「明日」の前日(脚本)
〇通学路
放課後、いつもの通学路を歩いていた
”トゥルン”・・・”トゥルン”
同じタイミングで、後ろからも通知音がした
思わず振り返ったさきには──
鏡でよく見慣れた顔の男がいた
すぐに初めから存在しなかったかのように消えた
反田 ナオミチ「・・・なんだ、今の。幻覚か?」
男のいた場所に、一枚の紙切れが落ちている
『18:30 栗坂交差点』
なんのメモだろう
栗坂交差点・・・
学校をはさんで、自宅と反対にある大きな交差点だ
今から歩ければ『18:30』には着くだろう
反田 ナオミチ「・・・バカバカしい」
メモを丸めて捨てる
反田 ナオミチ「・・・まあ、明日の話題くらいにはなるか」
〇大きい交差点
18:27 栗坂交差点
反田 ナオミチ(・・・特に変わったところはないな)
あたりを見わたすが、いつもどおりの街並みだった
反田 ナオミチ(・・・帰るか)
ブオオオオォォォォォン!!!!!!
けたたましいエンジン音とともに、世紀末的なトラックが迫ってくる
!!!!!!
〇黒
恐怖のあまり俺は目を閉じた
〇サイバー空間
〇黒
〇実験ルーム
反田 ナオミチ「な、なんだここは!!」
反田 ソウスケ「成功だ!! ついに成功したぞ!!」
反田 ソウスケ「ナオミチ・・・ナオミチなんだな。良かった、ほんとに良かった・・・」
どこか聞き覚えのある声だった
反田 ナオミチ「・・・と、父さん?」
反田 ソウスケ「・・・ああ、そうだ。40年もかかってしまった」
反田 ソウスケ「あの日、お前が暴走車に轢かれて死んでから、父さんはその運命を回避する研究を続けてきたんだ」
・・・死、死んだ!?
僕が車に轢かれて??
反田 ソウスケ「処理の影響で記憶に混乱が生じているようだな」
反田 ナオミチ「つまり俺は、タイムスリップしたってこと?」
反田 ソウスケ「いや、違う」
反田 ソウスケ「この装置はタイムマシンじゃない。任意の時空間の存在をコピーする装置なんだ」
反田 ソウスケ「あの日、お前が確実に存在したと分かる時空間座標は、事故の現場だけだった・・・」
反田 ソウスケ「だから、事故直前のお前という存在をコピーしたんだ」
反田 ソウスケ「さっそく来たか・・・」
反田 ソウスケ「いまのお前は、本来存在しない時間にいるせいでとても不安定な状態だ」
反田 ソウスケ「これから事故の少し前にお前を転送する」
反田 ソウスケ「なんとか事故を回避して運命を変えてくれ」
反田 ソウスケ「記憶は徐々に戻るはずだ」
『18:30 栗坂交差点』
と書かれたメモを手渡される
反田 ソウスケ「それが事故の場所と時刻だ」
反田 ソウスケ「それを手がかりに運命を変えてくれ」
反田 ソウスケ「・・・そして酷な話だが、お前はあくまでもナオミチのコピーだ」
反田 ソウスケ「同じ時間軸上に同一人物が存在することは出来ない」
反田 ソウスケ「恐らく本物のナオミチに見られた瞬間、お前は消滅するだろう」
反田 ソウスケ「しかし、今回はそれを活かして、事故を回避した後は自ら消滅してもらいたい」
反田 ソウスケ「消滅することで世界全体への影響もなくなり、運命を問題なく改変できるはずだ」
機械の駆動音が鳴り響く
反田 ナオミチ「ちょ、ちょっと待ってくれよ!!」
反田 ソウスケ「すまん。時間がないんだ」
反田 ソウスケ「短い時間だったが、お前をひと目見れてよかった・・・」
〇黒
〇サイバー空間
〇黒
〇空き地
バチッ、バチッ──
反田 ナオミチ(ここは──学校近くの空き地か。どうやら戻ってきたらしいな)
反田 ナオミチ(よし、まずは事故現場に行ってみるか)
〇大きい交差点
反田 ナオミチ(特に変わった様子はないな)
反田 ナオミチ(・・・それにしても、どうして俺は栗坂交差点に来たんだろう)
反田 ナオミチ(うまく思い出せない)
反田 ナオミチ(とりあえず、今の俺を探すか)
〇学校の校門
反田 ナオミチ(この時間、俺はどこにいたっけ)
反田 ナオミチ(下手に鉢合わせたら消滅してしまうし・・・)
只野 ユウジ「おい、反田!!」
反田 ナオミチ「お、おう只野か・・・」
只野 ユウジ「あれ?」
只野 ユウジ「さっき後藤と校舎裏に行くって言ってたよな」
反田 ナオミチ「あ、ああ。ちょっと先生に頼まれごとされちゃって・・・」
只野 ユウジ「そっか。そういやあの件なんだけどさ・・・」
反田 ナオミチ「わ、わりい!! 後藤を待たせちゃってるから」
只野 ユウジ「おう。あとで連絡するわ」
〇教室の外
後藤 ケイ「・・・だからよければ明日いっしょに映画館に行ってくれない?」
反田 ナオミチ「も、もちろんだよ!!」
思い出した
ずっと片想いしていた後藤さんから映画館に誘われたんだった!!
後藤 ケイ「じゃあ、また明日ね」
反田 ナオミチ「う、うん。また明日」
反田 ナオミチ(まだ栗坂交差点への用事はなさそうだな)
反田 ナオミチ(気付かれないように尾行しよう)
〇通学路
反田 ナオミチ(いつもの通学路だ)
反田 ナオミチ(栗坂交差点に行く気配すらないな)
反田 ナオミチ(・・・念には念を入れるか)
父さんから渡されたメモを取り出して、『18:30 栗坂交差点』を黒く塗りつぶす
そして、その下に適当な食品リストを書く
反田 ナオミチ(自分の字で書いてあれば、買出しだと思ってスーパーに寄るだろう)
反田 ナオミチ(スーパーに寄れば栗坂交差点には間に合わないはずだ)
反田 ナオミチ(あとは、これをどう自然に落としたように見せるか・・・)
”トゥルン”・・・”トゥルン”
突然、携帯の通知音が鳴った
通知欄には「只野」の文字
振り返った自分と目が合う
体が一瞬で消え、ひらりとメモが落ちていく
落ちるメモを見た瞬間、すべてを悟った──
俺の存在が消える
体も
服も
そして書き加えた文字さえも・・・
残されたのは『18:30 栗坂交差点』と書かれたメモだった
〇サイバー空間
消滅する瞬間、すべてを理解した
メモを見て、俺は栗坂交差点に向かう
そこに深い理由などない
明日のデートで話題になるかもと思ったからだ
だが、俺が夢見ていた『明日』は永遠に来ない
同じように車に轢かれ、同じように運命を変えることに失敗するのだろう
さいわい消滅には痛みも苦しみもなかった
・・・ただ、ふと恐ろしい考えが頭をよぎった
俺は『これ』を、今までいったい何回くり返したのだろう
そして今後、俺は何回『これ』をくり返すのだろう
『明日』に到達しない同じ日々が、永遠に続くのだろうか・・・
〇黒
『明日』の前日
よくあるタイムループものと違った切り口で楽しめました。語感がリングイネに近い感じ、なんとなく分かります。ペンネは「いっぺん死ね」の略語みたいだしリングイネは「輪廻エグいね」みたいに見えてきた。
人間の願望と現実は違うということですね。前日に戻って回避を試みるも成功しえないというのは、むしろ現実味があってよかったと思います。何十年も経って、その現実を変えたところで誰も特はしないものですよね。
これお父さんの気持ちはわかるんですが、根本的に解決しない事なんで、これからどうするのか気になりました。
不思議な感覚になるお話でした。