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木佐マコ

第1話 『江戸からやってきた男』(脚本)

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〇原っぱ
「おい、花火の城前屋(じょうまえや)、また新しいのを作ったって?」
「自信だけはいつもあるんだよな、七蔵(しちぞう)は」
「また前の花火みてぇに、弾けずにそのまま落っこちてくるってのは勘弁だぜ」
七蔵「まっかせろぃ! 今度こそお前らを、あっと驚かせてやらぁ」
七蔵「江戸の空に、でっけぇまん丸の華を咲かせてな!」
七蔵「江戸中の奴らに見せてやるってんで・・・」
七蔵「おい、火ぃ点けるぞ。 みんな、下がれ下がれ」
七蔵「さあ、さあ、お立合い!」
七蔵「目ン玉かっぽじいて、七印(しちじるし)のまん丸花火をご覧あれぃ!」
  七蔵(しちぞう)が花火に火をつけると、導火線の火が吹き出すように強くなり、大きな火花が散る。
「あぶねえぞ、七蔵!」
七蔵「これくらい派手じゃなきゃ、高く上がんねえんだ──」
「七蔵!」
七蔵「っ!!」

〇黒
  ドォンッ!!

〇白
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〇事務所
部長「そう、やっぱり角谷(すみや)さん、辞めちゃうのか・・・」
角谷ナナ「はい、部長にはいろいろ相談に乗っていただいて、ありがとうございました」
部長「いやぁ、代々続く花火屋を継ぐなんて立派だよ、頑張ってね」
角谷ナナ「はぁ・・・」
部長「今度の白田川花火大会でも、角谷さん家のを上げるんだろ?」
角谷ナナ「はぁ、全部ではないですけど・・・」
部長「いいねえ、そういう家業があるのは」
部長「それじゃ辞表──」
  部長がナナの辞表を受け取ろうとするが、ナナはしっかりと掴んだまま手を離さない。
部長「え、角谷さん? 辞めるんだよね?」
角谷ナナ「はい・・・辞めます!」
部長「その、手を離してくれないと・・・」
角谷ナナ「・・・くない」
部長「ん?」
角谷ナナ「辞めたくない・・・!」
部長「えぇ・・・どっちなの・・・」

〇二階建てアパート
大家「ナナちゃんが出て行っちゃうと、本当に寂しくなるわ」
角谷ナナ「大家さん・・・」
大家「でも、おじいちゃんお一人で入院してるんでしょう?」
大家「心配ね・・・」
角谷ナナ「や、それほどでも。 電話では元気だったので」
大家「何言ってるの。ナナちゃん」
大家「これまで全然田舎に帰らなかったんだから、この機会に孝行しなきゃダメよ」
角谷ナナ「あは、はは・・・ソウ、デスネ」
引っ越し業者「引っ越しの荷物搬入終わりましたので、最終確認よろしいですか?」
角谷ナナ「あ、はい!」
大家「ナナちゃん、元気でね・・・!」

〇作業場の全景(店名あり)

〇大きな一軒家

〇広い玄関
引っ越し業者「では、引っ越し完了いたしましたので、失礼します!」
角谷ナナ「どうも、お世話になりました」
角谷ナナ「・・・とりあえず、挨拶だけしとくか」

〇職人の作業場(店名あり)
  ナナは、看板に『角谷煙火店』と書かれた作業場の中へ入ろうと扉に手をかけた。
  すると、引っ越しのように荷物を抱えた沢山の職人たちと鉢合わせる。
角谷ナナ「えっ、ちょっと・・・みんなどこ行くの?」
久間田和樹「出て行くんだよ。お前が来たから」
角谷ナナ「私が来たからって・・・何それ?」
  久間田和樹(くぼたかずき)は、ナナの言葉を無視して立ち去ろうとする。
角谷ナナ「和樹!」
角谷ナナ「今、この『角谷煙火店』がどういう状況かわかってる?」
久間田和樹「・・・分かってるよ」
久間田和樹「おやじさんが必死に守ってきた花火を、お前が台無しにするんだ」
角谷ナナ「あのね・・・!」
角谷ナナ「台無しにするのはどっち? 和樹は・・・店がどうなってもいいの?」
角谷ナナ「おじいちゃんに世話になったんじゃなかった?」
角谷ナナ「恩とか義理とか・・・あんたそういうの、昔から好きだったじゃん」
久間田和樹「・・・・・・」
角谷ナナ「職人の和樹たちがいなくなったらうちは・・・」
角谷ナナ「白田川花火大会を無事に成功させないと、店は潰れるの!」
角谷ナナ「継ぎたくもない店に戻ってきてあげたのに、なんで私が悪者にされるわけ?」
久間田和樹「・・・だから感謝しろってか?」
角谷ナナ「は?」
久間田和樹「花火が嫌いだって店に寄り付きもしなかった奴にニコニコついて行くほど、俺達もお人よしじゃないんだよ」
角谷ナナ「なっ・・・」
  去って行く和樹たちの背中を茫然と見ながら、ナナは小さくつぶやく。
角谷ナナ「・・・嫌い」
角谷ナナ「当たり前でしょ! 花火なんか、大っ嫌い!」
  ナナが和樹たちの背中に投げつけるように言い放つが、彼らはそのまま車に乗り込んで去ってしまった。
角谷ナナ「うそ・・・本当に行っちゃった」

〇花火職人の作業場
角谷ナナ「これから一人で、どうしよう・・・」
角谷ナナ「!!」
角谷ナナ「どうか花火大会が成功しますように!」
角谷ナナ「よろしくお願いします・・・!」
  ドォン!
角谷ナナ「!?」
角谷ナナ「何? 今の音・・・」
  ナナがぎょっとして作業場を見渡すと、奥から煙が立ち込めていた。
  恐る恐る作業場の奥へと進んでいくナナ。
  作業場の奥には、花火とは関係ない骨とう品がいくつも並べられている。
角谷ナナ「何このガラクタ・・・。 おじいちゃんまたいらないもの買って」
  骨とう品をまたぐようにして、ナナがさらに奥へと進んでいくと──。
角谷ナナ「え、なんで?」
  しげしげと男を眺めるナナ。
  男は古風な着物を着て、まげを結っていた。
角谷ナナ「・・・いやいや、なんで!?」
  ナナは意識のない様子の男にそっと近づき、顔を覗き込む。
角谷ナナ「おじいちゃんが雇った職人とか・・・?」
七蔵「・・・んあ?」
角谷ナナ「ひっ! 生きてる!」
七蔵「ん? なんでぇ、ここは・・・」
七蔵「おめぇ、誰だ?」
角谷ナナ「それはこっちの台詞なんですけど!?」
七蔵「しっかし、極楽ってのは汚ぇところなんだな」

〇黒
  残り、あと49日──

次のエピソード:第2話 『ナナと七蔵』

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