常に意識する事の大切さを知った気がします。
読者を納得させる知識と説得力をとても感じます。こういった確かな知識に紐づいた説得力のある作品を求められているのだと思います。花の仲卸という仕事で語られる切り口も面白いです😖😖😖