嘘は甘く苦く

真弥

エピソード2(脚本)

嘘は甘く苦く

真弥

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嘘は甘く苦く
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〇病院の診察室
藍子(よし! 今日は私から、狛戸先生を誘うんだ)
  翌朝、藍子は診察室の準備をしながら密かに今夜の計画を立てていた。
梨穂「おはようございまーす。 昨日はすみません〜、酔っ払っちゃって、気付いたらホテルのベッドで寝てましたよ〜」
藍子「ほ、ホテル?」
藍子(ま、まさか、狛戸先生と?)
八嶋先生「おはよう。 昨日は狛戸3人で飲みに行ったんだって? ずるいな、俺も誘ってよ」
梨穂「八嶋先生は、例の彼女とお楽しみだったんじゃないんですか?」
八嶋先生「違う、誤解だよ。 彼女とは、なんの関係もないし。ただ酔っ払ってたから狛戸と一緒に介抱しただけだし」
梨穂「怪しいですねぇ。ね、藍子さん」
藍子「え、ま、まぁ」
藍子(そうだ。 狛戸先生には、あの女性とのこともあったんだ。 もしかして、狛戸先生って意外と遊んでたらする?)
八嶋先生「本当に俺は彼女とは何もないし。 なんなら、狛戸の方が彼女といい雰囲気だったんだよ?」
梨穂「えーっ、狛戸先生といい感じなのは私ですよぅ。なんたって昨日はキスまでしちゃったんですから!」
八嶋先生「えっ?キ、キス?」
梨穂「本当ですよ、ね、藍子さん」
藍子「えっ、あ、うん・・・」
藍子(思い出したくないことまで思い出しちゃったじゃない)
八嶋先生「へぇ? 狛戸先生の本命って、梨穂ちゃんだったんだ。キスまでする仲だったなんて知らなかったよ」
梨穂「んふふ。 めっちゃ、濃いキスしちゃいました。狛戸先生照れちゃってたけど、ちゃんと同じの返してくれましたよ」
八嶋先生「へぇ・・・」
梨穂(藍子さんったら、落ち込んでる。まぁ、ホントは昨日あのまま帰ったんだけど、目の前でしたあのキスは結構破壊力あったみたいね)
八嶋先生(狛戸のやつ、なんでかモテるんだよな。でも、これで藍子ちゃんが狛戸を見限れば俺の出番)
八嶋先生「そう言う事なら応援するよ。な、藍子ちゃん」
藍子「えっ、・・・・・・」
梨穂「今夜はどこで先生とデートしようかなぁ❤️」
藍子(梨穂ちゃん、今夜も先生と約束してるんだ)
藍子「私、ちょっと外来の待合の様子見てきますね」
八嶋先生「梨穂ちゃんと狛戸先生の応援するから、俺と藍子ちゃんのことも協力してくれない?」
梨穂「んふふ。 いいですよ」
梨穂(狛戸先生にはもう興味ないんだけど。 もう少しこのまま誤解させておこ。 でも、八嶋先生に藍子さんは落とせないと思うのよね)
  2人は心のうちを見せずに、お互いの目的のためにとりあえず協力することにしたのだった。

〇総合病院
  昼頃、藍子は移送する患者を見送るため玄関前に出てきていた。
  患者さんを見送ったあと、病院の中に入ろうとして見知った人影を見つけて足をとめる。
藍子「お疲れ様です」
狛戸先生「お疲れ様。 患者さんの見送り?」
藍子「はい。先生は?」
狛戸先生「これから飯でも食いに行こうと思ってさ」
藍子「そうですか・・・」
藍子(今朝は狛戸先生を誘うつもりでいたのに。梨穂ちゃんや、昨日の女性のことが気になって言葉が出てこない)
狛戸先生「キミは、お昼はもう食べたの?」
藍子「いえ、これからです」
狛戸先生「じゃあ、奢るから付き合ってくれない?」
藍子「え、で、でも」
藍子(狛戸先生は、梨穂ちゃんとうまくいってるのよね?私を誘うのはどうしてだろう)
狛戸先生「ごめん。 無理にとは言わないよ。ごめんな、引き留めて。じゃあ、また今度」
藍子「ま!待ってください」
藍子(狛戸先生がせっかく誘ってくれたんだもの。私だって先生のことが好き。一緒にいたいし、ちゃんと話したい)
藍子「お昼ご一緒させてください」
狛戸先生「おっけ。 何が食べたい?なんでも奢るよ」
藍子「あ、言いましたね? 高級フレンチでもご馳走してもらおうかな?」
狛戸先生「それはこの短い昼休みじゃあ、無理だろう? そうだな、そっちは週末の夜でもどう?」
藍子「えっ?」
狛戸先生「なんだよ、揶揄ったの? 本気で誘ったのに」
藍子「い、行きます! もう今更、ダメとかはなしですよ?」
  こうして2人は、週末の食事の約束をしてランチにも出かけたのだった。
八嶋先生「な、なんだよ。あれ。 梨穂ちゃんと付き合ってるんじゃなかったのか?まさか、狛戸のやつ二股?」
梨穂「信じられないです。 私とも約束してるくせに・・・」
八嶋先生「梨穂ちゃん・・・。 よしこうなったら2人で邪魔してやろう」
梨穂「そうですね。 八嶋さんは、藍子さんと。私は狛戸さんと・・・ね」
  2人はお互いの利害のために手を組み、週末の計画を練ることにした。

〇レストランの個室
  週末、2人は約束していたフランス料理を食べにレストランにやってきた。
藍子「素敵なお店ですね」
狛戸先生「俺、実はこういうところ慣れてないからうまくエスコートできなくてごめんな」
藍子「そんな事・・・。 先生とこうして2人でいられるだけで嬉しいです」
狛戸先生「あ、俺も。 実は、話したいこともあったんだ」
ウェイター「お料理をお運びしますね」
藍子「美味しそう・・・」
ウェイター「ごゆっくりお寛ぎください」
狛戸先生「よし、せっかくだからいただこう。 ワインは飲めるかな?」
藍子「はい。少しなら。 先生の介抱はちゃんとしますから、どうぞ飲んでくださいね」
狛戸先生「そういえば、そう言う約束だったな。じゃあ、たのんだよ」
  2人は料理に舌鼓を打ちながら他愛のない会話を楽しんだ。
狛戸先生「あのさ、藍子さんって付き合っている人いるの、かな?」
  料理もデザートが届く頃、狛戸先生がそんなことを聞いてきた。
藍子「え、あ、あの・・・」
藍子(どう言うつもりで聞いているんだろう? 先生は梨穂ちゃんと・・・)
狛戸先生「いや、すまない。 こんなこと聞くなんて、キモいよな。忘れてくれ」
藍子「そんな事・・・。そんな事ないです。 付き合ってる人、ですよね?そんな人いません。私、好きな人はいますけど」
狛戸先生「好きな人? そ、そっか・・・。 その人とは、その・・・」
藍子「私の片想いです。 彼には付き合っている人がいるので」
狛戸先生「そうなのか? それは残念だな。 ・・・俺なら君にそんな悲しい顔はさせないのに・・・!あ、今のは忘れてくれ」
藍子「どうして、そんなこと言うんですか?」
狛戸先生「えっ? あ、あの、ごめん。俺なにか傷つけるような事・・・」
藍子「先生は、梨穂さんと・・・・・・。 いえ、なんでもないです。 お料理とても美味しかったです」
狛戸先生「藍子さん? あ、うん。喜んでもらえて嬉しいよ。 また、これからも時々こうして食事に付き合ってくれないか、な?」
藍子(これ以上惨めな思いはしたくない。 でも・・・。先生と会えるこの時間も失いたくない。私は一体どうしたらいいの?)
狛戸先生(俺が誘うのは迷惑なのか? 他に好きな人がいるんだ。誤解されたくないか。でも、彼女とのこんなささやかな時間を失いたくない)
  結局この日2人はお互いの心にしこりを残したまま別れることになってしまった。

〇病院の廊下
  狛戸先生と藍子が一緒に食事に行った翌々日
「ちゃんと来るんですよね、藍子さん」
「あぁ。 狛戸が外来に遅くまで残ってるって話したからな」
  外来の処置室からコソコソと話をする声が漏れ聞こえていた。
藍子(私ったら、狛戸先生がいるって聞いたからって、どうしてわざわざ来たんだろう。 それほど彼女のいる先生に会いたいんだろうか?)
藍子「なんだろう?今の音。 他に人は残っていないみたいだし、もしかして狛戸先生に何かあったのかしら?」
藍子「せ、先生?」
  廊下から、音がした処置室に声をかけるが誰からも返事がない。
藍子「狛戸せん、せい? おられるんですか?」
「やだ💕 狛戸先生ってば、ここ職場ですよぅ」
藍子(今のって、梨穂ちゃんの声?)
「あんっ💕 ダメですよぅ・・・」
藍子(まさか、狛戸先生と梨穂ちゃんが処置室にいるの?梨穂ちゃんのこの声ってまさか・・・)
  恐る恐る処置室に近づいて扉の隙間から中を覗き見ると、そこには梨穂ちゃんの姿が見えた。
梨穂「狛戸先生💕 あんっ、そこばっか責めないで・・・んんっ」
藍子(カーテンに隠れて狛戸先生の姿は見えないけれど、間違いない。梨穂ちゃんは狛戸先生と・・・)
  藍子は2人のやりとりを想像してショックで処置室を飛び出していく。
梨穂「あは💕 すごい。しっかり騙されてくれたみたいですよ」
八嶋先生「傷心の彼女に付け入る隙ができたって事か・・・まぁ、とりあえず感謝するよ。 でも、まぁ、その前に」
梨穂「なんですか、もぉ💕 すっかりその気になったって事ですかぁ?」
八嶋先生「梨穂ちゃんだって、このまま止める気はないんだろう?」
梨穂「くすっ。悪い男ですね。 でも、私のことすごーく気持ち良くさせてくれるなら、最後までシでもいいですけど?」
八嶋先生「ふ。悪いのはどっちなんだか」
梨穂(狛戸先生は全然靡きそうにないのにムカついて、藍子さんを揶揄って満足したけど、八嶋先生が藍子さんに手を出すなら・・・)
梨穂(私の方がイイ女だって、分からせてからでもいいかもね)
  この夜、処置室には遅くまで甘い喘ぎが響いていた。

〇病院の診察室
八嶋先生「今日は落ち着いた1日だったね」
藍子「そうですね。急患もいなかったですし。 珍しく早く帰れそうですね」
八嶋先生「藍子ちゃん」
藍子「なんですか?」
八嶋先生「ちょっと相談があるんだけど、今夜一緒に食事でも摂りながら話せないかな?」
藍子「相談、ですか? それなら今聞きますけど」
八嶋先生「いや、その・・・職場じゃちょっと」
藍子「えっと、2人きりで食事っていうのは・・・」
八嶋先生「狛戸とは行ったのに?」
藍子「それは・・・。 八嶋先生、本当にすみません。 先生とは2人きりで食事には行けません」
八嶋先生「なんでだよっ!」
藍子「きゃっ!」
  八嶋先生にいきなり腕を掴まれて、藍子は抱き寄せられてしまう。
藍子「やめてっ、離してくださいっ」
八嶋先生「話くらい聞いてくれてもいいだろ? 狛戸には梨穂ちゃんがいる。アイツら病院で相引きしてるって噂だぞ」
藍子「それとこれとは別の話ですっ。いいから、離してください」
八嶋先生「藍子ちゃんっ! なんで・・・」
狛戸先生「おいっ、八嶋なにしてる!」
  診察室に飛び込んできたのは狛戸先生だった。藍子を背中に庇い八嶋先生と対峙する。
八嶋先生「な、狛戸、なんでお前が」
狛戸先生「他の診察室にいた看護主任に呼ばれたんだ。お前こそ何してるんだよ」
藍子「狛戸先生・・・」
八嶋先生「お前には関係ない。 俺はもう行くからな」
狛戸先生「全く、職場で何考えてるんだ」
狛戸先生「藍子さん、その・・・大丈夫?」
藍子「大丈夫・・・です。 ありがとうございます」
藍子(助けに来てくれたことは、素直に嬉しい。でも、先生だってこの前梨穂ちゃんと・・・)
藍子「・・・先生だって、この間処置室で。 人のこと言えませんよ」
狛戸先生「え?なに? 処置室ってなんのこと?」
藍子(どうして嘘をつくんだろう。 別に梨穂ちゃんと付き合ってるんだから、誤魔化す必要なんてないのに)
篠宮主任「狛戸先生、わざわざ来てくださってありがとうございました」
  話は突然入ってきた篠宮主任によって中断してしまった。

〇病院の入口
  仕事を終えて帰ろうと病院を出ると、狛戸先生が誰かを待っている様子で辺りを見回していた。
藍子「・・・お疲れ様です」
狛戸先生「藍子さん。 ちょっと時間あるかな?」
藍子(私に用があるの? どうしてこんなふうに心をかき乱してくるんだろう。先生には梨穂ちゃんが・・・)
狛戸先生「ほんの少しの時間でいいんだ。ダメかな?」
藍子(好きな人にそんなふうに言われて、嫌だなんて私には言えない)
藍子「どこで話しますか?」
狛戸先生「ありがとう! そこのカフェでもいいかな?」
藍子「いいですけど。 梨穂ちゃんとは約束はないんですか?」
狛戸先生「どうして、彼女と約束があると思うの?」
藍子「それは・・・。 お付き合いされてるんですよね? だから、その・・・」
狛戸先生「はぁ・・・・・・」
藍子(どうして溜め息なんて・・・)
狛戸先生「とりあえず移動しようか」
  2人はカフェへの道を言葉もなく歩いた。

〇レトロ喫茶
  カフェのテーブルに向かい合って座ったものの、お互い最初の一言を出すことができない。
藍子(どうして狛戸先生は何も言わないんだろう)
狛戸先生(話がしたいのは本当なのに、どうして俺は黙ったままなんだ?これじゃあ藍子さんだって困るってわかってるのに。でも・・・)
  狛戸はここに来る前に、八嶋から聞かされた話を思い出していた。

〇病院の診察室
  あの後、狛戸は八嶋の元を訪れ、夕方の出来事について詰め寄った。
狛戸先生「八嶋、藍子さんを困らせるようなことをするのはやめろよ」
八嶋先生「お前にいわれる筋合いはない。俺は藍子ちゃんの事本気で付き合いたいと思ってる」
狛戸先生「それなら尚更真摯な態度で接するべきだ。あんな無理矢理にすべきじゃない」
八嶋先生「偉そうに。 だいたいお前はどうなんだ。梨穂ちゃんと付き合っていながら、どうして藍子ちゃんのことを気にするんだ?」
狛戸先生「俺は、別に梨穂さんとは付き合っていない」
八嶋先生「キスまでした仲らしいじゃないか。藍子ちゃんだってそれを見てた」
狛戸先生「あれは、事故だ。俺は彼女のことなんてなんとも思ってない」
八嶋先生「は、どうだか」
狛戸先生「とにかく、お前はフラフラするな・・・俺だって藍子さんの事が好きだし付き合いたいと思ってる。でも彼女には好きな奴がいるんだ」
八嶋先生「好きなやつ?」
狛戸先生「本人から聞いた。彼女が思う相手には付き合ってるやつがいるらしい」
八嶋先生「それがなんだよ。手に入れたいなら遠慮なんかしてられねーだろ」
狛戸先生「お前のそのポジティブなところだけは尊敬するよ。俺には・・・」
八嶋先生「別にいいんじゃねーか?俺はお前がぼーっとしてる間に藍子ちゃんを振り向かせるからさ」
狛戸先生「・・・」
狛戸先生(八嶋の話は正論だ。 好きならもっとちゃんと伝えないと。たとえ思いが伝わらなくても、何もせずに諦めるよりずっと吹っ切れる)
  だから、こうして彼女に想いを伝えようと待ち伏せまでしたのだ。

〇レトロ喫茶
狛戸先生「あ、藍子さん。 俺、キミに伝えたいことがある」
藍子「はい。なんですか?」
狛戸先生「キミには好きな人がいることも知ってる。でも、だからどうして欲しいってわけでもない。ただ伝えたかっただけなんだ」
藍子「・・・はぁ」
藍子(どうしたんだろう。いきなり。 と言うか、好きな人って先生のことなのに。この前遠回しすぎて伝わらなかったみたい)
狛戸先生「だから、何が言いたいかと言うと・・・」
狛戸先生(くそ!前置きが長すぎた。言い訳みたいでなんていうか男らしくないし。全く俺ってやつは)
藍子「先生?」
狛戸先生(ほら、藍子さんだって呆れてる。 こうなったら勢いだ!好きだって伝えて、それで終わりにするんだ。彼女に答えを求めたらだめだ)
藍子(なんだか、ひどく言いにくそう。あまり楽しい話じゃなさそうだし・・・私どうすれば?)
狛戸先生「お、俺は君のことが好きなんだ!」
藍子「ええっ?」
藍子(嘘・・・。今、先生なんて言ったの?)
藍子(す、好きって言われた?)
藍子(ま、まさか、だって。 先生は梨穂ちゃんと付き合ってるのよ?狛戸先生に限って二股なんてありえない。 じゃあ、今のは?)
  藍子は突然の告白に混乱して何も言うことができない。それをみた狛戸は小さく息をついて立ち上がった。
狛戸先生「ごめんな? 一方的に俺の気持ちばかり押し付けて。 今の話は忘れてくれていいから」
藍子「えっ!先生?」
  混乱したままの藍子をおいて出ていく狛戸先生を、藍子は呆然と見送った。

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