一章(脚本)
〇皇后の御殿
宝字称徳孝謙皇帝
その人の諡号である
二重の名を諡とし
二度、帝となり
生涯を権力闘争に費やし
老境にあっては、近習の怪僧を次の天皇に指名し皇統断絶の危機を招いた危うき女傑
〇豪華な王宮
だが彼女の首筋に一生消えなかった細い傷があることを、
後世知る者は少ない
血に塗れた彼女の人生の、それは一番最初の傷であった
称徳帝「今も聞こえる・・・あの蹄が」
称徳帝「今も感じる・・・あの風を」
称徳帝「なのにどうして・・・あなたはいないの?」
称徳帝「もう一度、あなたに会いたい」
称徳帝「もう一度、あなたに会いたかった」
〇豪華な王宮
『飛べ!』
称徳帝「飛んだよ・・・」
『飛べ!』
称徳帝「飛び続けたよ・・・」
称徳帝「あれからずっと・・・たった一人で、戦い続けたよ」
〇渓谷
『俺が必ず受け止めてやる!』
称徳帝「嘘つき・・・」
竹芝「嘘じゃない!だから、飛べ!」
称徳帝「・・・」
姫「・・・」
竹芝「飛べ!阿倍子!」
姫「阿倍子って・・・」
姫「阿倍子って言うなああああああッ!」
姫「うわああああああああああッ!」
〇白
タケシバ異聞
~称徳孝謙皇帝の疵~
〇荒廃した市街地
貧民「はあ・・・はあ・・・」
姫「気をしっかり持つのじゃ。心が萎えてしまえば助かるものも助からぬぞよ」
姫「さあ!これを一口で飲み下すのです!」
貧民「うっぷ・・・」
貧民「うえええええ・・・」
姫「こら、吐き出すでない!」
姫「さあ食べよ!食べぬか!病人のくせに!」
『そこの者、大概にせい!』
竹芝「どこの姫君か知らぬが、相手が貧民だからといって得体の知れぬ薬を軽はずみに与えるものではないぞ」
竹芝「お爺さん、泣いてるじゃないか」
姫「軽はずみではない」
姫「これは唐の僧よりゆずり受けたる薬じゃ。万病即効あること神のごとし」
姫「あとこれとこれとこれも!」
貧民「うげえええっ!」
姫「ほら、斯様に元気に走り去りました。よく効いたではないかえ」
竹芝「あれを効いたというのだろうか?」
姫「そなたも飲むとよい。滋養強壮栄養満点ぞ」
竹芝「遠慮しておく」
姫「あっそ」
姫「さあ~病人いねが~」
姫「悪い子いねが~」
貧民「きゃあああ!」
貧民「ひいいっ!お助け~!」
貧民「すこぶる健康でえええす!」
姫「おお、元気元気。大変結構なり」
姫「わざわざお忍びで出張ってきた甲斐があったというものぞ」
姫「御仏も我が積善を見ておられましょうや」
「早う故郷に帰りたい~♪」
竹芝「七つ三つある酒壺に~さした直柄の瓢箪が」
竹芝「西から風吹きゃ東へひらり~。北から風吹きゃ南へひらり~」
姫「ふふっ」
竹芝「そんなに笑えるか?田舎者の歌が・・・」
姫「いや、そういう意味では」
「姫さま!ここにおられましたか!」
姫「いかん、捕まったらまた真備に叱られる」
姫「先回りして戻らねば!」
姫「また会おうぞえ。田舎者」
竹芝「じゃじゃ馬め。あのような者が貴族の郎女とは平城京も末だな」
竹芝「全く、早う役目を終えて帰りたいものだ」
竹芝「こんな物騒なものなど、とっとと返上して」
竹芝「おらが武蔵の国さ・・・けえりてえ」
続く