第五話 オーバーヒートする愛(脚本)
〇豪華なリビングダイニング
西川 満「お前らは最低だ!」
西川 満「俺に隠れて二人で会って・・・」
西川 満「何も知らない俺のことを嘲笑ってたんだろ!」
福地 理沙「違うの、話を聞いて!」
西川 満「黙れよ、この尻軽が!」
福地 理沙「尻軽って・・・」
福地 理沙「満、何か誤解してる!」
坂本 敏明「ええ。私たちはただ、お互いの体温を戻していただけです」
西川 満「信じられるかよ、そんな話!」
福地 理沙「・・・どうして、あたしがここにいるってわかったの?」
福地 理沙「だって、水曜日は──」
西川 満「ああ、料理教室に行ってると信じてた」
西川 満「まさか浮気してるなんて、微塵も考えなかったよ!」
福地 理沙「浮気じゃないよ・・・」
坂本 敏明「それでは何故分かったのですか?」
西川 満「この間の金曜日、理沙を抱きしめた時」
西川 満「いつもより少しだけ体温が低いような気がしたんだ」
福地 理沙「嘘・・・だって、違ってたとしても0.3℃ぐらい」
福地 理沙「そんなの分かるわけが──」
西川 満「分かるんだよ、理沙のことならなんでも」
西川 満「愛しているから」
坂本 敏明「それで、日曜日以外でも体温を戻していると思ったのですね」
西川 満「・・・理沙を疑うなんて、それだけで胸が苦しかった」
西川 満「俺の勘違いに決まってる。そう思いながら、理沙が寝ている間にこっそり体温を計った」
西川 満「金曜日なら、体温は37.0℃のはずだった」
西川 満「体温計の表示は36.7℃だった」
福地 理沙「ごめんなさい・・・」
西川 満「ふざけるな!」
西川 満「本当はその場で叩き起こして、痛めつけて、すべてを白状させてやろうと思った!」
福地 理沙「ひっ」
西川 満「でもまだ、自分が間違っていると信じたかった」
西川 満「それで今日、坂本の家の前で張り込んでいたら・・・」
福地 理沙「違うの、満のためなの!」
西川 満「ちくしょう、俺を裏切りやがった!」
坂本 敏明「落ち着いてください」
坂本 敏明「理沙さんの言う通り、これは満さんのためにやったことなんです」
西川 満「理沙さん・・・?」
西川 満「人の女を名前で呼んでんじゃねぇぞ!」
坂本 敏明「・・・理沙さんは、あなたの所有物ではありませんよ」
坂本 敏明「一人の対等な相手として見てあげてください」
福地 理沙「満、お願いだから話を聞いて」
福地 理沙「満との関係を保つためには、あたしが健康でいなきゃいけないって思ったんだよ」
西川 満「自分たちを正当化しようとしたって無駄だ」
西川 満「お前たちはクズで、最低で、罪人だ」
福地 理沙「お願い、許して・・・」
西川 満「罪人にはペナルティだ」
西川 満「これからしばらく、会うのは二週間に一回にする」
福地 理沙「な、なに言ってるの!?」
福地 理沙「それじゃまともに仕事も出来ない!」
坂本 敏明「二週間体温を戻せないと、私は35.1℃、理沙さんは37.9℃になります」
坂本 敏明「そうなると、日常生活も困難なレベルです」
西川 満「ペナルティの意味を分かっていないのか?」
西川 満「苦しんで、後悔しないと意味がない」
坂本 敏明「・・・あなた、イカレてますよ」
西川 満「罪人の言うことなんて聞こえないな」
西川 満「勝手に会おうとしても無駄だからな」
西川 満「理沙のスマホにGPSアプリを入れていつでも場所を確認できるようにする」
福地 理沙「そんな!」
西川 満「24時間、ずっと監視してやる」
西川 満「少しでも怪しい動きをしたら、すぐに駆け付ける」
西川 満「もしその時一緒にいたら・・・」
西川 満「今度こそどうなっても知らないからな」
坂本 敏明「最低な脅しですね」
西川 満「俺に従うしかないんだよ、お前たちは」
〇オフィスのフロア
福地 理沙「ふぅ、ふぅ・・・」
江藤 由紀「理沙、大丈夫?」
福地 理沙「うん、明後日には体温を戻せるから」
福地 理沙「今が踏ん張り時・・・」
江藤 由紀「ねえ、こんなのやっぱりおかしいよ」
江藤 由紀「私からも満君を説得してみる!」
???「もうお前みたいな嘘つきの言葉は信じないよ」
由紀と理沙が振り返ると、二人の後ろにパソコンを持った満が立っていた。
江藤 由紀「満君・・・」
江藤 由紀「あのさ、いくらなんでもこんなのやりすぎだよ」
江藤 由紀「恋人を苦しませてそんなに楽しいの?」
西川 満「由紀ちゃん、席をどいてくれるかな」
西川 満「今日から君の席には俺が座るから」
江藤 由紀「え?」
西川 満「上司に相談して、俺だけ経理部の方で仕事させてもらうことにしたんだ」
福地 理沙「そんな勝手、許されるわけない」
西川 満「理沙の病気は社内にも知られているからね」
西川 満「病に苦しむ理沙のことを傍で支えたいと言ったら、上司も快く了承してくれたよ」
江藤 由紀「そんな、嘘でしょ・・・」
西川 満「やったね、理沙。これからは会社でもずっと一緒にいられるよ」
福地 理沙「ずっと、一緒に・・・」
〇豪華なリビングダイニング
坂本 敏明「はぁ、はぁ・・・」
福地 理沙「坂本さん、もう少ししっかり手を握ってください。ほどけてしまいそうです」
坂本 敏明「す、すみません、手に力が入らなくて・・・」
西川 満「ははは、辛そうですね、坂本さん」
西川 満「でも大丈夫ですよ」
西川 満「調べてみたら人間って30℃ぐらいまで下がっても死なないらしいですから」
西川 満「二週間っていうのもぬるかったかな」
西川 満「今度は三週間にしますか?」
坂本 敏明「・・・もともと基礎体温が高い方だったもので」
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