幸多き未来を…

市丸あや

幸多き未来を…上(脚本)

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市丸あや

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〇花模様
  ・・・初めてやった。
  
  人を、誰かをここまで愛したこと。
  
  そして、その誰かに、愛されたいと思ったこと。
  なにもかもが初めてで、ときめく反面、怖くて、不安で、
  眠れない孤独な夜が続いた事も、あった。
  せやけど、君の笑顔が、存在が、温もりが、
  
  もう、なにもかもが、
  
  冷えていた心を、体を、癒してくれた。
  初めてのキス、初めての夜、初めての朝、初めてのプロポーズ、初めての結婚、ほんで・・・初めての、子供・・・
  初めて抱いた時の温もりは、今でも覚えてる。
  両の腕にすっぽり収まる小さな命は、元気に泣いて、生きようともがいてた。
  父親にも母親にも愛されてない俺が、果たして親なんてやってけるかなんて不安やったけど、なんてこたあない。すぐやった。
  理屈なんかあらへん。
  この子を守り愛したい。
  沢山の世界を見せて、大きく羽ばたいて欲しい。
  ・・・ほんで、二十歳になったら、一緒に酒を飲み交わしたい。
  我ながら、単純な奴やった。
  せやけど、こんな人並みの幸せが、こんなに嬉しいなんて・・・
  
  こんなに、心満たされるやなんて・・・
  人生半分・・・50にしてようやく気づけたんや。
  君に巡り会えた、おかげでな・・・

〇シックな玄関
棗藤次「よっしゃ! 取り敢えず、入院に必要なモンは揃うたな!! 絢音!足下気ぃつけや!」
棗絢音「うん。 ありがとう。 藤次さん・・・」
  ・・・春を報せる梅が咲き始めた3月頭。
  恋雪の出産予定日が近くなり、年齢も高齢と言うことから、絢音は今日から出産まで、花藤病院に入院することになった。
  すっかり大きくなったお腹を抱えながら、靴に足を入れようとした時だった。
棗絢音「痛っ!!」
棗藤次「な、なんやどないした?!!!」
棗絢音「わ、分かんない・・・ 急に・・・・・・ 痛いっ!!!!」
棗藤次「えっ?!!? ちょっ!!?! 姉ちゃん・・・ 恵理子姉ちゃん!!!!!!」
長山恵理子「なんやどないしてん? そない大声出して・・・」
  パパ?
  狼狽する藤次の声に呼ばれ、藤太を抱えてやって来た恵理子だが、すぐさま異変に気づき、藤次に藤太を託す。
長山恵理子「絢音ちゃんどないした!! どんな痛みや?!!!」
棗絢音「お義姉さん・・・ なんだか・・・ じ、陣痛に、近い・・・・・・ あっ!!!!」
長山恵理子「!」
  へたり込む絢音の下半身からとめどなく溢れてくる液体。
  
  サッと、恵理子は青ざめる。
長山恵理子「とーちゃん!! 救急車!!! 絢音ちゃん、破水した!!!!」
棗藤次「えっ・・・・・・ な、なんで? 嘘やろ!? 予定日までまだ1週間」
長山恵理子「そんなん机上の空論やっ! お産は何が起こるか分からへんねや!! 早よ!!119番!!」
棗藤次「えっ・・・あっ・・・」
長山恵理子「・・・っ!!!」
  狼狽してボタンのタップも満足にできない弟からスマホを取り上げて、恵理子は直ぐ様119番を押す。
長山恵理子「もしもし?! 妊婦が破水しました! すぐ来てもらえます?! 住所は京都市・・・」
棗藤次「あ、ああ、あや、ね?」
棗絢音「と、とうじ・・・さん・・・ いて・・・」
棗藤次「えっ?!!」
棗絢音「・・・こんどは、ずっと・・・そばに、いて・・・」
棗藤次「!」
  ・・・差し出された、白く小さな手。
  最初の・・・藤太の出産の時は、怖くて怖くて、1人で大丈夫よと笑う絢音に甘えて、分娩室の前で待った。
  けど、今回は、当事者の絢音すら予想してなかった、急なお産・・・
  きっと今、彼女は不安で不安で仕方ないはず。・・・なら、
棗藤次「・・・姉ちゃん、藤太、頼むわ」
長山恵理子「藤次?」
棗藤次「救急車の付き添い、ワシが行く! せやから家で、藤太と待っててや!!」
長山恵理子「藤次・・・」
棗絢音「とうじ・・・さん・・・」
  そうして目を丸くする姉に藤太を渡すと、藤次は絢音の手をしっかりと握りしめる。
棗藤次「藤太ん時は、1人不安な思いさせてごめん。 そやし、今回は・・・この手は離さへん。 一緒に、頑張ろな?」
棗絢音「と、とうじ・・・さん・・・」
棗藤次「うん」
  そうしてやって来た救急車に乗り込み、2人は花藤病院に向かう。

〇救急車の中
棗絢音「・・・・・・・・・ッ!! ・・・・・・・・・・・・ッッッ!!!」
棗藤次「絢音・・・絢音おるで? 大丈夫や。 無事に産まれる。 絢音・・・」

〇綺麗な図書館
笠原絢音「(ああすみません! 私ったらいつもこうで・・・ ご返却ですよね?)」

〇救急車の中
  ・・・初めて出会ったあの日が、まるで昨日のように鮮明に脳裏に浮かび、自然と手を握る力が強くなる。
棗絢音「とうじさん・・・ とうじ、さん・・・」
棗藤次「なんや?! 痛いんか?! 腰か?! 水もあるで? 飲むか?」
棗絢音「とうじさん・・・」

〇土手
笠原絢音「(好き。 好きなんです。 ・・・・・・・・・「藤次さん」)」

〇救急車の中
  初めて名前を呼んでくれたあの夜は、初めて結ばれて、初めて食卓を囲み、笑って朝を迎えた・・・
  それから更に一年、互いに合鍵を交換し、半同棲の生活を送るようになり、自然と意識してきた、結婚・・・
  けど、こんな自分が絢音を幸せにできるのか。
  絢音には、もっと相応しい男がいるんじゃないか。
  自信が持てなくて、4年もズルズル待たせたというのに、彼女は笑って、自分のプロポーズを受け入れてくれた・・・
  そして・・・
  忘れもしない。
  結婚して初めて迎えた・・・初夜。

〇本棚のある部屋
棗藤次「(えっ・・・)」
棗絢音「(だから・・・今までしてた避妊、無しにして?藤次さん・・・)」
棗藤次「(そ、そやしお前・・・そんなんしたら、子供・・・)」
棗絢音「(やだ・・・私達、もう若くないのよ?行動するなら早めにしないと)」
棗藤次「(そ、そやし・・・ワシが、親やなんて・・・無理や。良い夫なら頑張れるやろけど、良い父親なんて・・・)」
棗絢音「(なんてなんて言わないで。言ったでしょ?藤次さんは、素敵な人だって。貴方は誰よりも、愛の尊さを知っている。なれるわよ。)」
棗藤次「(そやし・・・)」
  ・・・親に愛されなかった自分が、良い親になれるはずない。
  だから年齢を理由に今日まで避妊をし、子作りは避けて来たし、これからも絢音と夫婦2人きりで生きて行きたかった。
  その絢音の口から出た子作りの提案に戸惑っていると、絢音からそっと口付けされる。
棗藤次「(あ、絢音・・・?)」
棗絢音「(・・・大丈夫。どんな藤次さんになっても、私・・・ついて行く。藤次さんを看取って、私も死ぬ。約束する。・・・それに)」
棗藤次「(そ、それに?)」
  戸惑う自分に、絢音は照れくさそうに、けれど、幸せそうに微笑む。
棗絢音「(私も女よ?愛する人の赤ちゃん産みたいって、育てて行きたいって気持ち、抱いちゃダメ?)」
棗藤次「(そ、そんなん・・・あかんなんて言われへんわ!産んで欲しい・・・お前に俺の子、産んで欲しい!!)」
棗絢音「(・・・じゃあ、もうこれは・・・必要ないわね?)」
棗藤次「(えっ?)」
  差し出された、ベッドサイドに置かれたコンドームの箱をゴミ箱に捨てると、絢音はキュッと、戸惑う藤次の首に腕を回す。
棗藤次「(絢音・・・)」
棗絢音「(藤次さん・・・好きよ。沢山・・・中に、頂戴ね?)」
棗藤次「(・・・うん。ぎょうさん注いだる。・・・好きや・・・)」
  ・・・そうして着ているものを脱ぎ捨てベッドに沈み込み、何度もキスをして身体を愛撫して、気持ちを高めて行く。
棗藤次「(・・・あやね・・・好きや・・・好きや・・・もう、好き過ぎておかしくなってまう・・・助けてくれ・・・)」
棗絢音「(私もよ?もう、欲しい・・・正真正銘、貴方と、一つになりたい。・・・だから、来て・・・)」
棗藤次「(・・・うん・・・)」
  そうして初めて、女の胎内に剥き身で挿入した藤次は、ブルっと身体を震わせ腰砕け、絢音に覆い被さる。
棗絢音「(と、藤次さん?!)」
棗藤次「(・・・い)」
棗絢音「(い、い?)」
  狼狽する絢音をしっかりと抱き締めて、藤次は大きく息を吐く。
棗藤次「(・・・めちゃくちゃ気持ちいい。なんやいつも以上に、お前を感じる・・・先イッたら、ごめんな?)」
棗絢音「(なにそれ・・・でも、私もいつも以上に、貴方の熱を、近く感じる。貴方の鼓動も、なにもかも・・・・・・愛してる・・・)」

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コメント

  • 二人目の赤ちゃんだから一人目より安産だとか楽に楽に産めるというわけでも無いんですね。救急車で運ばれる事態になるとは、驚きです。藤次さんが立ち会うことになったのは心強いです。

  • 2人は晩婚だったんですね。藤次が子供を持つにあたって葛藤していた部分、彼の純粋さや誠実さが伝わってきます。2人の間に生まれてくる子供ほど幸せな子はいませんね。

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