HelloHello,ハッピーエンド

無明

来ないで悪役令嬢(脚本)

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〇ファンタジーの教室
ルエン「ふう・・・」
  騒ぎがおさまるのを待ってから校舎に入り、私はなんとか教室までたどり着くことができた。
  確認したところ、私のクラスは主人公アリアの隣。
  このクラスに在籍しているキャラは・・・
  彼、マック。男性キャラの好感度やキーアイテム、イベントの条件などをさりげなく教えてくれる、いわゆるお助けキャラ。
  ・・・でもあり、もう一人の隠し攻略対象。
  学園で彼関連のイベントをこなし、かつある特殊イベントをクリアすると、夏季休業中にルートに入ることができる。
  その正体は隣国メフィ・フレスト皇国の皇太子にして魔族、マクスウェル・デル・オリエントである──
ルエン(って、設定盛りすぎだろ)
  彼のルートに入ると夏季休業中にメフィ・フレスト皇国の危機を救い、
  学園に戻ってからもエルヴァン王国との戦争を防ぐため奔走することになる。
  バトルも多いし、イベント発生やクリアのために求められる能力値がとにかく高い。
  クロウとは別の意味でキツいと評判のルートだ。
ルエン(まあ、私は大丈夫だろうけど)
  普通にクラスメイトとして関わるかぎりは、まずマックが皇太子だと気づくことはないだろう。
  ゲームだって、最初から攻略するつもりでしつこく接触していなければ取っかかりのイベントすら発生しなかったのだから。
  ちなみにマックは条件を満たすだけで攻略できるのだが、クロウの場合は一度エンディングを迎える必要がある。
ポワソン「ふむ・・・全員そろっとるようだな」
ルエン(ああ、そういえば担任はこの人だったか)
  担任のポワソンは魔法関連の授業を受け持つ先生で、ゲームでもお世話になる存在だ。
  攻略対象の一人のイベントでは魔法がメインになるので、彼のルートに行く場合は必然的によく会うことになる。
  穏やかな老紳士で、目に見えるような地雷もない。普通に接するぶんには当たりの先生ではないだろうか。
  ・・・まあ、かつては王国騎士団の重役だったので、いろいろ機密情報を知ってるお方でもあるのだが。
  それに、魔族の皇太子が留学しているクラスを任されるあたり、その実力も推して然るべきである。
ポワソン「みな、席に着くように。私がこれから君たちの担任を務めるポワソンだ」
ポワソン「魔法に関する授業を中心に担当する。一年間、よろしく頼むぞ」

〇おしゃれな食堂
  ──朝の学校前でのトラブル以外は、つつがなく一日目が過ぎていった。
  私の知らないところでは、入学式前にアリアが第二王子と邂逅するというイベントがあったはずだけど。
  ま、私はモブなうえに部外者なので預かり知らぬことである。
ルエン(確か、この新入生歓迎会でもアリアとエリーゼのイベントがあったはずだけど)
ルエン(きっと今朝通りに息を潜めていれば問題ないだろう)
ルエン(それにしてもほんとに美味しいなご飯!さすが貴族も通う学園のことはある)
???「シラを切るのもいい加減になさい!平民ごときが、立場を弁えるべきよね?」
ルエン「おっと・・・」
  ──そうこうしているうちにイベントだ。
  入学式前に道に迷っていたところを、第二王子に助けられたアリア。しかしそれを、執事のクロウが目撃していた。
  入学式のあと、クロウは単に「殿下が迷っていた生徒を助けていた」と話しただけなのだが、それをエリーゼが曲解して解釈し。
  こうして問い詰め、事実ゆえにアリアも否定できず、ますます彼女は怒りだす・・・
  という、なんともめちゃくちゃな経緯である。
ルエン(・・・ってか、なんか近くない!?一応位置に気をつけて座ったつもりなんだが!?)
  これ、ちょっと席移動したほうが──
エリーゼ「殿下を誑かそうとするメス猫には、これがお似合いよ!」
アリア「きゃっ・・・」
  ツルっ
エリーゼ「あ」
ルエン「え?」
ルエン「──あ」
ルエン「あっっっつあおああっつううう!?!?」
  なになになになになに!?なにが起きたおいいいい!?
  いやあつ、は?あっつ!?まてこれ本来ならアリアにかかる紅茶だろ!?
  なに手ェ滑らせてんだ悪役令嬢ゥ!?
エリーゼ「あ・・・いえ、その、これは・・・」
ルエン「あーいえいえ、お気になさらずぅ」
  無論嘘である。しかし、ここで突っかかったところでこのガキが謝るはずもない。
  私は大人だからな、ここは建設的な行動をさせてもらおう。
ルエン「あはは、では失礼しますね〜」
エリーゼ「あ・・・」
  先にご飯を食べておいてよかった。さっさと服を洗って、明日までに乾かさなくては・・・

〇小さな小屋
ルエン(ふう、よかった。これならなんとか乾きそうだ)
ルエン(にしても、まったくひどい目にあったな。まさか展開がゲームと変わるなんて・・・)
ルエン(・・・いや、思えば大して不思議はない、か)
  私はたぶん、ゲームの世界にそのまま入りこんだのではない。
  世界観や生きている人間がたまたま似ている世界に転生したに過ぎないんだろう。
  死んだ際の記憶は正直曖昧・・・というか、いまでもあっちで死んだという自覚が薄いから、なんとも言えないのだけど。
ルエン(とにかく、「ゲームのシナリオ通りにことが運ぶ」と思い込んでいた私の失態だ)
ルエン(今後は用心して、キャラたちとの関わりをなるべく最小限に──)
ルエン「・・・?」
ルエン(こんな夜に、誰だ?)
ルエン「はい、いま出ます」
ルエン「あれ、寮母さん?」
寮母「夜中にごめんなさいねえ、ルエンさん」
ルエン「いえ・・・なにかありました?」
寮母「それがね、あなたに会いたいという人がいて・・・」
ルエン「会いたいって・・・私に?」
ルエン(夜に訪問してくるような友人なんて、つくった覚えはないんだが・・・)
寮母「執事のクロウさんという方なんだけど、知ってるかしら」
ルエン「・・・・・・・・・は?」

〇ファンタジーの学園
クロウ「・・・・・・」
ルエン「おまたせしました。このような格好で失礼します」
クロウ「いえ。こちらこそ、こんな深夜に訪ねることになってしまい、申し訳ありません」
ルエン(ほんとだよ)
  さて、悪役令嬢の執事が訪ねてくるとは、いったいなにを言うつもりなのか・・・。
クロウ「私はクロウ。ある貴き方の執事を務めております」
クロウ「先ほどあなたの制服に紅茶をかけてしまったことに対する謝罪の品を届けるよう、仰せつかっています」
クロウ「昼間では人目につきますので、このような形でお渡しすることになりました」
クロウ「どうか、受け取っていただけないでしょうか」
ルエン(・・・驚いたな)
  まさか、あのエリーゼが、第二王子以外には横暴に振る舞うエリーゼが。
  毛嫌いしているアリアと同じ平民の私に、謝罪の品を寄越すとは。
  本来なら受け取るのが筋、なのだろうが──
ルエン(──それはそれで後々の禍根になりかねん)
ルエン「私には、あまり勿体ない品です」
ルエン「貴族の方がなさったことですし、私なんぞのことはどうかお気になさらず」
ルエン「私としても気にしておりませんし、そのお言葉だけで十分です」
ルエン(そして早く帰ってほしい。明日から授業もあるんだから)
クロウ「し、しかし、その・・・」
ルエン「別に言いふらしたりなんてしませんよ。そんなことしたら、むしろ私のほうが危険ですし」
クロウ「・・・そう、ですか」
クロウ「わかりました。主人には、そのようにお伝えします」
クロウ「・・・私からも、本当に申し訳ありませんでした」
ルエン「いえ、お構いなく」
  静かに、どこか諦めをにじませた瞳を伏せながら。
  クロウは貴族用の寮へ戻っていった。
ルエン(はあ・・・やれやれ)
ルエン(横暴な悪役令嬢様が謝罪だなんて、いったいどんな気まぐれなんだか)
ルエン(どうか、これっきりでありますように──)

〇ファンタジーの教室
  ──翌日
ルエン「ふう・・・」
ルエン(ゲームの設定を頭に入れといたおかげで多少は楽できるが・・・)
ルエン(知らない話も多かったし、板書はきちんととっておこう)
  ここで、この世界の地理と王国の成り立ちをざっくり復習すると──

〇地図
  まず、エルヴァン王国がある大陸の名はハーレーン。
  このハーレーン大陸の中央から西にかけて繁栄しているのが、エルヴァン王国だ。
  エルヴァン王国より南西から西にかけては、いくつかの小国がある。
  そこからさらに西は島々の連合としての国、そしてその向こうには砂漠よりはじまる別大陸がある。
  逆に東には、中央のルリエラ大森林を挟んで、メフィ・フレスト皇国をはじめとする魔族や亜人たちの国がある。
  現在より約800年前まで、西側と東側は対立関係にあった。
  人間とは違う身体的特徴や文化、価値観の摩擦により、小規模なものから凄まじいものまで、幾度もの争いが起きたという。
  魔族や亜人といった呼称も、その名残だ。
  しかし800年前、この状況を憂いたある英雄が、国や種族の垣根を超えて大陸の戦乱を鎮めたのだそうだ。
  そして、特に混乱の激しかった西側の一部をまとめ、国として治めた。それがエルヴァン王国の始まりだ。
  ・・・ちなみに、現在まで伝わる英雄の言動やその政策から、
  プレイヤー間では初代国王である彼は転生者だったのではないかと考察されている。

〇ファンタジーの教室
  ──というのが、ゲームに出てきた情報だったのだが。
  実際の授業では、その具体的な経緯や主な戦争、それに伴う変化もみっちり教えこまれる。
  都市部以外から入学した者の中には、実用的でない知識を学ぶことに若干辟易している生徒もいるようだったが、
  単純な教養という枠を超えて、これは自国への関心を高める土壌づくりでもあるんだろう。
  この世界では、戸籍自体はあるものの住む国を変えるためにわざわざ役所に行く必要がない。
  そのための業務をする余裕がない、というのが正確なところだけど。
  まあ、所属する国がわりかし気軽に変えられるので、あっさり見切りを付けて民衆が離れるということも考えられるのだ。
  だからこそ、こうして愛国心の萌芽を育て、国自体に関心をもたせる。
  関心があればそれは自ずと自分たちの生活にも向けられ、行政の活発化も誘発されうる。
  実際に運営する役人を信頼することが前提だから、腐敗とかあると一気に頓挫するのだが。
  少なくとも、数百年近く暴動が発生しない程度には成果を上げているようだ。
ルエン(こういう歴史のほかにも、少し複雑な算術、他国の言語や簡単な古代文字、)
ルエン(まだやってないけど経済や外交関係の授業もあるし、それに加えて安全が確約された武器や魔法の講習・実地訓練・・・)
ルエン(ウン百年の間に整備されたのもあるんだろうけど、最初に学校立ち上げた転生者パイセンはめちゃくちゃ頑張ったんだろうなあ)
ルエン(ご飯のときは毎回拝んどこ)
???「失礼いたしますわ!」
ルエン(ファッ!?)
  ──昨日の経験から、学園生活がゲーム通りに進まないことは想定していた。
  しかし、少なくとも二つのイベントが目の前で起きた以上、大きな逸脱はないと踏んでいたのだ。
ルエン(だから・・・!)
ルエン(──悪役令嬢本人が来るなんて、わかるわけないだろ!!)
  おかしい、この時点でのエリーゼとマックの接触はどのルートでもありないはず・・・!
  友人に会いに来たという線もない、なにせあの性格なので表向き以上の友人がいないのだ!
ルエン(じゃあ、いったいどうしてここに・・・先生はもういないし)
エリーゼ「・・・!」
ルエン(・・・え?なんか、こっち来てない?)
エリーゼ「そこのあなた!」
ルエン「はいぃっ!?」
エリーゼ「少しお時間をいただいてよろしいかしら?」
ルエン「い──」
エリーゼ「よろしいわね?」
ルエン「・・・・・・はぃ」
ルエン(・・・なんで)
ルエン(昨日に続いて、いったいなんの用だってんだ──!?)

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