罪が、女の形をしている。(脚本)
〇空港の待合室
岬 深羽「あら、見付かっちゃった」
岬 深羽「案外、早かったのね」
頼光 源「・・・・・・」
頼光 源「お前を、ずっと見て来たからな」
岬 深羽「ふふふ。そうね」
岬 深羽「あなたは、そうだったわ」
岬 深羽「出会ったときから」
頼光 源「何で逃げた」
岬 深羽「何で、」
岬 深羽「って?」
頼光 源「逃げるだけでも、もう言い訳出来ないって言うのに」
頼光 源「何で」
頼光 源「あんなことをして」
頼光 源「逃げた」
頼光 源(────あんな、)
頼光 源(何十人も、)
頼光 源(“また”殺して────)
岬《みさき》、深羽《みう》。
母親は旧家の出で、その再婚相手であるとある地方議員の養女。
この品行方正を絵に描いたようなお嬢様は、
将来有望と言われた未来を
あっさり犠牲にした。
自らが自由に出来る財産と人脈をフルで使い切って。
何十人の人間たちを廃村に集めて殺した。
〇寂れた村
岬 深羽「ぁ、は・・・・・・」
岬 深羽「見付けた・・・・・・」
やっ・・・・・・やめろ! やめてくれぇぇえ!
岬 深羽「えっ、」
岬 深羽「でも、」
岬 深羽「そう言って懇願してた女性をあなた、動画撮影しながら乱暴して放逐しましたよね?」
岬 深羽「何人も。傷の手当とかアフターケアも無しに、街へ放り出したでしょう?」
岬 深羽「なのに、あなただけ、やめるなんて」
岬 深羽「それって、不公平じゃないですか」
岬 深羽「だから・・・・・・」
岬 深羽「ね?」
ひっ・・・・・・
〇黒背景
〇黒背景
〇空港の待合室
頼光 源(法や警察の目から逃れた犯罪者ばかりを殺した事件当時と違って、)
頼光 源(今回は医療刑務所で職員すら手に掛けている)
頼光 源(再審請求中だったろうに・・・・・・)
頼光 源「・・・・・・減刑は、望めないぞ」
岬 深羽「別に望んでいないわ」
頼光 源(平然と・・・・・・返すんだな)
頼光 源(まるで歌うみたいに)
頼光 源(まるで科白を諳んじるように)
岬 深羽「どうして、私が逃げたか」
岬 深羽「わかる?」
頼光 源「・・・・・・」
頼光 源「生憎、」
頼光 源「殺人鬼の考えなんぞ、わかる訳が無い」
岬 深羽「そぉ?」
岬 深羽「あなたに会いたかったからよ」
頼光 源「っな・・・・・・!」
頼光 源(しまった!)
頼光 源(思わず下がって、手を放しちまった!)
岬 深羽「・・・・・・なんてね」
頼光 源「・・・・・・」
頼光 源「大人を揶揄うんじゃねーよ」
岬 深羽「あら、ごめんなさい?」
頼光 源「・・・・・・」
頼光 源(調子が狂う・・・・・・)
頼光 源(────いや、)
頼光 源(思えば、いつもか)
頼光 源(出会ったときからこの調子だった)
頼光 源(油断、してただけ)
頼光 源「・・・・・・」
岬 深羽「なぁに?」
岬 深羽「ちらちら見て」
頼光 源「何でも」
岬 深羽「何でも無い、って顔でも声でも無いけれど」
岬 深羽「・・・・・・まぁ、そう言うことにしましょ」
〇空港ターミナルビル
〇空港ターミナルビル
頼光 源「・・・・・・」
昏木「お疲れ様でーすっ」
頼光 源「昏木《くらき》か・・・・・・」
頼光 源「相変わらず能天気そうだな、お前は」
昏木「えー?」
昏木「そうですかぁ?」
昏木「そんなこと無いんだけどなぁ」
頼光 源「在るだろ」
昏木「えー・・・・・・」
沙汰「お疲れ」
沙汰「頼光《よりみつ》」
頼光 源「沙汰《さた》さん」
頼光 源「沙汰さんもお疲れ様でした」
昏木「ちょっ・・・・・・」
昏木「僕のときと態度違くないっ?」
頼光 源「そんなことは・・・・・・」
頼光 源「在るな」
昏木「もーっ」
沙汰「やめろ、昏木」
沙汰「大人気無い」
昏木「ぐぅううう」
沙汰「それより、頼光」
沙汰「見付けたの、お前だったそうだな」
沙汰「岬、深羽」
頼光 源「・・・・・・」
昏木「そう言えば、」
昏木「事件当時の岬深羽を捕まえたのも、」
昏木「頼光くんだったよね?」
頼光 源「別に・・・・・・」
頼光 源「たまたまだろ」
昏木「ふぅん?」
昏木「たまたまかぁ」
頼光 源「何だよ」
頼光 源「言いたいことが在るなら、はっきり言えよ」
昏木「大したことじゃないよー」
昏木「ただ、思ってさ」
昏木「頼光くんに会いたいから、」
昏木「逃げたのかなってさ」
頼光 源「っ!」
〇黒背景
あなたに会いたかったからよ
〇空港ターミナルビル
頼光 源(どっかで聞いてた・・・・・・訳じゃねぇよな?)
頼光 源(通信機の電源は切っていたし)
頼光 源「お前・・・・・・」
頼光 源「相変わらず怖いヤツだな」
昏木「えー?」
昏木「そうかなぁ・・・・・・」
頼光 源「そうだよ」
頼光 源「沙汰さんも、苦労してんでしょ」
沙汰「おいおい、」
沙汰「俺に振るなよ」
沙汰「まぁ、その通りなんだけどな」
昏木「ひどい!」
頼光 源「ははは」
昏木「もー・・・・・・」
〇研究施設の玄関前
沙汰「にしても、今回の件」
沙汰「また、マスコミが騒ぐだろうな」
昏木「まぁ」
昏木「だから僕たちも裏から出る訳ですしね」
昏木「岬深羽も」
頼光 源(事が大き過ぎて、上層部はメディアに見せしめもしなかったか)
頼光 源(未成年だしな・・・・・・だが、)
頼光 源(おとなしく連行されて行くだろうか・・・・・・)
頼光 源(また逃げ出したりは・・・・・・)
沙汰「そう言や、」
沙汰「岬の本家は今回も我関せず、か?」
昏木「えぇ、」
昏木「そのようですね」
昏木「政治家なんてなって表舞台に立つからだー、って」
昏木「言い切ってましたからね」
〇結婚式場のテラス
岬 遠矢「表舞台に立つからこうなるんです」
岬 遠矢「政治家なんてものは、なるもんじゃない」
岬 遠矢「裏から操るのが丁度良いんです」
小鳥遊 颯稀「・・・・・・」
〇研究施設の玄関前
沙汰「容赦が無いな、本家の坊っちゃんは」
昏木「隣りにいたご友人が、呆れてましたよ」
沙汰「まともな友達はいるのか・・・・・・」
沙汰「“修羅の家”」
沙汰「って言うだけは在るな」
頼光 源(“修羅の家”)
頼光 源(今回も報道規制が布かれる、か)
頼光 源(代々、官僚を輩出したり、前身が財閥系の大手会社で幹部や役員をやっているものの、)
頼光 源(表で目立つ行動はしない)
頼光 源(名字も特別変わっている訳で無し)
頼光 源(報道規制さえしてしまえば、問題など皆無に等しいってことなんだろう)
頼光 源(父親の議員だけが大変で)
頼光 源(まったく、暗躍と言う表現がよく似合う家だな)
昏木「修羅の家、か」
昏木「そうなんでしょうね」
〇研究施設の玄関前
昏木「“岬”は『御酒《みさけ》』」
昏木「もともとは神社仏閣にお酒を奉納していた『神酒《みき》』家の傍流だったんですよ」
頼光 源「神酒?」
昏木「分家として、分かつとき、『神酒』の『神』が“御酒《おさけ》”の『御《お》』に変化して」
昏木「お酒の『御酒《みき》』に・・・・・・」
昏木「そこから変じて“みき”“みさけ”と来て“みさき”、で、」
昏木「今の『岬』になったんだそうですよ」
沙汰「へぇ、そうなのか」
昏木「えぇ」
昏木「本家の神酒は今でも地元の酒蔵ですけど」
昏木「岬家は神職を出したりして地域に貢献したんです」
昏木「冠婚葬祭に、お祭りなんかも神社と地域で取り仕切るでしょ?」
沙汰「ああ、確かに」
昏木「コレが首都まで裾野を拡げて」
昏木「現代の岬家になったんですよ」
〇研究施設の玄関前
昏木「お酒を作っている訳でも無いですし」
昏木「神酒家とも乖離したんで、」
昏木「もう関わりも無いってことで『酒』の字を消しちゃったんでしょうね」
沙汰「成程なぁ」
頼光 源(本当によく知ってるな・・・・・・)
沙汰「だとすると、」
沙汰「血の繋がらない娘と言え、」
沙汰「神職を出した家が殺人犯を出すとはな」
昏木「さぁ、それはどうでしょう?」
昏木「“酒”、と言えば」
昏木「『酒呑童子』」
昏木「ってのも在りますからね」
〇研究施設の玄関前
頼光 源「酒呑童子、ってお前」
頼光 源「鬼じゃないか」
昏木「鬼も、」
昏木「所変われば品変わる、でね」
昏木「場所に拠っては『神』として崇め奉っていることも在る」
昏木「鬼子母神なんかが、わかり易いかな」
昏木「一転して、」
昏木「台湾や中国では幽霊を指す言葉だね」
昏木「前述の鬼子母神然り、京都の橋姫なんかもだけど、」
昏木「夜叉など鬼は女性が変化する、とも言うし」
昏木「案外、今回の件にも、ぴったりなんじゃないかな?」
〇空港の待合室
麗しき大量殺人鬼の令嬢
『少女M』
〇空港の待合室
〇研究施設の玄関前
頼光 源「・・・・・・」
昏木「そう言えば、」
昏木「袂《たもと》くんが言ってたんだけど」
知ってます? 昏木さん
昏木「異類婚姻譚でいつも裏切るのは、」
昏木「いつだって人間だそうだよ」
昏木「そりゃそうだよね」
昏木「化け物側は裏切るまでも、無いからね」
〇研究施設の玄関前
昏木「契りを結ぶ時点で、化け物の目的は達成されているんだから・・・・・・」
〇研究施設の玄関前
【 了 】
「てふてふ」は、ホラーの作品ですが、その緊張感とサスペンスがとても魅力的でした。特に空港でのシーンでは、岬深羽と頼光源のやり取りが興味深く、物語に引き込まれました。作者の描写は緻密で、読んでいてドキドキ感がありました。また、作品のタイトルとあらすじからは、さらなる展開が期待されます。ホラー好きなら、ぜひ一読してほしい作品です。
こんばんは!
違う作品の番外篇のようなものだったのでしょうか。鬼の話や酒の話、昏木くんの話面白かったです👍
彼女が主人公なのかと思っていたら、三人の男性の話の展開から、別の核のような存在が現れたような気がするのですが、それがはっきり何なのか分からずそこに惹かれるお話でした。