五章(脚本)
〇けもの道
「ア゛ア゛ア゛ン!?」
姫「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ン!?」
怒髪天の姫!「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛~ン?」
竹芝「そんなに怒ることないでしょう」
竹芝「形相変わってるじゃないですか」
竹芝「あとその髑髏もやめて下さい」
姫「優婆塞の隠れ里とな?」
竹芝「東国には、私度僧の村が幾つもあります。己が身分を明かすことなくそこで暮らすのが宜しいでしょう」
姫「私に尼になれと申すか!」
竹芝「丁度いいではございませんか。野に下って功徳を積みたいのでしょう?」
姫「下るにも限度があるわ!」
姫「大体、女帝として生涯独り身で暮らすのが嫌だから、こうして都を出て胡散臭い森を彷徨っているのではないかえ!」
姫「着いた先で頭を丸めるのでは同じことではないか!」
姫「ならばこれまで通り、宮中で何不自由なく暮らす方が遥かにマシであろう!」
姫「それともあれか?そなたが私を娶って速攻死んでくれるのか?されば未亡人として尼にでも何にでもなってくれようぞ!」
姫「寝ぼけるのも大概にせいどあほう!」
竹芝(本性がえぐすぎるぞ、この娘)
竹芝「・・・全く」
竹芝「見損ないましたよ。積善の内親王殿下」
姫「何じゃと?」
竹芝「徳を積んでいたのも薬を与えていたのも、単に帝の責務から逃げ出したいだけの口実でしたか」
姫「さ、左様なこと」
竹芝「ならば先程暴言を吐いたどの口で今度は違うと申されまするか!偽善の内親王殿下!」
姫「・・・ふん」
姫「そなたという男は、さすが太師仲麻呂を敵に回すだけの者よ」
姫「ではこちらも正直になろう」
竹芝「そうなされませ」
姫「図に乗るな下賤の衛士め!」
姫「我が功徳を偽善と申すか!」
姫「我が民を思う気持ちを偽りと申すか!」
竹芝「・・・」
姫「・・・」
姫「・・・そうじゃ」
姫「偽りじゃ」
姫「全てそなたが申した通りじゃ」
姫「されどお前は知らぬ」
姫「私の穢れた本音を」
〇皇后の御殿
『何が東大寺じゃ』
『何が悲田院じゃ』
『男子ひとり満足に産めず、おなごの我を皇太子たらしめる不徳の父母が偉そうに』
〇けもの道
姫「なにが神じゃ!なにが仏じゃ!」
姫「現世に神仏がおるならば、何故我を救ってくれぬ!」
姫「女にも母にもなることを許されぬこの哀れな我を、何故助けてくれぬのじゃ・・・」
竹芝「・・・」
姫「恋も知らず愛も育めず、ただ世のため人のため生きて死ねと申すか」
姫「それが私の・・・」
姫「私の人生だと・・・」
竹芝「・・・姫」
姫「憐れむな」
姫「お前など嫌いだ」
姫「本当は誰でもよかったのじゃ」
姫「ちょっと若くて見栄えが良くて性格が良くて真面目そうでいつも優しくて時折強引な一面もあるごく普通の男なら誰でもよい」
竹芝「普通の基準が高すぎる気が・・・」
姫「うるさい。説教など聞きたくない」
姫「もうどっかいけばーか」
竹芝「ああそうですか」
竹芝「それでは」
姫「・・・」
姫「うそじゃほんとうにどっかいくやつがあるかばーか」
竹芝「正直でよろしい」
竹芝「・・・」
姫「?」
姫「何をうずくまっておる?」
姫「はっ!」
姫「そうか!やはりそなたも歩き通しで足腰に来たか!」
姫「偉そうに説教など垂れるからじゃ!」
姫「あ~カッコ悪~!カッコ悪~!」
竹芝「おぶってほしくないんですか?」
姫「へ?」
竹芝「だったらこのまま歩きますけど」
姫「・・・」
姫「お、おう」
「・・・お、重くないかえ?」
「重いですよ」
「正直でよろしい」
続く