狂おしいほど熱せられ

穂橋吾郎

第六話 熱で溶けた魔法は(脚本)

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〇病院の診察室
西川 満「先生、早く理沙を治してやってください!」
西川 満「金ならいくらでも──」
医者「落ち着いてください、順を追ってご説明しますから」
医者「手術の内容についても」
医者「リスクについても」
福地 理沙「リスク・・・?」
医者「・・・福地さんと坂本さんから採取した血液を使って、様々な臨床実験を行いました」
医者「その結果」
医者「お二人の血漿を一定量交換することで、症状を打ち消すことができると判明しました」
福地 理沙「血漿を・・・交換?」
医者「お二人の体から同量の血漿を抜き、それを相手の体に輸血するのです」
西川 満「そんなのでホントに治るんですか?」
医者「少なくとも実験では、病気の原因であるウィルスの活動を抑制することに成功しました」
医者「現状ではこれが最も有効な治療であることは間違いありません」
福地 理沙「・・・では、先ほどおっしゃっていたリスクとは?」
医者「実際に血漿を交換して、どのような副作用が起きるのか予想がつきません」
医者「もしかしたら強い拒絶反応が起きて」
医者「最悪の場合、死に至る可能性も・・・」
福地 理沙「そんな!」
西川 満「そうならないようにするのが、あんたら医者の仕事だろ!」
医者「我々にとっても、全く未知の病気なのです」
医者「手術が成功する確率は良くて50%」
医者「仮に成功したとしても」
医者「何かしら後遺症が残る可能性があることを覚悟しておいてください」

〇豪華なリビングダイニング
西川 満「すぐに手術すべきだ」
坂本 敏明「私は反対です。リスクが高すぎます」
坂本 敏明「研究が進んで、より良い治療方法が確立されるのを待つべきです」
西川 満「そうやって悠長なことを言っている間に、逆に病気が悪化するかもしれないだろ!」
西川 満「少しでも早く理沙を治してやりたいんだよ」
福地 理沙「満・・・」
坂本 敏明「現状を維持すること、手術をすること」
坂本 敏明「この二つを比べて、今はまだ現状維持の方がリスクが低いと言っているんです」
西川 満「リスクだけの話じゃない」
西川 満「俺と理沙の精神的な苦痛も考えろ」
西川 満「恋人の前で知らない男と手を繋ぐこと」
西川 満「それをずっと見せられること」
西川 満「俺たちは、もうそんなの耐えられないんだ」
西川 満「なあ理沙、そうだろ?」
福地 理沙「う、うん、そうだね・・・」
坂本 敏明「死んでしまっては、元も子もないですよ」
西川 満「死んでもいい」
福地 理沙「え」
西川 満「こんなに苦しい思いが続くぐらいなら」
西川 満「いっそ死んだ方がマシだ」
坂本 敏明「自分のエゴのために恋人の命を危険にさらすつもりですか!」
西川 満「エゴなんかじゃない、理沙だって同じ気持ちだ!」
福地 理沙「・・・・・・」
西川 満「安心しろ、もし理沙が死んだら、俺もすぐに死ぬ」
西川 満「天国で理沙を一人になんかしない」
坂本 敏明「・・・理沙さん、本当にリスクを負って手術をする方が良いと思いますか?」
福地 理沙「それは・・・」
西川 満「理沙」
  満は理沙の腕を掴んだ。
福地 理沙「ひっ」
西川 満「お前は俺を困らせるようなこと言わないよな?」
福地 理沙「あ、あたしは・・・」
福地 理沙「満の言う通りにします」
坂本 敏明「理沙さん、本心を偽らないでください!」
福地 理沙「これが本心です!」
福地 理沙「あたしは、手術がしたい」
坂本 敏明「・・・私は絶対に手術を受けません」
坂本 敏明「満さんの言いなりにはなりませんよ」
西川 満「・・・そうかよ」
西川 満「後悔することになっても知らないぞ」
坂本 敏明「それは、どういう──」
西川 満「理沙、帰るぞ」
福地 理沙「う、うん」
坂本 敏明「理沙さん、待ってください」
坂本 敏明「このままではダメです」
坂本 敏明「満さんの言いなりになっていては」
坂本 敏明「たとえ病気が治ったとしても、その先に幸福は無い」
福地 理沙「・・・怖いんです」
福地 理沙「逆らったりしたら、一体なにをされるか・・・」
満の声「おい、理沙! 早く来い!」
福地 理沙「ご、ごめんなさい、すぐに行きます!」
坂本 敏明「・・・冗談じゃない」
坂本 敏明「こんなことあっていいはずがない」

〇オフィスの廊下
江藤 由紀「理沙、待って!」
福地 理沙「・・・・・・」
江藤 由紀「ねえ、私なんかしたかな?」
江藤 由紀「理沙に避けられてるような気がするんだけど・・・」
福地 理沙「・・・満から、由紀とはもう話すなって言われてるの」
江藤 由紀「え、何それ!?」
福地 理沙「あたしが満以外の人と話しているのを見ると、イライラするからって」
江藤 由紀「最低・・・。もう許せない」
江藤 由紀「私からガツンと言ってやる」
福地 理沙「や、やめて!」
福地 理沙「そんなことしたら、満に何されるか分かんない!」
江藤 由紀「だって、このままじゃ・・・」
福地 理沙「もう、あたしに関わらないで」
江藤 由紀「理沙・・・」

〇明るいリビング
  日曜日
福地 理沙「はぁはぁ、満、準備出来たよ」
福地 理沙「早く坂本さんの家に行こう」
福地 理沙「今日はちょっと、いつもより体がしんどくて──」
西川 満「今日は行かない」
西川 満「体温を戻すのは、もう一週間延長だ」
福地 理沙「な、なに言ってるの!」
西川 満「坂本が手術に同意しないからだよ。あいつのせいだ」
福地 理沙「む、無理だよ、もう体が熱くて仕方ないの」
福地 理沙「このままもう一週間なんて・・・」
西川 満「文句は坂本に言え」
西川 満「おっ、来たか」
西川 満「理沙はリビングにいろ」
坂本の声「満さん、一体どういうことですか!」
坂本の声「今週は体温を戻さないって!」
福地 理沙「坂本さん・・・!」
満の声「そのままの意味だよ。あんたが考えを改めるまで、体温は戻させない」

〇玄関内
坂本の声「中に入れてください、一度冷静に話し合いましょう」
西川 満「ダメだ、交渉の余地はない」
西川 満「帰って反省しろ」
福地 理沙「み、満、坂本さんを入れてあげて!」
西川 満「ちっ、お前はリビングにいろって言ったろ!」
福地 理沙「きゃあっ!」

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