元騎士の旅物語

にーな

14.目覚め(脚本)

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〇祭祀場
  ザシュ
「・・・・・・・・・・・・!!」
  誰も、動けなかった。
  刃は・・・・・・
湊 月夜「か・・・・・・はっ・・・・・・」
桔梗「お父さん!!!」
セイアッド「・・・・・・・・・・・・」
  セイアッド・・・・・・いや、月冴様を庇った旦那様を貫く。
湊 月夜「・・・・・・月冴・・・・・・」
  第一王子に背を向け、月冴様を抱き締める様に庇った旦那様。
  旦那様は月冴様の頬を撫でた。
湊 月夜「私の・・・・・・私達の・・・・・・愛しい息子・・・・・・」
セイアッド「・・・・・・・・・・・・!!」
湊 月夜「何が・・・・・・あっても・・・・・・」

〇水の中
  ドプン・・・・・・
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  頬を撫でる感覚に、目を開ける。
  其処に居たのは・・・・・・愛しそうに微笑む両親。
湊 月冴「父さん・・・・・・母さん・・・・・・」
湊 月夜「『まだ、そう呼んでくれるか』」
母「『貴方には、辛い事実を押し付けてしまった・・・・・・ごめんなさい・・・・・・』」
湊 月冴「俺は・・・・・・貴方達の本当の息子じゃない」
湊 月夜「『お前は大事な息子だ』」
母「『貴方は大事な息子よ』」
  そっと抱き締められた。
  ああ・・・・・・この人達の息子で良かった・・・・・・
湊 月夜「『私は、私達はお前の味方』」
母「『これから先、どんな決断をしようと』」
「『『愛しい子供には変わらない』』」
湊 月冴「ぁぁ・・・・・・先に待っていて」
  微笑んで二人が離れていく。
  そんな二人の手を、月咲が握り・・・・・・三人はゆっくり姿を消した。
  パリィイン
  同時に、俺を包んでいた結晶が消える。
湊 月冴「・・・・・・セイ」
セイアッド「『・・・・・・月冴・・・・・・』」
湊 月冴「俺の手を取れ・・・・・・俺が、全部終わらせる」
セイアッド「『!・・・・・・いいのか。それだと、お前が・・・・・・』」
湊 月冴「その上で決めた。月咲とも約束したからな」
セイアッド「『・・・・・・ありがとう』」
  俺の手を取ったセイの体が泡になり・・・・・・俺の中に入った。そして、俺達は一つになった。

〇祭祀場
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  最初に目に入ったのは、既に息絶えた父。
  そんな父さんの体をそっと受け止める。
湊 月冴「・・・・・・凛音」
「!」
湊 月冴「お前の本当の望みは何だ?」
  結局伸ばしてやれなかった手。
  其を、今度こそ彼“等”に向けて差し出した。
凛音「『・・・・・・助けて・・・・・・月冴』」
湊 月冴「ああ・・・・・・約束しただろ?」

〇大樹の下
月冴「殿下の身は必ず護ります。だから、安心して助けを求めて下さい」
凛音「ああ、必ずだぞ」
月冴「ええ。必ず助けます」
凛音「約束だ」

〇祭祀場
湊 月冴「今度こそ、約束を果たす」
  俺の手に彼の手が重ねられると同時に、黒い光を放つ。この光が、破壊し・・・・・・再生をもたらす。

〇幻想3
湊 月冴「・・・・・・其処に居たんだな、慎理」
  凛音が人の形を、自我を保てていたのは・・・・・・支配された自分の体から、凛音の誕生石へと移り護っていたからだった。
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  凛音の中のギュネッシの加護を破壊、そして・・・・・・慎理の器として再生。

〇祭祀場
「・・・・・・・・・・・・」
  光が収まれば、呆然と立つ友人達が。
湊 月冴「後は・・・・・・」
  今度は倒れている凛音と螢のきょうだいに光を向ける。異形化した部位を破壊し、人の体として再生した。
  そして・・・・・・動かぬ父を寝かせる。
桔梗「月冴・・・・・・だよね」
  恐る恐る聞いてくる桔梗。
  ああ、今は混ざっているから違和感があるのか。
湊 月冴「ああ、月冴だ」
桔梗「月冴!」
  途端に桔梗は抱き付いてきた。
椿桔「月冴様・・・・・・」
湊 月冴「・・・・・・心配と手間を掛けたな」
  今度は治癒魔法を展開させる。
エリック「《セイアッド・・・・・・様・・・・・・》」
湊 月冴「・・・・・・彼は俺と一つになった」
エリック「《!それ、は・・・・・・貴方が・・・・・・》」
  エリック殿の傷は癒せなかった。
  其はもう彼の命が魔法でも回復出来ない程に・・・・・・
エリック「《・・・・・・貴方は・・・・・・優しい・・・・・・どう、か・・・・・・》」
  閉じられた目は、二度と開く事は無かった。
桔梗「月冴・・・・・・」
湊 月冴「・・・・・・やる事がある。その為にも、一度帰らないと」
「!」

〇西洋風の受付
  大規模な転移魔法を使い、この場の皆を騎士団本部へと運ぶ。
  バタバタバタ・・・
梵 劔「広範囲転移なんて・・・・・・誰・・・・・・が・・・・・・」
  真っ先に駆け付けた叔父さんが、俺達の姿に固まった。
湊 月冴「・・・・・・お久し振りです、叔父さん」
梵 劔「!月冴、なのか?」
湊 月冴「はい。父を・・・・・・頼みます」
  叔父さんは父さんの姿に悲痛の表情を浮かべ、その体を受け取る。
梵 劔「・・・・・・兄者・・・・・・っ」
湊 月冴「其と、彼等の保護を」
梵 劔「!」
  ハッとして俺達の後ろに倒れたまま居る凛音と螢のきょうだい達を保護する様に指示を出した。
湊 月冴「凛音」
帝 凛音「え、ぁ・・・・・・何だ?」
湊 月冴「お前の弟妹達はお前と違って、亜人となってしまった。後遺症は残ってしまうと思う」
帝 凛音「・・・・・・仕方無い事だ・・・・・・」
漣 慎理「・・・・・・月冴、此れからどうするつもりなんだい?」
  慎理が何か悟った様に俺を見詰める。
  ああ、そうか。
  彼は兄上様に体を奪われた身だから、その負担がどれ程なのか知ってるのか。
湊 月冴「やる事は・・・・・・!?」
椿桔「月冴様!」
帷 翡翠「月冴!」
  答えかけて、膝から崩れそうになるのを椿桔と翡翠に支えられた。
  ・・・・・・流石に、目覚めて直ぐに使い過ぎか。
梵 劔「・・・・・・一先ず、隊室で休んでいなさい。麗奈、付き添いを」
梵 麗奈「ええ。他の副隊長も来る様に伝えておいて」
梵 劔「ああ」
梵 麗奈「さ、君達。此方へ」
梵 劔「王族と慎理殿は此方へ」
  叔母さんが俺達に背を向けて歩き出す。
帷 翡翠「椿桔、俺が背負う」
椿桔「・・・・・・分かりました。お願いします」
湊 月冴「!」
  翡翠が俺の前にしゃがんだと思ったら、椿桔が俺を背負わせた。それに思わず驚くが、前後からの圧迫に大人しくする。
漣 慎理「月冴、僕は・・・・・・!」
湊 月冴「慎理・・・・・・凛音。もう大丈夫だから。後は任せてくれ」
「!」
  翡翠が歩き出した事で、二人がどんな顔をしていたのか・・・・・・俺には分からなかった。
帝 凛音「俺は・・・・・・俺が・・・・・・お前の父親を殺したんだぞ・・・・・・?」
梵 劔「!!」
漣 慎理「其を言えば・・・・・・僕が彼等を殺したんだ」

〇シックなリビング
  翡翠によって嘗ての隊室に運ばれると、俺はソファに下ろされる。
  俺の隣に桔梗が座り、向かいに鈴芽と螢が座った。俺の後ろに椿桔、鈴芽の後ろに翡翠が立ち、入口に叔母さんが立っている。
桔梗「月冴、大丈夫?」
湊 月冴「ああ・・・・・・大丈夫だ」
桔梗「セイアッドは・・・・・・月冴と一つになったの?」
湊 月冴「ああ・・・・・・其が約束で、願いだからな」
桔梗「約束」
湊 月冴「月咲との、な」
  俺の言葉に翡翠が俺を凝視した。

〇水の中
  目覚める直前まで、月咲は俺の中に居たんだ
  ・・・・・・そうだったのか・・・・・・今は・・・・・・?
  父さんと母さんと一緒に逝ってしまった

〇シックなリビング
帷 翡翠「・・・・・・そうか」
  伏せられた翡翠の表情は見えないが、一粒の雫が落ちたのを視認する。
  そんな彼に、鈴芽や螢が心配そうに振り返っていた。
  コンコンコン
  部屋がノックされると、叔母さんが扉を開ける。
  其所に居たのは・・・・・・
湊 月冴「真優」
柊 真優「・・・・・・たいちょう・・・・・・」
  唯一残った、真優だった。
湊 月冴「・・・・・・桔梗、少し離れててくれ」
桔梗「・・・・・・うん」
帷 翡翠「俺達、出るか?」
湊 月冴「そうして・・・・・・くれるか?」
帷 翡翠「行くぞ」
  翡翠が鈴芽と螢の肩を叩いて退出する。それに彼女達は続き、椿桔に背を押されて桔梗も共に退出した。
  最後に叔母さんが出て、扉を閉める。
湊 月冴「真優」
柊 真優「・・・・・・・・・・・・」
  俺は立ち上がり・・・・・・彼女に頭を下げた。
柊 真優「!」
湊 月冴「恵哉を帰してあげられなくてすまなかった」
柊 真優「・・・・・・知ってたんですか」
湊 月冴「ああ。俺が騎士を辞める前に。誕生祭で襲撃が起きる前に告白した、と」
柊 真優「・・・・・・私、返事してなかったんです。隊長が・・・・・・戻って・・・・・・来たら、返事聞かせて、くれって・・・・・・っ」
  真優の言葉は詰まりながら、その瞳から涙が零れ落ちる。
柊 真優「私・・・・・・私・・・・・・」
湊 月冴「生きてくれ。恵哉の分も。その為の未来は残していく」
  必ず。其が、俺が殺した彼等へ、最後に出来る事だから。
柊 真優「・・・・・・正直、私はもう・・・・・・」
湊 月冴「構わない。真優は真優の幸せな人生を歩め」
柊 真優「・・・・・・はい・・・・・・あの」
湊 月冴「ん?」
柊 真優「お願いが・・・・・・あります」
湊 月冴「何でも聞く」
柊 真優「鏡隊長が、ずっと支えてくれたんです・・・・・・あの人も、今辛いのに」
  その言葉に顔を上げた。
  セイアッドの記憶で、華絵さんが晴彦殿に気絶させられたのを知っている。
柊 真優「どうか、環隊長を連れ戻してください」
湊 月冴「・・・・・・必ず」
  晴彦殿の行き先は・・・・・・恐らく王の所だろう。
  其所には俺も用がある。
柊 真優「絶対・・・・・・ですからね」
  バタン
  そして、真優は出て行った。
  ・・・・・・もっと罵倒されると思っていた・・・・・・いや、殴られて当然な筈だ。
  其を、彼女は俺が元隊長だから抑えたんだろう。
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  ソファに倒れ込む。
湊 月冴「・・・・・・まだ、泣くな・・・・・・」
  片腕で目元を押さえ、出そうな涙を押さえ付けた。
  泣くな。
  俺にその資格は無い。
  泣く時は・・・・・・
  コンコンコン
「入ってもいいかな」
湊 月冴「・・・・・・はい」
  数秒後、皆が入って来た。
桔梗「月冴・・・・・・」
湊 月冴「大丈夫だ。俺にはまだやる事がある」
椿桔「・・・・・・・・・・・・」
  これ以上、兄上様と王を近付けてはいけない。
  凛音達の鎖を破壊した時に、僅かに感じた元凶の気配。もし、アレが呪いと共に引き継がれているのなら・・・・・・
桔梗「月冴。僕も一緒に行くから」
湊 月冴「!」
  桔梗が俺の手を握る。
湊 月冴「・・・・・・そうだな。手を貸してくれ」
桔梗「うん!」
椿桔「勿論、私も」
湊 月冴「ああ、頼りにしている。翡翠達も、力を貸してくれるか?」
「当然」
  彼等の力強い笑みに、俺も微笑み返した。
梵 麗奈「・・・・・・月冴。君が何をするつもりは分からない。だが、騎士として君を放置する事は出来ない」
湊 月冴「ええ。分かっています」
  叔母さんの言葉に、目を閉じて答える。
湊 月冴「見ていて下さい。此れから先は、騎士団にも知って貰わなければなりません」
梵 麗奈「・・・・・・え?」
  それから一度叔母さんは退室し、代わりに副隊長達が俺達の監視に入った。
  恐らく、今は隊長達と叔母さんで会議をしているのだろう。
  俺は十分に回復したのを確認し、立ち上がる。
森 喜介「つ・・・・・・月冴君」
  そんな俺の前に喜介殿が立ち塞がった。
森 喜介「座っていてくれ。隊長達の指示が出るまで」
湊 月冴「それでは間に合わないかもしれない。兄上様ともう一度対峙する前に確認しないといけません」
森 喜介「・・・・・・・・・・・・っ」
  喜介殿の隣を抜けると、桔梗が俺の手を取って共に歩く。
関 陽音「マジで勘弁して欲しいっす。唯でさえ、うちの隊長も第一王女の件で弱ってるんスから」
皇 螢「!姉上が言っていたのは・・・・・・」
湊 月冴「陽音、迷惑を掛けてしまってすまない。これ以上、誰かが何かを犠牲にする前に行かないといけない」
  スッと椿桔が陽音を退けた。
「月冴君・・・・・・」
湊 月冴「貴方の隊長を、あの人の想い人も連れて来ないと」
「!」
湊 月冴「どうか彼を責めないで欲しい。兄弟喧嘩に巻き込まれてしまっただけなんだ」
  彼の事を言えば、練太郎と愛良がたじろぎ、その隙に鈴芽と螢が通り抜ける。
轟 犀利「・・・・・・・・・・・・」
  最後に、前に立ったのは犀利殿。
  彼は俺を見詰め、俺も見詰め返した。
轟 犀利「・・・・・・止められなさそうだねぇ」
湊 月冴「はい」
轟 犀利「えっとぉ、ひぃ君だっけー?」
帷 翡翠「え?あ、俺?」
轟 犀利「見といてあげてねぇ。何だか直ぐに消えちゃいそう」
  翡翠にそう言うと、犀利殿が退く。
  其に、俺は扉を抜けた。
  ・・・・・・もう、此処に戻る事は無いだろう。

〇おしゃれな廊下
  コツコツコツ
  隠れもせず、堂々と本部の中を進む。
  そんな俺達を、多くの騎士が戸惑った様に見て来た。

〇華やかな裏庭
「月冴!!」
  外に出た所で、上から凛音の声がして足を止める。

〇低層ビルの屋上
  其所にはバルコニーから身を乗り出し、叔父さんに止められている彼が居た。
  その直ぐ側に慎理の姿も見える。

〇華やかな裏庭
湊 月冴「らしくないぞ。そんなに慌てて」

〇低層ビルの屋上
帝 凛音「待て、何処に行くんだ」

〇華やかな裏庭
湊 月冴「・・・・・・お前の父の元に」

〇低層ビルの屋上
  その言葉に凛音だけでなく、叔父さん達も目を瞠った。
帝 凛音「父上の元に・・・・・・?」

〇華やかな裏庭
湊 月冴「ああ。其所に晴彦殿も居る・・・・・・そして、奴も」

〇低層ビルの屋上
帝 凛音「なら、俺も・・・・・・!」

〇華やかな裏庭
湊 月冴「此処に居た方がいい。騎士団なら、きっとお前達を護ってくれるから」

〇低層ビルの屋上
漣 慎理「その為に・・・・・・僕達を此処に・・・・・・」
  俺の見て来た騎士団なら、例え監視目的だとしても王族を護ってくれる筈だから。
鏡 華絵「・・・・・・梵隊長」
梵 劔「!鏡隊長?」
鏡 華絵「私が彼等の監視をします」
梵 劔「だが・・・・・・」
鏡 華絵「お願いします」
  華絵さんが叔父さんに頭を下げる。
  数秒思考し・・・・・・叔父さんが頷いた。
  其に華絵さんの姿が消える。
  恐らく、俺達の所に向かっているんだろう。
帝 凛音(どうして、俺を護ってくれるんだ・・・・・・俺が、お前の父親を・・・・・・)

〇華やかな裏庭
  華絵さんが駆け寄って来るのを確認し、俺は背を向けて歩き出した。

〇低層ビルの屋上
漣 慎理「・・・・・・凛音」
帝 凛音「!」
漣 慎理「僕もいい加減、諦めて手を伸ばそうと思う」
帝 凛音「慎理?」
漣 慎理「月冴!」
  慎理の声に振り返る。
「!?」

〇華やかな裏庭
椿桔「月冴様!」
  と、同時に慎理が俺に向かって飛び降りて来た。突然の事に体勢が取れず、地面に一緒に転がる。
漣 慎理「月冴、ギュネッシは・・・・・・」
湊 月冴「・・・・・・分かってる」
漣 慎理「だから、ケジメを付ける。僕も行く」
湊 月冴「今のお前は、魔術は・・・・・・」
漣 慎理「使えなくてもいい。全力で殴る」
湊 月冴「その細腕で?」
漣 慎理「知らないの?杖で全力で殴られると痛いんだぞ」
帷 翡翠「・・・・・・確かに」
  慎理の言葉に、何故か翡翠が頭を擦りながら呟いた。其に鈴芽を筆頭に皆が目を逸らす。
漣 慎理「彼奴の頭叩かないと」
湊 月冴「・・・・・・珍しく我が儘言ってくれるな」
  珍しい慎理の我が儘を、───の前に聞きたいが・・・・・・
「っ慎理!退け!」
湊 月冴「え」
  慎理が反射的に退くと同時に、飛び降りるのが視界に入った。
  咄嗟に受け止める体勢を取った直後、凛音が落ちて来る。
湊 月冴「ぐっ・・・・・・」
帝 凛音「王族代表として、俺も行く」
湊 月冴「・・・・・・分かったから・・・・・・退いてくれ」
  流石にキツい・・・・・・。
  凛音が退くと、椿桔の手を借りて立ち上がった。
湊 月冴「はぁ・・・・・・下がっていてくれ」
「分かった」
  そして、今度こそ歩き出す。

〇低層ビルの屋上
梵 劔「・・・・・・雲」
柾 雲雀「承知」

〇城の廊下
  正々堂々と、真っ直ぐに謁見の間を目指した。
  俺達の姿に戸惑い、手を出そうとして来る者には凛音と慎理が制する。

〇謁見の間
湊 月冴「失礼する」
王「・・・・・・・・・・・・」
  其所に居たのは、玉座に座る王と俺達の姿に硬直する晴彦殿。
湊 月冴「・・・・・・お久し振りです。陛下」
王「うむ」
湊 月冴「何時、陛下に成り代わった」
「!?」
  俺の言葉に、全員が固まった。
王「成り代わった、とは?」
湊 月冴「俺の目を誤魔化せると思ったか」
王「・・・・・・随分と厄介な者と同一化したな」
  陛下の姿が、凛音によく似た男と重なり・・・・・・やがて、あの男の姿になる。
帝 凛音「父上・・・・・・!?」
環 晴彦「兄・・・・・・上・・・・・・?」
湊 月冴「お前の目的は、俺と兄上様の力か」
かつての王「ああ。この世界に神は要らない・・・・・・いや、我が血族こそ神になるべきだ」
湊 月冴「皆、構えろ」
  俺の言葉に、皆が構えた。
湊 月冴「兄上様は今、自分の遺跡に居るのだろう・・・・・・」
湊 月冴「今の兄上様は俺とセイアッド、そしてお前の判別が出来ない程に弱っている」
かつての王「ああ。今のアレなら、私でも狩れよう」
湊 月冴「そうして、虎視眈々と長い時を呪いに紛れて狙っていたのか」
かつての王「・・・・・・さぁ、我が血族よ」
環 晴彦「!!」
  晴彦殿の体を、鎖が張り巡る。
  正体を現した事で、呪いも可視化したか。
かつての王「・・・・・・む?」
湊 月冴「凛音の・・・・・・陛下の子供に当たる者達の鎖は破壊済みだ。今、晴彦殿の鎖も壊す」
環 晴彦「月冴・・・・・・君・・・・・・」
かつての王「・・・・・・本当に厄介だ。闇の化身が作り、我が目的を察知し逃げた娘と男が愛した人格」
かつての王「其が、闇の化身の力を得た・・・・・・子が器となる所までは我が策略通りだったと言うのに」
  忌々しげに俺を見る男。
  この男から全て始まった。
  ジャリッ・・・・・・
環 晴彦「くっ」
  鎖が晴彦殿の体を動かす。
鏡 華絵「ハル様!」
環 晴彦「な、逃げ・・・・・・」
  そんな彼の前に華絵さんが立ち、晴彦殿の剣が向けられた。
湊 月冴「しっかりしろ!!お前は騎士の晴彦だろ!!」
環 晴彦「っ!」
  彼に怒鳴った直後、剣が直前で止まる。
湊 月冴「愛しい者の為に世界を残したいなら、その愛しい者を自分で傷付けるな!」
環 晴彦「わた、しは・・・・・・」
かつての王「そう言う事か。確かに、お前はその力をその身と同一させたのだろう。だが、完璧では無さそうだな」
湊 月冴「・・・・・・だから、何だ。その人を泣かせていいのか、晴彦!」
  人の身である以上、この力を完璧には使えない。だから、今のままでは鎖を完全に破壊出来ない。
  凛音の様に俺に手を伸ばしてくれれば、その弟妹の様にいっそ意識がなければ・・・・・・
  後は、彼自身が諦めず抗ってくれれば・・・・・・!
桔梗「・・・・・・僕、貴方を助けたい!」
「!」
桔梗「僕を月冴に預けてくれた!僕の背中を押してくれた!其は、貴方がしてくれた事だから!」
  桔梗が声を上げた。
帷 翡翠「俺だって、諦めるたくなる気持ちは分かるぜ。けど、結局抗ったら・・・・・・こうして、大切な者の側で護れる様になった」
帷 翡翠「だから、あんたも少しは騎士根性見せてみろ!」
空 鈴芽「貴方にだって・・・・・・帰りを待つ人が、居るんでしょう?」
  翡翠、鈴芽が同じ様に声を上げる。
皇 螢「環隊長!華絵隊長の顔をちゃんと見て下さい!」
椿桔「・・・・・・彼女に、月冴様と同じ想いをさせるつもりですか」
  螢、椿桔の言葉に、彼はハッとした様な顔をする。
  今だ・・・・・・!
環 晴彦「!」
  晴彦殿の体を、黒い光が覆い・・・・・・鎖を破壊した。
  解放されて膝をつく晴彦殿。
  其を受け止める華絵さんと駆け寄る凛音と慎理。
かつての王「・・・・・・・・・・・・」
湊 月冴「此れが俺の力の使い方だ。お前には絶対に渡さん」
かつての王「ならば、奴から先に奪うまで」
湊 月冴「愚かな・・・・・・!」
  折角セイがお前を許したというのに・・・・・・!結局、変わらないのか。
湊 月冴「お前はこの場で壊す!!」
かつての王「出来るのか?この身はお前の友の身内だぞ?」
帝 凛音「っ!」
湊 月冴「そうだな。だが、お前を放置する事は出来ない」
  もう、躊躇わない。
  刀に光を纏わせる。
湊 月冴「・・・・・・凛音、俺を許すな」
帝 凛音「・・・・・・月冴・・・・・・」
湊 月冴「慎理、凛音を頼む」
漣 慎理「・・・・・・分かったよ」
湊 月冴「・・・・・・!」
  構える俺の隣に桔梗が並んだ。
  其に続く様に椿桔が並び、更に翡翠、鈴芽、螢も並ぶ。
湊 月冴「・・・・・・俺が突っ込む。椿桔、ついて来い」
椿桔「はい!」
湊 月冴「翡翠、螢、俺達の後ろからついて来い」
帷 翡翠「おう」
皇 螢「ああ」
湊 月冴「桔梗、鈴芽、魔法で援護を」
桔梗「うん!あ、鈴芽ちゃん魔術使って大丈夫!僕が変換するから」
空 鈴芽「ええ、お願いね」
  皆が、俺と共に戦ってくれる。
  きっと、彼等も・・・・・・
湊 月冴「はぁっ!!」
かつての王「私の野望を止めさせん・・・・・・お前の様な神擬きに!!」
湊 月冴「!」
  俺の刀を魔術で産み出した剣で受け止められた。この出力・・・・・・器となっている陛下の事は全く配慮されてないな。
湊 月冴「・・・・・・お許しを、陛下」
王「《よい。この国は息子が居れば十分だ》」
湊 月冴「!椿桔」
椿桔「はっ!」
  更に椿桔の暗器が重なる。
  直後、螢の槍と翡翠の銃弾、桔梗と鈴芽の魔法の追加攻撃も入った。
  ガキンッ
  奴の剣が大きく上に逸れる。
  ザンッ
  そして、俺が斬った。
かつての王「まだだ・・・・・・まだ!」
湊 月冴「!」
  陛下の体から抜け出した魂が、凛音と晴彦殿の元に向かっていく。
漣 慎理「僕を舐めるな!!」
かつての王「!」
  バチンッ
  其を慎理が防いだ。
漣 慎理「此れでも、最高魔術師に選ばれる器だったんだから!」
かつての王「チィ」
  魂が強い光を放ち、そのまま消える。
  ・・・・・・いや、逃げられたな。
帝 凛音「・・・・・・っ、父上!」
  凛音が倒れた陛下に駆け寄った。
  そんな凛音に晴彦殿も続く。
帝 凛音「父上・・・・・・」
王「凛音・・・・・・気を付けよ・・・・・・奴は必ずお主を狙う・・・・・・生前の自分と瓜二つの・・・・・・お主を」
環 晴彦「・・・・・・兄上」
王「子等を頼む・・・・・・良い、妻を見付けたな・・・・・・」
  凛音と晴彦殿の瞳から涙が溢れた。
  彼奴に取り込まれる前は・・・・・・本当に優しい王だった。
  だから、母さんを逃がしてくれ・・・・・・今まで、自由にさせてくれたんだろう。
王「月冴よ」
湊 月冴「!」
王「頼んだぞ」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・御意」
  そう告げた陛下は目を閉じ・・・・・・二度と開かなかった。
帝 凛音「・・・・・・月冴、慎理」
「!」
帝 凛音「今から、私は王位を継ぐ。支えてくれ」
漣 慎理「ああ、勿論だよ」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  凛音の言葉に、俺は答えられずにいる。
椿桔「・・・・・・・・・・・・」
  そんな俺に、椿桔が何かを悟った様な視線を向けている事には、気付かなかった。
桔梗「月冴?」
湊 月冴「・・・・・・ん?」
桔梗「・・・・・・次は、どうするの?」
湊 月冴「奴が復活する前に、兄上様の元に行く」
桔梗「そっか。分かったよ」
  俺は、足を止める訳には行かない。

〇豪華な社長室
  学術都市ラフテル
  ビュゥウウウ・・・・・・
学園長「・・・・・・おや、器はどうなされた」
かつての王「《壊された。子の方も妨害された》」
学園長「其は大変でしたな」
かつての王「《貴様の娘は余計な事ばかりするな》」
学園長「初めから分かっておれば、雑にはしませんでしたよ」
かつての王「《器の用意は出来るか》」
学園長「近日中に」
かつての王「《早く用意しろ・・・・・・漸く、悲願達成のチャンスが巡ってきた。今度こそ・・・・・・必ず》」
学園長「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

〇書斎
  その日の晩。
  俺は自分が育った屋敷に泊まる事になった。
  コンコンコン
「月冴様、よろしいでしょうか」
湊 月冴「・・・・・・ああ、入れ」
  許可をすれば、椿桔が静かに入って来る。
  そして、俺の布団で眠る桔梗を見て微笑んだ。
湊 月冴「疲れたんだろう・・・・・・とは言え、ベッドを取られたが」
椿桔「桔梗様は月冴様の元に居たいのでしょう・・・・・・其は私も同じです」
湊 月冴「・・・・・・ありがとう」
  俺も、一緒に居たい。
  最後の時まで。
椿桔「月冴様」
湊 月冴「ん?」
椿桔「何を隠されておいでなのですか」
湊 月冴「・・・・・・・・・・・・」
  思わず、椿桔を見詰める。
椿桔「貴方様が焦っておられるのは、皆気付いております」
湊 月冴「・・・・・・まぁ、だろうな」
椿桔「ですが、貴方様の瞳には・・・・・・常に覚悟と諦めがあります」
湊 月冴「!」
  そこまで、気付かれていたのか・・・・・・
椿桔「月冴様・・・・・・!もし、隠されてるなら・・・・・・」
湊 月冴「椿桔、桔梗の事を頼む」
椿桔「え?」
湊 月冴「俺はそんなに長く保たない」
  眠っている桔梗の頭を撫でた。
  セイアッドの力は、人の器には強過ぎる。
  其に俺は・・・・・・
湊 月冴「俺は、今度の旅で死ぬ」
椿桔「そんな・・・・・・!」
湊 月冴「見届けてくれ、椿桔・・・・・・俺の大切な、愛する片割れ」
椿桔「!!・・・・・・酷な、事を・・・・・・」
湊 月冴「分かってる・・・・・・でも、もう決めたんだ」
  その選択に、悔いはないから。
  俺は残された時間を、残される者達に捧げる。
  其が、あの時交わした約束だ。
椿桔「月冴様・・・・・・」
湊 月冴「其でも、来てくれるか」
椿桔「・・・・・・はい」
  桔梗・・・・・・お前の生きる世界は、必ず残す。
  俺の命を懸けて。

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