狂おしいほど熱せられ

穂橋吾郎

第一話 発熱する二人(脚本)

狂おしいほど熱せられ

穂橋吾郎

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〇集中治療室
  集中治療室
  いくつもの真白い医療機器に囲まれて、福地理沙はベッドに横たわっていた。
福地 理沙「うっ、ううう、あああ・・・」
  体中から汗を噴き出させながら、理沙は苦し気にうめいた。
  理沙の体温を示すモニターには【41.3℃】と表示されていた。
福地 理沙「もう、ダメ・・・。苦しい、あああ・・・」
???「理沙、理沙ぁ・・・」
福地 理沙「え?」
  どこからか、理沙を呼ぶ声が響いてきた。
???「俺の理沙。はぁはぁ、愛してるよ・・・」
福地 理沙「嘘・・・。嫌、やめて」
???「さあ、早くこっちへおいで! もう一度抱きしめさせておくれ・・・」
福地 理沙「もう私に、付きまとわないで!」
???「理沙、もう二度と離れたりしないよ!」
福地 理沙「いやあああっ!」

〇赤(ディープ)
  狂おしいほど、熱せられ

〇明るいリビング
「理沙!」
福地 理沙「えっ、なに?」
西川 満「なにじゃないよ。ずっと話しかけてたのに、無視してさ」
福地 理沙「ごめん、ちょっとボーっとしてた」
西川 満「疲れてる? 今週、仕事忙しかった?」
福地 理沙「全然、いつも通り。課長がギャグ言って滑って、それを皆でフォローして」
西川 満「ははは、経理部は仲良くて羨ましい」
福地 理沙「営業部の方が活気あって楽しそうだよ」
西川 満「うちは無理矢理テンション上げてるだけだから」
福地 理沙「ごほっごほっ」
西川 満「・・・やっぱり体調悪そうだよ。 熱でもあるんじゃない?」
福地 理沙「んー、このところ微熱が続いてて。 今朝も少し熱があったんだよね」
  理沙は毎日体温を記録しているスマホアプリを開いた。
福地 理沙「でも37.3℃だから、そこまで高熱ってわけでも──」
西川 満「ちょっと待って。おかしいよ」
福地 理沙「何が?」
西川 満「理沙の体温、一週間前から0.1℃ずつ上がってる」
福地 理沙「ええっ?」
福地 理沙「えーっと36.5、36.6、36.7・・・」
福地 理沙「ホントだ。なんだろう、不思議なこともあるもんだねー」
西川 満「・・・理沙、すぐに病院に行こう」
西川 満「それで精密検査してもらおう」
西川 満「体温が0.1℃ずつあがる・・・この症状、どこかで聞いたことある気がするんだ」
福地 理沙「精密検査って、満は心配しすぎなんだよ」
西川 満「何か、重篤な病気かも・・・」
福地 理沙「あはは、そんなわけないじゃん」
西川 満「何かあってからじゃ遅いだろ!!」
福地 理沙「!」
福地 理沙「大きな声出さないでよ・・・」
西川 満「理沙のことが心配なんだよ」
西川 満「すぐにタクシー呼ぶから、待ってて!」

〇病院の診察室
福地 理沙「高温症・・・?」
医者「一刻も早く、入院の手続きをしてください」
西川 満「ちょ、ちょっと待ってください! 詳しい説明も無しにいきなり入院だなんて」
医者「混乱するお気持ちも分かりますが、事態は急を要するのです」
医者「高温症は本当に進行が早い病気なんです」
福地 理沙「一体、どんな病気なんですか?」
医者「世界でも数件しか報告されていない、極めて珍しい病です」
医者「一日に0.1℃ずつ体温が上昇し」
医者「やがて42℃を超え、死に至る」
西川 満「そんな・・・」
福地 理沙「ど、どうすれば治るんですか?」
医者「残念ながら、治療法は見つかっていません・・・」
福地 理沙「じゃあ、あたしは、このまま・・・」
西川 満「そんなの、嘘だ!」
福地 理沙「満?」
西川 満「理沙、大丈夫、俺がなんとかするから!」
福地 理沙「どうしよう、あたし怖い・・・」
西川 満「心配するな、俺がついてるから!」

〇病室
西川 満「理沙、着替え持ってきたぞ!」
福地 理沙「うっ、ありがとう・・・」
西川 満「ああ、いいよ、横になってて! 体、しんどいだろ」
福地 理沙「・・・本当に毎日0.1℃ずつ上がっていくの」
福地 理沙「もう38.8℃になっちゃった」
福地 理沙「このままじゃ、あっという間に死ん──」
西川 満「弱気になるなよ! きっと、すぐに治療法が見つかる」
西川 満「理沙は助かるよ!」
福地 理沙「気休め言わないで!」
福地 理沙「他の病院のお医者さんも来てくれたけど、みんな治せないって言った」
福地 理沙「なんの手掛かりも無い病気の治療法が」
福地 理沙「あと一か月そこらで見つかるわけないじゃない!」
西川 満「理沙・・・」
医者「福地理沙さん、お加減はいかが──」
西川 満「先生!」
医者「は、はい?」
西川 満「理沙を助けてやってください! 金ならいくらでも払いますから!」
医者「いえ、お金の問題では・・・」
西川 満「頼むよ! 俺の体、どこでも使っていいからぁ」
西川 満「血も、骨も、心臓も、脳みそも」
西川 満「全部あげるから、なんとかしてくれよ!」
医者「も、申し訳ありません」
西川 満「おい、行かないでくれよ!」
医者「他の患者が待っていますので、では、失礼します」
西川 満「うっ、ううう・・・」
福地 理沙「ありがとう、満。 あたしのために一生懸命になってくれて」
西川 満「理沙・・・すぐに支度しろ」
福地 理沙「支度?」
西川 満「一緒に、病院を抜け出そう」

〇黒

〇車内
西川 満「理沙、ちゃんと毛布で体を包んで、寒くないようにしてね」
福地 理沙「大丈夫、興奮で体がとても熱いの」
福地 理沙「・・・ふふふ」
西川 満「どうしたの?」
福地 理沙「だって、病院を抜け出すなんて、いけないことでしょ」
西川 満「病院にいたって意味無いだろ」
西川 満「それより、二人だけの思い出をたくさん作ろう」
福地 理沙「うん、そうだね」
福地 理沙「満、電話鳴ってるよ」
西川 満「ああ、会社からだ・・・」
福地 理沙「出なくていいの?」
西川 満「・・・もう、いらない」
  満はスマホを窓の外へ放り投げた。
福地 理沙「あっ」
西川 満「会社なんてどうでもいい。 いま俺は理沙のことだけ考えていたい」
福地 理沙「でも・・・」
西川 満「俺たちの仲を邪魔する奴は徹底的に排除するんだ」
西川 満「たとえ殺してでも」
福地 理沙「そんな・・・怖いこと言わないの」
西川 満「・・・本気だよ」

〇海辺
  その後、二人は色々なところを旅してまわった。
  残された時間を濃密なものにしようと、一瞬一瞬を大切に味わった。
  そして理沙の体温は、いよいよ40℃を超えた。
福地 理沙「はぁはぁ・・・満、そこにいる?」
西川 満「ああ、いるよ。離れたりするもんか!」
福地 理沙「満がいてくれて本当に良かった」
福地 理沙「最期に楽しい思い出が出来た」
西川 満「最期なんて言うなよ!」
福地 理沙「もう、限界みたいなの・・・」
西川 満「・・・もし理沙が死んだら、俺も死ぬ」
福地 理沙「なに、言ってるの・・・」
西川 満「理沙のいない世界なんて、生きてたってなんの意味も無い!」
西川 満「天国で、ずっと一緒にいよう」
福地 理沙「満・・・大好きだよ」
西川 満「うわあああ、理沙!」
  理沙のスマホに着信があった。
  病院からだった。
西川 満「くそっ、放っておいてくれよ・・・」
西川 満「俺たちの時間を邪魔しないでくれ!」
  満は乱暴な手つきで着信を切った。
  すると、すぐに病院からメッセージが届いた。
西川 満「えっ・・・なんだ、これ」
福地 理沙「どうしたの?」
  満はスマホに表示されたメッセージを理沙に見せた。
  『すぐに病院へ戻ってください』
  『低温症の患者が見つかりました』
福地 理沙「低温症の患者・・・?」

次のエピソード:第二話 平熱の狂気

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