八章(脚本)
〇先住民の村
姫「ん?」
村人「・・・」
姫「その子は如何した?」
村人「もともと体が弱い子でして、時折こうして熱にうなされるのです」
童「・・・だれ?」
村人「動いてはだめ。眠ってなさい」
童「うん・・・」
姫「すまぬ」
村人「・・・?」
村人「なぜ貴女様が謝るのです?」
姫「私がしっかりしないから」
姫「国を司る者達が正しく生きておらぬから、世に禍が蔓延するのだ」
村人「仰っている意味がわかりませぬ」
村人「私達の身にふりかかるものは、全て私達のこと」
村人「誰のせいでもありません」
村人「それが御仏であろうと。ミカドであろうと」
姫「ならば御仏は・・・私は何のために生きているのだ」
村人「左様なこと、人に問うまでもございませぬ」
村人「己自身のためにございましょう」
姫「・・・!」
村人「私も私自身の為にこの子を愛します」
村人「この子も自分の為に生きてゆくでしょう」
村人「それだけです」
姫「そうか・・・」
姫「そうじゃな。ならば・・・」
村人「・・・?」
姫「私自身のために、この子の息災を祈ろう」
姫「念仏は死人だけのものではない」
姫「この子の健やかなるを御仏に願おう」
姫「南無光明遍照・・・南無光明遍照・・・」
村人「ありがとうございます」
竹芝「・・・」
〇けもの道
竹芝「・・・」
姫「これ。何をニヤニヤ笑うておる」
竹芝「言い方」
姫「そんなに機嫌がよいならば、瓢箪の歌でもうたってたもれ」
竹芝「この間、うたって差し上げたではありませんか」
姫「そうなのか?聴いておらなんだ」
竹芝「だと思いました」
姫「所で、もうおぶってもらわずともよいぞ」
竹芝「いつそう言うかと待っておりました」
姫「背負われっぱなしも疲れるのじゃぞ。そなたも一度味わってみるとよい」
竹芝「言い方!」
姫「よっし!元気よく歩こうではないか!」
姫「わっはっはっはっは!」
竹芝「・・・それでいい」
姫「うん?」
竹芝「阿倍内親王殿下」
竹芝「貴女様にしか歩めぬ道を笑って歩かれませ」
竹芝「自分自身のために」
姫「ふん。気楽なことを申すな」
姫「王家とは国のために在るもの」
姫「されど国のためこそ我のため」
姫「我が祈りで一人の童が微笑んだ気がした」
姫「嬉しかった」
姫「ミカドとは、御仏とは、そういうものかと思った」
竹芝「ご立派です」
竹芝「やはりあなたはミカドになられるべきだ」
姫「ならば・・・」
姫「そう思ってくれるなら」
姫「共に歩いてくれぬか」
竹芝「姫・・・」
姫「支えてほしい」
姫「一緒に笑って、泣いて、歩いてほしい」
竹芝「・・・」
姫「私が嫌いか?」
姫「というか、重いか?」
竹芝「私は殿下をかどわかした大罪人です」
竹芝「ミカドが、律令が許すはずがございません」
姫「助ける!」
姫「必ず助けてみせる!これは私のためだ!」
姫「私は、私の幸せのためにお前を助ける!」
竹芝「・・・」
姫「・・・なんて」
竹芝「・・・前を見て下さい」
姫「・・・」
竹芝「私ではなく、前を」
姫「竹芝・・・」
竹芝「私も同じ方を見ます」
姫「え?」
竹芝「同じ道を歩きます」
姫「そなた・・・」
姫「な、なんじゃ?あの悲鳴は!」
竹芝「村の方からです!」
姫「仲麻呂・・・」
姫「仲麻呂じゃ!」
竹芝「早くここを去りましょう!」
姫「・・・」
竹芝「何をしておられます!この後に及んでまだおぶってほしいんですか!」
竹芝「ええい!」
姫「・・・違う」
竹芝「え?」
姫「『前』はそっちではない」
姫「私の『前』は村に戻ることだ!」
竹芝「殿下・・・」
竹芝「・・・」
〇先住民の村
衛士「竹芝!竹芝はいずこじゃ!」
衛士「隠し立てするなら容赦はせぬ!」
仲麻呂「風が・・・強くなってきたな」
仲麻呂「これ以上火をかけられたくなくば、大罪人を差し出すがよい」
仲麻呂「強風(恐怖)を味わわせてやるぞ!」
「・・・」
〇豪華な王宮
称徳帝「同じ方を見ると言ってくれたではないか」
称徳帝「同じ道を征くと言ってくれたではないか」
『おい貴様!何をしておるか!』
『ここを何処と心得る!』
『何卒・・・何卒ミカドにお目通りを』
『ならぬ!ここは平城宮!うぬの如き下賤の立ち入る場所ではない!』
『宮中での施与は終わりだ!用もなく留まるでない!疾く出てゆけ!』
『去れ!百叩きの刑に処されたいか!』
『ミカドに・・・どうかミカドに・・・』
『ええい!去れ、下郎!』
称徳帝「・・・」
称徳帝「何ごとか?」
『みすぼらしき浮浪人が紛れ込んでおりました』
称徳帝「会うてやってもよい」
『何を仰られます!貧民を宮中に招き入れ施しを行うだけでも畏れ多いこと!』
『いつ、御身に害が及ぶやも知れませぬ。これきりになされて下さいませ』
称徳帝「で、あるか」
称徳帝「・・・」
称徳帝「会いたい」
称徳帝「竹芝に・・・会いたい」
続く