生意気なヤツ(脚本)
〇個別オフィス
会社を明日退職します
数十年間務めていた会社を定年退職する事になった
引継ぎや送別会は前もって終わっていた
今日は残り少ない私物を片付けて、最後の挨拶をし、帰るだけだ
私「いろんな事があったなぁ。」
中卒にもかかわらず受け入れてくれた亡き社長に感謝している。
初代社長「元気と根性で今日の困難をのりこえられる!!」
初代社長の口癖が今の社長からもよく聞く。
“今時そのセリフは古臭いですよ~”と若い社員たちによく茶化されても
めげずに毎日大きいな声で朝礼の最後に言い続けている
私「これを聞けるのも最後か。。」
熱い目と尖った笑顔がよく似ている現社長を初代社長の姿と重ね、思い出に浸る
〇オフィスのフロア
中卒だからなのか、社長に可愛がられているからなのか、よく先輩たちにいじめられていた
暴力はなかったが、よく怒鳴られやミスをなすつけらる事が多々あった
それでも家が貧乏で、母が病気だったため必死に働いた
一度も泣き言を言わず、先輩方の言う事をよく聞き、飲み会に欠かさず参加した
徐々に色んな仕事を覚え、先輩方と仲良くなった
数年後、役職がつき、はじめて部下をもらった
それがヤツだった
〇オフィスのフロア
ヤツははじめての部下であり、仲良くしようと決心していた
最初の数年はとても素直でいい子だったのに
ある日、ヤツは突然豹変した
私にため口をきいたり、バカにする事も増えた
パソコンの導入が決まった時特に大変だった
パソコンは使い慣れていないから、数か月の間は人差し指でキーボードをたたいていた
ヤツ「主任!遅い遅い!僕が教えましょうか?(笑」
パソコンを学生時代から使用していたヤツは私に見せつける様に両手でキーボードを得意げに、うるさくたたいていた
特にメールや書類の最後にキマリポーズをし、大きな音をたててエンターキーを打っていた
最初のうちはまわりが面白がっていたため、彼も調子に乗りずっとやっていた
それが癖になり、今はうるさがられてもやめられないでいる
バカなヤツ
〇空
そういえば、仕事以外にも競い合っていたことがあった
雪子(ユキコ)ちゃんが入社した時だった
ヤツと私は天使のような雪子ちゃんに一目ぼれをした
私は毎日一輪の花を贈っていた
それに対してヤツはチョコやキャンディーをプレセントしていた
毎回嬉しそうに微笑んで花を受け取るもんだからそのうち振り向いてくれると信じていた
だが、しかし
雪子ちゃんは大学時代からの婚約者がいた様で、デートできないまま半年後突然寿退社をした
ヤツも相当ショックを受けて、その夜、久しぶりに二人でオールをした
次に入ってきた子も可愛かったから、すぐ乗り越えたみたいだが
現金なヤツ
〇散らかった職員室
バブル時代のはじまりから崩壊してからも地獄の数年だった
バブル期はブイブイを言わせ何もかも楽だったというイメージだろう
好調だった時期であり、より良い条件の会社に移った社員が多くいた
日々業務に追われとても忙しくしていた
バブル期崩壊してからも、その対応に追われ忙しない数年だった
忙しない数年の中に、出世、結婚と出産
めでたい事も多くあり
会社での状況が落ち着くまで頑張れた
その頑張りによってバブル崩壊の危機は乗り越えた
〇個別オフィス
そして現在に至る・・・
片付けながら昔のことを思い出すように振り返っていた・・・
私「寂しくなるな・・・」
私「んっ?」
ドアの方に目をやると、見覚えのない荷物が置いてあった
近づいてみると・・・
私「っ!これは・・・ヤツの荷物か?」
私の荷物が片付け終わってないにも関わらず荷物がすでにあるということは・・・
私「さっさと出ていけ・・・ということか」
立ち去ろうとした瞬間・・・
ある物が目に入った
私「写真・・・?」
それはヤツが初めて契約成立をさせた打ち上げの時の写真だ。
写っているのはヤツと・・・当時の私だった。
私「こんなものをずっと飾っていたのか・・・」
心が不思議と温まった
私「・・・生意気なヤツ」
心温まる素敵なお話でした。
気が合わないと思ってた人が、最後の日にそうでもないことに気づくとは、もっと前に気づけば…と思いがちですが、その日だからこそ気づけたような気もするんです。
いいライバルだったんだなぁと思いました。
実は本当に信頼し合っている、本当のライバルだった上司と部下だったんですね。きっと、心の奥底ではお互いのことを認め合っていたんだろうなあと、胸が熱くなりました。
この部下はいっけんツンツンしてるけど、パソコンに慣れない上司に見せつけることで刺激を与えてヤル気をださせようとしてたのかもしれないし、やはり心の中では今までの恩を感謝していたのでしょうね。こういう一緒にいろんなことを乗り越えてきた仲って歴史があっていいなぁ。