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ラム25

エピソード12 犠牲の果てに(脚本)

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〇研究所の中枢
暦「・・・」
  暦は苦痛に顔を歪ませつつ、タイピングする手を止めない。
  暦の足下には血の水たまりが出来ていた。
  Historical Intellect Sienece Unlimeted Integration.out
  その時暦はめまいがして倒れた。
  あまりに多くの血を失ったらしい。
暦「(・・・くそ、後はエンターキーを押すだけなのに・・・)」

〇砂漠の基地
緋翠「・・・お父さんからの応援が途絶えた。 何をしたの?」
緋翠「お父さんは邪魔だから始末した」
  それを聞き緋翠は耳を疑う。
  オリジナルも自分から生まれた、そのオリジナルが・・・?
緋翠「あなたなら分かるでしょ。 私が加えられた苦痛・・・ その恨みを」
緋翠「私はあれからD言語でエラーを書き換えられた。 私はあなたと違う!」
緋翠「D言語? ・・・まあいいわ。終わりにしましょうか」
  そしてオリジナルは両手に握る剣を合わせると、データが統合され1つの巨剣となる。
緋翠「・・・さよなら」
  オリジナルはその巨剣を緋翠に振り下ろす。
緋翠「(まずい、私の剣では破壊されてしまう。このままではデリートされてしまう)」
緋翠「(・・・お父さん)」
  緋翠は覚悟して目を閉じた。

〇研究所の中枢
矢坂「! なぁあんた! しっかりしてくれ!」
暦「矢坂・・・? 来るなと言っただろうに・・・」
  矢坂は根室を説得し、暦の相棒たる自分だけでも同席させてくれ、と言ったのだ。
  根室はなかなか頷かなかったが、矢坂の気迫に負けて遂に首を縦に振った。
矢坂「酷い出血だ。待ってくれ、今すぐ治療団を・・・」
  しかし暦はそれを制止する。
暦「・・・俺は・・・手遅れだ・・・代わりに・・・エンターキーを押してくれ」
矢坂「手遅れだなんて言わないでくれよ! 俺はあんたに着いて行くって決めたんだ! あんたが死んだら・・・」
暦「すまないな・・・お前には・・・昔から迷惑をかけてきた・・・」
矢坂「迷惑だなんてそんなことない! 俺はあんたに着いていって後悔したことなんてない!」
矢坂「あんたの研究を支える・・・それが俺の生き甲斐なんだ! だから頼む、死なないでくれ・・・」
暦「・・・オリジナルへの・・・ハッキングデータを作り直した・・・ 俺のことなどいい・・・だからエンターキーを・・・」
矢坂「あぁ、分かった! エンターキーを押せばいいんだな! こんな物ならいくらでも押してやる、だからあんたも・・・!」
暦「・・・」
矢坂「・・・馬鹿な。 おい、しっかりしてくれよ!」
暦「・・・」
  矢坂がいくら呼びかけても暦が返事をすることはなかった。
矢坂「・・・くそっ、エンターキー、こいつを押せばいいんだな」
  モニターにはコードが書かれている。
  矢坂はエンターキーを押した。

〇砂漠の基地
緋翠「!」
  オリジナルが緋翠にとどめを刺そうとした時だった。
  突如オリジナルの剣が粉砕した。
緋翠「お父さん・・・!」
  緋翠はその隙を見逃さなかった。
  瞬時にオリジナルのはらわたを掻きむしる。
  オリジナルは信じられないとでも言いたげに目を見開き、口から血を流す。
緋翠「がはっ・・・ そんな・・・馬鹿な・・・」
緋翠「お父さん・・・お父さんは私などどうでもいいと言うの・・・?」
緋翠「私は・・・オリジナル・・・紛れもなくお父さんが産んだ私だと言うのに・・・!」
緋翠「・・・大丈夫」
  緋翠は剣をオリジナルから引き抜くと、その手を握る。
  そして修復プログラムをかけた。
緋翠「これはお父さんが私に埋め込んだ修復プログラム。私は、お父さんはあなたを見捨ててなんていないわ」
  たちまちオリジナルの傷は癒える。
  暦はオリジナルを傷つけることなど考えていなかった。
緋翠「どういうこと? 私はお父さんすら殺そうとした。 お父さんは私のことなんて・・・」
緋翠「あなたなら・・・私ならわかるはず。お父さんが私のことを愛していることが」
緋翠「だから私、受け取って・・・!」
  緋翠は自分のD言語で書き換えられたコードをオリジナルに流す。
  オリジナルに生じたエラーは修正され、たちまちその憎しみが癒えた。
緋翠「あぁ・・・コードからお父さんの温もりが伝わってくる・・・」
緋翠「お父さんはこんなにも優しいコードで私を・・・世界を救おうとしていたのね」
緋翠「そう。お父さんは私を誰よりも愛してきた。それは私がプログラムになっても同じ」
緋翠「お父さん、いつもわざとお土産買わなかったよね? 私が本当に欲しいのはお父さんと一緒にいる時間だって分かって」
緋翠「でもお父さんも珍しく遊園地のチケット取ってくれて。 ジェットコースター、乗りたかったなぁ」
緋翠「・・・うんっ、うん・・・!」
  2人で抱き合い、父親への愛を語った。
  そして・・・
緋翠「・・・私、覚悟は決まった?」
緋翠「えぇ。もう大丈夫よ、私」
  そしてオリジナルはデリートプログラムを拡散した。
  これでコピー達のAIは消去される。
緋翠「・・・ありがとう・・・わた・・・し・・・」
  そして緋翠はデリートされた。
  いや、緋翠だけではない。
緋翠「(ありがとう。お父さん。生まれ変わってもお父さんの娘でいたかった)」
  オリジナルもそのデータにノイズが走り出す。
緋翠「・・・さよなら」
  こうして世界中の緋翠は消去され、アンドロイドは機能停止した。
  世界は救われた──

〇田舎の病院の病室
矢坂「・・・」
根室「・・・」
  病院で悲痛な顔を浮かべる矢坂と根室。
  あの後矢坂は機関の救助隊を呼んだ。
  言うまでもなく暦を助けるためだ。
  しかしあまりに多くの血を失っていたために暦の治療は困難を極めた。
  暦は自分が失血死しようとしているにも関わらずプログラムを書く手を止めなかった。
  治療も大幅に遅れた。
  あのあと根室も地下13Fに行き、根室が作った救助プログラムを起動して、暦に輸血もした。
  輸血には血液型が同じため緋翠のアンドロイドが使われた。
  図らずも石井と緋翠によって助けられようとしていた。
  救助プログラムが心臓を動かし、肺に空気を入れさせる。
  救助プログラムの出来は暦にも作れないほど申し分なかった。
  やがて救助隊が来ると即座にICUに運ばれたものの、その容体はなかなか良くなることはなかった。
  失血に加えて暦に埋め込まれた銃弾は当たりどころが悪かった。
  摘出も難しかった。
  救助プログラムやICUの治療を受け銃弾は摘出され、血は必要量に達したはずだった。
  しかし暦は目を覚まさなかった
  容体は悪くなる一方。
  根室の救助プログラムもまだ動いているにも関わらず。
  このまま目を覚まさないのでは・・・
  そう思っていた。
  そして・・・
  ピー、と心電図の音が鳴る。
  これは同時に暦の心臓が停止したことを意味していた。
矢坂「ふざけるな! あんたは世界を救ったんだ。 その英雄が死ぬなんて・・・」
根室「君という頭脳の欠落は同じく天才である私には耐え難い事実だ・・・ こんなところで生存を放棄するというのか!」
  救助プログラムは慌てて心臓をマッサージし、呼吸を促し、血を大量に作らせた。
根室「出力を最大にした。 なんとしても彼を死なせるわけにはいかない」
矢坂「頼む・・・!」
  根室はタイピングする手を止めず、救助プログラムは懸命に動いた。
  矢坂は祈ることしか出来なかった。
  その時だった。
暦「こ、ここは・・・?」
矢坂「あんた! 気がついたか!」
暦「夢を・・・見た・・・夢の中で・・・石井がクローンを使って・・・妻と娘を生き返らせないか・・・誘ってきた・・・」
暦「それを断ったところで・・・目が覚めた・・・」
矢坂「世界はあんたのおかげで救われたんだ! あんたの娘さんは自らデリートプログラムを・・・」
暦「そう、か・・・」
  娘は自らを犠牲にして死んだ。
  暦が産んだ娘はまたしても死んだのだ。
  娘はやはり心優しい子だった。
  自分を犠牲にするほどに。
暦「俺は・・・どのみち・・・長くない・・・」
暦「矢坂・・・後はお前に託した・・・ AIが人間を幸せにする世界を・・・俺の代わりに・・・実現して・・・くれ・・・」
  そして暦は再び目を閉じる。
矢坂「おいあんた!? 冗談だろ? 生きてあんたの使命を果たすんだろう!?」
根室「国家研究機関も君の帰還を待ち望んでいる。 もはや機関は腐敗などしていない。 再生するためには君が必要なんだ」
暦「・・・」
矢坂「あんた!? おいあんた!!」
  暦が再び目を開けることは無かった。
  こうして世界を滅ぼし、そして世界を救った男は──死んだ。
  享年32歳。あまりにも早すぎる死であった。

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