もののふ四郎(1)(脚本)
〇城の回廊
帯刀「粟屋帯刀である」
財満「控えおろう!」
狂介「せ、撰鋒隊大将粟屋殿に対し奉り・・・」
狂介「捧げ銃!」
各々、武器をかざす奇兵隊士達。
帯刀「何の戯れだ?」
財満「頭が高い!言葉も通じぬか畜生ども!」
奇兵隊士達、這いつくばり平伏する。
狂介、武人とともにひざまずく。
財満「ここは萩、山口を守り西海を睨む砦。異人と小競り合いをした程度の穢兵など、本来は立ち入る事すら許されぬ場所ぞ」
粟屋、這いつくばる一人の隊士の傍へ歩みよる。
帯刀「うぬは何者じゃ」
『奇兵隊上等兵士、平次にございます』
粟屋、平次なる者を足蹴にする。
帯刀「兵士?」
帯刀「儂は『何者じゃ』と聞いておる」
平次は震えながら身の程を口にする。
『弁天村猟師の倅。平次にござ・・・』
平次の名を遮って今度は善蔵に問う粟屋。
帯刀「うぬは?」
善蔵「はい。萬問屋、長門屋の三男菊島善蔵にて」
財満「フン。穀潰しか」
善蔵「・・・・・・」
粟屋、別の隊士に問う。
帯刀「お前は?」
『秋穂村の・・・』
帯刀「百姓ごときが名乗るな」
『・・・水呑みの倅にございます』
粟屋、次々に奇兵隊士達を恫喝しては身の程を叩きつけてゆく。
粟屋、四郎の前に立つ。
帯刀「お前は?」
四郎「は、はい」
四郎、顔を上げる。
帯刀「誰が顔を上げてよいと言うた?」
狂介「四郎・・・控えろ」
四郎「き、奇兵隊士!四郎にございます!」
帯刀「儂は名乗るなと申した」
帯刀「言葉も解せぬに口はきけるか?」
狂介「この者は杉原村の百姓の倅。今だ分別も分らぬワッパです。どうかお許し下され」
帯刀「ならばうぬに打擲いたそう」
粟屋、狂介の顔を踏みつける
狂介「ぐっ!」
帯刀「何が奇兵隊じゃ!」
帯刀「よいか、うぬらは侍どころか足軽雑兵でもない。我らを背に乗せる馬と同じ、いやそれ以下の犬じゃ」
帯刀「防長二州の動乱にかこつけ浅ましく餌にありつかんとする犬じゃ!」
帯刀「犬は犬らしゅう振る舞え。よいな」
武者の一人が奇兵隊から一文字三ツ星の旗を奪う。
武人「な、何をなされます」
帯刀「汚れた手で御殿の御旗を掲げるでないわ。毛利家の威光は我らが預かるものぞ」
武者達、奇兵隊士達から火縄銃や弓矢、槍刀をも取り上げてゆく。
武人「粟屋殿!」
帯刀「うぬらの目的は高杉との和睦であろう?」
武人「・・・・・・」
狂介「そ、それはまだ・・・」
帯刀「戦いもせず守りもせぬ者共に槍刀なぞ無用じゃ」
奪われてゆく武器を、ただ茫然と見つめるだけの奇兵隊士達。
財満「十文字槍とは百年早いわ」
狂介、財満を睨みつける。
財満「何だその目は?」
狂介「・・・・・・」
財満「無礼討ちされたいか?」
狂介、目を伏せて槍を差し出す。
財満「下衆めが」
鬼軍監の体たらくに失望する隊士達。
俯いたまま震える事しか出来ない狂介の手には、ただ奇兵隊の隊旗だけが残された。