〇荒廃した国会議事堂
「皆様、あけましておめでとうございます」
「21××年。我が国の人口は、着実に減少の一途を辿っております」
「実に喜ばしいことです」
「様々な困難を経て、団塊と団塊Ｊｒを無事送り出したわれわれはようやく『丁度よい塩梅』の人口による過不足ない国家運営」
「即ち平穏なる後進国の道を選んだのです」
「全てのバランスを我が党に任せて、どうぞ心おきなく働いて下さい」
「心おきなく産み、育て、生きて下さい」
「皆様のこの一年に幸あらんことを」

〇警察署の食堂
４Ｑ８９「だってさ」
４Ｑ８９「正月早々終身大統領閣下もお忙しいこって」
４Ｑ８９「盆暮れ正月働きづめの俺達と同じだね～」
４Ｑ８９「違うのは財力と容貌。たったそれだけ」
４Ｑ８９「しかもその違いすら、きちんと埋め合わせしてくれてるときた」
４Ｑ８９「閣下のお子さんとお孫さんにも、是非後を継いでもらいたいもんだ」
Ｙ７０８「なんで？」
４Ｑ８９「へ？」
Ｙ７０８「関係ないじゃん。俺達に未来なんて」
４Ｑ８９「まあそうだけどさ、たまには言ってみたいじゃない」
４Ｑ８９「『次の世代の為に！』」
Ｙ７０８「はははっ・・・」
４Ｑ８９「お、笑うんだね。君も」
Ｙ７０８「うん」
Ｙ７０８「10ヶ月に一回くらいは」
４Ｑ８９「じゃあ次は、秋か」
４Ｑ８９「見れそうもないな～」
Ｙ７０８「あ、そっか」
Ｙ７０８「ＧＯＡＬですね」
４Ｑ８９「ああ。ようやく看取ってもらえるよ」
４Ｑ８９「長かった・・・」
Ｙ７０８「おめでとうございます」
４Ｑ８９「ははっ」
４Ｑ８９「見れた」

〇荒廃した遊園地
　　『まもなく閉演となります。どなた様も、お忘れ物なきようお願い申し上げます』
４Ｑ８９「じゃあ点検、宜しくね～」
Ｙ７０８「お疲れ様でした」
４Ｑ８９「あ、そうそう。例のアレ、試してみた？」
Ｙ７０８「へ？」
４Ｑ８９「使ってみたらいいじゃない」

〇数字
　　俺と違って、まだ先は長いんだからさ

〇遊園地の広場
Ｙ７０８「・・・」
　　『教科書に載っていた』
　　『この国にはお見合いという制度があったらしい』
　　『やがてその有難い救済制度は、自由恋愛なる暴力的価値観によって消滅した』
　　『結果としてすぐれた者だけが未来を紡ぐ世界となった』
　　『産めや増やせやは終わり、美しい遺伝子のみが継承される世界になった』
　　『或る意味適者生存の野生に還ったのだ』
　　『では・・・未来を紡げぬ弱者はどうなったか』

〇数字
　　『教科書に載っていた』
　　『無敵の人、になったのだと』
「・・・ません」
Ｙ７０８「え？」
「すみません！」

〇遊園地の広場
？？？？「この辺りに鍵、落ちてませんでしたか？」
Ｙ７０８「ああ・・・見かけませんでしたけど」
Ｙ７０８「あ！」
Ｙ７０８「あった」
？？？？「やった」
？？？？「ははっ・・・」
Ｙ７０８「ははっ・・・」

〇荒廃した国会議事堂
「国民の皆様、お疲れ様でございます」
「とくに国家の為に従事して下さる皆様に、今夜も感謝の拍手を捧げさせて頂きます」
「さて新薬『ミトリックス』の効果は如何でございましょうか？」
「全ての絶望を取り除き明日への活力をもたらすミトリックスは副作用もございません」
「ミトリックスは皆様のために作られたもの」
「そう、あなたにも未来があるのです」
「確実に成功される未来は、最早現実以上と言ってよいでしょう」
「国家を支えるナンバーズの皆様にこそ是非ミトリックスの使用を推奨致します」
「輝ける人生の為に」
「輝ける明日の為に」

〇黒

〇黒背景
「ナオヤ」

〇高層マンションの一室
ナオヤ「え？」
ナオヤ「ああそうか。ナオヤね」
ナオヤ「ナンバーズの頃の呼ばれ方って中々抜けないね」
妻「仕事も大変でしょうけど、ちょっとくらいナオキを遊んであげて」
ナオヤ「ごめんごめん。君もたまには羽を伸ばしたいよね」
妻「そういう話じゃない」
妻「ナオキは私だけの子供じゃないの」
妻「子供は父親と触れ合うことで立派な大人になっていくのよ」
妻「『背中を見て育て』なんて言ってたような男達がみんなナンバーズに堕とされていった過去をちゃんと学校で習わなかったの？」
ナオキ「ママ、また怒ってる～」
ナオヤ「な～、おっかないよな～」
ナオヤ「昔は知的で穏やかだったんだぞ～」
ナオキ「うっそだー！」
妻「よし！二人ともお昼ご飯抜きね！」
「ごめんなさ～い」
ナオヤ「うん？」
ナオヤ「もしもし。君か」
ナオヤ「ユミが風邪？」
ナオヤ「・・・」
ナオヤ「すまないが土曜まで一人で頑張ってくれ」
ナオヤ「そっちのご両親もいるだろ」
ナオヤ「仕方ないじゃないか！一夫多妻法で決められてるんだから！順番は守らないと！」
ナオヤ「ナオキの盲腸の時だって君の方で過ごしたろう！我儘言うんじゃない！」
妻「駄目よナオヤ」
ナオヤ「ああ、分かってるさ」
妻「行ってあげないと。ヨーコさん困ってるんでしょう？」
ナオヤ「え？」

〇戦闘機の操縦席（空中）
　　『子供は未来そのもの』
　　『私達全員の宝物』
　　『あなたの子供は私の子供』
　　『みんなの未来』
　　『ナオヤはもうＹ708じゃない』
　　『この国の未来を作る選ばれし者』
　　『その義務と責任を果たせる男よ！』

〇貴族の部屋
ナオヤ「大丈夫かユミ！」
ヨーコ「あなた、どうして？」
ナオヤ「こういう時の為の、俺の命だ！」
ナオヤ「今こそ、我が子に捧げよう」
ヨーコ「あなた！」
ナオヤ「ユミ・・・俺の未来」

〇荒廃した国会議事堂
「国民の皆様、日々の労働ご苦労様でございます」
「本日もナンバーズの方々に感謝の拍手を」
「さて我が国立統合研究所が新たに設立するミトリックス・リアルの第一次公式募集が始まりました」
「これまでは重度の障碍者様や、余命宣告をされた方々に限定されていた応募でありますが」
「本年度より、ナンバーズ成人男性を対象とした応募も認可いたしました」
「これは、日々国家の為に尽くして頂いているナンバーズの皆様へ、一刻も早く報いるための前倒し政策であります」
「是非沢山の方にご利用頂きたく存じます」
「あなたの未来が、ミトリックス・リアルにあります！」

〇応接スペース
職員「何度もお足をお運び頂き有難うございます」
Ｙ７０８「い、いえ。全然」
職員「審査はこれで最後になります」
Ｙ７０８「・・・そうですか」
職員「後は合格通知をお待ちください」
Ｙ７０８「・・・」
Ｙ７０８「あの」
職員「はい？」
Ｙ７０８「怖いとか。痛いとかはありませんか？」
職員「勿論です！」
職員「ミトリックスリアルは従来のＧＯＡＬとは違います。いわゆる安楽死制度とは一線を画す新しいタイプの未来の形」
職員「政府が皆様の要望にお応えし皆様の望む『夢』を責任を持って提供致します」
職員「つまりは『約束された人生の提供であり』決して『死の提供』ではございません」
職員「一生ともに続いてゆくものなのです」
Ｙ７０８「一生・・・ともに・・・」

〇高層マンションの一室

〇テレビスタジオ
前時代的一言居士「だからね、バーチャルリアリティーの中に人ひとりを一生閉じ込めるなんて人道的におかしいと言ってるんだよ」
扇動的司会者「ですが、それがナンバーズ犯罪を抑止する最も効果的方法である事も確かですよ」
扇動的司会者「一夫多妻制による人口調整と子育てレベルの向上こそが平穏で緩やかな新しい後進国への道なんです」
御用学者「こういう言い方は語弊があるかも知れませんが・・・」
御用学者「現在ナンバーズと呼ばれている人々のような、家族を持つ能力のない男性が妻帯する権利を持っていた過去こそが間違いだったんです」
御用学者「これはまた安楽死制度を適応されてしかるべき人達への救済であり、同時に多発する性犯罪への強力な防御装置となります」
前時代的一言居士「私はまだ議論が足らんと思うけどね」
扇動的司会者「その議論に塗れた空白の100年を経て終身大統領制度が誕生したんじゃありませんか」
扇動的司会者「二度と迷走の時代に戻らない為に」
御用学者「確実に安定した未来を子供達に与える為に」
前時代的一言居士「そのために、ナンバーズにはバーチャルな人生で我慢してもらおうと？」
御用学者「我慢？とんでもない。彼らに与えられるものこそ人類の叡知の結晶」
御用学者「別世界の家族と、もうひとつの未来です」

〇美しい草原
「お爺ちゃん・・・」
「オヤジ・・・」
「パパ・・・」
「あなた・・・」
「ナオヤ・・・」
ナオヤ「・・・！」
ナオヤ「夢を見ていたよ」
ナオヤ「随分長い夢をね」
「どんな夢？」
ナオヤ「一夫多妻制だとさ」
ナオヤ「動物じゃあるまいし」
ナオヤ「そしてあぶれた男はバーチャルリアリティーの機械に繋がれて幻覚の中で死んでいくんだよ」
ナオヤ「全く、滑稽な夢だよ」
ナオヤ「でも私はお前と出会った」
ナオヤ「沢山の子供と孫に恵まれた」
ナオヤ「これが幻覚なわけないだろ」
ナオヤ「俺は今、確かに生きている」
ナオヤ「お前達だって確かにここにいる」
ナオヤ「これが幻覚であるわけ、ないだろう？」
ナオヤ「これ、が幻覚で、あるわ、けな、ろ？」
ナオヤ「れが、こ、幻覚、わ、な、いろ？」
ナオヤ「幻覚、わ、だろ？　こ、幻覚、れが」

〇数字
ナオヤ「幻覚、これ、幻、が幻覚、これ幻覚」
ナオヤ「幻覚、幻覚幻、覚幻、覚、幻覚、幻、覚」
　　幻、幻、幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻
　　幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻幻

〇地下実験室

〇地下実験室

〇荒廃した国会議事堂
「おはようございます」
「毎日の勤労御苦労様でございます」
「本日も全てを我らに任せ、御安心御安全にお過ごしお勤め下さい」
「あなたの生活を担います」
「あなたの人生を担います」
「あなたの未来を担います」
終身大統領二世「私達は、国家です」
　　私達は、国『家』です。