第四話 隠された熱気は(脚本)
〇豪華なリビングダイニング
坂本 敏明「理沙さん、こちらのワインはいかがですか?」
坂本 敏明「あまり一般に出回ることの無い珍しい一本です」
福地 理沙「いえ、酔って帰るわけにはいかないので・・・」
坂本 敏明「映画も違うものにしましょうか」
坂本 敏明「もう少し落ち着いて観られるような──」
福地 理沙「あの、もう帰りますね!」
福地 理沙「体温も戻せましたし」
坂本 敏明「そうですか」
坂本 敏明「せっかくの機会でしたので、ゆっくりとお話できればと思っていたのですが」
福地 理沙「満が待っているので」
福地 理沙「彼を心配させたくないんです」
坂本 敏明「お二人は本当に仲が良いですね」
坂本 敏明「いつでもお互いを思いやっていて」
坂本 敏明「実に羨ましい」
福地 理沙「付き合っていれば、これぐらいは当然です」
坂本 敏明「そう思えていることが素敵ですよ」
坂本 敏明「もう遅いですから駅まで送ります」
福地 理沙「い、いえ、一人で大丈夫です」
福地 理沙「今日はありがとうございました」
福地 理沙「次は日曜日に」
坂本 敏明「・・・まあ」
坂本 敏明「焦らずじっくりかな。ふふふ」
〇明るいリビング
福地 理沙「ただいまー」
西川 満「理沙、大丈夫だったか!」
福地 理沙「み、満、どうしたの!」
西川 満「全然連絡がなかったから心配してたんだよ」
福地 理沙「・・・ごめん、料理に集中してたから」
西川 満「楽しかったか?」
福地 理沙「最近は病気のことで気が滅入ることも多かったけど、いい息抜きになったよ」
西川 満「そっか、それなら良かった」
西川 満「なんだか顔色も良くなったみたいだな!」
福地 理沙「これからも、水曜日は由紀と料理教室に通うことにするね」
西川 満「ああ、由紀ちゃんがいてくれれば安心だし、思い切り楽しんだらいい!」
福地 理沙「ありがとう・・・」
〇豪華なリビングダイニング
西川 満「もともと理沙の料理は絶品だったんですけど、それが更に美味くなるなんて・・・」
西川 満「今から楽しみで!」
坂本 敏明「いいですね。私も理沙さんの料理、食べてみたいです」
福地 理沙「いえ、まだ通い始めたばかりなので・・・」
西川 満「ダメですよ坂本さん」
西川 満「理沙の手料理を食べられるのは、彼氏である俺の特権なんですから」
坂本 敏明「でも、水曜日は寂しいですね」
西川 満「まあ、そうなんですけど、理沙が楽しいなら・・・」
西川 満「って、あれ」
西川 満「水曜日に行ってるっていいました?」
福地 理沙「い、言ってたよ、最初に!」
西川 満「んー、そうかな・・・」
理沙が横目で坂本を見ると、坂本はイタズラっぽく舌を出して笑った。
〇オフィスのフロア
江藤 由紀「ふーん、じゃあこの一ヶ月、バレずにやれてるんだ」
福地 理沙「なんとかね」
江藤 由紀「満君も割と鈍感なんだね」
福地 理沙「あたしのこと信頼してくれてるんだよ」
福地 理沙「そんな満を騙すのは心苦しいけど」
福地 理沙「やっぱり体温を正常に保てるのは助かるな」
江藤 由紀「ねぇねぇ、坂本さんとは何もないの?」
福地 理沙「無いってば」
江藤 由紀「ずーっと紳士なまんま?」
福地 理沙「うーん、たまにイジワルかな・・・」
江藤 由紀「なになに、それどういうこと!?」
課長「江藤さん、ちょっといいかな」
江藤 由紀「あ、課長、お疲れ様です」
課長「今度、新会計システム導入のための会議があるんだけど」
課長「江藤さんに若手メンバーとして参加して欲しいんだ」
福地 理沙「え」
江藤 由紀「はーい、分かりました」
課長「ありがとう、よろしくね」
〇オフィスの廊下
福地 理沙「あの、課長!」
課長「ん、何かな?」
福地 理沙「先ほど由紀・・・江藤さんに言っていた」
福地 理沙「新会計システム導入プロジェクトのメンバーについてなのですが」
福地 理沙「あれは、私が参加する予定だったはずでは?」
課長「・・・ん? ああ、どうだったかな」
福地 理沙「覚えています」
福地 理沙「これでもっと会社に貢献できると思って、とても嬉しかったですから」
課長「その時はそうだったのかもしれないが、いろいろと状況も変わって──」
福地 理沙「私が高温症だからですか?」
課長「・・・・・・」
福地 理沙「高温症の私に大事な仕事は任せられない。そういうことですか?」
課長「・・・すまんが、この話はこれまでだ」
福地 理沙「・・・・・・」
〇明るいリビング
福地 理沙「それで結局、由紀がメンバーに選ばれてさ」
西川 満「へー」
福地 理沙「病気になる前は、絶対にあたしがメンバーだって言ってたんだよ」
福地 理沙「それなのに・・・」
福地 理沙「って、ねえ、聞いてる?」
西川 満「んー、ごめん、テレビ見てた」
福地 理沙「真剣に聞いてよ」
西川 満「まあまあ、そんなマジになんないで」
西川 満「仕事は俺が頑張って稼ぐからさ」
福地 理沙「そうじゃなくて──」
西川 満「分かった分かった」
満が理沙を抱きしめる。
西川 満「理沙は病気なのに頑張ってて偉いなー。よしよし」
福地 理沙「ちっとも分かってない・・・」
西川 満「・・・ん、あれ?」
福地 理沙「どうしたの?」
満は理沙の首に手を当てた。
西川 満「・・・今日って、何曜日?」
福地 理沙「・・・金曜日だけど?」
西川 満「金曜日・・・」
福地 理沙「あ、あたし、お風呂入ってくるね」
理沙は満の手をほどいて、浴室へ歩いて行った。
西川 満「・・・・・・」
満は理沙の首に触れていた自分の手をじっと見つめた。
〇豪華なリビングダイニング
福地 理沙「はぁ・・・」
坂本 敏明「今日は元気ないんですね。どうしましたか?」
福地 理沙「いえ、全然気にしないでください」
坂本 敏明「ふふ、3時間手を繋いだまま気にしないようにするのは、少し骨が折れそうです」
福地 理沙「・・・ですよね」
坂本 敏明「どうぞ話してください」
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