自縄自縛巻き込まれ庶民(脚本)
〇華やかな裏庭
ルエン(うう・・・流されるままに連れ出されてしまった)
授業のあと突然やってきた、悪役令嬢エリーゼ。
理由も知らされぬまま、私は強引に中庭に連れてこられてしまった。
ルエン(断ったらどうなるかわかったもんじゃないにしても、もう少し抵抗したほうがよかったのでは・・・)
エリーゼ「ここならよさそうね」
エリーゼ「あなた、名前は」
ルエン「はい・・・ルエンと申します・・・」
エリーゼ「そう。ルエン、あなた──」
ルエン(どうか、無茶な要求とかでありませんように・・・)
エリーゼ「なぜ私からの謝罪の品を断ったのかしら?」
ルエン「・・・・・・・・・」
ルエン「・・・は?」
エリーゼ「は?ではなくってよ!」
エリーゼ「この私がわざわざ執事を遣わせて届けさせたというのに、断るですって?」
エリーゼ「あの女ほどではないにしろ、平民にしては態度が図々しくありませんこと?」
エリーゼ「貴族たる私がわざわざ下賜して差し上げましたのよ!?」
エリーゼ「平民のあなたなら、断るどころか咽び泣いて受け取るのが当然というものではなくって?」
エリーゼ「やはり平民というのは愚かで、礼儀も常識もなっていないということなのかしら」
エリーゼ「まったく、少しでも気にかけた私が──」
ルエン「つまり」
ルエン「なぜ私が昨夜の品を断ったのか、理由を知りたいと?」
エリーゼ「え、ええ。公爵令嬢の私からの品を断るなんて、よほどの理由があったのでしょうね?」
ルエン「・・・すー・・・はー・・・」
冷静に、冷静にだ。
相手は子供だ、こちらは落ち着いた対応で──
ルエン「──そういうところだよ」
エリーゼ「え?」
ルエン「お前みたいな厄介な貴族と関わりたくなかったんだよ!!」
ルエン「平民を見下してんのも気に入らないが、それが露骨に態度に出てるし!」
ルエン「ほかの貴族のこともお前の身分を根拠にあからさまに下に見て、そんな状況で下手に関わったらこっちにも火の粉が飛ぶわ!!」
ルエン「それにさ、物を使って口止めしようとすんのもわかるよ?」
ルエン「公爵令嬢が平民相手にマジになって、しかも学園で怪我させかけたとか醜聞には十分だからな」
ルエン「だけどその態度が気に食わねえんだよ!!」
ルエン「てきとうなもんやっときゃ黙るだろ、みたいな!別に謝る気なかったろお前!」
ルエン「平民相手に謝意がないのはもういいとして、せめて態度には出すなや!公爵令嬢ともあろう者が建前すら使いこなせねえのかええ!?」
ルエン「そんなんじゃ付き合わされてる執事もかわいそうだわ!!帰るとき「そりゃそうか・・・」みたいな濁った目してたぞあの人!」
ルエン「コネ持つにしちゃ事故物件もいいとこで人格も価値観も地雷で執事にも見放されてるとか、そんなやつからの物なんて受け取れるか!」
ルエン「というか、無理!!生理的に!!」
ルエン「なにより!!どうせ突っかかってたあの子にはなにも言ってないんだろ!?」
ルエン「お前のそこが一番気に食わねえんだよ!!」
ルエン「自分の勝手な妄想で暴走して迷惑かけまくった挙句保身だけして肝心の相手のことは意にかけない、」
ルエン「そんなクソガキから「ごめんなさい」されたってなんっっっも心に響かねえしむしろキッショイ!鳥肌立つ!」
ルエン「だからこうして付き合わされてんのもほんとめいわ、く・・・」
エリーゼ「っ・・・うぁぁ・・・」
ルエン(し、しまったつい!)
エリーゼ「ど・・・どうして・・・」
エリーゼ「どうしてそんなこと言うんですの・・・」
エリーゼ「私・・・私は、貴族として当然のことを・・・」
ルエン「いや貴族以前に人としての態度がゴミカスだからなお前」
エリーゼ「ッ・・・!」
エリーゼ「うわああああん・・・!!」
ルエン(し、しまったまた本音が・・・!)
ルエン「で、ではそういうことなので!」
逃げるが勝ちだ、悪く思うなよ!
〇小さな小屋
ルエン「・・・・・・・・・」
ルエン(なにが「逃げるが勝ち」だあああッ!!最低だぞ私!?)
悪役令嬢のクソガキとはいえ、あの態度はあまりにも大人げなかったのでは!?
ってか15歳ってまだまだ子供じゃん!?そりゃ思春期まっさかりの自分勝手ですわ!
そ、それを私は・・・傲慢にも怒鳴り散らして・・・
ルエン(穴掘って埋まりたい・・・そして二度と目覚めたくない・・・)
人としても最低なのだが。
これでもしエリーゼが実家に泣きついて、村ごと滅ぼされたりとかしてたらどうしよう・・・
ルエン(夜逃げの準備とか、しといたほうがいいのか・・・?いや、先に遺書の用意か・・・)
〇おしゃれな食堂
──と、猛省したのが、つい2日前のことなのだが。
ルエン(びっっっくりするくらい、なにも起きないな)
ルエン(本人からの呼び出しどころか、先生からすらなにも言われない)
ルエン(エリーゼの性格からして、なにかしらこっちに干渉してきそうなもんだけど・・・)
ルエン(いや、もしかして私の知らないところで既に・・・)
クロウ「お食事中失礼します」
ルエン「うおっ!?く、クロウさん・・・」
クロウ「す、すみません。驚かせてしまって」
ルエン「いっいえー別にー」
ルエン「それで、その・・・なんでしょう?」
ルエン(なんでしょう?じゃないよ!間違いなく死刑宣告だよこれ!!)
クロウ「ああ、はい。その、不躾なお願いで恐縮なのですが」
クロウ「本日の放課後、なにか予定はありますか?」
ルエン「いえ、ありませんが・・・」
クロウ「でしたら、少々お時間をいただきたく」
クロウ「放課後に、こちらの教室まで来ていただきたいのです」
ルエン「あっ、はい!わかり、ました・・・」
クロウ「ありがとうございます!」
クロウ「・・・大丈夫です。想像なさっているようには、ならないと思いますから」
ルエン「?」
クロウ「それでは、失礼します」
ルエン(な、なんだったんだいったい)
ルエン(というかこの教室は・・・エリーゼが在籍してるクラスじゃないか)
・・・想像しているようにはならない、か。
そういえば・・・エリーゼの執事であったとき、クロウがあんなに明るい笑顔を見せたことなんてあったろうか・・・?
〇ファンタジーの教室
ルエン(さて、約束通り来たわけだが)
ルエン(まあ、いるよなあ・・・)
ルエン「ええと、おまたせしました・・・」
エリーゼ「え、ええ。よく来ましたわね」
エリーゼ「・・・・・・」
ルエン「・・・・・・」
エリーゼ「・・・・・・」
ルエン(なにか言ってくれ!気まずい!)
クロウ「お嬢様、大丈夫です。練習通りにおっしゃればよろしいかと」
ルエン(練習?なんの??)
エリーゼ「・・・・・・・・・」
エリーゼ「・・・ッ!」
エリーゼ「私に!」
ルエン「はいっ!?」
エリーゼ「謝り方を、教えてくださらない!?」
ルエン「・・・・・・・・・」
ルエン「なんてぇ!?」
〇ファンタジーの教室
ルエン「・・・・・・」
ルエン「・・・あの、クロウさん」
クロウ「はい」
ルエン「なぜ、お茶の用意を?」
クロウ「お話が長くなると、喉が渇くかと思いまして。お茶菓子も用意していますよ」
クロウ「それに、この時間に教室が使われないことは学校に確認済みです」
ルエン(そういうことを聞いたんじゃあないんだよなあ!?)
くそっ、本人に経緯を問いただすしかないか!怖いけど!
ルエン「あの・・・エリーゼ様」
ルエン「謝り方を教わりたいというのは・・・どういう・・・」
エリーゼ「・・・昨日」
ルエン「はい」
エリーゼ「昨日、あなたが立ち去ったあと──」
〇華やかな裏庭
──内容をまとめると。
私が逃げだしたあと、エリーゼを探しに来たクロウが泣いている彼女を見つけたという。
泣きじゃくる主人から、クロウはなんとか事情を聞き出し。
クロウ「・・・その、お嬢様」
クロウ「伝え方に多大な問題はありますが、そこまで的外れな指摘でもないかと・・・」
──と、うっかり口を滑らせた。
当然状況は悪化した。
困ったクロウは、ひとまず第二王子とアリアの件の真偽を確かめようと提案。
その日の放課後、第二王子と会うことにした。
〇城の客室
ヴァナス「助けた生徒?」
ヴァナス「確かにいましたが、それっきりですね」
と、あっさり否定され。
事情を説明すると。
ヴァナス「・・・なるほど」
ヴァナス「その生徒の言い方はともかく、言っていることについては僕も同意します」
ヴァナス「前々から思っていましたが、エリーゼ嬢は・・・その・・・態度が苛烈、といいますか」
他人への態度はひどいが、エリーゼは婚約者である第二王子のことを本当に好いている。
その本人から遠回しに自分の態度を批判され。
当然かのごとく、泣いた。
そして、「じゃあどうすればいいの!?」と半ば八つ当たりのように聞いた。
ヴァナス「もし、エリーゼ嬢があの生徒に申し訳ないと思っているのなら、謝罪するのが一番よいかと」
ヴァナス「とはいえ人の目がある場所はよくありませんので、工夫する必要はありますが」
エリーゼ「ど、どうすれば・・・」
エリーゼ「私、お爺様とお父様以外に謝罪したことなんて・・・」
ヴァナス「・・・提案することはできますが、それでは僕の考えをエリーゼ嬢がなぞるだけですからね」
ヴァナス「あなたが自分で考えて行動する、というのが、一番あなたにとってよい形になるかと思います」
ヴァナス「相談でしたら、乗れるとは思いますが」
〇ファンタジーの教室
ルエン「そこまではわかりました」
ルエン「でも、それがなんで私を呼ぶことになったんです?」
エリーゼ「だ、だってヴァナス様はお忙しいし、クロウは歯切れが悪いのだもの!」
エリーゼ「平民で、しかも私にあんな無礼を働いたあなたを呼ぶのは嫌だったけど、」
エリーゼ「ヴァナス様すら同意した意見を言ったあなたなら、何かわかるかもと・・・」
エリーゼ「だって、これ以上ヴァナス様に嫌われるのは・・・!」
ルエン(あーうん、そういう感じ?)
まあ、クロウは雇われ執事なので主人に強く出れないのは当然として。
もう一人──
第二王子、ヴァナス・ケル・エルヴァン。
最初に出会う攻略対象にして、隠し対象以外ではもっとも難易度が高いと言われるキャラ。
人格者で能力も実に優秀と、王太子にも引けを取らない評判ぶりではあるのだが。
第二王子という立場上、彼を警戒し近寄ろうとしない貴族は多い。
逆に、利用してやろうと画策する貴族も少なくなかった。
ゆえに彼は幼少期から相手の顔色をうかがい、不利にならない程度に同調し、腹をさぐり合う綱渡りのような会話の中で生きてきた。
そうしていつしか、素直な会話が・・・自分の率直な思いや意見を発することができなくなっていた。
飾らず話すことへのリスクが常に思考を過る彼にとって、エリーゼの振る舞いを指摘することはどれだけ勇気のいることだったろう。
ルエン(そう考えると、ヴァナスを頼れと言ったところで事態が良くなるとも考えにくいなあ)
ルエン(これ以上巻き込まれたくはないんだけど・・・)
しかし、もとはといえば私が撒いた種とも言える。
私が我を忘れて怒鳴り散らさずヘコヘコしていれば、エリーゼはショックを受けず、ヴァナスに相談することもなかったろうから。
・・・エリーゼのことは好きではないが、ここで突き放すのはなんだか夢見が悪くなりそうだ。
ルエン「わかりました。なるべく、お力になれるよう努力します」
エリーゼ「え、ええ!最初からそう言うとわかっていましたわ!」
ルエン(やれやれ。普段の言動さえアレじゃなきゃ、可愛げがあるのになあ)
この話、凄くクオリティが高くて好きです!
続き、待ってます!