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木佐マコ

第2話 『ナナと七蔵』(脚本)

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〇花火職人の作業場
七蔵「なんでぇ、ここは・・・おめぇ、誰だ?」
角谷ナナ「それはこっちの台詞なんですけど!?」
七蔵「しっかし、極楽ってのは汚ぇところなんだな」
角谷ナナ「極楽・・・?」
七蔵「ん? 違うのか? 俺はてっきり・・・」
角谷ナナ「はぁ・・・極楽ではないですね」
七蔵「ははぁ、そりゃそうだ! 俺が極楽なんか行けるわきゃねぇよな」
七蔵「ってぇことは・・・ここは地獄だな?」
角谷ナナ「さっきからあなた、初対面でずいぶん失礼じゃないですか!?」
七蔵「ん?」
角谷ナナ「汚いとか、地獄とか・・・」
角谷ナナ「っていうか、そもそもどうしてうちの店に!?」
角谷ナナ「いや、ちょっと待って。 ちょっと整理させて?」
七蔵「なんでぇ、なんでぇ」
角谷ナナ「そのちょんまげ・・・あなた何者ですか?」
角谷ナナ「うちの職人・・・?」
七蔵「あなた、だなんて水臭え。 俺は七蔵(しちぞう)ってんだ」
角谷ナナ「しちぞう・・・さん? 今時、珍しい名前・・・」
「んとに、こんな山奥まで来る俺らの苦労分も利息に入れて欲しいっすね」
角谷ナナ「!?」
七蔵「誰だ?」

〇職人の作業場(店名あり)
  黒塗りの車から二人組の男が降りてくる。
  ナナと七蔵は物陰から身を隠すようにしてその様子を眺めていた。
角谷ナナ「どうして? 支払期限はまだ・・・」
七蔵「支払い?」
角谷ナナ「シッ。七蔵さん、静かに!」
鉄「かくれんぼか?」
角谷ナナ「あ・・・っ!」
鉄「孫のお嬢ちゃん・・・名前はなんつったか」
ショウ「ナナっすよ、兄貴!」
鉄「・・・ナナ」
角谷ナナ「・・・!」
鉄「おい、ショウ。その後ろのちょんまげは?」
  鉄(てつ)とショウが、ナナの後ろに立っている七蔵の姿に気づいた。
ショウ「知らないっすね。 こんな変な奴、いたっすかね・・・?」
角谷ナナ「おじいちゃんが借りたお金は、ちゃんと期日までに返しますから!」
鉄「おう、それを確認しに来たのよ。 ナナちゃん」
ショウ「来月末までに2千万!」
ショウ「おじいちゃんから聞いてませ~んって言い訳は通用しないからな?」
角谷ナナ「わ、わかってます・・・!」
鉄「フン、健気だな。 じいさんの商売下手が原因だってのに」
ショウ「でもこのボロ小屋じゃ、差し押さえても2千万にはならねえっすよね、兄貴」
鉄「そうだな。 まあ、どうにかして返してもらわねえとな」
角谷ナナ「ちゃ、ちゃんと、返します・・・。 花火大会が終わったら、すぐに」
七蔵「花火?」
鉄「花火大会ねえ・・・。 しかしナナちゃん、他の職人はどうした?」
角谷ナナ「! それは・・・」
鉄「ちゃんと返せんのかって、聞いてんだよ!」
角谷ナナ「きゃあ!」
七蔵「おい、てめぇら、女相手によさねぇか!」
七蔵「さっきからこいつ・・・ナナは、何度も返すって言ってんじゃねぇか!」
ショウ「あぁ?」
七蔵「なんだ、やるか?」
角谷ナナ「ちょっと、七蔵さん!」
ショウ「てめぇ・・・このちょんまげ!」
鉄「待て、ショウ」
ショウ「ク・・・ッ」
鉄「おい、七蔵さん、つったか?」
七蔵「・・・・・・」
鉄「・・・花火大会、楽しみにしてるぜ?」
ショウ「いいんですか、兄貴?」
鉄「いいんだよ。 今日は挨拶だけだっつっただろうが」
角谷ナナ「あの・・・ありがとね、七蔵さん」
七蔵「ん? なんか言ったかよ?」

〇花火職人の作業場
  七蔵は部屋に入ると、床に転がっていた花火の打ち上げ筒を枕に寝ころんだ。
角谷ナナ「何してるの?」
七蔵「ふわぁ・・・今日はここで寝るからよ。 なんか掛けるもんくれ」
角谷ナナ「え! ここで!?」
角谷ナナ「って、もう寝てるし」
  ナナは眠っている七蔵をまじまじと見つめたあと、ちょんまげにそっと触れてみる。
角谷ナナ「このちょんまげ、カツラじゃないんだ・・・」
角谷ナナ(七蔵さんって、何者なんだろう・・・? 悪い人ではなさそうだけど)

〇大きな一軒家

〇広い玄関
  両手に毛布を抱えたナナが靴を履き、玄関の扉を開ける。
角谷ナナ「うん、今晩だけ」
角谷ナナ「世話になったし・・・明日には家に帰ってもらおう」

〇花火職人の作業場
  板の間で静かに眠る七蔵。
  その体には毛布が掛けられていた。

〇一人部屋
角谷ナナ「う・・・」
  ベッドで眠っているナナは、うなされるように声を出す。
  その瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

〇実家の居間
「洋子さん、まだ来てないの?」
「来るつもりないんじゃないかしら、花火嫌いで出て行ったようなものだし・・・」
「でも、元とはいえ、旦那さんの葬儀でしょ?」
親戚「ナナちゃん、お父さんのお顔見る?」
角谷ナナ「・・・・・・」
  ナナはゆっくりと棺に近づき中を覗き込む。
  棺の中では、父親の信吾(しんご)が、体中に包帯を巻かれた状態で目を閉じている。
角谷源二「信吾・・・花火師が花火で死ぬなんざ、笑い話にもならねえな」

〇黒
  花火はうちを・・・不幸にする

〇一人部屋
角谷ナナ「・・・!」
角谷ナナ「いやな夢・・・」
  ナナはそう呟くと、本棚に立てかけている写真立てを眺める。
角谷ナナ「・・・お父さん」
  ぶえっくしょーーい!
角谷ナナ「!」

〇花火職人の作業場
七蔵「へっくしょい!」
七蔵「・・・っあー、くしゃみが止まらねえ」
角谷ナナ「だから、ここで寝るの? って聞いたのに」
角谷ナナ「も~、完全に風邪ひいてる・・・。 今晩はちゃんと自分の家に帰って──」
七蔵「俺の家なんざ、ここにはねぇよ・・・」
角谷ナナ「え?」
  七蔵は枕代わりにしていた木製の打ち上げ筒を手に取り、再び寝転がろうとする。
七蔵「おお!?」
角谷ナナ「え? 何・・・?」
七蔵「この打ち上げ筒、俺が作ったもんじゃねえか!」

〇黒
  残り、あと48日──

次のエピソード:第3話 『流れ星と願い事』

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