「雪が散って、桜が舞い、季節記念館は四季を贈る。」(脚本)
〇綺麗な図書館
後輩「先輩っ」
後輩「昔は、四季ってものがあったらしいですよ」
後輩「夏と秋って、どんな季節なのか気になりますね」
後輩「もしも夏と秋があったら、先輩と何をしたいか・・・・・・」
後輩「妄想が膨らみすぎて、困っちゃいますね」
後輩「先輩は、私と何がしたいですか?」
私は
四季ある世界を、あなたと
生きてみたかった
〇朝日
明日の予報は、春でしょう
館長「何、この天気予報・・・・・・」
館長「はぁ」
〇結婚式場の前
館長「毎日毎日、花びらを掃除する身にもなってみなさい!」
後輩「館長、掃除の手が止まっていますよ」
後輩「明日は、桜が満開かもしれませんね」
館長「桜なんて降ってきても、ゴミになるだけ」
後輩「う~わ~・・・・・・」
後輩「ゴミって言いましたね? ゴミって・・・・・・」
館長「さっさと開館準備を進めて」
後輩「はーい・・・・・・」
後輩「館長」
後輩「明日の天気が、春なのは聞こえましたけど」
後輩「今日の天気は、なんでしたっけ?」
館長「今日の天気は、曇り」
館長「そして、冬」
後輩「花びら、凍っちゃいますね」
館長「曇りだから、雪は降らない」
後輩「ですね」
〇英国風の図書館
もう、夏と秋に会うことはできない
もう、夏と秋を残すことすらできない
季節記念館
日本を彩る四季を紹介する、唯一の場所が
館長「もうすぐ終わる・・・・・・」
後輩「せーんぱいっ」
館長「今は、館長・・・・・・」
後輩「先輩は、独りじゃないですよ」
館長「はい、はい、ありがとうございま・・・・・・」
後輩「確かに、春と冬だけが訪れる生活に私たちは慣れてしまいました」
後輩「それで、夏と秋を惜しむ人の数が減りました」
後輩「だから、季節記念館は閉館することになっていう流れは理解しています!」
後輩「でも!」
後輩「先輩と一緒なら」
後輩「夏と秋を覚えていられるんじゃないかなって」
館長「夏と秋を体験したことがない世代なのに?」
後輩「うっ」
後輩「私はですね!」
後輩「先輩と一緒なら、何が起きても大丈夫って話がしたくて・・・・・・」
館長「ありがとう」
館長「いつも私のことを助けてくれて、ありがとう」
後輩「なっ、なっ、なっ・・・・・・」
館長「言葉になっていないみたいだけど」
後輩「今日の先輩、とても意地悪です・・・・・・」
館長「どこが意地悪なのかしら?」
後輩「私、掃除に戻ります! 戻りますからね!」
後輩「戻っちゃいますよ!」
後輩「先輩は、独りぼっちになっちゃいますよ!」
館長「・・・・・・まったく」
館長「私が独りぼっちにならないのは、あなたがいてくれるからなのに」
館長(そう)
館長「あなたがいるから、私の世界が変わったの・・・・・・」
〇雪山の森の中
館長「本当なの・・・・・・」
〇海
館長「本当に四季というものがあって・・・・・・」
〇菜の花畑
「嘘つき」
「嘘つき」
「大噓つき!!」
〇綺麗な図書館
後輩「先輩?」
後輩「探しましたよ」
夏と秋が亡くなった
だから
人々は、春と冬を愛するしかできなくなった
後輩「あの!」
後輩「私、先輩には笑顔でいてほしいファンクラブ代表の者です!」
後輩「だから・・・・・・」
後輩「あの・・・・・・」
後輩「その・・・・・・」
後輩「先輩の傍で、先輩の笑顔を見守ってもいいですか」
四季が失われた世界で
彼女は、私を見つけてくれた
後輩「四季を忘れてほしくないなら」
後輩「季節図書館とか、季節記念館とか」
後輩「そういう類のものを設立すればいいのではないでしょうか!?」
忘れられることを恐れていた臆病な魔女は
想いを紡ぐことの大切さを人から教わった
〇英国風の図書館
館長「窓、開けっぱなし・・・・・・」
後輩「館長、館長、館長!」
後輩「桜です! 桜が降ってますよ!」
後輩「天気予報がはずれることもあるんですね・・・・・・」
桜が舞う
後輩「先輩?」
後輩「独りにしたから、ですか?」
後輩「私が、先輩のことを置いていったから・・・・・・」
空から舞い散る淡い桃色に
泣きたくなるような感情を抱いてしまうのは
どうしてだろう
後輩「先輩」
館長「忘れないで」
後輩「はいっ」
館長「忘れてもいいなんて、言わないで」
館長「ちゃんと四季が存在して、人々が四季に対して想いを馳せていたこと」
館長「信じて」
後輩「信じるに決まってるじゃないですか!」
後輩「先輩には笑顔でいてほしいファンクラブの代表が」
後輩「先輩の話を信じなくて、どうするんですか!?」
後輩「私は、夏と秋のように消えたりしません」
後輩「触れてください」
後輩「確かめてください」
後輩「私が存在しているってこと、信じてください」
館長「いいの・・・・・・?」
後輩「その代わり、私も先輩に触りますっ」
館長「っ」
館長「それは無理!」
館長「恥ずかしいからっ!」
後輩「先輩」
後輩「私も、先輩の存在を確かめたいんです」
後輩「突然、私の傍からいなくならないように」
後輩「私に『過去』を教えてくれた魔女さんが」
後輩「もう泣かなくて済むように」
後輩「先輩の笑顔を」
後輩「これからも私が守っていくために」
〇結婚式場の前
館長「夜桜でお花見もいいかも」
後輩「奢ってくださいね、先輩っ」
館長「お金なら、山のようにあるから」
後輩「うわー・・・・・・」
後輩「お金持ち発言、宜しくないですよ!」
館長「お金で買えないものはないんだから」
後輩「魔女って職業、儲かりますか!?」
泣きたくなるほどの衝動を抱えていたはずだけど
それは
きっと、気のせい
一度読むと、何度でも読みたくなるような、不思議な魅力がある作品だと思いました。
読んでいると、泣きたくなるような、微笑みたくなるような、心の柔らかいところに触れてくるようなお話に感じました。
読むことができて良かったです!ありがとうございました!
移ろう季節を感じ取ること、細やかな人の情を感じ取ること、いずれも「繊細な感性」が必要なのかも、読後にふとそんなことを思ってしまいました。気候が大きく変わりつつある昨今、人の情は変わらず温かであってほしいものですね、後輩ちゃんを見てそう強く感じ入りました。
魔女が館長を務める季節記念館という設定が魅力的です。当たり前にあると思っていたものが失われた時に生まれるノスタルジーや感傷的な思いに溢れた優しい物語でした。