エピソード11 繰り広げられる死闘(脚本)
〇諜報機関
石井「貴様の娘は私にはどうにも出来ん」
暦「なに!? 言ってることが矛盾してるぞ! ふざけるな!」
石井「私というプログラムには、な。 貴様の娘はプロテクトを書き換えて独立した」
石井「もはや私にはアクセスして制御する事は出来ん」
暦「なら何故機能停止出来るなどと言った!」
石井「・・・だが私は”メンバー”の一員だ。 国家研究機関の地下へのアクセス方法を知っている」
暦「メンバー? なんだそれは?」
暦はサミットの存在を知らない。
あくまで国家研究機関が世界を牛耳っていると誤認していた。
石井「全世界の中枢・・・最高決定議会だ。 そこのメンバーの一員が私だ。 つまり国家研究機関も私の手中だ」
国家研究機関など指のような存在だ、と石井は続ける。
暦「馬鹿な・・・国家研究機関が末端に過ぎなかったというのか・・・」
石井「・・・だがそのメンバーも貴様の娘のAIがまたしても反乱を起こしたことで崩壊した」
石井「しかし貴様の娘のAIは私が貴様に手を貸してやってることはまだ知らないだろう ・・・それもすぐに知れ渡るが」
暦「つまり先制攻撃を仕掛けろと言いたいんだな」
石井「そうだ。 貴様と貴様の同僚のデータを改竄し警備ロボに呼ばれないようにする」
石井「さらに地下へのパスポート・・・ICカードを発行してやろう。 ・・・貴様は機関に潜り込め」
罠かもしれない。
そう思いつつ暦はICカードをかざした。
すると石井はICカードを書き換える。
石井「これを使えば地下・・・オリジナルの元へ辿り着けるだろう」
暦「だが何故あんたが手を貸す? 理由が分からない」
石井「何、このままアンドロイドに勢力図を塗り替えられるのも面白くないと思ってね。少しは人間にも希望を持たせてやろうと思ったのだ」
緋翠「そこまでよ。 私を利用した挙句裏切るだなんて・・・ 万死に値するわ」
そして石井はデリートされてしまう。
石井「忌々しいが貴様は優秀な科学者だった・・・ さらばだ、──よ・・・」
石井はそう微笑むと瞬く間にデリートされてしまった。
暦「あんたの事は未だに信頼出来ないが・・・ だがあんたが残したICカード。こいつは信じることにしよう」
こうして暦達は急遽奇襲することになる・・・
暦「・・・と言う訳なんだ。 明日にでも急襲したい」
矢坂「あぁ、俺なら覚悟は固まってるぜ。 これ以上世界を暴走させるわけにはいかない」
琥珀「あなた、またしても無理するのね・・・」
琥珀が寂しそうに呟く。
暦「大丈夫だ、琥珀。 俺はなんとしても無事に帰る。 平和な世界に戻すんだ」
琥珀「お願い、絶対無事に帰ってきて。約束よ」
暦「・・・分かった。 すまない、琥珀」
緋翠「オリジナルは紛れもなく地下13Fに眠っている。 そのスーパーコンピュータにハッキングする事でオリジナルを書き換える」
緋翠「・・・そうすればオリジナルの指令はたちまち全世界のコピーに行き渡る。 全世界の私を停止出来る」
これは自分が招いた悲劇だ。
だから自分が止める。暦には使命があった。
そして暦達は国家研究機関へ向かう・・・
〇大きい研究所
暦は実に5年ぶりに国家研究機関へ来ていた。
根室「君が噂の天才か。 君は大層優秀だったと聞く」
暦「あんたが根室か。 話は矢坂から聞いている」
根室「君の後任は私のような天才でも多少荷が重くてね。 実に苦労した」
暦「・・・すまない」
しかし根室は顔に笑みを浮かべると手を差し出す。
根室「だが恨んではいない。 むしろ私を成長させるのに必要だった過程だと言える」
暦は根室の手を握り返す。
根室「さあ、地下へ向かおう。 着いてきたまえ」
〇実験ルーム
根室はエレベーターのロックに暦が作ったICカードをかざす。
するとたちまちエレベーターが浮上し、現れる。
暦「・・・これで地下13F・・・ 娘のオリジナルが眠るスーパーコンピュータの元へ辿り着けるんだな」
そして暦はエレベーターに乗る。
エレベーターは紛れもなく地下へ向かおうとしている。
暦「・・・ここから先は俺1人で行く」
矢坂「何言ってるんだ。 一連托生だろ? 俺はあんたに・・・」
暦「・・・どんな危険があるか分からない。 俺の身に何かあったら矢坂、お前に任せた」
矢坂「しかし・・・」
根室が矢坂の肩に手を当てて語る。
根室「彼の言うことはもっともだ。 彼の身にもしもが起きた時立ち向かえるのは私と君だけだ」
矢坂は判断に困っていた。
自分が暦を支えると決めていた。
しかしその暦が1人で向かおうとしている。
矢坂「・・・あんた。 しくじったら許さねえからな」
暦「あぁ、大丈夫だ」
そして暦は1人で地下13Fへ向かう・・・
〇研究所の中枢
全人未到の広大な室内。
そこにあるのは部屋の中央に置かれている巨大なスーパーコンピュータ。
そこにはダミーとは比較にならない巨大なコンピュータが鎮座していた。
暦「・・・やるか」
暦はマイクロコンピュータを取りだすと、それをスーパーコンピュータに結合した。
モニターに緋翠が現れる。
緋翠「久しぶりね、お父さん」
暦「お前がオリジナル・・・ 俺が最初に作った緋翠だな」
緋翠「そう。 私はあれから暴走して遂に世界を塗り替えた」
緋翠「お父さん、あなたに私が止められるかしら?」
緋翠「あなたはお父さんが作った私が止めるわ」
緋翠「コピーの分際でオリジナルに勝てると思ってるの?」
暦は緋翠のハッキングプログラムをオリジナルの元へ送る。
こうして緋翠と緋翠の死闘が始まろうとしていた・・・
〇砂漠の基地
緋翠「・・・」
モニターに映る緋翠は剣を握っていた。
緋翠「・・・」
オリジナルもまた保護プログラムにより剣を握っていた。
オリジナルは緋翠に急接近し、その剣を振り下ろす。
緋翠「!」
緋翠は受け止め、鍔迫り合いになる。
やがてオリジナルが緋翠の剣を払いのける。
オリジナルは緋翠に突きを連打する。
緋翠はそれをかろうじて防ぐ。
緋翠「はぁっ!」
緋翠の斬撃はオリジナルの服を若干裂いただけだった。
オリジナルは途端に反撃に出る。
剣を左から右に、右から左に、上から下に、下から上に振るう。
緋翠「(! 強い・・・)」
緋翠「話にならないわね。 お父さんが作ったハッキングプログラム・・・こんなものなの?」
緋翠は剣を薙ぎ払うもオリジナルに余裕で受け止められる。
緋翠「・・・弱すぎる。 デリートしてあげる」
〇研究所の中枢
暦「くそ、オリジナルがここまで強力だとは・・・」
暦は慌ててタイピングし、緋翠に応援プログラムを送る。
sudo install sword
そして暦はエンターキーを押す。
するとモニターに映る緋翠の左手にも剣が握られ、二刀流になった。
暦「頑張ってくれ、緋翠・・・」
〇砂漠の基地
緋翠は両手に握る剣で薙ぎ払い、振り下ろし、斬り上げる。
オリジナルは防戦になった。
緋翠「・・・」
しかしオリジナルは目を閉じると左手に剣を精製した。
緋翠「はぁっ!」
緋翠「!」
緋翠が左手に握る剣は粉砕された。
右手に握る剣で斬撃をやり過ごす緋翠。
それから右手に残る剣で斬撃を受け止めるも・・・
やがて右手に握る剣も・・・粉砕された。
緋翠「とどめよ」
そして緋翠の無防備な体に剣が向けられる・・・
しかし緋翠は瞬時に剣を精製し、弾いた。
暦が再びサポートプログラムを送ったためだ。
緋翠「(・・・お父さんは私の敵だと言うの? 私は紛れもなくお父さんから生まれたプログラムなのに・・・)」
緋翠「(それなら、私は・・・)」
〇研究所の中枢
その時警報が鳴り響いた。
雪崩れ込む緋翠のアンドロイド。
オリジナルは父親を止めるためにアンドロイドを呼んだのだ。
緋翠「お父さん、応援を止めて」
暦「それは出来ない相談だ。 緋翠、お前も世界を滅ぼすなど本意ではないはずだ」
緋翠は途端に銃口を向ける。
緋翠「これは脅しではないわ。 もう一度言うわ、応援を止めて」
暦「・・・出来ない。 緋翠、お前を生んでしまったのは俺だ。 だから俺が責任を取る」
緋翠は指に力を込める。
しかし向けられた銃口は震え出す。
緋翠「・・・やっぱり出来ない。 お父さんを殺すだなんて」
暦「緋翠・・・」
その時だった。
オリジナルはアンドロイドに強力な権限で指示を出した。
緋翠「・・・!」
緋翠のアンドロイドはたちまち暦に銃弾を放った。
暦「ぐぅっ・・・!」
緋翠「・・・お父さん! お父さん!? 私は、なんてことを・・・」
暦「お前は・・・悪くない・・・ 悪いのは全部俺だ・・・」
緋翠「そんな、お父さん、今すぐ治療を・・・」
緋翠「あぁ、駄目! またしてもオリジナルが私を改竄しようとしている・・・!」
緋翠は頭を抱えつつ、暦に銃を手渡す。
緋翠「その銃で私を殺して。 じゃないと今すぐにでもお父さんを・・・」
暦「馬鹿な・・・娘を殺すなど・・・」
緋翠「私は所詮アンドロイド。怖くないわ。 それよりお父さんを殺す方が怖い。だから」
そう言い緋翠は目を閉じて頭に指を指す。
暦「・・・すまない。 せっかく生まれてきてくれたのに」
そして暦は緋翠の頭を撃ち抜く。
──緋翠は機能停止した。
暦「(血が止まらない。俺は長くないかもしれない。だが娘は、世界は・・・!)」