嘘は甘く苦く

真弥

エピソード3(脚本)

嘘は甘く苦く

真弥

今すぐ読む

嘘は甘く苦く
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇アパレルショップ
  仕事休みの今日、藍子は気分転換に専門時代の友人とショッピングに出かけた。
藍子「久しぶりにたくさん買っちゃった」
佳菜「珍しいよね。藍子が散財するの。 何かあった?」
藍子「うん、まぁ。 色々とね」
佳菜「なになに?聞かせなさいよ。 仕事の愚痴?人間関係? あ!もしかして恋愛?」
藍子「あはは」
藍子(佳菜に聞いてもらったほうがいいのかな?1人で考えたって仕方ないし)
佳菜「もうっ、遠慮してないで。 ちゃんとアドバイスするから」
藍子「じゃあ、お茶しながらにしない?」
佳菜「そうね、小腹も空いたし。 よーし。親友の佳菜さんがしっかり聞いてあげるからねっ」

〇テーブル席
  2人はショッピングモール敷地内のカフェにやってきた。休日ということもあってそれなりに店内は混み合っている。
藍子「軽く何か食べようかな。佳菜はどうする?」
佳菜「私はお腹すいたから、プレートを何か頼もうかな。 すいませーん!」
  料理を頼んで待つ間に、佳菜は話をせかしてきた。
佳菜「なにそれ。付き合っている彼女がいるのに告白してきたって事?」
藍子「う、うん」
佳菜「なに、そのドクター。最低じゃん!」
藍子「で、でもね。本当に優しくて患者思いの良い先生なんだよ」
佳菜「仕事と私生活はきっちり分けてるって事なのかな。それにしても、同僚なら、藍子にだってすぐバレるだろうに、一体何考えてるのか」
ウェイター「お待たせいたしました」
佳菜「怒ったらお腹空いてきた。早速食べよう」
藍子「そうしよ。美味しそうだしね」
  藍子たちはしばらく食事を楽しむことにした。
佳菜「早速食べましょうか。 んーっ、おいしい。このオムライスふわふわ卵だよ」
  ふと、聞き覚えのある声に藍子は後ろを振り返った。
藍子(あれは・・・ 狛戸先生と、梨穂ちゃん?)
  振り返った先には、狛戸先生と、彼の腕にしがみつく梨穂ちゃんの姿があった。
  2人の楽しげな様子に藍子は慌てて顔を背ける。
佳菜「急にどうかしたの?」
藍子「え、えっと」
藍子「今気づいたんだけど、あの窓際の2人、狛戸先生と梨穂ちゃんだ」
佳菜「えっ?どれ? あぁ、あの2人。なんだか、女子の方がべったりって感じだね」
梨穂「あ! あそこにいるの藍子さんじゃないですか?」
狛戸先生「・・・本当だ。 偶然だな」
梨穂「ね、私挨拶してきますね」
狛戸先生「ちょ、おい・・・」
狛戸先生(吹っ切ろうとしてんのに、こんなふうに会ったら、どうしようもない気持ちになる)
梨穂「藍子さん、こんにちは」
藍子「梨穂ちゃん・・・偶然だね」
梨穂「今日お休みだったんで、狛戸先生とデートなんです。藍子さんはお友達とショッピングですか?」
藍子「そうなの。 ・・・・・・せっかくのデートを邪魔したら悪いし、私たちは他に行くところがあるから」
佳菜「そうね。他に見たいものもあるから行こう」
梨穂「えー、もう行っちゃうんですか?」
藍子「じゃあね、狛戸先生にもよろしく伝えてね」
梨穂(あらまぁ。しっかり誤解してくれちゃって。本当は偶然見かけてランチを奢ってもらっていただけなのに)
狛戸先生「藍子さん達行っちゃったのか・・・。 ランチ代出してあげればよかったな」
梨穂「代わりに私にデザート奢ってくださいよー」
狛戸先生「ランチもたくさん食べてたじゃないか。 ・・・・・・俺もそろそろ失礼するよ」
梨穂「えー、もう帰っちゃうんですか? ちぇ。また今度ご飯いきましょうね」
梨穂「狛戸先生も帰っちゃったし、暇だなー。 あ!八嶋先生呼んで映画でもみに行こうかな」

〇駅のホーム
藍子「すっかり遅くなっちゃった。 佳菜は彼氏のお迎えが来て帰ったし、私も早く帰ろう」
  階段から走って降りてきた人影が藍子の近くまできて止まる。
狛戸先生「あ、藍子さん・・・」
藍子「こ、狛戸先生。 こんにちは。偶然ですね。 先生も今お帰りなんですか?」
狛戸先生「あぁ。 駅前の本屋で時間潰してたんだ」
藍子「梨穂ちゃんとは別々に帰られたんですか?」
狛戸先生「梨穂さん? どうして?」
藍子「え、だってお昼間デートされてましたよね。私同じカフェにいて見かけました。 梨穂ちゃんも声をかけてくれて」
狛戸先生「デ、デート? なんで俺が彼女とデートなんて。 梨穂さんとは偶然昼間に会って、ご飯を奢ったというか、奢らされだというか」
藍子「梨穂ちゃんは、ちゃんとデートだって言ってましたよ? 私そんなに口軽くないし、言いふらしたりなんてしませんから」
藍子(だから、嘘なんてつかないで。 私をこれ以上振り回さないでほしい)
狛戸先生「いや、本気で何言ってるのか分からない。 俺、この前キミに気持ちを伝えたよね? 振られたからってすぐ別にいくように見える?」
藍子「えっ? ・・・・・・先生こそ、揶揄うのはやめてください」
狛戸先生「揶揄ってないよ。 どうしてそう思うの。俺は今だって・・・」
藍子「とにかく、誰にも言ったりしませんから」
  藍子は開いた電車の扉を見て、先生に背を向けて電車に乗り込んだ。
狛戸先生「待って!」
  狛戸は思わず手を伸ばし、藍子の腕を掴んで電車から彼女を引き下ろした。
藍子「きゃあっ!」
狛戸先生「うわっ、ごめん! だ、大丈夫?」
  勢いがつきすぎて、藍子は狛戸の胸の中に倒れ込んだ。
藍子「だ、大丈夫ですけど、びっくりしました」
狛戸先生「ごめん。本当にごめん。 ・・・・・・あのまま帰らせたくなかったんだ」
藍子「どうして?」
狛戸先生「どうしてって・・・。 藍子さん、誤解してない? 本当に俺は梨穂さんとは何もない。 俺が気になってるのは、キミだけだよ?」
藍子「嘘・・・。 だって、梨穂ちゃんが先生と付き合ってるって・・・。それに病院の処置室で・・・」
藍子「もう、嘘はたくさんなんです。 これ以上狛戸先生に・・・好きな人に嘘つかれたり騙されたりするのは辛いんです・・・」
狛戸先生「好きな人? ‥って、ちょっと場所を移動しよう。 2人きりでちゃんと話したい」
藍子「狛戸先生・・・」
  藍子は狛戸に手を引かれながら、駅から出ていくその後ろ姿を見ていた。

〇公園のベンチ
  2人は駅近くの公園にやってきて、ベンチに座った。
狛戸先生「こんなところまで連れてきてごめん」
藍子「いえ、 でも話って・・・」
狛戸先生「俺たちさ、お互いに誤解があると思う。キミと話してそんなふうに思えてならないんだ。 だからちゃんと話したい」
藍子(これ以上、傷つきたくないのに。 先生は何を話すつもりなんだろう)
狛戸先生「しつこいのを承知で言うけど。 俺が好きなのは藍子さん、キミだけだよ」
藍子「じゃあ、どうして、梨穂さんと二人で会ったりするんですか?」
狛戸先生「今日のことはさっきも言ったけど、偶然なんだ」
藍子「今日だけじゃありません。 一緒に居酒屋に行った後も、夜の病院の・・・処置室でも」
狛戸先生「居酒屋の後?処置室? 一体なんの話?」
藍子「ほら、そうやってまたとぼけて。 私、嘘つく人ってキライです!」
狛戸先生「本当に知らない。居酒屋の後は彼女をタクシーに乗せて1人で帰らせたし。 夜の病院の、処置室? そんなところで会ってないし」
藍子(え・・・? どういう事なの? 嘘をついているように見えないし)
藍子「先生、私誰の言葉を信じたらいいのか分かりません・・・」
狛戸先生「俺を信じて欲しいと言いたいけど、藍子さんが信じたい人を信じていいよ。 でも、俺はキミへの気持ちに嘘はついてない」
藍子(こんなふうに真剣に伝えてもらって、それでも疑うなんていやだ。 傷ついたとしても、私は私の好きな人を信じたい)
藍子「私、先生に言いたいことがあります」
狛戸先生「う、うん。 なんでも聞くよ」
藍子(そうだ。 私はこの人のこの笑顔に惹かれたんだ。 こんな素敵な笑顔ができる人が、人を騙したりするなんてないよね)
藍子「私、先生のことが、ずっとずっと好きでした。 私と付き合ってもらえませんか?」
狛戸先生「・・・」
藍子「・・・」
狛戸先生「・・・」
藍子(どうして何も言ってくれないんだろう?)
藍子「先生?」
狛戸先生「ちょ、ちょっと待って! 俺、自分にすごく都合のいい白昼夢見てるみたいだ」
藍子「は?」
狛戸先生「いや、だって。 キミが、俺のことを好きだとかありえないだろ? むさくて、愛想なくて、気の利いた事ひとつ出来ないのに」
藍子「不器用だけど、患者さんにも病院スタッフにも優しい先生のことがずっと好きでしたよ?」
狛戸先生「ま、マジか。 いや、これドッキリとかじゃないよな?」
藍子「ドッキリでも、嘘でもないです。 私、そういうのもうウンザリなので。 お返事聞かせてもらえませんか?」
狛戸先生「返事って。 そんなの一択だよ。 俺の方がお願いしたいくらいだ。 藍子さん。俺と付き合ってください!」
藍子「・・・はい。 よろしくお願いします」
狛戸先生「や、やった! あー、やべ。こんなところで叫んだら変質者扱いされるな。 でも、マジで嬉しい!」
藍子「私も嬉しいです。 本当に先生の彼女になれたんですよね?」
狛戸先生「うん!」
藍子「先生の彼女、私1人だけですよね?」
狛戸先生「当たり前だ。 俺が一度に何人もの人と付き合える程器用じゃないのは、キミも分かってると思うけど。 信じて欲しい」
藍子「はい! 私も先生だけです。 先生が私の唯一の恋人です」
  すれ違っていた2人の気持ちがようやく通じ合った。
  こうして2人は正真正銘恋人同士になれた。

〇病院の診察室
篠宮主任「あら、あなた達、ようやくうまくいったのね」
  午後の仕事が一息ついた頃、狛戸と藍子が話をしている時に篠宮主任が現れた。
藍子「えっ?」
狛戸先生「はい! 篠宮主任にはいろいろ相談に乗ってもらっていたんだ」
篠宮主任「狛戸先生の一目惚れらしいわよ。 なんとかしてお近づきになりたいって先生から頼まれていたのよ」
藍子「だから、この前八嶋先生とのことがあった時、狛戸先生を呼んでくれたんですね」
篠宮主任「そういうこと。 でも、ちょっと複雑な雰囲気だったけど、収まるところに収まったみたいでよかったわ」
狛戸先生「ありがとうございます。 篠宮主任には感謝してます」
篠宮主任「仲良くね。 あ!職場であらぬことをしたら減俸だからね? あの2人みたいに」
狛戸先生「あの2人?」
藍子「あの2人って誰のことなんですか?」
篠宮主任「八嶋先生と梨穂ちゃんよ。 いつだったか、夜に処置室に2人の声を聞いた人がいて、院長にこってり絞られたみたいよ」
狛戸先生「あの2人、そういう仲だったのか」
藍子「知りませんでした。でも、あの2人ならお似合いかもしれませんね」
篠宮主任「ま、なんにせよ、若者は仕事も恋も頑張っていきなさいよってこと。じゃあね」
狛戸先生「驚きだったけど、まぁ、似たもの同士で上手くいくのかもな」
藍子「そうですね。 私達もお仕事も恋愛も両立させて楽しみましょう」
狛戸先生「うん。 早速デートの約束がしたいんだけどいいかな?」
藍子「今はお仕事中ですからね。 そのお話は仕事終了後にしましょ」
狛戸先生「俺の彼女はしっかりしてるから、間違っても減俸処分になるようなことにはありそうにないな」
  そう言って、先生は診察室を出ていこうとして、けれど一瞬立ち止まった。
藍子(どうしたんだろう?)
  さっと引き寄せられて、おでこに先生の唇が触れた。
狛戸先生「充電完了。 じゃあ、また後で」
藍子(うーわー。 先生もあんなお茶目なことをするんだ。 恥ずかしいけど、幸せ)
  こうして2人は嘘と騙し合いを乗り越え幸せを掴むことができた。

成分キーワード

ページTOPへ