七章(脚本)
〇先住民の村
村人「お?」
村人「竹芝・・・竹芝ではないか!」
竹芝「はいはい。ちょっと通りますよ~」
村人「お勤めはどうした?無断で村に戻ってくるは重罪ぞ!」
竹芝「そ、それは・・・」
竹芝「密命を受け道の奥に向かうついでに寄ったのだ」
村人「密命?」
竹芝「さ、左様!密命でござる!」
竹芝「ゆえに拙者がここにいる事は誰にも話してはならぬでござそうろうなり!」
村人「そ、それが都ことばか?」
村人「背中におぶっとる女子は誰だ?嫁さんか?」
姫「ふつつか者ですが・・・」
竹芝「豪族の娘で道にまよったらしい。のちのち国分寺に送り届けようと思っておる」
姫「・・・チッ」
村人「またお前は厄介ごとを・・・」
村人「相変わらずのお人よしだな」
竹芝「ならば衛士の勤めを代わってくれるか?」
竹芝「寺も仏像も見放題。ご利益あるぞ」
村人「御免だね」
村人「神も仏も間に合っとるわ」
「わはははは!」
姫「・・・」
〇山の中
〇草原
〇山中の川
〇古民家の居間
姫「・・・」
竹芝「おうおう、すみませんねえ。涙が出るほど貧相な夕飯で」
姫「そうではない」
竹芝「はい?」
姫「私は何も出来ぬ」
姫「なのに、日々食べ物を頂いておる。有難い限りじゃ」
姫「これはすべて、村人が恵んでくれたものであろう」
竹芝「ああ。神や仏ではない」
竹芝「されど日照りや長雨のおりは祈る他はないのもまた事実」
竹芝「人は大きく、人は小さい」
竹芝「俺達田舎者の道理は、ただそれだけです」
竹芝「まあ、ムラは一蓮托生。そんなに気にするものでもありません」
竹芝「それに姫にとっては数日限りの縁でしょう」
姫「のう竹芝」
竹芝「はい?」
姫「旅は疲れた」
竹芝「またそんな我儘を」
姫「ここで暮らしたい」
竹芝「・・・」
姫「薪割も、狩りも、釣りも出来るようになる」
姫「頑張る!阿倍子、頑張るから!」
竹芝「なりません。すぐに追手が追いつきます」
姫「・・・」
竹芝「せめて道の奥まで逃げおおせれば、蝦夷の民や優婆塞の隠れ里が守ってくれましょう」
姫「人は大きく、人は小さい。じゃな」
姫「大学者の如き教えぞ。誰に習うた?」
竹芝「・・・」
竹芝「それは・・・」
〇山間の集落
竹芝「有難うございます」
竹芝「親父もお袋もまさか内親王殿下が手を合わせてくれるなどと、思ってもなかったでしょう」
姫「数珠を直してくれたのはそなたじゃ」
姫「私が引きちぎった身勝手を正してくれた」
竹芝「では、参りましょう。追手が来る前に」
姫「・・・」
竹芝「ここには住めぬと先日も・・・」
姫「そうではない・・・」
〇山間の集落
姫「胸騒ぎがする・・・」
姫「ここを離れてよいものかと・・・」
竹芝「よいのです。もう、自分のことだけを考えられませ」
竹芝「急ぎましょう。身支度を整えねば」
姫「分かった。じゃあ・・・」
姫「おんぶ」
竹芝「・・・」
続く