逢いたくて770

山本律磨

三章(脚本)

逢いたくて770

山本律磨

今すぐ読む

逢いたくて770
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇山道
  『追えーッ!追え追え―ッ!』
衛士「内親王殿下をかどわかす大逆人め!」
衛士「必ずや捕らえるのだーッ!」
  『おおっ!これはこれは!』
姫「早い!実に早い!」
姫「そなた、馬の扱いにも慣れておるのう」
竹芝「うるさい!」
竹芝「ああいや・・・静かにしておられませ」
姫「わかった、静かにしておる」
姫「そしてしっかり捕まっておるぞ」
  『逃がすなーッ!太師様の命ぞ!』
竹芝(くそ!何で俺がこんな目に)
竹芝(いっそ観念して投降するか?今なら・・・)
  『捕らえて疾く首を刎ねろーッ!』
竹芝(無理か・・・)
竹芝(ああ、間違った)
竹芝(間違った間違った間違った!)

〇白

〇荒廃した市街地
仲麻呂「帝の勅命にございます」
仲麻呂「平城宮を出られるはこれきりになされませ」
姫「貧民救済もまた父上の命ではないか」
仲麻呂「救済とは寺院、仏像などの建立。下々の者と慣れ合うことにあらず」
姫「広く見識を得よとは、師真備の教えである」
仲麻呂「見識とは唐の書物によって得るもの。道端に転がっているものではありません」
姫「ならば積善とは何じゃ?」
姫「病に苦しむ者に手ずから薬すら与えようとせぬ者に何の善行があろうか!」
竹芝「・・・!」
仲麻呂「帝を責められまするか?看過致しかねる」
姫「それもある」
姫「だがそれ以上にお前達貴族に言うておる!」
姫「ここに住まう者どもが欲しておるは薬ぞ!食べ物ぞ!」
姫「仰々しい仏像でも華々しい祭りでもない!立派な寺をひとつ作るなら、雨露を凌げる小屋を百作るべきである!」
姫「それが、道端に転がっている見識から私が学んだことだ」
仲麻呂「・・・」
仲麻呂「まことに」
仲麻呂「路傍で拾った程度の真理にございますな」
姫「・・・」
仲麻呂「先ほど有象無象の浮浪人から我らに救われた事実など、きれいさっぱり無かった事にしておられる」
仲麻呂「過ぎたる救済が平城京を流民で溢れさせておるのです」
仲麻呂「ケダモノの如きこの国に秩序をもたらし、仏道の教えをもって天下を安寧にするには寺の数が足らぬくらいだ!」
姫「・・・」
仲麻呂「・・・失礼いたしました」
仲麻呂「さような道理も分からぬ近視眼が先の帝となる罪咎こそ、この地に禍を溢れさせる源ではないかと私は懸念しております」
竹芝「あ、あの・・・それは些か言い過ぎでは?」
竹芝「私は・・・その・・・立派な帝になられるお方だと思います」
仲麻呂「竹芝と申したか?」
仲麻呂「そなた、よもや私や殿下が、村長くらいの地位と思うてはおるまいの?」
衛士「下郎めが。次にお声をかけたら処罰する」
竹芝「・・・申し訳ございません」
仲麻呂「内親王殿下、あなたの救済は仏の道に反する身勝手なもの。故に禍が収まらぬ」
姫「・・・」
仲麻呂「天は、あなた様にお怒りなのだ」

〇豪華な王宮
  『そなたの徳が、この国の徳』
  『そなたの罪が、この国の罪』
  『積善を。積善を。積善を』

〇荒廃した市街地
姫「ごめんなさい」
竹芝「・・・」
姫「もう、出歩かぬ」
姫「私は人にあらず」
姫「女にあらず」
姫「人を越えし者」
姫「帝となる者・・・」
竹芝「・・・」
仲麻呂「竹芝」
竹芝「は、はい」
仲麻呂「忠勤は褒めてつかわす。殿下を平城宮までお連れいたせ」
仲麻呂「暴れるなら縄目にしても構わん」
竹芝「そ、そんな・・・!」
仲麻呂「不徳の姫だ。これより宮中に籠りて、生涯その身を天下国家に捧げて頂く」
姫「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
竹芝「・・・」
  『お、おい!いい加減にしろよ!』
竹芝「・・・え?」
貧民「だ、大の大人がよってたかって女の子攻め立ててよう!」
貧民「ミカドだかなんだか知らないけど、その姫さんはいい娘さんだよ!」
貧民「太師様と言えどご無体がすぎましょう!」
貧民「こ、ここはわしらの街じゃ!姫様を追い出すかどうかはわしらが決める!」
貧民「出て行くのは、刀をひけらかし威張り散らすだけのあんたらの方じゃ!」
姫「みんな・・・」
衛士「おのれ・・・汚らわしい乞食どもめ!」
仲麻呂「捨て置け。ケダモノゆえ、己が何を言うておるか理解できぬのだ」
仲麻呂「竹芝、ケダモノの姫を疾く引っ立てい」
仲麻呂「神となる以前の問題だ。宮中にてまず人の道理を教えこまねばならぬ」
仲麻呂「調教、せねばな」
竹芝「調教・・・だと?」
仲麻呂「そうだ。姫だけではないぞ」
仲麻呂「乞食も田舎者も、この国のケダモノ全てを我ら貴族が人として調教する!それが天平らかなる世の幕開けだ!」
竹芝「・・・」
竹芝「畏まりました」
竹芝「平城京のやり方がよく分かりました・・・」
竹芝「姫・・・阿倍内親王殿下」
姫「そなたにも迷惑をかけた」
竹芝「参りましょう・・・」
姫「・・・え?」
仲麻呂「き、貴様。どこへ行く?」
仲麻呂「そこは羅城門!都の外ぞ!」
竹芝「黙れ!ケダモノはお前達貴族だ!」
竹芝「姫さまもここの連中も、ケダモノに教えてもらう道理など何もない!」
仲麻呂「言うたな。訳知り顔の、もの狂いめが」
竹芝「行きましょう姫様」
姫「え?」
竹芝「共に徳を積むんでしょう!」
姫「は、はい!」
仲麻呂「ふん・・・都の穢れに毒されおって」
仲麻呂「内親王殿下をかどわかす大逆人ぞ!追え!」

〇山道
姫「よよよ」
竹芝「な、何を泣いておられるのです?」
姫「もうよいたけしば」
姫「わたしをここにすててゆけ」
姫「あるいはこのままきゅうちゅうにもどりちょくせつみかどにひきわたせばそなたのいのちはたすかろうぞ」
姫「さあわたしみたいなもののみなどあんずるでないぞよ」
竹芝「・・・」
姫「よよよよよ~」
竹芝「あの、忙しいんで妙な小芝居やめてもらえませんか?」
姫「バレたか・・・」
竹芝「心配しなくても、今更見捨てたりなんかしませんよ」
竹芝「もう何もかも手遅れだ」
竹芝「ああ、間違った間違った~!庇うんじゃなかったああッ!」
姫「そなた、よくやく本音を出してくれたな」
竹芝「ふんっ!」
姫「そういうの、これからの二人にとって大事なことだぞえ」
竹芝「浮かれてる場合ではありませんぞ殿下」
姫「殿下などと、畏まった言い方はやめよ」
姫「これよりは新たな名も考えねばな」
姫「先々、片田舎でひっそりまったり幸せに暮らさねばならぬからの。のう、どんな名がよいかの」
竹芝「阿倍子でいいんじゃないっすか?」
姫「さような名前がこの世にあるか!真面目に考えよ!」
姫「・・・」
姫「・・・あ」
姫「今のって、初めてのケンカだねっ」
竹芝(やっぱり捨てて逃げようか・・・)
「・・・あ!」

〇ボロボロの吊り橋
竹芝「馬はここまでです!走って!」
姫「うわっ!」

〇渓谷
姫「ひいっ!」
竹芝「穴が開いただけだ!飛び越えて!」
姫「無理・・・無理っ!」
  『見えたぞーッ!捕らえろーッ!』
竹芝「俺が受け止める!だから飛べ!」
竹芝「飛べ!阿倍子ーーーーーーーッ!」
姫「阿倍子って言うなあああああッ!」
姫「うわああああああッ!」

〇皇后の御殿
仲麻呂「そうか・・・釣橋を切って逃げたか」
仲麻呂「奴らも命がけというわけだな」
仲麻呂「崖だけに!」
仲麻呂「・・・」
  続く

次のエピソード:四章

ページTOPへ